トライガン
ウルフウッド×レガート


小説 上条結月様


牧師と小羊









「こりゃまた随分と珍しい来客やなぁ…。」

薄汚れた扉の前にたたずむ男を見て、ウルフウッドは何とも言えないというような表情で溜息をついた。こんな夜中に誰かと思って扉を開ければ、そこに立っていたのは全く予想だにしなかった相手。
個人的に関わりを持った憶えはない。

GUNG-HO-GUNSの一人とその上に立つ者しての関係、しいて言えば仕事上の付き合いと言った所だろうか。とは言っても、あの組織に仲間意識なんてものがあるとは、自分には到底思えない。ましてや自分とこの男なんて…。

「僕が君に直接会いに来たのが、そんなにおかしいかい?」

つっ立ったまま何やらぐるぐる考え始めたウルフウッドを、今までいつもの冷やかな瞳で見ていた男が微かに唇の端を釣り上げて笑う。

「まぁ、そうかもね。君は別動隊であまり積極的に僕らの使命に参加していないから。」
「ある意味、めちゃめちゃ積極的なんやけどな…。」
「それもそうだね。でも僕はそれを聞かされてなかったからね…。これでも君には結構、嫉妬しているんだよ。僕以外であの方の命を直接受けた君が。」

冷笑を称えていた瞳が僅かに細められる。いつもの、何を考えているのかわからない瞳。

あいつの目は底がなさすぎる…。

以前誰かが言っていた気がする。

「で?今夜は何しに来はったんですか?命令とか?」
底のない瞳に問う。
「ビーストに見張らせずに来るくらいなんやし、なんや重大な事なん違います?…レガート様。」
ウルフウッドはすっかり短くなった煙草を灰皿に擦り付けた。そして新しいのを取り出して火を付ける。

レガートは何も答えない。ゆっくりと白く線を描いて立ち上る煙を見ながら、ウルフウッドはレガートの応答を待つ。部屋に沈黙が広がった。

「今日は個人的な用事があって来たんだ。」
冷笑を崩すと、ずっとドアの前に立っていたレガートが、ウルフウッドの座るベットのそばまで歩み寄ってきた。
なるほど、本当に個人的に来たと言うのなら、この男にはありえない訪問の仕方も納得がいく。が、何故自分などに個人的な用があるというのだろう?これは不思議というより不可解である。
「…その個人的なご用件は?」

「僕を抱いてくれ。」
ごく自然な感じで、レガートはそう言った。一瞬部屋の空気が凍る気がした。
「今…何て…?」
「僕を抱いてくれ。と言ったんだよ。」
どうやら聞き間違いではないらしかった。この男は何を考えているのだ?唖然と固まってしまったウルフウッドの指から煙草の灰が床に落ちた。

「どうしたんだい?男は無理だとか?そういえば、君は聖職者だったね。」
レガートは相変わらず無表情にウルフウッドを見下ろしている。
「…わしにはあんたの真意がよう掴めんわ。何やねんイキナリ。」
大して吸わないまま残り僅かになった煙草を灰皿に投げ入れながら、そう少し眉をしかめたウルフウッドに対して、レガートは無感情な態度を崩そうとしない。
「僕の真意なんて、別に君の知ることじゃない。君はただ今夜…僕を抱いてくれればいいんだよ。」
今まで見下ろす形で立っていたレガートが、ベットサイドに腰掛ける。
「…抱けない訳じゃ…ないんだろう?」
そっと覗き込むようにして視線を絡ませ、ねだるように誘う声を出す。
妙に色気のあるその低音は、この男の容貌と合いなって、男の情欲をそそるに充分だ。
「…理由は?」
「…何の?」
「ここに抱かれに来た理由。」

静かに見つめてくるレガートの視線を、微かに気後れする自分を感じながらも、しっかりと受けとめる。ふと、いつもあの方の事以外では感情をあらわにする事がない、レガートの瞳に感情が宿った気がした。

「…そんな事まで話さなくてはいけないのかい?」
意外にも、先に視線を外したのはレガートの方だった。
「君は理由もないと人を抱けないのかい?意外だな。」
レガートは少し可笑しそうに笑う。こんな顔を見たのは初めてだ。
そういえば、この男の顔をこんなに近くで見たのも初めてだ。
身震いする程の美形。
怖気をふるうような色男。
確かに間違ってはいない。間近で見るとそれが際立つ。綺麗な白い肌に、形のよい薄めの唇。長い睫毛に、艶やかな碧い髪の毛。
そんな男が…この自分に抱かれることを望んでいる。
そう考えたら、何だか急に動悸が早くなったみたいだ。

