ポポローグ
ボリス×ロビン

小説 宵宮紫陽様


僕とピアノと君の夢

 


「あれ? ピアノ?」

探索の拠点として、様々なダンジョンに行くときはいつも都合のいいトンクウのある店で、ボリスはピアノを見つけた。

なに? もしかしておまえそれ弾けちゃったりするわけ?」

その時はロビンとの探索で、あやかしの洞窟に行くところだった。

「ああ・・・少しだけだけど、ね。昔、王子のたしなみがどうとかと言われて、大臣に半ば強制的に」

最後の方は少し可笑しそうに。記憶が戻った後は、何かにふれるたび過去のことを少し思い出せるようになっていた。

「ふうん。じゃあさ、弾いて見せてくれよ。おれ、聴いてみたいんだけど」
「え?」
「いーじゃんか。ここでリラックスして戦闘に臨みましょうってことでサ♪」
「それは・・・さぼるということじゃ・・・」

ボリスがあまり乗り気ではないのは明らかだった。
彼はひとえに真面目な性格のため、物事の道筋から外れるということを好まなかった。
要するに、さぼるということは彼の倫理観、すなわちモラルに反することと同様の意味を持つのだ。
それに。

「それに、もう何年も弾いていないようなものなのだから、上手く弾けるかどうかも怪しいんだ」

だから僕は弾かないよ、と言外に含ませた。

「・・・けち」

まるで幼い子供のように拗ねるロビン。
頬を膨らませ、そっぽを向く。時折ちらりと視線だけを投げてよこす。またそっぽを向く。
それの繰り返し。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、
わかったよ・・・・・・」


無言のおねだり攻撃に耐えかねて、とうとうボリスは折れた。
そして、甘いなぁ、と自覚症状に苦笑い。

「ただし少しだけだらからね。一曲弾いたらすぐに探索に出発するよ?」

その返答にロビンはしてやったりとにっこりする。
いつまでたってもこの笑顔には勝てそうにないなとボリスは思った。
渋々ながらもピアノに向かう。椅子に座り、両手を鍵盤の上に置くと、忘れかけていた指の感覚が戻ってくる。
浅く息を吸い込み、鍵盤の上に指を滑らせていく。
美しい旋律が生まれ出る。聴く者を、虜にしていく優雅な響き。気づけば酒場に居た人たち全員がボリスのピアノに聞き惚れていた。

そこにあるのは静寂と、奏でられるメロディだけ。

そして曲が終わり、両手が止まる。

「・・・・・・ふう・・・」

安堵感をため息と一緒に吐き出した。何年か振りにしてはうまく弾けたと思う。
とそこで、周りが奇妙に静まり返っていることに気がついた。
まさか自分の拙いピアノの所為で――――?

おそるおそる振り返ると、それを待っていたかのようにわあっと歓声が上がった。

「え? え??」

予想外の反応に、ボリスが戸惑っていると、

「ボリース! おまえすげーのな! おれ感動した! さっすがおれのボリス!!」

ロビンが飛びついてきた。公衆の面前で嬉しいやら恥ずかしいやら。

赤面しているボリスに、

「にーさん凄いね! どこであんなピアノ習ったんだ?」
「おにーちゃんかっこいいーっ」
「いっそここで専属ピアニストになりなよ」

あちこちから賞賛の嵐。

「もし、そこの方。宜しければこの店で本当にピアニストになってくれませんか? ちょうどもう何人か雇おうと思っていたんですよ。どうですか?」

終いには店のオーナーまで出てくる始末。

「い、いえ、僕には傭兵の仕事がありますので・・・っ」
「やばい! 逃げるぞボリス!」

二人が飛び出したのは同時だった。
踵を返し、出口へ向かって一目散。
背中で引き止める声を聞きながら、傭兵二人組は本来の仕事場へ駆けていった。








「こ、ここまで来れば、だいじょーぶ、だろ・・・」
「ああ・・・」

店を出、とにかく逃げるために全力疾走した二人は、疲れ果てて洞窟内で座り込んでしまった。
息が上がらなくなるのを待って、二人は立ち上がり、本職へと頭を切り替える。

「しっかしすげーなボリス。あんなに上手く弾けちまうなんてさ」
「指が回らないと思ったけど、存外出来るものだったよ」

ピアノを弾いていたとき、幼いころを思い出して、ほんの少し楽しかった。

「でも、もう二度とはごめんだな。あんなことになるんなら、もうボリスを独り占めできなくなっちまうし」
「・・・!!」
「なんてな」

そんなことをさらりと言ってのけるから、ボリスは返事に困ってしまう。
赤くなってうつむくボリスに、ロビンはくすくす笑いながら、自らの夢を語りだす。

「おれの夢はさ、世界一の弓矢の名手になることなんだ」
「世界一に?」
「つーか今決めた」

けろりとそんなことを言う。

「は?」
「そんでさ、一つお願いがあるんだけど」

いいこと思いついたと言わんばかりのきらきらした瞳でロビンは続ける。

「おれが夢を叶えた暁には! もう一度ピアノを弾いてくれないかっていうことなんですけど。ええお兄さん」
「・・・もし嫌だと言ったら?」

ボリスは本気三分の二、冗談三分の一で訊き返す。

「そんときゃまあ、力づくで?」

きゃらきゃらと笑いながら。

「ほほう。勝てるつもりが?」

微妙な苦笑いを浮かべて問う。

「ないね」

としかし、あっさりとした答えに拍子抜けしてしまうボリス。
ならどうするのかと訊くと、

「そりゃーお兄さん。色仕掛けとか色仕掛けとか色仕掛けとか他にも方法はたくさんあらーね(笑)」
「・・・・・・そいつはまた剛毅な事で・・・」

もう弾くことを拒否する気力もなくしてボリスはそれだけ返した。ふと見れば、ロビンはピアノを弾く前に見せたあの笑顔。やはり自分は勝てないのかと苦笑いするしかなくなってしまう。

「いいよ。わかった。君が夢を叶えたら、特別に弾いてあげるさ。ただし一度だけ。それ以上は君が何をしようと断固として拒否するから、覚えておいで」

観念したボリスがそう呟くと、ロビンは満面の笑みを浮かべる。その笑顔の裏には、「何が何でも何回だって弾いてもらうぜ!」という、一種野望のような企みが隠されていた。

それに気づいたボリスは、自分で蒔いた種とはいえ、薄暗い洞窟の天井を見上げて、ああ、と嘆息するのだった。





ラブラブなボリロビをありがとうございます(〃∇〃) !!
記憶が戻ったボリスは王としての嗜みが技として色々と〜//
でも王様なのに、ロビン女王様には全然逆らえないのですv
ロビンというキラキラ生きる宝物が、ボリスにとっては国宝ってトコなんでしょうね//
うああ〜ラブラブっっっvvv