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C-4

耐震住宅について

 わが国は地球上の地震エネルギーの10%が集中している地震国なので当然建築物は地震力に対して安全な設計がなされていなければならない。建築基準法第一条にはその法の目的が記述されている。この法律は生命と健康、財産を守るための最低基準であると。すなわちこの法律に適合しない(違反)建築物は最低基準すらも満たしていないことになる。建築基準法では小規模な建築物以外は構造計算をして建築物の安全性を構造力学上証明することが義務づけられている。木造住宅でも三階建て以上は適用される。

◆阪神、淡路大震災被害の実態

 阪神、淡路大震災では不幸にも多くの犠牲者がでてしまった。犠牲者の多くは建物の倒壊の下敷きになった人達である。火災による焼死は二次的なケースが多い。倒壊や大破は木造の建物だけでなく鉄骨造や鉄筋コンクリート造建築まで広く及ぶ。現在の建築技術において震度6以上の地震に対して構造上重要でない壁に亀裂が入る、窓ガラスが割れるなど比較的軽度(修復可能な)の被害は別にしても人命に影響を与えない建築物を造ることは難しいことでも特別なことでもない。

 なのに現実には深刻な被害が広範に大量に出現した。原因としては木造建築や小規模な鉄骨造建築の場合は充分な設計図(設計図には建築士が作成するものと、工事関係者が作成するものの二種類がある)もなしに工事が行われていたり、設計図が整っていても工事監理がずさんであったりする例が多いことがあげられる。鉄骨造建築など構造計算で安全が確かめられても工事は計算書を見ながら行われるわけではないので、これだけで安心できることはまずない。また設計図がろくにないと手抜き工事で地震被害が出たとしても業者責任を充分追求できない。仮に設計図が整っていたとしても工事業者の質が悪ければ完成した建物が安全上問題になる例も多い。実際このような不良工事が原因で倒壊、大破した建物も少なくないようである。

 また一つには技術上の進歩の問題がある。古い建物は古い技術基準で設計がなされ工事が行われている。関東大震災の経験があるとはいえ古い基準には今の最新の基準に比べ地震力の分析が現実的でなかったり不備な部分がある。市役所や学校などの公共建築物が深刻な被害を受けたのも主にこの理由からだ。また老朽化の問題もある。古い建築物の全てが危険ということはないが、新しい建築物に比べ危険度は高い。地震被害という問題を細かく追求していけばまだ多くの要因が確認できるが主に今まで述べてきたようなものが多い。

 建築基準法の住宅(建物)に対する安全上の考え方は災害時(主に地震、火災など)に速やかな避難が保証できるところにある。生命の安全や避難に障害をきたさない程度の地震被害は許容されている。

 建物構造上の欠陥ではなく地震時の地盤変化による建物被害は予測が難しい。耐震設計のみでは対応が事実上不可能な場合も多い。(地盤の液状化、地滑り、隆起、沈下、断層の発生など)

◆プレハブやツーバイフォーに被害が無かったわけではない

 阪神、淡路大震災時の報道では住宅の地震被害では在来工法の木造住宅の被害が顕著であったという内容がよく行われていた。確かにプレハブやツーバイフォーに比べ被害が多かったのは事実である。しかし同時に在来工法の木造住宅はプレハブやツーバイフォー住宅に比べ件数が比較にならないほど多いこと、比較的古いものが多いこと、深刻とは言えないまでもプレハブやツーバイフォー住宅に被害があったことも事実であることを理解しなければならない。

 プレハブやツーバイフォー住宅は販売する前にあらかじめ国土交通省より安全であることの規制を受ける。具体的には構造計画規定というが主な内容は建物の荷重を支える壁はある一定の距離以上離してはいけない、大きい窓はたくさん取れないなどである。在来工法の木造住宅でも構造計画規定の適用は受けたほうが好ましいが、きちっとした設計がなされていれば必要はない。それだけ融通性があるということだ。純和風建築のように開放的な住宅、和風ではないが内外の空間を一体的にデザインしたい場合は構造計画規定は障害になってしまう。構造計画規定以外にも安全な建築を実現する方法はあるわけである。

◆地震の構造力学的解説

 次にもう少し地震と建物の関係について説明をしたい。建築物を構造力学的に見てゆくとその基本には荷重条件という言葉がある。荷重条件は大きく分けると垂直(鉛直)荷重と水平荷重になる。垂直荷重は建物の自重や積載荷重、積雪荷重などだ。すなわち重力のことをいう。木造より鉄筋コンクリート造のほうが当然重たいので後者の方が荷重条件は厳しいという。軟弱地盤では不利である。水平荷重は地震と風である。地震力も風圧力も荷重と見なされるのだ。地震力は建物の重さに比例して大きくなるので、一般には軽くてしなやかな建物の方が安全だ。この場合のしなやかさとは変形しても直ぐに元に戻れることをいう。高層ビルなどが代表例である。逆に鉄筋コンクリート造などはふんばって地震に耐えるように造られている。どちらも構造力学的には安全な建築である。木造住宅などは軽さとふんばり強さの両方の性質を持った建築である。

