第20話 「クロス・メモリー 後編」

(by みなみさん)

ナレーション「人手に渡ろうとしている坂本の工場。それを阻止すべく結婚を決意した紗弥加。はたして彼らに明るい未来は来るのか?これは、正義と友情に命をかけた若者たちの物語・・・ではなさそうである」


近藤の調停で、紗弥加と大沢の結婚はとんとん拍子に決まり、結婚式に2週間を残すのみとなった。

昌行の自宅。近藤が来ている。
昌行「おい、紗弥加、よかったのか?こんなにさっさと決めてしまって。親父だってまだ行方不明だってのに。近藤さん、いくらなんでもちょっと急がせすぎじゃないですか?」

近藤「こういうことは早いほうがいいんですよ。社長もどこかで噂を聞けば、帰ってこられるかもしれない。」

昌行「だけど、結婚式はともかく、もう今日入籍なんて。」
紗弥加「いいの、お兄ちゃん。先に入籍しとけば夫婦のパスポートで新婚旅行に行けるからってことなんだよ。かっこいいでしょ。」

近藤「紗弥加さんは度胸がいい。血がつながってないご兄妹で、しかも仲がいいと聞いていたので、じつは心配だったのですよ。大沢にもそこのところを念を押されましてね。」

昌行「こんな時に工場のことを聞くのは気がひけるんですが、前のお約束どおりに運んでいただいたんですよね?」

近藤「もちろんです。今日、紗弥加さんの入籍後にきちんとした書類をお見せします。それでは、私は事務所のほうへ行きますので。」


昌行「紗弥加、俺はなんだか心配なんだ。なにもかも物事が俺たちの知らないうちに流されて行ってるような気がする。お前まで失ってしまいそうでこわいよ。」

紗弥加「なに言ってんの。いつだって会えるじゃない。これで工場がうまくいって、お父さんが帰ってきたらばんばんざいだよ。お兄ちゃんはなにも心配しないで、自分のやりたい研究ができるようになるって。」

昌行「研究か。遠い日の出来事みたいだな。長野のやつ、あれからどうしてるかな?」

昌行は紗弥加の胸元のペンダントを見つめる。それに気づいた紗弥加はそっとペンダントを握りしめる。

紗弥加「お兄ちゃん、ごめんね。でも、紗弥加、このペンダント大切にするからね。」

昌行「ばか。そんなもの、ずっと持ってるほうがおかしいんだよ。いらなくなったら捨ててもいいぞ。」

紗弥加「無理しちゃって。でも、あの頃のお兄ちゃんと長野さんが、紗弥加、一番好きだったんだ。一生忘れないよ。長野さんね、本当は紗弥加がお兄ちゃんを好きだってこと気がついてた。だから別れようって言ったんだと思う。」

昌行「あいつはそういうやつだったからな・・・」
紗弥加「そうだね。とっても優しかった・・・」

車の止まる音がして、玄関に人の来た気配。
紗弥加「迎えが来たみたい。じゃあ行ってくるね。」
紗弥加を見送りに昌行も玄関に出る。そこには大沢が迎えに来ている。
大沢「紗弥加さん、こんにちは。これはお兄さんまで。いよいよ今日から兄弟になるわけですね。よろしくお願いしますよ。」

工場に来たときとはうってかわった大沢の態度である。
昌行「こちらこそ紗弥加をよろしく。」
大沢「もちろんですよ。さ、行きましょうか。」
にこやかに家を出ていく大沢と寂しげな微笑の紗弥加。

うかぬ顔のまま工場へ行く昌行。すぐに薬丸が寄ってくる。
薬丸「専務、今日紗弥加さんが新社長と結婚されるって本当ですか?」
昌行「今日は入籍だけだ。式は2週間後。」
薬丸「最初、新社長が来られたときはどうなることかと思いましたよ。でも、よかったじゃないですか。紗弥加さんのことは、前社長も気にかけておられたし。」

昌行「そのことは言わないでくれ。それより工場のほうはどうだ?」
薬丸「前のとおりですよ。引き続き仕事を続けてます。」
昌行「そうか。とりあえず一安心だな。」
薬丸「ところで専務、意念具現化装置って知ってますか?」
昌行「意念具現化装置?それは俺が大学で長野と研究していた・・・それがどうかしたのか?」

