第32話 「未来の記憶」

ナレーション「こころに傷を負ったまま戦い続けなくてはならないVレンジャー。かつての友を敵とする大袈裟もまた苦しんでいた。これは正義と友情に命をかけた若者たちの物語である」

 Vレンジャー本部。
 コンピューターを操作している大袈裟。
 ぼんやりと、モニターに映る街を見ている井ノ原。
 無心にカレーライスを食べている岡田。
 マンガを読んでいる森田。
 鏡を見ているあい。
 本を読んでいる三宅。
 しかし、井ノ原以外は、皆、時々井ノ原の様子を見ている。井ノ原はそれに気づかず、ただぼんやりとしている。
森田「博士」
大袈裟「ん?」
森田「瞬間移動装置って、博士も作ってあるよね」
大袈裟「……」
森田「俺たちがあの坂本ってやつに襲われた時、博士が助けに来たけど、あれって、瞬間移動装置を使ったんじゃないの」
大袈裟「実はそうなんだ」
岡田「なんや、そんなら俺たちにも使わせてえな」
大袈裟「それはだめだ」
岡田「なんでやねん」
大袈裟「あれは、人間の体に与える悪影響が強すぎるんだ。やめたほうがいい」
岡田「けど、敵は平気そうやで」
大袈裟「すぐには影響はでない。あとで苦しむことになるはずだ」
三宅「でも、敵があれを使ってる限り、とどめはさせないよね」
大袈裟「そうだなあ……」
 気まずい空気が流れる。
 森田は井ノ原をちらっと見て、
森田「何か、面白いことないの?」
大袈裟「面白いこと?」
三宅「そうだよ、パーッとみんなが明るくなるれようなこと」
岡田「そうや、なんぞ腹の底から笑えるようなことないんか」
 手を止め、考え込む大袈裟。
大袈裟「そう言われてもなあ」
三宅「博士って、どういうことが楽しいの」
大袈裟「そうだなあ。楽しいことっていったら、やっぱり、ラーメンを食べることだな」
森田「またラーメンかよ」
三宅「ほかに好きなものないの」
大袈裟「ラーメンのほかに好きなものと言えば、オッパ……」
と、言いかけ、あいがいることを思い出して黙る。
あい「なあに、オッパって」
 笑いをこらえる森田、三宅、岡田。
大袈裟「オッパっていうのは……オッパじゃなくて、おかっぱが伸びたような髪型」
あい「おかっぱフェチなの」
大袈裟「そ、そう。おかっぱフェチ」
あい「だからそんなへんなカツラかぶってるの」
大袈裟「ま、まあね……」
 大袈裟は物思う様子。
森田「けど、そのカツラって、おもいっきり変だぜ」
岡田「ほんま、まともな神経とは思われんなあ」
三宅「どうせ暇なんだからさ、なんでそんなカツラ作ったのか教えてよ」
 大袈裟はカツラをはずして長野博になり、それを手にしてじっと見つめる。
長野「このカツラはね……」
 長野は迷っている様子。
森田「そのカツラがどうしたんだよ」
 長野は目を上げ、Vレンジャーの五人を見回すと、思い切って話し始める。
長野「いつかは言わなくちゃいけないことだから、話すことにするよ」
三宅「もしかして、またあの坂本って人と関係あるの」
長野「あるんだ。どうして僕が、坂本くんがああいうことを始めるのを前もって知っていてこんな基地を作っていたのか、不思議に思わなかったかい」
岡田「そう言われてみれば不思議やなあ」
あい「予知能力があるとか」
 長野はまたカツラに目を落とし、
長野「予知したわけじゃない。僕は、未来を知っているんだ」
 井ノ原も興味を覚え、長野を見つめる。
井ノ原「知ってるって、どういうことだ」
長野「このカツラはね、未来から来たんだ」
森田「未来から……」
長野「そう、未来の僕が送ってきたんだ」
あい「どういうこと」
長野「信じられないだろうけど、最後まで聞いてくれ」
 頷く五人。
長野「僕は、未来で坂本くんと一緒に……。一緒に、世界を征服しようとしていたんだ」
 顔を見合わせる五人。

