第31話 JUST FOR YOU

ナレーション「坂本は、カロチン・ロボのパスワードを探り出すべく、新たな攻撃を仕掛けてきた。想像を絶する敵に、Vレンジャーの苦闘は続く。これは、正義と友情に命をかけた若者たちの物語である」

 坂本の秘密工場。
 モニターの横のスピーカーから、森田の声で「今度は俺だ。ラ……」という声が聞こえる。
マボ「また、ラだ」
坂本「パスワードに関係があるのか」
 坂本とマボがいる所に、操縦席で話し合っている声が聞こえる。
三宅「起きないね」
井ノ原「これはやっぱり、あいちゃんでなくちゃ」
あい「なんであたしなのよ」
森田「ほら、前みたいに踏んづけてみたら」
あい「あたしじゃなくてもいいでしょう」
岡田「なら、俺がやってみる。ラ……」
 モニターの中で、カロチン・ロボが何度も寝仏をふみつける。しかしまったく反応がない。
 ヘルメットをかぶったまま寝ているトモヤを見ると、何も感じていない様子。
坂本「どうやら、パスワードは外には聞こえない仕組みになっているらしい」

 Vレンジャー本部。
大袈裟「いったい、どういうつもりなんだ」

 カロチン・ロボ操縦席。
井ノ原「ブルーの武器で起きないかな」
三宅「そうだね、やってみる」
 三宅はアクセサリーを口に当て、
「こらっ、起きろ!」
と叫ぶ。その声は衝撃波となって寝仏を襲うが、全く反応がない。
井ノ原「今の声で起きないんじゃどうしようもないな」

 坂本の秘密工場。
 耳を押さえている坂本とマボ。
坂本「何だ、今の声は」
マボ「こないだ、タイチもやられてたけど、すごい声だ」
坂本「ところで、この寝てるのも何か名前があるのか」
マボ「そうだねえ……、モウオキンっていうとこかな」
坂本「そのまんまだな。寝仏と寝ぼけのしゃれにでもなるのかと思ったのに」
マボ「あんたって、うちのリーダーに近いとこあるね」
 露骨に嫌な顔をする坂本。

 カロチン・ロボ操縦席。
森田「考えてみるとさ、起こさなくてもいいんじゃない」
三宅「どうして」
森田「だって、寝てるだけで何にもしねえんだもん。ほっとこうよ」
岡田「それも、そうやな」
井ノ原「ちょっと降りて見てみようか」   
あい「大丈夫?」
井ノ原「平気、平気」

 坂本の秘密工場。
 モニターは、カロチン・ロボから降りて、そろそろと寝仏の方へ歩み寄っていくVレンジャーを映し出している。
坂本「おっ、降りたな。ロボットに乗ってないならやれそうだ。ちょっと行ってくる」
 坂本は、マボに向かってそう言うと、立ち上がり、そばに立てかけてあった剣を手にする。

 寝仏の前。
森田「でけー」
井ノ原「しかし、ねらいが分からねえ」
 寝仏を見上げて話し合うVレンジャーの背後に、音もなく、剣を手にした坂本が現れる。
 坂本が剣を振り上げ、斬りかかろうとしたとたん、
「やめて!」
と女の声。見ると、すぐそばにエミリが立っている。驚く坂本。井ノ原も驚く。
坂本「お前、どうして」
エミリ「やめて、お願い」
 エミリはVレンジャーと坂本の間に立つ。
井ノ原「あぶない、どくんだ」
坂本「どういうつもりだ」
エミリ「やめて、わたしもう耐えられない……」
井ノ原「そいつを知ってるのか」
 エミリは振り返って井ノ原の顔を見ると、頷く。その目に涙が光る。
坂本「けっ。バグがあるようだな」
井ノ原「バグ?」
 坂本は薄笑いを浮かべ、
「しょうがねえ。正体を教えてやろう」
 エミリは坂本を見つめ、懇願するように首を振る。
坂本「この女はな、俺が作りだした幻だ」
井ノ原「まぼろし?」
エミリ「やめて!」
 耳をふさぐエミリ。
坂本「俺が意念具現化装置で作り出した。自立型にしてみたんだが、失敗作らしい。勝手なことをするようになった」
井ノ原「嘘だ!」
坂本「嘘なもんか。今、証拠を見せてやるよ」
 そう言うと、坂本はポケットから装置を出し、スイッチを見せる。
坂本「ほら、これを押すと」
と言ってスイッチを押すが、エミリは消えない。
井ノ原「お前、頭がおかしいんじゃないのか」
坂本「そんなはずはない。故障か……」
 坂本は何度もスイッチを入れたり切ったりするがエミリは消えない。
坂本「ちっ。まあ、いい。とにかく、ここでお前らに死んで貰う」
 しかし、エミリが坂本の前に立ちはだかる。
エミリ「お願い……」
坂本「うるさい」
 坂本はエミリの胸に剣を突き立て、そして引き抜く。
井ノ原「エミリ!」
 井ノ原が駆け寄り、倒れかかるエミリを抱きかかえる。しかし、エミリの胸には傷跡もなく、血も流れていない。
坂本「見ろ。そいつは人間じゃないんだ」
井ノ原「エミリ……」
 坂本は携帯電話を取り出し、
「マボ。俺だ。暴走してるらしい。メイン・スイッチを切ってくれ。大丈夫、トモヤに影響はない。一度切って、十秒後にまた入れてくれ」