薬丸「やっぱり・・・いえ、なんでもありません。」
そそくさと立ち去る薬丸。納得いかない表情の昌行。

そこへ入籍をすませた新社長・大沢と紗弥加が入ってくる。工場の全員が拍手で迎える。

大沢「みんな、いま入籍をすませてきた。今日から紗弥加は私の妻、坂本専務は私の兄だ。これからもよろしく頼むよ。」

昌行「おめでとうございます、社長。よかったな、紗弥加。で、社長、これからの工場の経営と仕事のスケジュールのことでお話したいんですが。」

大沢「経営に関しては、近藤さんと話をつけてある。面倒なことは明日にしよう。」

昌行を軽くあしらい、大沢は紗弥加を連れて出ていく。昌行はすぐ近くに薬丸がいるのに気づく。

昌行「やっぱり前途洋々とはいかないみたいだな・・・」
薬丸「いちいち細かいことまで口を出されるよりいいですよ。われわれのやりたいようにやればいいってことじゃないですか。」

昌行「どうかな。そうだといいんだが。」

その日、家へ帰った昌行。家には誰もいない。紗弥加は今日は大沢の家に呼ばれて遅くなるはずである。

暗い部屋に明かりをつけたところへ近藤があわててやってくる。
近藤「ああ、昌行さん。おられてよかった。大変なことになってるんですよ。工場の登記の写しを持ってきたので見てください。」

昌行「登記?」
近藤「お父さんの委任状がありましてね、工場の権利は昌行さんか紗弥加さんに譲られることになっていたんですが、この度紗弥加さんがご結婚されたので、その配偶者の大沢さんにも権利ができたってわけです。権利書も手にしてましたしね。私が油断しているうちに大沢の名義に書き換えられていたんです。」

昌行「な、なんだって?それであんなに入籍を急がせたのか!」
近藤「私もおかしいとは思ったんですが。すみません、こんなことになるなんて。」

昌行「どうにかならないのか?!」
近藤「いまとなってはなんとも・・・。私もいろいろあたってはみますが。」

昌行「くそっ!あの野郎、やけに愛想がいいと思ったぜ。」

夜、遅くなって紗弥加が帰ってくる。
紗弥加「ただいま、お兄ちゃん。どうしたの?こわい顔して。」
昌行「紗弥加、じつはな。」
迷いながらも、すべてを紗弥加に離す昌行。
紗弥加「うそっ、そんな。じゃあ、あたしたちだまされたの?」
昌行「おそらくな。なんだか誰も信じられなくなってきた。」
紗弥加「お兄ちゃん、だめだよ、そんなこと言っちゃ。いい、明日、紗弥加が行ってくる。紗弥加にまかせてよ。」

昌行「ばか言うんじゃない。そんな相手じゃないんだ。」
紗弥加「でも結婚したのは紗弥加だから。いまや家族なんだよ。紗弥加のことでもあるんだから、紗弥加が話つけなくちゃ、ね。」

昌行「危険なことはいっさいするな。いざとなったら、工場なんてどうでもいいんだからな。」

紗弥加「わかってるって。」

次の日、不安をかかえながら工場へ行く昌行。工場はいつになくざわついている。

昌行「どうした?何を騒いでる?」
いつものように薬丸がやってきて答える。
「坂本社長が見つかったらしいんです。さっき警察から連絡があって。」
昌行「親父が?警察?どういうことだ?」
薬丸「そのうち警察が来ると思いますが・・・岬の沖で死体でみつかったと・・・」

昌行「なんだって・・・・」
薬丸「どうも飛び下り自殺らしいんです。社長らしくもない・・・・」
「縁起でもないことを言うな!いまの社長は大沢社長だ!」
と声がして、見ると本木と布川が昌行の目の前に立っている。
昌行「なんだ、お前らは。」
本木「専務さんよ、あんたはさっさと警察に行って身元確認にでも行ったほうがいいんじゃないのか?」

布川「そうそう、ここは俺らが仕切ってやっからさ。」
昌行「なんだと?おい、大沢はどこだ?」
本木「大沢?社長だろ?あんたの義弟でもある、か。そのおかげでこの工場を手にすることができたってか。」

布川「あとは意念具現化装置を完成していただく、と。」
薬丸「おい、ばか、それはまだ・・・」
昌行「薬丸?お前、まさか・・・」
本木「こいつはもともと俺たちの仲間さ。まだシブ〜いガキのころからのな。」

昌行「親父もお前のことは可愛がっていたのに。くそっ、なんだって意念具現化装置がこんなところに出てくるんだ。」

布川「それを欲しがってる方がいるのさ。」
昌行「なんだと・・・」

そこへ近藤が息を切らせて走ってくる。
近藤「ま、昌行さん、たいへんだ。さっ、紗弥加さんが。」
昌行「紗弥加?紗弥加がどうしたっていうんですか?」
近藤「交通事故で重体なんです。いま病院に運ばれたと。」
昌行「なんだって?!」