「…あんた程のお人がなぁ…。まぁ、とりあえず理由を聞かん事にはな。何のためにやとか、何で俺なんやとか、気になるで普通。」
「面倒だな。いいだろう、教えてあげるよ。理由はいたって単純な事さ…」


「あの方の…温もりを消したいんだ。」


そう答えたレガートは、自らを抱くようにそっと腕を背中に回した。
「そして僕は別に君でなくてはならない訳じゃない。誰でもいいんだよ。抱いてくれるならね…。」
「そんなら…ミットバレイあたりにでも頼めばええんとちゃいますか?」
「彼とはもう寝たよ。僕はあの方以外には、一度しか関係を持たないからね。」
「操立て…みたいなもんか…。何やえらい乙女チックやなぁ…。」
「からかってるのかい?僕を。」
レガートは上目遣いに、ウルフウッドを見やる。人間らしさを感じないこの男に、こんな扇情的なものを感じるとは…。

これもあの方の為に覚えたものなのか…。
それとも、もともとなのか…。

「…僕を…抱いてくれるかい?」

そう、レガートに耳元で囁かれた。この男に誘われておちない人間はいない…。今、その瞬間は…そう思わずにはいられなかった。




自分より幾分か細い肩を掴み、今まで座っていた粗末な白いベットに横たわらせる。押し倒すように馬乗りになり、ウルフウッドはレガートの服を脱がす作業に取りかかる。

「何やコレ。脱がし方がようわからんわ…」
「服くらい自分で脱げるよ。」
「せやけど脱がすのも…男の仕事や。」
「…そうかい。だったら君の、好きなようにするがいいさ…。」

探るように手を這わせながら段々と男の白い肌を露にしてゆく。トップスのハイネックシャツを脱がせながら、思いの外綺麗な色をしている胸の飾りに唇を寄せてみた。レガートが微かに息を詰めた。どうやら大夫、感じやすい身体の持ち主のようである。ウルフウッドは手慣れた様子でレガートの衣服を剥いでいく。わからないなどと戸惑っていたさっきとはまるで別人の様だ。

全てを取り払い、一糸纏わぬ姿にまですると、ちょっとぞっとするくらい綺麗な裸体を少し暗めの電灯に照らしてみた。
「…何だい?」
今まで何も言わず、なすがままにされていたレガートが訝しげに眉を潜めた。
「いや…乱しがいがありそうやな…と。」
常に狂気と凶器を湛える瞳が普段とは違う、微妙な色を見せる。何かを紡ごうと開かれた唇に、それについての反論をされる前に、ウルフウッドはその言葉をかき消すかの様に、綺麗に浮き出た鎖骨に舌を這わした。同時に空いている手で胸の突起を揉むように愛撫する。
「あっ…」
普段の磨ぎ澄まされた刄の様な命令口調とはかけ離れた甘い声。よもやこんな声を聴く事になろうとは…。ガードが堅そうに見えたのに。人は見かけによらないな。今更ながらにそんな事を思った。
しかしこの考えは後に間違っていた、と気づく事になるのだが…。

鎖骨から下へ、弾力のある白い肌の上をゆっくり舌を行き来させる。胸部の辺りを円を描くように愛撫しながら、片手ではほんのり色づいた胸の飾りを弄ぶ事を忘れない。いつもは取り澄ました様な顔をしている男の頬に赤みがさす様を上目に見ながら、ウルフウッドは太股に手を這わした。
「…あ…っ…」
なるほど…抱かれる事に馴れた身体だ…。いや、馴らされた…と言ってもいいかもしれない。全てはあの方のため、と云うことか。逐一場所をかえるたびに反応が返ってくる。まさに全身性感帯と言ったところだ。
これなら娼婦、いや陰間としてもそばに置いておく価値はある。
ウルフウッドは愛撫に勤しんでいた唇をレガートから離すと、身体をいくらか後退させる。そして両手を膝裏をわるように差し入れながら足を開脚させた。
膝を高くあげさせると、本人にさえ見えない隠された場所が、全てを曝け出すかのように目前にあらわれる。
「…や…そんな風に…見る…な‥」
そこをまじまじと見られている感覚に堪えられないのか、レガートが身を捩り身体を起こそうとする。
彼にとって羞恥心に馴れは関係ないらしい。案外可愛らしい男だったのかもしれない…。
「…やだ…ぁ‥」
羞恥に頬を染める今のレガートはいつもの妖しい男は影を潜め、まるで経験不足の少女のようなのだ。そう思ったらもう最後。この男が可愛くて仕方がない。これも一種の気の迷いなのか。人間の心理とは全く恐ろしい。思い込みで済まされていい問題じゃないだろう。
なにしろ相手はあの、レガート・ブルーサマーズなのだから。

