『労働法律旬報』第1612号(2005年11月下旬号)

　人事院勧告と国立大学法人の労働条件
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　深谷信夫＠茨城大学

はじめに
●１７年度人事院勧告　
　去る８月１５日、人事院は、公務員賃金制度について勧告を発した＊１。勧告のポイントは、①行政職の平均で年間0.1％、４千円引き下げるという給与引き下げの内容、②ボ－ナス（期末・勤勉手当）を0.05ヶ月分増やして4.45ヶ月分とすること、③現在の「調整手当」（最大１２％）を廃止して「地域手当」（最大１８％）を導入すること、にある。細部では、基本給の引き下げは、中高年層の引き下げ幅を大きくして、若年層の引き下げは行わないなど給与カ－ブのフラット化を目指している。
　今回の人事院勧告の全体的な評価は他に譲らざるをえないが＊２、この勧告が、一部の例外的な地域と幹部職員層を別にすれば、賃金の不利益変更という結果をまねくことは間違いない。全国大学高専教職員組合（以下、全大教という）の試算によれば、教員の教授層で５年間で２３０万円余の減収、職員の係長職で５年間で１５０万円弱の減収となる（別掲資料１参照）。
　この人事院勧告は、国会審議などを通じて、給与法改正をへて、国家公務員制度においては１２月実施の段階へと入っている。

●人事院勧告と国立大学法人　
　国家公務員労働法制から離脱した国立大学法人の労使関係には、人事院勧告制度は、本来的には、直接的には適用されない制度である。
　しかし、昨年２００４年度の寒冷地手当廃止の人事院勧告を受けて、いくつかの国立大学法人で、寒冷地手当廃止問題をめぐって、労使紛争が発生した。そして、昨年度中に、寒冷地手当廃止を一方的に決定するという国立大学法人があった。もとより、このような一方的不利益変更は、就業規則による労働条件の不利益変更についての最高裁判例法理を前提とするならば、許されざる不利益変更事案といえよう。とはいえ、今年度の１７年度人事院勧告を理由として、国立大学法人においても、１７年度の年度途中において、人事院勧告と同様の賃金制度の一方的不利益変更を行うという事態が発生しようとしている。
　結論的にいえば、このような年度途中の人事院勧告を根拠とする賃金の一方的不利益変更は、法理論的には、原則として許されない＊３。もちろん、労働者と労働組合が、不利益変更に同意すれば別であるが。

●検討されるべき課題　
　１７年度人事院勧告の内容を国立大学法人の賃金制度として導入しようとする国立大学法人役員会の意向が表明されている。それが、１７年度途中からの導入であるか、それとも、１８年度からの導入であるかの違いはあろうが、国立大学法人の賃金制度に、人事院勧告の内容が実質化する可能性が高まっている。
　こうしたなかで、再度、人事院勧告制度と国立大学法人の労働条件制度との関係をめぐる基本的な問題を検討しておく必要がある。個々の大学がどのよう賃金制度を選択するかは、もとより各大学の自主的な選択の問題である。しかし、その選択が、国立大学法人が置かれた一般労働法の世界のル－ルを無視して進められてはならない。
　そこで、本稿では、第一に、国立大学法人における労働条件決定のシステムを確認する。とくに、労働条件決定における団体交渉の意義を確認する。第二に、就業規則による労働条件の一方的不利益変更の法律問題について確認する。第三に、人事院勧告制度と国立大学法人の制度的な基本的関係を確認する。そのなかで、人事院勧告制度と運営費交付金制度との関係について確認する。

一　労働条件不利益変更問題と団体交渉

●法人化と労働条件決定システムの変化　
　法人化された国立大学の労働条件は、一般労働法のル－ルにもとづいて決定されなければならない。法人化が労使関係と労働条件にもたらした意味は、＜公務員労働関係という身分保障を原理とする全国的統一的画一的中央集権的労働条件決定システム＞から、＜労働契約関係を基礎として最低労働条件保障と労働基本権保障とを原理とする個別法人単位の自主的集団的労働条件決定システム＞へと移行したということである。この自主的集団的労働条件決定とは、使用者（大学）と労働組合が、対等平等な関係のなかで、労働条件を決定するということである。
　しかも、現実的に、ほぼすべての国立大学法人の職場には、その組織率の高低は別にして、労働組合が組織されている。であれば、大学は、現に存在する労働組合との団体交渉を通じて労働条件を決定するという憲法２８条と労働法にもとづく法的義務を果たさなければならない。もとより、国立大学法人において組織されている労働組合も、決定的な法的環境の変化のなかで、労働条件決定の主人公としての役割を果たさなければならない。