病院へ駆けつける昌行と近藤。紗弥加の病室には大沢がつきそっている。
大沢「あっ、お兄さん、こちらです。」
昌行は入るなり、いきなり大沢を殴りつける。後ろから近藤が昌行を止める。

大沢「なっ、なにするんですか!このっ。」
近藤が何も言わず、大沢を引き止める。
大沢「マッチさん・・・」
近藤(口に人差し指をあてて)「しっ・・・」
昌行は紗弥加のベッドの脇にひざまずく。紗弥加は顔のほとんどを包帯に巻かれ、酸素マスクをしている。

昌行「紗弥加・・・。苦しいのか?」
紗弥加はうっすらと目をあけ、酸素マスクを取ろうとする。
昌行「よせ。俺はこのままでじゅうぶんだ。」
紗弥加(それでもマスクをとって)「お兄ちゃん、会えてよかった・・・ごめんね、これ、返すよ。」

紗弥加が差し出したのは、昌行が渡したクロスのペンダントである。
昌行「ばか。こんなもの返さなくっていい。持っていろよ。」
紗弥加「だめだよ。長野さんとの大事な思い出なんだから大切にしなきゃ。でも、紗弥加のことも忘れないでね。」

紗弥加の目から涙がひとすじ流れ落ちる。
昌行「あたりまえだろ・・・」
クロス・ペンダントと一緒に紗弥加の手を握りしめる昌行。そして紗弥加は息をひきとった・・・。


そっと後ろに来ていた近藤が手を合わせ、昌行の肩に片手をおきながら低い声でささやく。

「昌行さん、なんと言ったらいいのか・・・。でも私にはわかります。坂本社長は大沢が殺したんですよ。自殺なんかじゃない。紗弥加さんも表向きは事故だが、こいつが殺したに決まってる。仕組まれたんだ。」

涙にかすむ昌行の目に見舞いの果物に添えられたナイフが写った。いいようのない衝動にかられて、昌行はナイフをつかみ、振り向きざま大沢の胸に深々と突き立てた。

大沢は一言も発せずに崩れ落ち、真っ赤な血があたりを染める。ナイフを持ったまま呆然と立ち尽くす昌行。

近藤が昌行の手からナイフを引きはがし、外へと連れ出す。
近藤「昌行さん、私と一緒に行きましょう。ここは部下に始末させます。あなたのエンジニアとしての才能を埋もれさすのはもったいない。私のところで研究を完成させるんです。あなたのお父さんの工場も必ず私が取り返しますよ。」

昌行「近藤さん・・・」

近藤真彦=マッチに連れられ、病院から出ていく昌行。そのころ近藤の指示で薬丸・布川・本木が大沢の死体を片付けていることなど、彼には知るよしもなかった。

右手にクロス・ペンダントをきつく握りしめる。
近藤「なんだ?そのペンダントは。」
昌行「大学の友人がくれたつまらないものですよ。長野・・・あいつが変な気を使わずに紗弥加をもらってくれていれば、こんなことには・・・」

近藤「長野・・・それが例のパートナーか・・・」
昌行「ちがう。もとパートナー、だな。いまや友達ですらないさ。もはや住んでる世界がちがうんだ。今はむしろあいつが憎い。陽のあたる場所にいるあいつが・・・」

近藤「それでこそ私の片腕になる男だ・・・」
近藤とともに車に乗り込む昌行。彼の肩を照らす西日が長い影をつくっていた。


ナレーション「こうして近藤のもとへ身を投じた坂本。そしていま、彼と彼の率いる鉄板DISHこそが、われらがVレンジャーの敵なのである。ゆけ!Vレンジャー。悪に手を染めた坂本に正義の鉄拳を教えてやれ。」

TO BE CONTINUED!


 このお話はdahliaさんの第14・15話を読ませていただいて、どうしてもまーくんの暗〜いシリアスな話が書きたくなって書いたものです。
 これを書いた当時、私の中ではなぜか山口紗弥加ちゃんがブレイクしてまして、迷うことなくヒロインのモデルにしてしまったんですけど、最近「V6の素」が始まってから私の中にもうひとりの紗弥加ちゃんが出来てしまいました。はい、笑わないドラマ「命、尽きるまで」の妹役・剛くんです。
 どうもこちらの(妹・剛くんの)ヒロイン像はhongming先生のお気に召さないみたいなんですけど、もし暗い話が嫌いな方、または物好きな方はこの「もうひとつのクロス・メモリー」でお楽しみください。紗弥加のせりふの一人称を「うち」に変えてもらうだけで、けっこう感じが出ると思います。

(byみなみさん)


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