第29話 「世界はふたりのために」

ナレーション「何だか分からない敵、シャッベックリーを撃退したVレンジャー。しかしそこには、恐ろしい陰謀が隠されていた。これは、正義と友情に命をかけた若者たちの物語である」

 並んで歩いている井ノ原とエミリ。井ノ原はスクーターを押して歩いている。
エミリ「好みのタイプとかあるんですか」
井ノ原「そうねえ、俺って、ほら、目が細いじゃない。だから、目が大きい人がいいなあ」
 エミリは顔を赤くし、
「えーっ。わたし、目が大きいっていつも言われるから、目があんまり大きくない人がいいの」
井ノ原「また、会えるかな」
エミリ「うん……」
 エミリの胸で、携帯電話が揺れる。

 坂本の秘密工場。
 携帯電話を耳に当て、何か聞いている坂本。ニヤリと笑う。

 Vレンジャー本部。
 岡田はカレーライスを食べ、森田はマンガを読んでいる。
 モニターには平和な町の様子が映し出されている。
岡田「最近ひまやな」
大袈裟「そうだなあ。どうしたんだろう。不気味だ」
森田「いいじゃん。暇な方が。世の中平和だって証拠だ」
大袈裟「しかし……」
 大袈裟は顔を上げ、不安そうな顔をする。
岡田「ところで、博士」
大袈裟「ん?」
岡田「俺の武器はどうなっとんねん」
大袈裟「それがなかなかいいのが浮かばなくて」
森田「Vソードでいいじゃねえか」
岡田「いやや。人と違うのが欲しいんや」
森田「お前、すごい髪の毛してるから魔法使いにでもなったら」
岡田「どうやったらなれんねん」
森田「あとは、口から牛乳を吐いて攻撃するとか」
岡田「なんやねんそら」
 そこにあいが入ってくる。
あい「ねえねえ、面白いものみちゃった」
大袈裟「どうしたの」
あい「井ノ原君がね、女の子とデートしてるの」
森田「あいつ、女好きみたいだからな」
大袈裟「結構浮いた噂が……。いやいや、で、どんな相手だったの」
あい「前にね、あのシャベックリーっていうのをやっつけた時に話しかけてきた人」
岡田「あの目の大きい人かいな」
あい「そうなのよ」
森田「何であいつに目をつけたのかな。俺でもいいのに」
岡田「なあ、博士。このモニターで井ノ原君のデート見せてえな」
大袈裟「こらっ、何を言うんだ。人の私生活をのぞくなんてとんでもない」
森田「じゃあさ、坂本ってやつが何してるのか見られないのかな」
大袈裟「このモニターは、室内は見られないんだ。誰だって覗かれたくないだろう」
あい「でもこれ、どういう仕組みで映してるの」
大袈裟「それは言えない」
森田「ほんとは自分も知らないんじゃないの」
大袈裟「そ、そんなことはないっ! 断じてないっ!」

 街を行く三宅。胸元に銀のアクセサリーが光る。
 何かを見つけて立ち止まる三宅。視線の先に、手をつないで歩く井ノ原とエミリ。

 坂本の秘密工場。
 携帯電話に耳を当てている坂本。

 ボーリング場。
 ストライクを取って笑顔で振り向く井ノ原。それに向かって笑顔で拍手するエミリ。

 夜景の見えるレストラン。
 向かい合って座り、食事をしている井ノ原とエミリ。エミリの胸に携帯電話。
エミリ「ねえ、あのロボットも操縦するの」
井ノ原「もちろん。俺も操縦する」
エミリ「どうやって」
井ノ原「あれはね、俺たちの精神に連動するんだ。だから、頭で考えたことがそのまま動きに出る」
エミリ「みんなが違うこと考えたら困るじゃない」
井ノ原「操縦できるのは一度に一人」
エミリ「どうやって一人にしぼるの」
井ノ原「パスワードがあるんだ。それを言った人だけが操縦できる。他の人がパスワードを言うと、今度はその人が操縦することになるんだ」
エミリ「へえ。パスワードは何て言うの」
井ノ原「ラ……。それは言えないんだ」
エミリ「どうして」
井ノ原「ごめん。これはどうしても言えない秘密なんだ」
 二人の間に気まずい雰囲気が漂う。