●団交拒否と就業規則不利益変更　
　人事院勧告・給与法改定の内容を、個々の国立大学法人の賃金制度として具体化しようとすれば、労働協約の不利益変更か、就業規則・賃金規程の不利益変更か、いずれかの方法を採らなければならない。労働協約による賃金決定を行っている国立大学法人は、ほとんどない。したがって、就業規則・賃金規程の不利益変更問題として問題化するであろう。
　さて、人事院勧告・給与法改定と就業規則の不利益変更問題を考えるとき、集団的労使関係と個別的労使関係の関係を確認しておくことが重要である。なぜ重要なのか。
　人事賃金制度をめぐる問題は、重要な労働条件事項であり、団体交渉の対象事項である。労働組合が大学に賃金問題での交渉を申し入れたならば、大学はそれに応じるべき義務を負う（団体交渉応諾義務）。さらに、労働組合と大学が人事院勧告・給与法改定を理由とする労働条件変更問題について団体交渉を継続しているとき、一方的に団体交渉を打ち切ることはできない（団体交渉誠実交渉義務　別掲資料２参照）。
　ここで重要な法律問題が、＜団体交渉の応諾義務と誠実交渉義務＞をめぐる法律問題である。ここで詳論することはできないが、憲法と労働組合法が、使用者に求めている＜団体交渉の応諾義務と誠実交渉義務＞について、労働組合は、しっかりと確認しておくことが重要である＊４。賃金問題について、団体交渉応諾義務を否定することはできない。問題は、団体交渉誠実交渉義務の履行である。
　団体交渉の誠実交渉義務を履行しないで、団体交渉を拒否し、就業規則・賃金規程の一方的な不利益変更を強行するならば、それは、憲法と労働組合法で禁止されている団交拒否と団結否認の不当労働行となる。このような状態で、大学は就業規則の一方的不利益変更を行うことはできない。そのような一方的不利益変更は、憲法二八条と労組法七条が禁止する団結否認の不当労働行為と判断される。
　したがって、逆に、労働組合が主体的にこの賃金問題に取り組もうとするならば、労働組合は、まず第一に、「人事院勧告・給与法改定と労働条件変更問題」を議題とする団体交渉の開催を申し入れなければならない。先年度の寒冷地手当廃止問題が発生したとき、その重要な労働条件問題を、集団的労使関係の場、団体交渉の場で、労使が議論するという条件が充分につくられなかった。労働組合は、この轍を踏んではならないであろう。労働組合にとっては、集団的労使関係の場で、団体交渉における誠実交渉義務を履行させることによって、大学が労働条件を一方的に不利益変更できないような条件を創り出すことが必要であり、それは十分に可能であろう。

●大学財政問題と誠実交渉義務　
　後に検討することになるが、不利益変更の合理性・必要性判断は、客観的具体的な各大学の財務事情を前提として議論されなければならない。そのときに絶対的に必要なことは、大学の財務状況についての詳細な情報提供が行われることである。賃金変更とのかかわりでは、一般の人件費の支出の詳細な内容、教員や職員の年齢構成にもとづく賃金支給の状況、などが重要である。もちろん、個別大学ごとの貸借対照表にもとづく財務状態の総合的な判断も基礎資料として必要となる。
　そのために、大学の財務問題をテ－マとする交渉・協議を行うこと、そこで提供された情報を正確に分析すること、これらのことが必要とされる。

●自主的解決と専門機関の活用　
　もし、大学が、それらの義務を履行せず、団交を拒否し、情報を提供しないときは、労働組合は、躊躇せず、労働委員会への「あっ旋」申請などを活用し、団体交渉関係の正常化に取り組むことも必要である。第三者機関の活用という場合、裁判所への民事訴訟の提訴や、労働委員会への不当労働行為の申し立てなどに限定して考える必要はない。それらの場合は、時間もかかり、即効性に欠ける。
　しかし、簡易迅速な第三者機関の活用の方法は存在する。労働委員会への「あっ旋」申請はその一つである。また、都道府県の労働相談センタ－によっては、積極的に、労使関係の正常化に関与するところもある。また、個別に労働弁護士を顧問として、大学に、法律的な見解を提出するという方法もあろう。いずれにしても、結論が、結果が、でてからでは遅すぎる。事態の進行中に、第三者機関（専門機関や専門家など）を活用し、労使関係を正常化することが必要である。

二　就業規則による労働条件の不利益変更の法律問題

　集団的な労使関係の場における自主的な労働条件設計の労使合意ができない場合、大学は、就業規則・諸規程による労働条件の一方的不利益変更を強行してくるであろう。
　労働組合は、＜就業規則・諸規程による労働条件の一方的不利益変更の法律問題＞の内容を正確に理解し、必要な法律論争を展開できなければならない。以下に、中心的な論点となるであろう法律問題を列記する。