 坂本の秘密工場。
 大きなスイッチを操作するマボ。
 工場全体が薄暗くなる。

 Vレンジャー本部。
 モニターを見ている大袈裟。
 モニターの中の寝仏がスッと消える。

 井ノ原の腕の中のエミリ。だんだん透明になっていく。(BGMに「JUST FOR YOU」が流れ始める)
エミリ「わたし、やっぱり……」
井ノ原「違う。君は幻なんかじゃない。ちゃんとここにいるよ。俺の腕の中に……」
 ほとんど透明になったエミリは、じっと井ノ原を見上げ、やっとのことで、
「ありがとう」
と言うと、スッと消えてしまう。
 カラン、と何かが地面に落ちた音。見ると、エミリが首から下げていた携帯電話。
 井ノ原は地面に膝をつき、体を震わせながらそれを拾い上げる。裏側には、井ノ原とエミリが並んで映っているプリクラ・シールが貼ってある。
井ノ原「エミリ……」

 坂本の秘密工場。
 腕時計を見ていたマボがスイッチを操作する。
 工場の中の照明が次々についていく。

 茫然として井ノ原を見ていた森田、三宅、岡田、あい。
 あいは、
「ひどい」
と言うと顔を覆う。
 坂本をにらみつける森田、三宅、岡田。
 三宅はアクセサリーを口に当て、坂本に指を突きつけ、
「最低だ! お前は最低だ!」
と叫ぶ。その声が衝撃波となって坂本の体を打つ。坂本は、脇腹を押さえ、よろめくが、どうにか体勢を立て直す。
岡田「ヒラ・カッター!」
 坂本を岡田の武器が襲う。剣で払いのける坂本。
森田「Vセーバー!」
 森田がVセーバーを手に坂本に斬りかかる。坂本は一度は剣で受けるが、よろめく。森田がさらに斬りかかると、坂本の姿がスッと消える。
 くやしそうに唇をかむ森田。

 坂本の秘密工場。
 脇腹を押さえ、肩で息をしている坂本。
マボ「大丈夫か」
 坂本は黙って頷く。

 夕焼け空。
 井ノ原は膝を抱え、うつむき、携帯電話を握りしめた手を額に押し当てている。
 岡田が声をかけようとするが、三宅が止める。
 無言で立ち去る森田、三宅、岡田、あい。

 Vレンジャー本部。
 暗い顔つきの大袈裟。
大袈裟「坂本くん……。君は……」

 膝を抱えたままの井ノ原。
 あたりは薄暗くなり、東の空に星が光っている。
 顔を上げ、その星を見上げる井ノ原。その頬を一筋の涙が伝う。

 坂本の秘密工場。
 一人で酒を飲んでいる坂本。脇腹がうずき、手を当てると、脳裏に、
「最低だ! お前は最低だ!」
という三宅の声がよみがえる。
坂本「そうだよ。俺は最低だ」
 そう言うと、ぐっと酒を飲み干す。

ナレーション「ついに人の心をもてあそぶまでになった坂本。大袈裟博士も井ノ原も、心に大きな痛手を受けてしまったのだった。しかし、負けるわけにはいかない。まっすぐに前へ進もう、Vレンジャー。心優しい戦士たち」

TO BE CONTINUED!


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