そうこうする間に当のレガートは身体を完全に起こしている。先程から黙って何やら考え込んでいるウルフウッドを不審気に見つめていた。
「…チャペル?」
ああどうすれば…綺麗な男だとは思っていた。でも可愛いなんて…普通じゃないだろう。
「チャペル。」
もう一度、今度ははっきりと怒気を含んだ声で呼んだ。ウルフウッドはさすがに顔をあげる。すると思ったより近くにあったレガートの黄金色の瞳と視線がかち合い少々驚いた様に目を見開いた。

「君は、本当にやる気あるのかい?確かに頼んだのは僕だし君はあまり乗り気じゃなかったけど、ここまでしといて…!?」
レガートが言いたい事を言い終わる前に、ベットの激しく軋む音が部屋に響く。ウルフウッドがレガートの両の手首を掴んで打ち付ける程に強く押し倒したのだ。ウルフウッドの突然の行動に、何が起こったのかわからないといった表情でいるレガートの顎に指をかける。
そしてそのままゆっくりと形のよい唇を指でなぞった。するとレガートはウルフウッドの意図に気づいたらしい。掴まれた腕を押し返しながら、少し眉を寄せて何か言おうとする。
ウルフウッドはそのままその唇から、言葉が紡がれる前に自らのそれをもって封じてしまおうとした。しかし、
「……?」

身体が動かない。何が起こったのかは頭を巡らさなくともわかる。これはレガートの技だ。

「君は何か勘違いしてないかい?」

とてもコトの最中とは思えない落ち着いた低音が、動きを止められて些か間抜けな態勢のウルフウッドに投げ掛けられる。
「僕がしたいのはセックスだ。キスじゃないよ。」
「似たようなもんと…ちゃうんか?」
「違うよ。」
やっとのことで発した言葉にも高圧的な態度で言い返される。その彼の目はいつになく真剣だ。

「身体は良くても唇は許さへん…どっかの娼婦みたいやで…?」
「何でもいいよ。君は黙って抱けばいいんだから。」
「せやったらコレ…何とかならんの?抱こうにも抱けへんで。」
「キスなんかしたら殺すよ。」
どうやらレガートは本気らしい。無理にしようものなら、唇を重ねた次の瞬間はもうあの世行きだろう。こんな間抜けな死に方、誰だっていやだ。
この男を可愛いなんて思った自分を少し後悔した。

「もうせえへんて。あの方以外は…あかんのやろ?」
「それも違う。」
レガートの眼光が少し陰ったように見えた。

「あの方がこの僕に口づけなんて事…するわけないだろう?」

自嘲気味に笑う。しかしそれでいて瞳は切なさを帯びていて…。

「だって僕は、愚かで汚い人類なんだから。」

まるで自分に言い聞かせるかのように、そっと瞳を濡らした。
すると同時にウルフウッドの身体も自らの元に支配権が返ってくる。

「…早く…抱いて。」

前言撤回。やっぱり可愛いもんは可愛い。
「…あぁ…っぁ…」
唇で軽く頬の雫を拭ってやると、ウルフウッドはレガートの下肢に手を這わす。中心を軽く愛撫してやるとくぐもった吐息を零しながら、レガートが背中をしならせる。そのまま上下に扱いて根元から揉むように刺激を与えると、そり立ったそれに先から溢れてきた白濁とした液が伝う。

レガートは抱かれにこの部屋を訪れる前に、ナイブズに抱かれているはずだ。それでこんなに早くこうなるという事は、自身はあまり可愛がってもらえてない、という事か。それともこの肉体がとことんいやらしい身体をしているのか。それはウルフウッドにはわからなかったが、とりあえず一回解放させてやる事にした。