●労基法九三条と不利益変更問題　
　まず、第一に、就業規則による労働条件の不利益変更は、労働基準法の認めない例外的な法律問題である。労基法第９３条第一項は、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と規定する。すなわち、労基法第九三条は、就業規則の定める労働条件に達しない労働契約に対する就業規則の拘束力を規定している。労基法九三条は、就業規則による労働条件の一方的不利益変更を認めていない。労基法は、就業規則に労働条件を引き上げる機能しか認めていない。

●原則否認と例外容認　
　そこで、第二に、労基法が規定していない法律問題であるから、その就業規則による労働条件の不利益変更問題は裁判所の判断に委ねられた。最高裁は、「原則として許されない。しかし、例外として、合理性がある場合に許される。」との判断枠組みを示した（詳細は、秋北バス事件最高裁大法廷判決昭和４３年１２月２５日参照）。
　すなわち、同最高裁判決は、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」と解すべきである、と判示した。
　繰り返すが、原則的に許されない、例外的に合理性が存在する場合に許される、という判断が重要である。

●例外的に許容されるための合理性判断　
　したがって、第三に、個々の労働条件の一方的不利益変更問題では、当該不利益変更事案に、例外的に許される合理性が存在するかどうかが、中心的な論争点である。
　その合理性判断の判断枠組みについては、最高裁判例が積み重ねられ、変更内容と変更の必要性という合理性判断の二つの内容が示され、総合的な諸要素が考慮されなければならないとされてきた。そうした最高裁判例を集約したのが、第四銀行事件・最高裁第二小法廷判決（平成９年２月２８日労働判例７１０号１２頁）であった。

　「新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍するさせることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるというべきである。右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。以上は、当裁判所の判例の趣旨とするところである。」

●合理性判断と＜高度の必要性＞判断の相違　
　さて、第四に、上記最高裁判例において重要なことは、変更対象が賃金・退職金などの重要な権利と労働条件の場合は、「高度の必要性」が求められるという判断枠組みが示されていることである。賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、「高度の必要性」という判断枠組みにもとづく、合理性判断を求めたのである。
　ここで、＜合理性＞と＜必要性＞という判断枠組みは、その内容において、重要な違いがある。労働組合は、その判断内容の違いを認識して、法律論争を行わなければならない。
　なにが違うのか。＜合理性＞という判断内容には、＜客観的な合理性＞ともいわれるように、個々の国立大学法人の事情を超えるさまざまな要素が重視される。日本の労働者の労働条件との比較とか、私立大学もふくめた大学教員一般の労働条件の比較とか、国立大学法人全般との比較とか、さまざまな学外の社会一般の状況が判断内容となってくる。そうすると、要は、例外的合理性の存否をめぐる判断においては、不利益変更される内容が世間並みの水準かどうかが大きな比重を持ってくる。
　もしこのような判断要素にもとづく判断が、人事院勧告と給与法改定を理由とする不利益変更において行われるならば、いわば結論が用意されているようなものである。世間並みに変更するのであるから、合理性がある、と。
　しかし、＜必要性＞という判断枠組みは、＜合理性＞判断枠組みとは異なる内容をもつことが確認されなければならない。＜必要性＞の判断においては、他でもない個別具体的なひとつ一つの国立大学法人は、労働条件をなぜ不利益に変更しなければならないのか、という必要性が問われることになる。有り体に言えば、「この大学で、なぜ、賃金などの中核的な労働条件を不利益に変更する必要性があるのか」が明らかにされなければならないということである。
　国立大学法人の労働条件変更は、ひとつ一つの大学で個別具体的に議論されなければならない。人事院勧告や給与法改定などを理由として、自動的に画一的に必要性があると結論することは法律判断としては妥当ではない。最高裁の判断枠組みも、そのことを認めているのである。
　しかも、＜高度の必要性＞が問われるのである。一般的な必要性ではなく、高度の必要性である。大学には、高度の必要性の存在を説明する義務がある。逆に、労働組合には、個別大学の財務状況をふまえて、「やりくりすれば不利益変更しなくとも、なんとか出来るでしょう」という具体的な提案が出来るかどうかが問題となる＊５＊６。

