『交わらない想い』
ボリス×ロビン
小説Rai様
イラスト 見国かや
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日の沈む少し前のこと。空は徐々に紺への移り変わりを見せ、太陽から星々へと主導権が交代する。
広い草原に風が吹く。草に紛れて、横たわっている青年の緑色の前髪も優しくゆれる。草に紛れるかのような緑の髪と同色の服。そして、隣には無造作に矢筒と長弓が置かれている。
青年は目を閉じていた。昼と夜の交錯する空を見ようともせずに。
――アイツが記憶を取り戻したら?
(オレには関係ねえ。)
――アイツに恋人がいたら?
(別にイイだろ。天空の王子さんなんだし、許婚の一人や二人いてもな。)
――アイツが『王子』に戻ったら?
(そん時は「サヨナラ」だ。深い関係じゃねえし、女でも娶って世継ぎ残さなきゃいけないだろ。)
――この戦いが終わったら?
(そん時も「サヨナラ」だな。アイツにはアイツの道があるし、オレもだ。)
――アイツとはどんな関係?
(単に同じ傭兵で、恋人ゴッコしてるだけ。)
――アイツはオレをどう思っている?
(恋人ゴッコを間に受けてるから……少なくとも嫌ってはないな。)
オレはアイツをどう思っている?
(別に、単に………)
無性に、青年は何かに縋りつきたくなった。遣り切れなさと不安と苦味が頭の中を掻き回し、思考を乱す。嘔吐感とともに涙が込み上げてきた。しかし、必死になって飲み込む。鉛の方が、まだ楽なように思えてきた。
――アイツがオレから離れたら?
「………っ!!」
歯根が折れそうなほど、歯を食いしばる。そうでもしなければ、例え周囲に誰もいないとしても、声をあげて泣き叫んでしまう。負けを認めることになる。それだけは避けたかった。
(っんで、泣きたくなるんだ! アイツとはただのゴッコ相手で、それ以上なんかじゃねえ!!)
惚れているとは認めたくなかった。全て終わってしまえば何の関係も持たない『王子』と『狩人』に戻ってしまうのだから。認めてしまえば後が辛い。どんなに願っても、ともに在ることなど出来ないのだから。そのために、今、あらゆる想像をしているのだ。いつ、訪れても良いように。
だが、それでもどうして今が辛いのだろうか。
(泣くな! 泣いたら……)
「ロビン?」
その声にハッとし、青年は目を開けた。開かれた目に映ったのは、少々ボヤけた夜空と……先ほどまで考えていた本人の姿。顔以外の頭部を青い布で覆い、板状の青い石のついたバンドで止めている。首からは、同じ石のペンダントが大小二つ並んで揺れている。
「ボリス……」
自然と名を紡ぐ口。目を擦って、ロビンは上体を起こした。
相手は隣に腰を下ろす。そして、呆れたようにロビンを見た。
「一体、君は。こんな時間に何をしているんだい?」
「ちょっと昼寝を……」
「その割には随分と苦しそ……」
ボリスは言葉を切った。じっと若葉色の瞳を見る。少し、赤みが差していた。
「……ロビン、泣いていたのか?」
その言葉に、ロビンの身体は一瞬こわばった。しかし、次の瞬間にはいつもの飄々とした雰囲気を貼り付けていた。そしていつものように、笑う。
「違えよ。せっかく気持ち良く寝てたトコを、誰かさんが起こしちまったせいで眠気が増えちまったんだ。」
そして、手も当てずに一回大あくびをする。青年の目じりに涙が浮かんだ。
「……僕のせいだと?」
「他に誰がいる。」
こんなだだっ広い草原には、人影はおろか魔物の姿さえ見当たらない。
「全く、君は。」
それだけ言うとボリスは腰を上げようとしたが、服の袖を掴まれているのに気づき、相手のほうを見る。意地悪く笑うロビンの姿があった。
「侘びぐらいしろよ。」
「侘び?」
訝しげに再びボリスが腰を下ろすと、ロビンは頭を相手の腿の上に預けてそのまま横になった。
突然のことに驚いて言葉の出ないボリスを余所に、ロビンは目を閉じた。
「オレは寝る。一時間たったら起こしてくれ。」
「今、夜だぞ。冷え込むし、傭兵所に帰ったほうが……」
「いーじゃねえか。それとも、恋人の頼みすらきけないのか?」
その言葉に、ボリスの青い瞳が僅かに悲しく揺れた。ロビンに見えていないことが嬉しく、又悲しかった。腿の上にある若葉色の髪をくしゃりと握る。
「……仮初の?」
「わかっていらっしゃることで。」
その会話を最後に、二人は何も言葉を交わさなかった。
密やかな寝息が聞こえる。記憶を失った者は、優しく若葉色の髪を梳きつづける。
「……いつになったら、君は僕を信じてくれるのかい?」
紺碧の空に暗色の雲がかかる。雲に隠れている星もあったが、想い人の寝顔を見るには十分の明るさであった。
「君の怖がっているものぐらい、僕にだってわかる。それでも僕は君が好きなのに……」
彼も最初はゴッコでも良いと思った。記憶を取り戻した後、どうなるかなどと彼自身わからないのだから。しかし、今では。
「どうすれば君は、僕に心を開いてくれるのかい?」
記憶を取り戻しても、ずっと傍にいると約束してもいい。いっそ、記憶なんかもう要らないから隣にいてくれと告げてもいい。だがそう思うたびに、自分と似たような格好の老人を思い出してしまう。彼は自分が何者か知っている。嬉しい反面、恐しい。
「ロビン……」
ボリスは髪を梳くのをやめて、その頬に手を伸ばす。そして、じっとその顔を見た。
スナイパーとして、魔物を見つけるために周りに気を張り詰める者などここにはいない。ここにいるのは、ただ、安らかに眠る青年だけ。
「…………」
夜風が出てきた。
ボリスは頭部を覆っている青い布を取り去って、静かにロビンへ掛ける。一時間は疾うに過ぎていたが、まだこのままでいたかった。
「今だけは、僕だけのものになってくれ。」
そして、静かに唇を重ねた。
―fin―
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記憶を失った王と、若草色の瞳をもった弓使いの傭兵。
Kも、ゲームで、この二人の取り合わせは素敵だ〜と思ってましたら
Rai様から、こんな素敵な小説をいただけました(*^∇^*)
元々はRaiさんは別のCPだったそうなのですが、ロビンへの愛が嵩じて
ロビン受けになられたそうで(笑)(^∇^)!お陰でとっても幸せです///
ロビンとボリスも幸せになりますように!
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