第35話 「まごころを君に」


ナレーション「ダークサイド長野は坂本と手を組むべく、坂本のもとへ現れた。二人が手を組めば、世界の破滅は避けられない。Vレンジャーはこの危機を乗り越えることができるのだろうか。これは、正義と友情に命をかけた若者たちの物語である」

 坂本の秘密工場。
坂本「まさか……そんな……」
長野「わかったろう。未来では、僕と坂本くんは一緒にいたんだ」
 無言で頷く坂本。
 長野は坂本の頭からカツラを取ると、
「返してもらうよ」
と言って自分がかぶる。
井ノ原「死ね」
 井ノ原がサムライ・ソードを振り上げ、坂本に斬りかかろうとするが、カツラをかぶったダークサイド長野がその前に立つ。その姿は大袈裟博士と同じなので、井ノ原は手を止める。
長野「面白いものを見せてやるよ」
 長野をにらみつける井ノ原。
 長野は坂本の方を向くと、
「わかったろう。これからは一緒だ」
 頷く坂本。
長野「よろしく」
 長野はそう言いながら右手を出す。坂本もぼんやりと右手を出し、握手する。その瞬間、坂本の体がまばゆい光を発する。
井ノ原「なんだ、どうしたんだ」

 鉄板DISHの五人。
 Vレンジャーたちが自分たちの方へ来るのを見ている。
タツヤ「あれ、一人違うぞ」
トモヤ「ほんとだ」
 近づくVレンジャーと長野。
ジョー「く、来るで」
マボ「やばっ」
タイチ「逃げよう」
 走り出す鉄板DISH。

 坂本の秘密工場。
 細い目を限界まで見開いている井ノ原。驚愕の表情。
 井ノ原の前には、ダークサイド長野と、二人の坂本が立っている。
 顔を見合わせている二人の坂本。一人は通常の坂本。一人はマーサ坂本。
坂本「こ、こいつは」
マーサ「俺はお前だよ」
 ダークサイド長野を見る坂本。
長野「これも君だ。今、分離したんだ」
坂本「分離?」
マーサ「ああ、お前みたいな、何やっても中途半端なやつの中にいるのはもうごめんだ。俺は俺で好き勝手にやらせてもらう」
坂本「だ、だけど、お前は俺だろう」
マーサ「そうだよ。それと同様、お前も俺だ」
坂本「ふざけるな」
 坂本はマーサに組み付き、投げ飛ばそうとする。それをこらえるマーサ。
 黙って見たいた井ノ原は、サムライ・ソードを構え、
「こんなやつが二人になってたまるか」
と叫ぶと、互いに相手の体をつかんでいるマーサと坂本に斬りつける。
 火花が散り、気絶するマーサと坂本。井ノ原はとどめを刺そうと、サムライ・ソードを振り上げるが、長野が止める。
長野「おっと、殺しちゃだめなんだ」
井ノ原「止めるな」
 ダークサイド長野は、井ノ原の顔を見てニコッと笑い、
長野「僕は確かにダークサイドだけど、悪いことばかりするわけじゃないんだ」

 走って逃げる鉄板DISH。
 それを見送るVレンジャーと長野。
森田「逃げてくよ」
三宅「せっかく助けてやったのに」
岡田「恩知らずやなあ」
あい「もう本部に帰りましょうよ」
長野「いや、その前に行かなくちゃ行けないところがある」
 四人が長野を見る。
長野「坂本くんのところだ」