●合理性判断における労使協議の意義　
　最後に、最高裁は、就業規則の不利益変更が労使協議・労使合意にもとづいておこなわれたかどうかを、不利益変更の合理性判断の重要な要素として考えている。
　すなわち、第四銀行事件最高裁第二小法廷判決（平９・２・２８）は、一般論として、「労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応」という判断要素を加え、個別具体的には、本件就業規則の変更は、行員の９０％で組織されている組合との交渉、合意を経て労働協約を締結した上のものであるから、「変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測すること」ができると判断した。
　理論的には、集団的労使関係の事実を、個別的労働契約関係の法律判断に無媒介に導入することについて、検討すべき問題はある。なぜならば、問われているのは、使用者が就業規則を一方的に不利益変更することによって、個々の労働者の労働条件も変更できるのか、という論点である。この論点に対して、過半数を組織している労働組合が容認しているから、個々の労働者もそれに従わなければならない、と回答することは法律の常識から考えて納得できない問題をはらんでいる。法的には対等平等な労働契約関係において、契約は契約当事者の合意によってのみ変更できる。にもかかわらず、契約当事者でない労働組合という集団が合意しているということで、契約内容の一方的変更が有効となるという法律構成を採用することは、契約自治の原理に反している。
　このような法的論点をはらんではいるが、労働者の利益を代表するまともな労働組合が存在する労使関係においては、不利益変更に至る経過のなかで労使協議・労使合意が尽くされていたのかどうかという判断要素は、実践的に重要な意味を持ってくる。
　労働組合が団体交渉を要求しているにもかかわらずそれを拒否している場合、または、団体交渉に応じている場合でも誠実交渉を行わずに団交を決裂させた場合、などのような状況のなかでの就業規則の不利益変更は、例外的な合理性も認められない、という法律判断となる。
　この意味では、現場では、合理性判断における労使協議・労使合意の判断視点は、労働組合が実践的に使える役に立つ判断視点である。
　すでに、「労使関係と就業規則不利益変更問題」で前述したように、実践的には、労働組合が、人事院勧告と給与法改定とを理由とする労働条件の不利益変更問題に対して、団体交渉を通じて、労使合意のなかで、新たな労働条件規制を実現するように取り組むことである。そのなかで、最高裁判決法理を実践的に生かすことであろう＊７。

三　人事院勧告制度と国立大学法人の賃金制度

　去る８月１５日の１７年度人事院勧告を理由として、この４月に遡って、国立大学法人の労働条件を不利益に変更する法律的な根拠がないという結論は、すでに述べた。とはいえ、現実的には、多くの国立大学法人で、人事院勧告の内容にもとづいた教職員賃金の不利益変更が実施されようとしている。その不利益変更を実施するにあたって、根拠として打ち出されているさまざまな主張がある。以下、それらを理論的に検討する。

●国家公務員法制と国立大学法人　
　第一、国立大学法人就業規則における国家公務員法制に「準ずる」との規定＊８の意味を拡大解釈してはならないという論点である。
　①国家公務員時代は、「準ずる」規定は、国家公務員法制のもとにおいては、下位の規程に上位の規程に「準ずる」という規程があれば、下位の規程は上位の規程に従わなければならないという強い法律的な意味を持っていた。したがって、上位の規程が変更されれば、例えその変更内容が不利益変更であったとしても、下位の規程もその不利益変更の内容に応じて変更されるという結果となった。
　しかし、一般労働法の下におかれた国立大学法人の就業規則・諸規程に「準ずる」規定があったとしても、国家公務員法制から離脱しているのであるから、同一の法体系のなかでの上位下位の関係を離れているのであるから、国家公務員法制のもとにおけるような意味を持たない。繰り返すが、「準ずる」規定は、国家公務員法制におけると同様な上位の規定を強制するという法律的な意味はもっていない。
　「準ずる」規定は、国立大学から国立大学法人への移行期に、就業規則・諸規程をきちんと整備しなかった結果なのである。有り体に言えば、自前の諸規程を作る実務の手抜きをしたということである。
　②国立大学時代は、国に対して下位の組織である国立大学の規程は、上位の行政組織や機関の規程に従わなければならなかった。ところが、「準ずる」規定が存在するとして問題となっている規程は、国立大学法人では就業規則の下位の規程（例えば、給与規程など）である。この上下関係が逆転したということもしっかりと認識しなければならない。
　労働基準法による就業規則法制は、労働条件の一方的な不利益変更を認めない。就業規則の下位の規程に、使用者が、準拠や準用や準ずるとの規定を挿入すれば、労働条件を自由に改定できるというのは、就業規則による労働条件変更の法律論を否定するあまりにも乱暴な議論である。
　③そうはいっても、大学が一方的に解釈運用する危険性はある。そこで、実践的な問題としては、労働組合としては、「準ずる」規定で対象とされている人事院等の諸規程が、各国立大学法人の就業規則・諸規程の制定の時間的な経過を確認して、何月何日付の規程であるか確定して、大学に通告しておくことも必要であろう。