 坂本の秘密工場。
 携帯電話を耳に当てている坂本。
「パスワード……」

 Vレンジャー本部。
 一人でコンピューターを操作している大袈裟。
「イエローの武器か……。うーん、浮かばないなあ。とりあえずラーメンでも食べよう」

 坂本の秘密工場。
 ソファーに腰掛けた坂本。その前にエミリが立っている。
坂本「いいか、何としてもパスワードを聞き出すんだ」
エミリ「はい……」

 平和な町の様子。

 サッカーボールを蹴っている森田。

 犬と遊んでいる三宅。

 昼寝している岡田。

 友達と談笑しているあい。

 手をつないで街を歩く井ノ原とエミリ。
エミリ「Vレンジャーのほかのメンバーって、どんな人たちなの?」
井ノ原「見た目は普通だよ。俺もそうだけど、そんなに特別なわけじゃない」
エミリ「でも、すごいわよね、戦うなんて」
井ノ原「だって、誰かがやらなきゃ」
エミリ「でも、無理しないでね」
 立ち止まるエミリ。井ノ原の顔を見上げ、
「もし、やられちゃったりしたら……」
井ノ原「大丈夫。俺は絶対に負けない」

 Vレンジャー本部。考え込んでいる大袈裟。
「イエロー……イエロー・モンキー……。あのおでこ……でこちゃんビーム……怒るだろうな。銀髪……ヘルメットかぶってるしなあ」

 坂本の秘密基地。
 ソファーに座っている坂本。その前に立っているエミリ。
坂本「分かってるな」
エミリ「はい」
坂本「そうやっていたかったら、俺の言うとおりにするんだ」
 頷くエミリ。
坂本「消えろ」
 坂本が手元のスイッチを操作すると、エミリの姿がスッと消える。

 Vレンジャー本部。
 携帯電話を気にしながら入ってくる井ノ原。
森田「どうしたの」
井ノ原「なんか、つながんなくて」
岡田「誰に」
井ノ原「そりゃあ」
あい「彼女?」
井ノ原「まあな」
三宅「目のぱっちりした人だよね」
井ノ原「何で知ってんだよ。そんなことより、博士」
大袈裟「何だい」
井ノ原「あのパスワード、なんとかなんないかな」
大袈裟「どうして」
井ノ原「あれじゃ、かっこ悪くて人に言えないよ」
三宅「僕も」
森田「俺も」
あい「あたしも」
岡田「俺もや」
大袈裟「な、なんてことを言うんだ、君たちは。そんなにラーメンが嫌なのか!」
三宅「そういう意味じゃなくて」
あい「かっこ悪いんだもん」
井ノ原「あれじゃ、人に言えないって」
大袈裟「何を言う。人に言っちゃいけないって言ってるじゃないか」
 驚いてVレンジャーを見回す大袈裟。
 肩をすくめる井ノ原。

 河原の土手に並んで座っているエミリと井ノ原。
 二人で夕焼けを見ている。
井ノ原「やっぱり、パスワードは教えられないんだ」
エミリ「いいの。ごめんね、しつこく聞いて。それよりも、きれいね、夕焼けって」
井ノ原「ほんとだ。こんなにじっくり見たことなんかなかった」
エミリ「こうやって、一日に終わりがくるのね」
井ノ原「どうしたの。詩人になっちゃって」
エミリ「いつか、終わっちゃうんだわ」
井ノ原「何が」
エミリ「今はこうしていられるけど、いつか、会えなくなるような気がして……」
井ノ原「何言ってるんだよ。一緒にいるよ」
 エミリの肩を抱き寄せる井ノ原。エミリの胸で携帯電話が揺れる。

 坂本の秘密工場。
 携帯電話を耳に当てている坂本。薄笑いを浮かべる。

ナレーション「井ノ原に接近した女は坂本の回し者だった。しかし、皆、何も知らず、平和な日々が続いていると思っているのだった。危機はすぐそこに迫っている。目覚めろVレンジャー、底抜けにステキな戦士たち」

TO BE CONTINUED!


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