 坂本の秘密工場。
 ダークサイド長野をにらんでいる井ノ原。
井ノ原「なにがしたいんだ」
 長野はカツラをはずすと、わきの机に起き、かがんでマーサの様子を見る。
長野「大丈夫、命に別状はない」
井ノ原「そんなやつは死んだ方がいいだろう」
 長野はかがんだまま井ノ原を見上げ、
長野「僕もこの坂本くんもダークサイドだ。でも、ダークサイドっていうのは、悪いことをするっていう意味じゃない。言ってみれば、煩悩だね。未来の世界でダークサイドの僕が坂本くんのところに残ったのは、悪いことをしたいからじゃない。坂本くんと一緒にいたかったからなんだ。坂本くんと一緒にいたいっていう気持ちが、僕から分離して残ったんだ」
井ノ原「だから何だ」
長野「このダークサイドの坂本くんも、別に悪いことをしたがってるわけじゃない。ぼくはこのダークサイドの坂本くんを連れて行く」
井ノ原「どこに」
長野「未来に」
井ノ原「未来? そのカツラが来た世界か」
 井ノ原がカツラを指さすと、長野もカツラを見て頷く。
長野「そうだ。そのカツラは歴史を変えるためにここに来たんだ。坂本くんのダークサイドをこの世から消せば歴史は変わる」
井ノ原「でも、こいつが行ったら未来はどうなる。もっと悪くなるだろう」
 長野は笑顔で首を振る。
長野「そんなことはさせない。僕とダークサイドの坂本くんは未来で僕たちを止める」
井ノ原「そんなことができるのか」
長野「僕と坂本くんが組めば何でもできるさ」
井ノ原「でも、こいつがあんたの言うことを聞くかどうか分からないだろう」
 井ノ原がダークサイド坂本を指さしてそう言うと、
長野「大丈夫、さっきカツラをかぶった時に、意識は変えられたから」
 井ノ原はカツラを見る。
長野「このカツラには、僕が分離してダークサイドの坂本くんを未来へ連れて行く作戦が隠されていたんだ。僕は分離して初めてそのことを知った。だらかここに来たんだ。もう行かなくちゃ。目を覚ますと説明するのが大変だ」
 長野はマーサの体を抱え、瞬間移動装置に向かう。
井ノ原「それで未来に行けるのか」
長野「ダークサイドの僕と坂本くんが一緒にこれを使うと、未来の僕がそれを察知して呼び寄せてくれることになってる」
 井ノ原はわきに置かれたカツラを指さす。
井ノ原「これはどうする」
長野「置いていく。それがないと、残った僕は落ち着かないだろう」
 瞬間移動装置に入る長野。
長野「未来の僕が手を貸すのはここまでだ。あとは君たちの力で世界を守ってくれ。僕が消えてしばらくたつと、未来に関する記憶は、君たちの脳から消える」
 井ノ原は、気絶している坂本を指さし、
「こいつを殺してもいいか」
長野「……。それは君の判断に任せるよ。そうだ、君の中のつらい思い出も消すことにするよ」
井ノ原「いや、消さないでくれ。俺は、エミリの思い出をなくしたくない」
長野「わかった。じゃ、これでお別れだ」
 長野がスイッチを入れると、二人の姿が消える。
 残った井ノ原は、倒れている坂本のわきに立ち、じっと見下ろす。
 やがて、サムライ・ソードを高く持ち上げ、剣先を下にして、坂本の体に突き立てようとするが、途中でやめる。
井ノ原「考えてみりゃ、あんたがエミリに会わせてくれたんだよな」
 そこにどやどやと人が入ってくる音がする。井ノ原が振り向くと、長野たちが入ってくる。
森田「あれっ、何でここにいるんだ」
 井ノ原は、倒れている坂本を黙って指さす。
岡田「やったんか」
三宅「すごい」
あい「殺しちゃったの」
 井ノ原は黙って首を振る。
 倒れている坂本を囲んで立つ六人。
 長野は井ノ原を見て、
長野「行っちゃったんだね」
井ノ原「ああ。カツラは置いていったよ」
 長野はカツラを手に取ると、じっと見つめ、頭にかぶる。
森田「こいつどうしようか」
あい「思いっきり痛い目にあわせてやりたいわね」
三宅「でも、気絶してるのをやるっていのは、ちょっと……」
 岡田は周囲を見回し、マジック・インキを見つけて、手に取る。
岡田「へっへっへ。これでどうや」
 マジック・インキで坂本の顔にいたずら書きする岡田。
森田「あっ、それいい」
三宅「僕もやろう」
あい「あたしも」
 岡田、森田、三宅、あいの四人は面白がって、坂本の顔にマジック・インキであれこれいたずら書きをする。
 長野と井ノ原は黙ってそれを見ている。

 よたよたと歩いている鉄板DISH。日はだいぶ西に傾いている。
ジョー「もうだめや」
マボ「なんか今日は、走ってばっかりだ」
 へなへなと倒れ込む五人。

 丘の上。
 夕日に顔を向けて立っている大袈裟とVレンジャー。
 一人ずつ顔のアップを映していく。

 坂本の秘密工場。
 目を覚ます坂本。体を起こし、周りを見回す。
坂本「あれっ、何でこんなとこで寝てたんだろう」
 立ち上がり、近くの壁の鏡をみると、とんでもない顔になっている。
坂本「なんじゃー、こりゃあ!」

 夕日をバックにして立つ五人のシルエット。
 少し離れたところに、大袈裟とカロチン・ロボのシルエット。

ナレーション「長野と坂本のダークサイドは去り、大袈裟博士とVレンジャーの脳裏からは、未来の記憶も消えた。こうして、未来を救うための戦いはここに一段落つき、考えてみると、マッチも坂本も鉄板DISHも壊滅的な打撃を受けたわけではなのに、何となく感動的っぽい最終回を迎えてしまったのだった。ありがとう、さようなら、Vレンジャー。最高にナイスで、底抜けにステキで、心やさしくて、中途半端な戦士たち」 

THE END


 掲示板の書き込みから生まれた「Vレンジャー」、ついにこうして、最終回を迎えることとなりました。
 「なんて半端な終わり方なんだ」と思う方もいらっしゃるでしょうが、もうダメです。これ以上は書けません。あとは、みなさん好きなように想像してください。
 三人がかりとはいえ、「V遊記」の連載回数を超え、最長のシリーズになりました。
 こう見えてけっこう頑張ったんです。
 私が何も浮かばないときに、話を先に進めてくださった、みなみさん、dahliaさん、アイディアを寄せてくださったみなさん、そして、今日までVレンジャーを応援してくれた良い子のみんな、じゃなくて読者のみなさん。Vレンジャーは、きっとみんなの心の中に生き続けることと思います。
 ありがとう! さようなら!

(hongming 2000.1.11)


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