●通則法・閣議決定と労働法のル－ル　
　第二、独立行政法人通則法（以下、通則法という）第６３条３項を、労働組合法や労基法などの一般労働法のル－ルを無視してもよい規定と拡大解釈してはならないという論点である。
　通則法第６３条３項は、国立大学法人など非特定型独立行政法人の職員の「給与及び退職手当の支給の基準は、当該独立行政法人の業務の実績を考慮し、かつ、社会一般の情勢に適合したものとなるように定められなければならない。」と規定する。
　この規定が、労働法規の定めるル－ルを無視しての労働条件変更を求めているとか、許しているなどと解釈運用することはできない。もし、通則法第６３条第３項に、一般労働法の労働条件決定のル－ルの適用を排除し、例外的な賃金決定制度を創設する効力を与えようとするならば、そのような例外的な根拠規定をおかなければならない。しかし、同条項には、そのような適用除外規定は存在しない＊９。
　したがって、当該規定を最大限尊重するとしても、各国立大学法人の賃金制度が社会一般の情勢に適合したものとなるように、各国立大学法人の労使関係当事者は、労働法に従った自主的労働条件決定のル－ルに従って、制度構築に努力すべきだということである。
　しかも、通則法は、統一的な画一的な制度を強制していない。「当該独立行政法人の業務の実績を考慮し」て決定することを求めているのである。そうすると、例え人事院勧告にもとづく給与法改定が行われたとしても、すべての国立大学法人が、人事院勧告に準拠する必要はないのである。
　また、政府は、人事院勧告に沿った国家公務員の給与改定にあたって、昨年と同様に（２００４年９月１０日）、「公務員の給与改定に関する取扱いについて」と題する閣議決定をおこなった（２００５年９月２８日）。その閣議決定第３項（５）には、「独立行政法人の役職員の給与改定については、国家公務員の給与水準を十分考慮して適正な給与水準とするよう要請する。」との内容がある。
　この閣議決定の法律的な意義は、通則法第６３条第３項と同様の意味しか持たない。この閣議決定を根拠に、人事院勧告の水準に国立大学法人の教職員の賃金制度を一方的に不利益変更することは法律的に許されない。

●人事院勧告制度と運営費交付金制度　
　第三に、国家公務員法制における人事院勧告制度と国立大学法人制度における運営費交付金制度とは全く異なる制度上の仕組みであるという論点である。
　一方で、憲法２８条による労働基本権保障を制限・剥奪する国家公務員労働法制の正当化の根拠として、民間準拠を担保する制度として人事院勧告が位置づけられた。国家公務員は、労働基本権を制限・剥奪されているために、使用者と労働組合が対等な関係で賃金などの労働条件を決定することができない。そこで、世間並みの労働条件が保障されるように民間準拠を趣旨とする人事院勧告が出されるのである。その結果、国家公務員は、民間並の賃金などの労働条件を保障される。労働基本権の制限・剥奪の代償措置としての人事院勧告制度なのである。
　他方で、国立大学法人への運営費交付金制度は、国立大学法人がそれぞれの中期目標とその目標達成を目指す中期計画にもとづいて、国家からの財政的な助成を行う制度である。国立大学法人への運営費交付金の総額が決定され、毎年度交付される。より具体的には、第一期の２００４年度の運営費交付金が基礎額として決定され、翌年度はその基礎額をもとに効率化係数というマイナスシ－リングをかけられて減額支給される。２００４年度の運営費交付金が基礎額となって、２００５年度交付金も、２００６年度交付金も算定されるというのが、制度構想の原則であった。
　すなわち、人事院勧告制度と運営費交付金制度は、異なる制度体系のなかでの制度なのである。もちろん、運営費交付金制度における人件費総額の決定において、人事院勧告・給与法改定の内容が財務当局の裁量的な判断において斟酌されることまでを法律的に排除することはできない。しかし、それは、人事院勧告を翌年度の運営費交付金決定において反映させるということを意味する。
　そうであれば、実践的な問題としては、二つのことが厳格に区別されなければならない。①すでに決定・交付されている当年度の運営費交付金にもとづく各国立大学法人の賃金制度を、人事院勧告の内容に一致させるという問題と、②前年度の人事院勧告・給与法改定を算定根拠として決定された運営費交付金にもとづき、各国立大学法人が賃金制度を変更するという問題とは、区別されなければならない。

