ポポローグ
ボリス×ロビン
小説 宵宮 紫陽様
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夜が勢力を増す宵の刻に。
ユメノマチ。
夢の町ガバス。
勝つことと負けることがこの町の全て。
勝者と敗者。
在って無いようなルールの中で、夢を、富を、そして名声を得ようともがくものたちは少なくない。
「はー。こりゃまたすげぇな」
「夢の町・ガバス、か・・・」
ここはガバスの町にあるカジノ。
スロット。カード。ルーレット。ありとあらゆるギャンブルの誘惑。
ステージの時間になれば、うさぎのお姉様方やら歌姫が、得意のショーを披露してくれる。
バーもあり、頼めば酒も出てくる。
見掛けだけで判断されて、ジュースで誤魔化されてしまうのは、まあご愛嬌。
今日は傭兵の仕事は休み。気を張り詰めすぎては人間やってはいけないと、一日だけ自由な日を全員が貰ったのである。
自由な日ということは、どこへ行って誰と何をしようと「自由」なわけで。
ロビンとボリスは探索以来久しぶりの「二人きり」を満喫している。
傭兵所の生活も賑やかでそれなりに楽しいが、やはりこうして二人になれると、いつもとはまた違った感じを味わえる。
もっとも、いつモンスターが出てくるとも限らないので、必要最低限度の装備はしている。
力の無い町の人を助けるのも傭兵の仕事だ。
「なーなーボリスー。ちょっとだけ遊んでかねぇか?」
瞳をきらきらさせてロビンが言う。無邪気さ100%のその笑顔に、ボリスは思わず頷いてしまいそうになったが、
「いけないよロビン。いくらなんでも羽目をはずし過ぎる」
すんでのところで踏みとどまる。
「何でだよー」
と、その言葉に不満そうなロビン。
「きみのようなタイプは一番のめり込みやすいんだから、はまったら最後だよ。自由の中にも自粛は必要だ」
「あっ、どーいうことだよボリスっ。まさかおれが負けるとか思ってんじゃねーだろなっ」
「負ける負けないの話じゃないんだよ。ブレーキの必要性を述べているだけさ」
「ボリス・・・、おまえそれ何気に失礼だぞ? それじゃあ、まるでおれが自制心なくして遊び狂うやつみたいじゃねえかよ〜」
「まあ、あながち外れてもいないんじゃないかな?」
一つ間違えば喧嘩に発展しそうな会話だが、当の本人たちにはそんな思考は微塵も無い。
ただ単に、仲のよい者同士がじゃれあっているだけなのだ。
「いいかい? きみの性格はおっちょこちょいな上に自信家。そして素直すぎる」
「う」
「ということは、自分が負けることは無いと思って勝負を挑む。先走って悪いカードを引かされる。それが顕著に顔に出る」
「ううっ」
「そうなれば、相手がきみの思考を読むには赤子の手をひねるより簡単だ。先読みしていたつもりでも、更にその先を読まれて惨敗」
「うううっ」
「とどのつまり、きみは賭け事には向かないと、そういう結果が出る」
「うううーっっ!」
自分の性格から予想される最悪の事態をいとも簡単に言い当てられ、ロビンはぐうの音も出ない。
「結論を導けば、そのきみの百面相が全てを物語る。ポーカーは、まず徹底的に向かないね」
「あうー・・・・・・」
決定打を打たれ、ロビンはがっくりと沈み込んでしまった。
少し言い過ぎたかな、とボリスは思った。しかし、傭兵所の主人にきつく言われていたのだ。
『ロビンには賭け事をさせてはいけない』、と。理由は言わずもがな、ボリスの言ったとおりのことである。
これからまだ傭兵稼業は続くのだ。
遊ぶことを覚えてしまえば仕事に身が入らなくなるかもしれないという危惧から、ボリスはロビンのギャンブルに反対しているのである。
「じゃあ、こうしようか。今から僕ときみで賭けをする。コインを放るから、それが裏ならきみの勝ち。表なら僕の勝ち。
敗者は勝者に素直に従うこと。
・・・きみがここで遊ぶには、運をも味方につけて僕に勝利することが大前提」
ぴく、とロビンの躯が動いた。
「ここで僕に勝たなければ、そして勝てなければ、絶対にきみは遊べない」
