舞HiME最終回記念

楯×神崎 武田×神崎

『幻水』
小説 吉野様







薄暗い、けれど


華やかな密室。

彼女達の宴に少々、圧倒され気味に居合わせた。

嬉しそうに歌う彼女を見つめながら、秘やかに溜息が漏れた。

「楯くん」

隣りに座る神崎先輩に肩を抱き寄せられ、囁くように俺の名を呼んだその声に信じられないほど心が揺らいだ。

「え…」

「少し、抜けようか」

薄く笑みを浮かべたその顔と艶を増した声。言葉よりもそれこそが誘惑だった。

俺が呆然と見とれると神崎先輩は笑みを深め、俺の返事を待たずに席を立った。

いや、俺の返事をきっと見抜いたのだろう。

俺はそっと神崎先輩の後を追った。



神崎先輩はビルの屋上に出て、冷たい風に身を晒して小さく笑った。

「やっぱり、春といえど夜は少し冷えるね」

「そりゃそぉっすよ…戻りますか?」

何故だか分からないが俺は神崎先輩と間合いを取っていた。

近づきすぎないように。

なのに、神崎先輩は俺に向かってくる。ドアに背をへばりつかせた俺を更に追いつめる。

「いいや…?だから、暖めてよ、君が」

俺の目の前に立ち、俺の耳元で囁かれる誘惑の言葉。

身体が痺れるようになる声に、密着したしなやかな躯に、ぞくりとした。

俺がこの人から逃れることなど出来るわけなかったんだ。

ほら、俺の腕は神崎先輩を強く強く抱きしめている。

「…どうして、そんな苦しそうな顔をするんだい」

お互いの肩に顔を乗せているのだから神崎先輩に俺の表情が見えるわけない。

けれど、確かに俺はそんな顔をしていて。

どうして分かったのか。神崎先輩はどんな顔でそう言っていたのか。

俺には分からなかったけど、俺の背に回された神崎先輩の腕の力が強くなったことだけは確かなことだった。

「…貴方に触れることはとても苦しいことっすよ」

「それでも君に触れて欲しいと願うのは酷なのかな…」

「酷なのはそれが嘘だって方でしょ」

そうと知ってもこの腕を解けないのは自分。欠片も動揺なんか見せずに俺の顔を覗き込んで頬に触れてくる貴方。

気付かないまま、誘われるがままに貴方に触れてしまえればと少し思う。

表情も読みとれなかったのに貴方の本音だけが酷く身体中に響いてきた。

誰にでも優しい貴方が偽物なら俺は目の前にいる本物の貴方が良い。

「…それでも僕に触れたいと君は願うんだろう?」

そう言われて驚愕の表情を浮かべるしか出来なかった俺を神崎先輩は少し切なそうな微笑を以て見つめた。

いつの間にか降り出した雨に濡れながら抱き合って、見つめ合って。

近づいてゆく唇と閉ざされてゆく瞳はもう止めようもなく。

キスの直前、勢い良く開いたドアに背中を押されて俺は神崎先輩を押し倒しながら彼にキスしてしまうことになった。

先輩を押しつぶしてしまわないようにせめて彼を腕で庇いながら横倒しに倒れた。

「黎人!」

こ、の声は。

「武田部長!?」

「将士 」

「…何を二人でこんな所で寝っ転がってるんだ?」

訝しげな顔で問うてくる部長に神崎先輩はするりと俺の腕から抜け出して身体を起こして答える。

「お前が勢い良くドアを開けたせいで吹っ飛ばされたんだよ。あーあぁ、びしょ濡れだ」

「わ、悪い。つぅか、何で雨降ってんのに屋上にいんだよっ」

「来た時は降ってなかったんだよ。将士は何でここに?」

「お前を捜してきたんだよ。包帯変えるの忘れてるだろうと思って」

「ああ…よく分かったね、流石」

「あんな目立つ集団、分からないわけないだろ。女子共がお前らがいないって怒ってたぞ」

「それは大変。楯くん?」

「っは、はいっ?」

二人の空間に入り込めずに呆然としていたところに突然名前を呼ばれて声が上擦った。

神崎先輩は優しく笑った。それは皆に見せる、あの笑顔だった。

「皆の所に戻ってくれるかな?僕はお迎えが来たから帰ったって伝えてくれる?」

「あ……はい、じゃあ、失礼…します」

何事もなかったようにした貴方。俺にもそうしろと言うのか?どうして?どうやって?

唇には貴方の熱が未だ残っているというのに。

その熱は俺の身体をやたらと重くして、俺は身体を引きずるようにドアに向かった。

「楯くん」

最後、俺を引き止めて貴方は短く言った。

「ごめん」

俺は背を向けたまま何も言わずにドアを閉めて、そして、少しだけ泣いた。

短い、少しだけ幸せな夢だった、と自分を説得し続けて。



「ごめんって何だ?」

「いや…実はうっかりアルコール飲んじゃって…」

「ぁあ!?お前、あれ程、俺が外では飲むなと言ったのに!」

「間違えたんだよ、自分のと楯くんのと…」

「楯!?アイツ、酒飲んでるのか!?」

「それは別にいいだろ、お前だって飲んでるんだし」

「う。で…また、あの酒癖が…?」

「多分。雨でやっと意識がはっきりしてきた頃にはキス直前で」

「セ、セーフか?」

「いや、アウト。お前がドア開けた時に勢いづいて避けられなかった」

「だぁー!!俺のせいかよっ!?だいたい、何だって酒飲むと一番近くにいる人間を誘惑するなんて酒癖があんだよ!?」

「時々、無理矢理飲ませるくせに」

「あ、れは…さ、最後には自分で飲んでるじゃねぇか…っ」

「将士はいいんだよ…何されたっていい」

「れ、黎人…」

「ああ、包帯変えるんだったね。どうしようか。雨も上がったし、ここでやる?」

「な、なななな何を!?」

「……何をする気なんだよ」



少しだけ開いていたドアからそんなやり取りを聞いて、また、
少しだけ泣いた。

本当に夢だったら良かったと願わずにいられない…っ。


END












うおおおおーーー//ありがとうございます!!
吉野さんの最終回感想もどうぞv↓
『外伝が見たいです、外伝・・・。黎人さんに黒曜の君としての
意識とか記憶とか残ってるのかさえ微妙・・・。ミコトちゃん
との仲良し風景とかも見たかったです〜。最終回が終わって
ビデオ見返すと(私は黎人さんオンリー編集テープなので
1時間半弱です>笑)本当に色々消化不良で・・・
美袋黎人が神崎黎人になったトコ辺りを詳しく教えて欲しい
ものです・・・。瞳の色も変わるし、もう。でも、とにかく
面白かったので・・・。噂のラジオドラマも昨日聞きました!
わー・・・オニーサン向けかと思われた舞HiMEでまさか
こんなドラマが聞けるとは思いませんでした!楯×神崎・・・!
W関さん、遊んじゃってるカンジもしますがちゃんと
色っぽくてー!!(><)そんなワケで最終回記念作品は
楯×神崎入り武田×神崎です〜』

黎人さんは誘い受けのNo1キャラですよね!(ドラマCDの『×の誘惑』も参照で(笑))
そそそそんな嬉しい酒癖があったら!もう色っぽくて色っぽくてメロメロです(≧∇≦)//
そして楯くんと武田と黎人さんの三角な関係は
絶対有りなのです!!v最終回のあのラストの黎人さんの台詞の
「マサシのためにもがんばってよv」
の色っぽさにも、それを確信してましたv


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