●１７年度人事院勧告と年度途中の不利益変更問題　
　上記のように、二つの賃金制度変更の問題を区別するというときに検討されなければならないのは、
　第四に、１７年度人事院勧告を理由として、１７年度途中において国立大学法人の労働条件を不利益に変更する法律的な根拠もないし、財政上の必要性もないという論点である。
　法律上の根拠のないことは、通則法と閣議決定の法律的な意味について述べたことから明らかであろうが、ここでは、国立大学法人の財政上からも必要性がないことを確認しておく。
　すなわち、人事院勧告にもとづく給与法の改定が行われたといっても、それが自動的に、すでに決定されている１７年度運営費交付金を減額・変更することに制度的に連動しない。国会が、決定した予算を変更するという異常事態が起きれば別であるが、そのようなことは通常は想定しえないし、現に行われていない。したがって、１７年度の途中に、人事院勧告と同様の内容で、４月に遡及して賃金を不利益に変更する必要性がないといえよう。
　だから、「お金がないので、不利益変更しなければならない」とは言えないので、逆に、文科省と国立大学法人役員会は、年度途中の不利益変更の根拠として、通則法の「社会情勢適合の原則」を援用するのである。こうした大学役員会を支援するかのごとく、文部科学省は、「取扱い注意」なる刻印のある文書を、各国立大学法人に配布しているのである（別掲資料３参照）。この文書配布には重要な二つの問題がある。第一には、文科省が直接国立大学法人の人事担当者に配布しているという問題である。文科省が、国立大学協会に、給与法が改定されたので法人の賃金制度も検討するようにとの要請を行うならば別である。要請された国立大学協会が、経営者として、各国立大学法人に問題を提起するということはあろう。こうした手順を踏まないで、文科省が、個別国立大学法人に直接的に、制度改定を提起することは、国立大学法人への介入といえよう。第二には、すでに述べた通則法第６３条の趣旨を拡大解釈して、給与法改定にもとづく賃金制度変更を主張しているという内容上の問題である。この論点については、すでに述べたのでここでは繰り返さない＊１０。

●１７年度人事院勧告と１８年度運営費交付金　
　第五は、１７年度人事院勧告の内容を、１８年度からの国立大学法人における賃金の不利益変更として反映させるという問題をめぐる論点である。
　すでに述べたように、１８年度の運営費交付金の算出基準として、１７年人事院勧告・給与法改定が考慮されることは充分にあり得る。もちろん、運動論的には、１８年度国立大学法人運営費交付金決定に、人事院勧告を反映させない取り組みは重要である。しかし、現実的には、１８年度国立大学法人運営費交付金が人事院勧告と国家公務員の給与法改定に基づいて算出される可能性は大である。
　そうすると、各国立大学法人は、運営費交付金の減額を理由として、来年度に向けて、賃金人事制度全体に関連する就業規則・諸規程の改定を提案してくるであろう。労働条件全般の不利益変更問題が続発することが予測される。
　とはいえ、国立大学法人は、そもそも自主的な制度設計と制度運営を目標として発足した。そうであるならば、人事院勧告をそのまま引き写したような労働条件の不利益変更を行うのでなく、対等で平等な正常な労使関係のなかで、内容のある団体交渉をすすめ、各国立大学法人の置かれた具体的な環境に応じて、新たな雇用と労働条件の基準とル－ルが作成されなければならないといえよう。だが現実は、文科省の国立大学法人への統制と各国立大学法人役員会の自主性放棄とのなかで、画一的に人事院勧告の内容が国立大学教職員の賃金制度として具体化されようとしている。
　しかし、そのような画一的な賃金制度の不利益変更は、制度論的にも、法理論的にも、正当性に欠けることを強調しておきたい。
　ここでは、①一つには、すでに指摘したように、賃金などの重要な労働条件変更には、「高度の必要性」が合理性判断の基準となるという論点が重要な意味を持ってくる。
　すなわち、個別大学の財務状況が、具体的に判断されなければならない、ということである。財務状況は、個別大学ごとに事情は異なる。ゆとりある財務体質の大学もあれば、財政逼迫の大学もある。各国立大学法人への運営費交付金削減が、大学財政に与える影響は一律ではない。運営費交付金削減を理由とする賃金切り下げという労働条件の不利益変更が、ある大学では高度の必要性があるから合理性があるという判断となり、ある大学では高度の必要性がないから合理性がないという判断となる、ということである。
　ここで重要なことは、労働組合が、自分の大学の財務体質をきちんと分析できているかどうかである。この「高度の必要性」論争は、客観的資料にもとづいて進められる。そのためには、各大学の１６年度決算と１７年度予算について、詳細な分析と具体的な提言が求められる。
　②二つには、これもすでに指摘したが、労働組合との協議履行と合意形成が、例外的に容認される合理性判断の要素となるということが重要な意味を持ってくる。
　もちろん、憲法と労働組合法で保障された権利を主体的に行使する労働組合であるということが必要条件であるが。労働組合との交渉・協議を拒否しての就業規則・諸規程の不利益変更は、合理性に欠けるという最高裁判例を活用することができるのは、労働組合の主体的な取り組みがあってこそである。