 未来の映像。
 坂本の秘密工場に似た部屋。並んでモニターを見ている坂本と長野。
 モニターには廃墟と化した都市が映っている。
坂本「ちょろいもんだ」
長野「僕らが組んだら無敵だよ」
坂本「次はどこをやる」
長野「そうだねえ、どこか遠いところがいいな」
 機械を操作する坂本と長野。
 モニターの映像は瞬時に砂漠の中の都市に切り替わる。
坂本「おっ、まだこんな所があったか」
長野「ちょっと行ってくるよ」
坂本「俺の分も残しておけよ」
長野「わかってるって」
 そばにある円筒形の装置に入る長野。一瞬にしてその姿が消え、モニターに、巨大なロボットが映る。ロボットはモニターの中からVサインをしてみせる。
 スピーカーから長野の声。
「聞こえるかい、坂本くん」
坂本「ああ、よく聞こえる」
長野「じゃ、始めるよ」
 ロボットは近くのビルを壊し始める。逃げまどう人々が見える。
 すぐにジェット戦闘機が現れ、ロボットを攻撃するが、全くきかない。
 ロボットは戦闘機を見上げ、目から光線を発射する。煙を吐きながら落ちていく戦闘機。墜落の音とともに黒煙が立ち上る。

 Vレンジャー本部。
あい「どうしてそんなことしたの」
長野「あるものが欲しかったんだ」
森田「なんだよ、それ」
長野「世界征服と引き替えに、あるものが手にはいると思ってた」
森田「だから、何なんだよ、それは」
長野「それは……若返りの秘法だ」
森田「バカ返りの美貌?」
三宅「何だよそれ」
長野「僕も、坂本くんも、若さが欲しかったんだ。それで誘いに乗ってしまって……」

 未来の坂本と長野。
 豪華な部屋でテーブルについている。テーブルにはごちそうが並び、テーブルを隔ててマッチが座っている。
 マッチは坂本にワインをついでやりながら、
マッチ「まあ、やってくれ。だいぶ作戦は進んだようだな」
坂本「はい、あと少しです」
マッチ「徹底的にやってくれ。後で俺に逆らうやつがでないように」
坂本「はい」
長野「マッチさん、成功したときには」
マッチ「ん?」
長野「例のものは……」
マッチ「若返りの秘法か。もちろん約束は守るよ。君たちも俺のようにいつまでも若くいられるぞ」
 笑顔で頷き合う坂本と長野。

 Vレンジャー本部。
 カツラを手にした長野。
長野「それで、手を貸していたんだ」
 黙って聞いている五人。

 未来の映像。
 坂本と長野の基地。円筒形の装置の中から坂本が現れる。
坂本「おう、帰ったぜ」
長野「おかえり。どう、調子は」
坂本「ばっちりだよ。計算で出たような悪影響はないみたいだな」
長野「でも、あんまり使わない方がいいかもしれないよ」
坂本「なあに、大丈夫だろう」

 Vレンジャー本部。
長野「でも、悪影響はやっぱりあった。瞬間移動装置は、肉体じゃなくて、精神に影響を与えていたんだ」

 未来の映像。
 洗面所。驚愕の表情で鏡を見つめている長野。
 鏡には長野が二重になって映っている。
 長野は目をこするが、鏡の中は二重のまま。
長野「どういうことだ」
 そこに後ろから坂本が声をかける。
坂本「お前も二重に見えるか」
 振り向く長野。
長野「坂本くんも……」
 黙って頷く坂本。長野は再び鏡を見つめる。

ナレーション「驚くべき告白を始めた大袈裟博士。かつて見た悪夢は現実だったのか。時空を越え、戦いは新たな局面を迎えようとしていた。行け、Vレンジャー。だんだんシリアスになってきた戦士たち」

TO BE CONTINUED!


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