ポポローグ
ボリス×ロビン

tea time
小説 見国かや






夢から覚めた今でも、あの時生まれた想いは失わなかった。
イドと戦って勝つことができたからかもしれない。
大切な仲間と共に。

大切な…ロビン
きみがいてくれたら…
ずっと側に…きみがいてくれたら…

そしてきみも…僕のそばにいたいと願ってくれたら…









空に浮かぶ天空城には、今日も清々しい風。 

陽射しがやんわりと届く白い広間の奥の執務室で、ボリス王はひとりきりのお茶の時間。

「はあ…」
ため息ばかりついてしまうのは、決して仕事に疲れているからじゃない。

今日のお茶は、緑茶とミントとマスカットのブレンド。
ミントの爽やかさが、落ち込む気持ちを和らげてくれるけれど
マスカットの心地よい甘い香りと、緑茶の透明感のある新緑色が
どうしても彼を思い出させてしまうのだ。

「ロビン…そろそろポポロクロイス城から戻ってきても良いころなんだが…」

ロビンは天空城の通商団の護衛として、今は旅の途中だ。

ボリスと一緒に天空の城で暮らしてくれているロビン。
もっと二人で過ごしていたいけれど、城の中での王の仕事の手伝いは、じっとしていることが苦手なロビンには向いていなくて。
二人で一緒にいても、ロビンはどこか遠く…冒険に満ちた世界を夢見ているようで。


『ロビン、天空城の特産物をポポロクロイス城下へ届けるキャラバンが出発するのだが、きみにその護衛を頼めないだろうか。モンスターも盗賊も積み荷の中身が大好物だろうからね』

天空城の特産は高級茶葉だ。
熱帯のコロモック上空に位置している天空城は、寒暖の差が大きく、雲に囲まれている敷地は湿度も保たれていて、とても高価な茶葉が栽培されている。
お茶のキャラバンの護衛は大切な任務で、ボリスはその護衛をロビンに頼んだ。

その時の、ロビンのキラキラと輝き出した表情が、ボリスには少し悲しかった。
ロビンは冒険を求めている。
城の中で不自由のない毎日を送るより。
様々に変わる世界の中で、ロビンは自由で奔放に飛び回っていたいのだ。

「でも…僕はきみを本当の自由にしてあげることなんて…できないんだよ」
ため息をつきながら、ティーカップの中の、香り高いお茶の若葉の色に心を奪われ続けている。


若草色の髪が風になびく…
きみの瞳が星より太陽より、キラキラと輝いて
きみの生命力に満ちた声が僕の名前を呼んでくれる

きみを失ってしまうことなんて…できない。
いまだって、ほんの何日か離れているだけなのに
きみの声が聞こえないだけで
こんなに胸がしぼんで苦しい。


今頃ロビンは旅先での様々なことに夢中になって

僕のことを忘れてしまっているのじゃないだろうか…

ぐるぐるとそんな風に思ってばかりいると、余計に苦しくて…苦しくて…


気持ちが灼熱の洞窟の再下層よりも深く落ち込んでしまいそうになっている、その時、ふ…と、風の匂いが変わった気がした。

城の外が少しにぎやかになった気がする。

ボリスが大きな椅子から立ち上がりかけると
「王様、キャラバンが戻ってまいりました。ロビン様がお戻りになりましたよ」
大臣の知らせを全部聞かないうちに、ボリスは出迎えに飛び出していた。





「ロビン!」
「ボリス、荷物は無事しっかり届けてきたぜ♪」
駆け寄るボリスに気付いたロビンも、いたずらっ子のようなキラキラした瞳を輝かせる。

「ありがとう、それで、きみは? 怪我とかしたりしてないかい?」
それは真っ先に気になること。
「途中でモンスターも盗賊も出たけど、俺様にはそんなに大した相手じゃなかったぜ」