●国家公務員退職手当法と国立大学法人職員の退職手当　
　第六は、国家公務員退職手当法と国立大学法人教職員の退職金支給をめぐる論点である。国立大学法人の教職員の退職金は、国家公務員退職手当法にもとづいて計算された退職金原資が、各年度の運営費交付金のなかの特別枠として支給される。より詳しくは、過去の実績と当該年度の予想数値をもとに、総額が積算され、配分額が決定される。したがって、１７年度についていえば、１７年度人事院勧告とは関係なく、各国立大学法人の退職金原資はすでに決定されている。ところが、国家公務員は、国家公務員退職手当法にもとづき、給与法改定によって引き下げられた月例賃金をもとに計算された退職金を手にすることになる。
　ここで、問題は、国立大学法人の教職員にも、減額された賃金を計算根拠として算出した退職金を支給しなければならないのかである。結論的には、国立大学法人が現行の賃金を根拠に算出した退職金を支給してはいけないという制度的な枠組みはないということである＊１１。だが、もしそうした場合は、国の基準を上回る支給分は、運営費交付金制度の退職金の特別枠からの支出ではなくて、一般人件費からの繰り入れによるということになる。
　したがって、法律制度的には各国立大学法人の自主的選択の問題であるが、財政的な余裕がない国立大学法人の場合には（いや、余裕がある大学の場合でも）、退職金制度の不利益変更問題が発生することが予想される。法理論的には、賃金の不利益変更問題で指摘したと同様に、退職金の不利益変更が、ある大学では高度の必要性があるから合理性があるという判断となり、ある大学では高度の必要性がないから合理性がないという判断となる、ということである。まずは、不利益変更した場合、どれほどの財政負担が軽減するのか、具体的な金額を明らかにすることである。その金額が、当該大学の当該年度の財政のうえで、どのような影響をもつのかを判断することである。

おわりに
　国立大学法人の賃金問題をめぐる情勢では、もう一つ考慮されなければならない問題がある。
　国立大学協会が、全国人事委員会や高専機構などと、日本人事行政研究所に教育職（一）などの「参考モデル給料表」の作成を依頼しているという問題である。そして、全国人事委員会は、日本人事行政研究所の「参考モデル給料表」について検討したとする参考資料をまとめた（九月二日）。しかし、日本人事行政研究所の「参考モデル給料表」も、全国人事委員会の参考資料も、人事院勧告の内容と変わらない。というよりも、人事院勧告に存在した不利益変更にあたっての「激変緩和措置」ともいえる細部の制度提案は、「参考モデル給料表」や参考資料には反映されていない。その意味では、人事院勧告の内容よりも、不利益性の高い制度提案であるといえる。
　さらに、国立大学協会は、その全国人事委員会の参考資料にもとづき、経営委員会等で検討した参考資料を、各国立大学法人へ送付するという。
　問われなければならないのは、国立大学協会が送付するであろう「賃金モデル」の法律的な評価の問題である。より具体的には、国立大学協会が送付するであろう「賃金モデル」にもとづく労働条件の不利益変更が認められるのかどうかという問題である。不利益変更の合理性判断の問題である。
　人事院勧告と給与法改定を理由とする賃金切り下げという労働条件の不利益変更問題について検討したと同様の論点が、国大協参考資料についても検討されなければならない。すなわち、個別国立大学法人にとっては、国家であろうと、第三者機関であろうと、外部組織でるということにおいては変わりはない。そうであれば、国立大学協会が提示した内容であるということからだけで、不利益変更の合理性が推定されるわけではない。逆に、運営費交付金制度と連関していないということで、国立大学協会のモデルは、なんらの法的意味も持たないといえよう。各国立大学法人が自主的に構想すべき賃金体系を、自主的努力を放棄して、第三者機関が作成したモデルに依存したということに過ぎないのである。したがって、国立大学法人が提供したモデルであるということで、賃金切り下げの合理性があるなどと到底主張できないのである。

＊１　「国家公務員　給与引き下げ勧告」朝日新聞　２００５年８月１５日夕刊

＊２　詳しくは、「２００５年人事院勧告特集号」『国公労調査時報』第５１４号（２００５年１０月）参照。

＊３　もちろん、あり得ないことであり、現実的にも進行していないが、国会が、人事院勧告を理由として、すでに決定している国立大学法人への１７年度運営費交付金を減額するというような異常な決定を行えば、一方的不利益変更が例外的合理性ありと判断されるような状況が生じる可能性はある。しかし、そのような状況でも、個々の国立大学法人の財務状況が個別具体的に検討されなければならないから、すべての国立大学法人における一方的不利益変更が一律に合理性があると結論できるわけではない。合理性があると判断される大学もあり、合理性がないと判断される大学もある。