そり勃つそれを口内に含み、たっぷりと濡らす。そのまま舌で裏筋をたどり、相手のいいポイントをついていく。先端部分の括れに舌を絡め、擦るように唇をスライドさせるとレガートはウルフウッドの口内に熱い自身を解き放った。そして激しく胸を上下させ、息を整えているレガートをいきなり俯せの体勢にする。
何ごとかとレガートは一瞬不思議そうな表情をするが、すぐになすがままになる。それからレガートをウルフウッドは足を開かせて腰をあげさせた状態にさせた。ちょうどその奥まった場所があらわにさせられる。
「舌…挿れるで?」
レガートのそこはまさに情事の後、といった風な状態だった。いや、本人に自覚はなくとも、情事というよりかは乱暴を受けた後、といっても間違いではないかもしれない。
入り口同様、中まで細かい傷が付いている。これは相当丁寧にならさないと、レガート自身のダメージは結構なものだろう。



ウルフウッドはじっくり優しく解すよう心がける。まず傷口を舐めるように舌を這わせ、入り口付近を濡らすとそのままゆっくり押し入っていく。そしてその中もたっぷりと湿らした。

「う…あぁ…っ…ぁっ…は…」

敏感な部分への生温かい刺激に、自然と身体に力が入ってしまう。自分は優しい愛撫には慣れていないのだ。
一番愛する人物は、いつもまるで家畜でも扱うような仕打ちで行為に及ぶ。今でこそ慣れたが、最初は身体中を引き裂かれる様な感覚に、何度も意識を手放しそうになった。

でもそれでも幸せなのだ。肌を合わせるという行為自体が。たった一時でも生身のあの人を全身で感じる事が出来る。それだけで…。
「…も…っ…早く…」
この男の抱き方は気にくわない。何だか焦らされているみたいだ。そこをじっくり弄ばれて、こんな感じは知らない。

ミットバレイだってちゃんと自分の命令通りにした。ただ、あの男には何度も何度も耳元で名前を囁かれた。甘くて激しくて、それでいて憂いを秘めた擦れ声で。何度も何度も。

どうして彼らはこんな風に自分を抱くのだろう。ウルフウッドは丹念に愛撫を施し、唇を離す。それから、そこにゆっくりと指を挿入させた。
軽く抉るように掻き回してやると、我慢しきれないように、レガートの背中が微かに震えるのがわかる。シーツを掴む指に力を込めて、大粒の雫を瞳にためている。ウルフウッドは、腰を掴んでいた方の腕をのばし、そっと涙を拭ってやった。
そしてその手で、身体の強張りを解かそうとするように、またかたさを増してきているそこを摘むように愛撫した。
「あっ…!」
敏感な部分を前も後もいじられる刺激に、思わず声が上ずってしまう。しかも巧く急所を攻められて、もうどうにかなってしまいそうだ。
「あ…っもう…い‥」
ウルフウッドは愛撫の手をやめようとはしない。意志に反してレガートの身体は、既に早くどうにかされてしまいたがっている。
「やだ…も…っ」
逃れようと、強く身を捩る。するとウルフウッドがやっと手を止めた。汗で乱れて、はりついたレガートの髪の毛を指先で弄びながらそっと囁いた。
「もう…欲しい?」
そんな事聞かずとも、欲しいに決まっているというのに…。至極当たり前な事を聞かれ、レガートは少しムッとする。
やはり、気に食わない男だ。
「早く…。」
「なら、力抜いて…。ゆっくり痛まんように挿れるで…。」
「…そんなのいい…」
「あかん。」

「優しくなんて…しなくていい…。消しさる位に激しく…」

「消し去るんやない。包むんや。それがワイの…抱き方や…。」

嫌だ…やめてくれ。気づかせないで欲しい。
「ナイブズ様…」
優しさなんて別に欲しくない…欲しくない…。いらないんだ。

欲しがったら…いけない。

一番好きなあの人の傍にいるためには。


「……君なんかに…頼まなきゃ良かった…」

「…なんで?」

「君は…本当に…牧師…聖職者だから…」

「…?」

「わからないならいいよ…」




救いの手なんて…いらない…。僕は迷える小羊じゃない。



「…僕は君が…嫌いだよ。」








END



終わりを求めるばかりのレガ様が愛おしいです//
色っぽい誘い受けで!危うくて可愛くて…そしてやっぱり危険なレガ様!受け!(照)
萌え小説をありがとうございます〜//
チラっとですが、ミッドバレイ×レガ様も萌えなのですv
レガ様は終わりを与えるナイブズに傾倒し続けてますが
ミッちゃんも他の下僕達も一番大切なのはレガ様なのに…
ウルフウッドもレガ様の配下の一人なのですが、声が速水さんなので(〃∇〃)
是非何とかなって欲しかったのでッ//結月さんに小説化していただけて嬉しかったです!
レガ様受け作品まだまだ募集中です〜//読みたいでっす!

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