こうして無事にボリスの所に戻って来てるだろ?
と、ロビンは心配性のボリスをなだめるような笑顔になる。

「それよりさ、お土産があるんだ! もうこの時間じゃ、お茶の時間は過ぎちまってるけど、少しくらいなら良いだろ? 見せたくて仕方ないんだ」
「お土産?」
子供みたいにはしゃいだ声で、ロビンはボリスと城のティールームに向かった。






「ほら!すごいだろ!これ、飲めるんだぜv」
ロビンがお土産をティーポットに入れてお湯を注ぐとティーカップを満たしたのは、深い青色の液体。

「これは…すごい色だね、お茶なのかい?」
「マロウ茶って言うらしいんだ、タキネン村の何とかアオイの花でできたお茶なんだぜ」

ボリスが、初めて見る真っ青な色をしたお茶を口に含んでみる。

「うん、見た目はびっくりする色だけど、爽やかなのどごしだね、とても飲みやすいよ」
「でもさ、このお茶…」
お土産を喜んでもらえてニコニコしていたロビンが、ちょっとだけ複雑そうな顔つきになる。
「この青がとっても奇麗なんだけど、少し時間が経つとさ」
「これは…」



真っ青な色をしていたマロウ茶は、だんだんに紫がかり…
華やかなピンク色に変わっていく。
更に時間が経つと、深い緑色になっていくのだそうだ。

「折角この青が綺麗なのにな…あんまり長くは見てられねえんだ。それで、本当はもっといっぱいあったんだけど、旅の途中でこの青が見たくてお茶を次々沸かしちまったから、持って帰れたのはちょっとだけになっちまって」

シュンとなるロビン。

「こんな素敵なお茶を飲ませてもらっただけで嬉しいよ。それに、こうやって色が変わっていくっていうのも魅力的じゃないか」
あわててボリスがなぐさめると

「この青い色が良いんだ。だって…似てるだろ?」
「?」
「ボリスの目の色に…さ」
「え…」


旅の途中、この青いお茶を飲みながら、ずっとボリスのことを想っていたのだと…ロビンは照れる。

お茶を飲みながらため息をついていたのは、ボリスだけじゃなかったのだ。

ロビンもちゃんと、旅の途中でボリスのことを想っていてくれた…


それだけで、喜びで胸がいっぱいで、苦しいくらいに幸せになれる。






「なあ…ロビン」
「ん?」
「今度はキャラバンに僕も一緒に行こうと思うんだ」
「えっ!良いのかよ、王様の仕事の方は…」
「外交と商談を兼ねてなら、大臣も許してくれると思うし」
何より、旅の空の下で、生き生きと走りまわるロビンを見ていたい。

「俺も、ボリスと一緒なら、もっと良いモノ見つけてみせるぜ♪ ボリスの喜ぶ顔…俺すごく好き…だからな」


照れながらも視線が合うと

湖畔の新緑を思わせる明るい色の瞳と

深く透明な海のような色の瞳





ずっとこの色を眺めていたい

大好きな人の大切な色だから












宵宮 紫陽様よりリクエストいただきました『ポポローグのボリス×ロビン小説で、「お茶」をテーマにほのぼのした話』なつもりなんですが〜(∋_∈)
すごく時間がかかってしまってスミマセン(汗)
マロウ茶はこのサイトでお世話おかけしてる遊亜さんが飲ませてくださったのが
初体験でした。天然で真っ青なお茶というのにびっくりでしたが、レモンをたらすと、瞬間的にピンクに
なる所がまた綺麗でした//
ミントティーは、リラックスしたい時とか、胃炎の時とかに気持ちを休めてくれるお茶です。すごい頼ってます(笑)
緑茶とマスカットのブレンドも美味しいです。マスカットは、マスカットオイルと干したマスカットの実が
ブレンドされてるのだそうです。
管理人はお茶魔なのですが、ガブ飲みするばっかりで、落ち着いたティータイムとは無縁…(-_-u
少し反省して、これからはお茶の煎れ方とかも上達したいです。
上手い人が煎れると、本当に味違いますから〜 色々上達したいことがいっぱいあります(T◇T)
とにかくこんな作品でスミマセン(-_-u
紫陽さんの作品もまた読ませていただきたいですv