＊４　実践的な解説書として、日本労働弁護団『労働組合実践マニュアル』参照。

＊５　就業規則の不利益変更をめぐる判例分析として、根本到「労働条件不利益変更をめぐる判例傾向と理論的課題」（季刊労働法２１０号１１頁＜２００５年９月＞）参照。なお、根本論文でも、「高度の必要性」判断枠組みに着目して、ＮＴＴ西日本事件・大阪高裁判決（平１６・５・１９労判８７７号）が紹介されている（同１５頁）。本件では、地裁判決が採用した情報通信業界をめぐる戦略的な環境からの判断を否定して、特別職群制度という人事制度導入を「具体的な（高度の）必要性」から判断すべきであると提起した。しかし、根本論文では、客観的な＜合理性＞視点と＜高度の必要性＞視点との異同について充分に掘り下げた検討がなされていないように思われる。本稿の視点ほどには強調されていない。

＊６　私立大学においても、公務員準拠を賃金決定のル－ルにしている大学も多い。そこで、人事院勧告を理由とする賃金切り下げをめぐる争いが法廷の場に持ち込まれている。安易な人勧準拠による賃金不利益変更を違法とする高裁判決も出されている。国立大学法人における人事院勧告を唯一の理由とする賃金切り下げにも妥当する法律判断が示されている。
　「『人勧の漫然準拠は違法』＝福岡雙葉学園の給与減額　教職員側が逆転勝訴・高裁」（時事通信配信記事２００５年８月２日）は、「福岡市で私立中・高校などを運営する学校法人福岡雙葉学園が、２００２、０３年度の人事院勧告がマイナス勧告となったことに倣い教職員の給与を減額したのは違法として教職員ら３１人が、差引額計約３９０万円の返還を求めた訴訟の控訴審判決が２日、福岡高裁であった。西理裁判長は『人事院勧告に漫然と従ったのは違法』として、訴えを棄却した一審判決を取り消し、学園側に差し引き分全額を支払うよう命じる逆転判決を言い渡した。西裁判長は『勧告の内容は客観的根拠はあるが、学園が倣う必然性はなく、教職員側と合意もしていない。プラス勧告に従った学園の給与改定がそれまで続いていたとしても、労働者に不利となるマイナス勧告を同視するのは許されない』とした」と報じた。

＊７　就業規則による労働条件の不利益変更の法律問題については、労働政策研究機構のＨＰに掲載された「個別労働関係紛争判例集『職場のトラブル解決の手引き』」が問題の概要を解説している。

＊８　単なる準拠規定というよりも自動改訂条項といえるような規定も存在する。一例を挙げると、大学法人京都大学教職員給与規程附則第２項「当分の間、本規程の別表第１から第６までに定める俸給表の月額及び手当の額は国家公務員の例に準拠するものとし、改訂があった場合は、それらの改訂についても同様とする。」である。労働協約条項であれば、法律的な効果を認める場合もあろうが、就業規則におけるこのような規定は法的効果を持たないといえよう。

＊９　この９月に開催された全大教教研集会で、山形大学から、山形大学の労務担当理事が「国立大学法人法、独立行政法人通則法は、労働基準法、労働組合法の特例法だ」と発言しているという報告がなされている（品川敦紀レポ－ト「独立行政法人通則法『社会一般の情勢への適合』を口実とした就業規則の一方的不利益変更の不当性について」）。つまり、国立大学法人の労使関係の運営と労働条件の決定については、労働組合法と労働基準法の規制は受けない、ということを主張したいのであろう。暴論である。

＊１０　なお、この文科省文書について、その「４総論」で、情報公開、説明、労使協議を確認していることをもって、この文書を評価するむきもある。しかし、法律上の義務を超える内容を提起しているわけではない。当たり前のことをしなさいと提起しているのである。この記述があるからといって、国立大学法人の労働条件決定に介入するという問題が消えるわけではなく、文書発信の問題性が半減するわけでもない。

＊１１　だが、国立大学法人制度のもとにおいて、つねに、国立大学法人は、国の基準と異なる制度運用をした場合、翌年度の運営費交付金の概算において、文科省からどのようなリアクションがあるのかわからないという恐怖感とも言える意識から、国の制度を「自主的に」とりいれるという行動を選択してきている。自立的に自主的な制度を構想するという国立大学法人制度の制度理念と、その運用実態との乖離が存在しているのである。