ふっと彼は顔を上げた。その瞳は勝利への信念で燃えまくっている。どうあってもここで遊びたいらしい。
「勝ちゃいいんだな?」
真剣な顔でロビンは訊ねる。
「もちろん」
不敵にボリスは微笑む。
「それじゃあ、始めようか。どちらが勝っても恨みっこなしで」
「うっしゃ」
ぐっと親指を握った手に沈め、勢いよく跳ね上げる。
キィ・・・ンと金属の音がして、コインが宙を舞う。
くるくると回転するそれは、ボリスの手のひらに着地すると同時に彼の手のひらで隠された。
「もう一度言うけれど、きみが裏で僕が表。勝ったら勝者の言うことに大人しく従う。いいね?」
「わかってるって」
「それじゃあ、結果を。女神様が微笑んだのは、どちらかな?」
ゆっくりと手のひらがどけられる。コインは
――――表。
「!? !!!」
「僕の勝ち。だね」
にっこりとボリスが微笑む。呆然とロビンは立ち尽くす。
ゆっくりとコインを仕舞い、美貌の王子は若草色の弓使いに条件を提示する。
勿論それは、大人しく従わなければならない強固なもの。
「じゃあ、ここから離れようか。その代わり、ここ以外ならきみの行きたい所へ付き合うから」
「・・・ほんとだな?」
恨みがましいロビンの視線を痛いくらいに浴びながら、ボリスは優雅な身のこなしで言った。
「仰せのままに」
途端、ロビンは瞳を別の意味できらめかせ、宣言した。
「・・・酒・・・。おれは酒を飲む! ヤケ酒だッ! ボリス! おまえ今夜は帰れると思うなよ? ぶっ倒れる程飲ませて酔い潰してやっからなッ」
「構わないとも。勿論、酒代は僕。きみは好きなだけ飲むといい」
「言ったな? あとで泣きを見たって知らねぇからな」
「それはまた、光栄の至り」
そして二人はカジノをあとにした。ロビンはボリスを「酔い潰すため」に。ボリスはロビンに「酔い潰されるため」に。
しかし、ロビンは知らなかった。この勝負は、初めから仕組まれていたことを。そしてボリスがザルだということを。
そう。先刻の勝負は仕組まれていたのだ。
. . . . .
あのコインはどちらも表。
つまり。賭けに使われたコインは、どう落ちてきても表になるよう、裏と裏を貼り合せるという細工がしてあったのだ。
そしてボリスの巧みな話術。
『裏ならきみの勝ち。表なら僕の勝ち』。
簡単な条件ほどそのままの意味で飲み込みやすい。そしてそれはルールとして記憶される。
シンプルゆえにすぐ意識に根付くのでそれを信じ込み、疑念すら起こらない。
この賭けの場合、勝ちさえすれば自分の思い通りになる。
“勝利”という目的だけに集中してしまい、ロビンは仕掛けに気付かなかった。
だが、この位のイカサマを見破れなければ、ギャンブルで勝つことなど到底無理だろう。
可哀想な気もするけれどね、とボリスはそっと思う。
そして、知らないことのうちのもうひとつ。ボリスがザルだということ。
普段はあまり酒を飲む機会が無いからわからないが、兎角ボリスは酒に強い。
いくら飲んでも酔わない性質なのだ。飲み比べなら、まずそこいらの「自称“酒豪”」には負けないだろう。
ロビンは弱い方ではなさそうだが、だからと言って決して強いというわけではない。
よって、先にダウンするのはロビンということになる。
「いーかボリス。おれは諦めたわけじゃないからな。今度こそはおまえを負かして遊びまくってやるんだからなっ」
「いいとも。受けてたとうじゃないか」
まあ、負けないけれどね。
余裕の笑みを浮かべ、心の中でボリスはそう呟いた。
結局、ロビンはボリスに勝てず、早々と酔いつぶれてしまった。
そしてボリスは、「謎多き“酒豪”・美貌の傭兵」としてガバスに伝説を打ち立てたとか立てなかったとか。
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素敵なボリロビ小説をありがとうございました〜(〃∇〃)
ロビン騙されやすくて可愛いのですv
おっちょこちょいな上に自信家。そして素直すぎる
それって、声を当ててる誰かさんみたいでもあります(笑)
本人は無邪気に危険に突っ込んでくので
周りは見ていてハラハラ//世話を焼かずにはいられないのですv