◆人命と財産の保全に楽観は許されない

 阪神、淡路大震災クラスの激震に遭遇するケースは200年に一度程度ともいわれている。関東大震災は1923年に発生したので首都圏が再び激震災害に遭うのは100年以上も先になるということになる。実際に起きる地震のほとんどが震度4以下であることを考えると、いい加減に造った建築物でも運が良ければ何とかなるとも考えられるが今のところ有効な地震予知法があるわけでないので油断はできないということになる。

 東海地震発生の可能性については疑問を唱える学説もある。震度分布予測によれば6以上の地域(激震レベル)は神奈川県西部以西(相模川以西)となっている。

 直下型地震はこれとは別の予測である。

 □耐震偽造事件についてのコメント

 当該事件については耐震強度偽装事件という名称で報道されているが、事件の本質から鑑みて耐震建築偽造事件と称するのが正しいだろう。耐震強度偽装だけでは構造計算書の偽造のみを意味することになるので、これでは当該事件の本質を矮小化して第三者に広く認知させてしまうおそれが高いと思われる。

 当該事件によって生じた負債についてはマンション購入者が負う責任などは一切ない。当該物件に抵当権を設定した金融機関も負債の責の一端を負うのが経済社会の当然の常識なはずである。

 当該事件の負債についてはマンション事業者、建設業者、構造計算書作成だけでなく設計図作成に携わった建築士、民間確認検査機関、そして建築指導監督の最高責任を担う特定行政庁が分担して負うべきものであり、これに関しては一切の抗弁は許されるはずがない。

 金融機関は回収の見込みの立たない負債については貸倒引当金で清算するのが妥当なはずである。

 わが国では建築物を一つの私的財産としてのみ見る傾向が一般的であるが、個人住宅を含めて、その建築物の一つ一つが都市の重要な構成単位であるとともに、都市環境そのものでもあることは、誰もが認める事実ではないであろうか。この事実から導かれることは建築物には例え、それが個人住宅であったとしても公共財、社会財(私有財産ではあるが)として扱われるべき本質がそなわっているということである。

 その国の建築物と都市環境の水準は、そのまま、過去から現在までの、その国の人心、教育水準、産業水準、経済水準、そして文化水準を正直に表現していると言っても、過言ではないであろう。その視点から見れば今回の耐震偽造事件の本質も理解できてくるのではないであろうか。

 本来、公共財、社会財としても扱われるべき性格のものが、粗末に扱われている事実は建築関係の仕事にたずさわるものであれば多かれ少なかれ感じていることかもしれないし、そういう認識は行政関係者を含めて当然、深く持つべきである。

 そして、その改善実現には、民間レベルだけでは、例え、そこに強力なリーダーシップがあったとしても自ずと限界があるはずで、昨今、小さな政府が主張され、公共部門の縮小が現に進められている最中ではあるが、やはり政治と行政の役割は大きいと思う。

 具体的諸策としては、まず、社会インフラのソフトウェアーともいえる法制度の改良から進めるべきだろう。民間部門が過度な営利行為に走ることがないような法制度の整備、そして、その法の実効性については民間部門自らが保障できる制度作りも併行して必要になってくるはずである。

 その制度作りの要になると思われるものを以下にあげてみた。

 1.建築事業にたずさわる専門家の資質保護と、その行動の保障。
 専門家の社会的立場が法的に保護されていない環境のもとでは、その職責を充分果たすことは事実上不可能である。(建築主の資産形成にも当然深く関わる課題である)

 2.建築技術情報の社会資産化、そのための制度整備。
 有用な技術情報については速やかにデータベース化し、サイトや出版物を介して広く、多数の技術者の間で容易に共有できるインフラが整備されれば、建築技術の向上だけでなく建築物の耐久性、安全性の向上や建築コストの低価格化にもつながるはずである。

 3.公正な競争が実現できる発注環境の整備。
 業者の反社会的ともいえる過剰な営利活動を防ぐには、発注者側(建築主)に自己に有利な選択ができる機会が与えられていることが必要条件である。選択の自由を保障できる法と制度の整備、例えば選択の自由侵害への罰則規定創設、不良業者リストの作成と公開、適正コストの情報開示は有効性が高い手段であるはずだ。

 4.建築主や事業者の財産権を保全できるような資産評価制度の整備。
 所有する資産(建築物)の保全と改良が自己の利益に直結する資産評価制度の整備が早急に求められる。具体的には耐久性や防火性、省エネ性能向上などのリフォームが資産価格上昇に直結できるのであれば、それは社会の側にとっても大きな利益になるはずである。

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