第13話 「二人の気持ち」


ナレーション「不安を抱えたまま戦いに臨むVレンジャー。はたして亀裂は修復できるのか。そして、坂本も驚く武器の正体は。これは、正義と友情に命をかけた若者たちの物語である」

 Vレンジャー本部。
 モニターを見つめている大袈裟。驚愕の表情。
「こ、これは……」
 モニターが巨大な白い人影を足許から映していく。素足で柔道着。顔が映るとそれは巨大なつぶやきシロー。上目遣いに恨めしそうにブロッコ・ロボをにらんでいる。

 向かい合って立つ、巨大つぶやきシローとブロッコ・ロボ。
 つぶやきはジーッとブロッコ・ロボを見つめている。
森田「お、お前……俺たちに何か恨みでもあるのかよ」
井ノ原「そんな目で見ないでくれよ」
三宅「な、何しに来たんだよ」
 つぶやきがやっと口を開く。
「お前らをつぶすためだ」
 姿はつぶやきだが、声はタイチ。
森田「つぶす?」
タイチ「いいか、俺はお前たちのかませ犬じゃねえんだ」
井ノ原「かませ犬?」
岡田「どんな犬やろ」
三宅「日本犬の一種かなあ」
タイチ「お前ら……」
 巨大つぶやきはブロッコ・ロボに指を突きつけ、
タイチ「とにかくだな。俺はお前らをぶっつぶす」
森田「どうやって」
タイチ「見れば分かるだろう」
 巨大つぶやきは、すっと歩み寄ると、ブロッコ・ロボにつかみかかる。そのまま一気に払い腰。土煙を上げ、地面にたたきつけられるブロッコ・ロボ。
 衝撃に顔をしかめる操縦席の五人。
森田「卑怯だぞ、いきなり」
タイチ「何が卑怯だ。戦いはもう始まってるんだ」
森田「ようし」
 立ち上がるブロッコ・ロボ。巨大つぶやきにつかみかかるが大外刈りで倒される。
三宅「うわぁっ」
岡田「もっとしっかり戦ってえな」
森田「うるせえ。お前なんかにつべこべ言われたかねえよ」
岡田「何ムキになっとんねん」
森田「お前に言われるとむかつくんだよ」
岡田「何やて」
井ノ原「やめろよ」
森田「うるせえ」
三宅「そんなことしてる場合じゃないだろ」
 気まずい雰囲気になる操縦席。

 Vレンジャー本部。
 不安な顔でモニターを見ている大袈裟。
「まずい。これはまずいぞ……」

 倒れたままのブロッコ・ロボ。巨大つぶやきがそれを見下ろしていたが、チャンスと見て、押さえ込みにかかる。
あい「きゃあ。やめてー」
井ノ原「おい、こっちは女の子もいるんだぞ」

 坂本の秘密工場。
坂本「あの女には気をつけろ」
 頷くタイチ。

 巨大つぶやきに押さえ込まれているブロッコ・ロボ。
岡田「俺に怒る前にちゃんと戦えや」
森田「文句があるんならお前がやってみろよ」
岡田「そんならやったるわい。ラーメン大好きツル!」
 もがくブロッコ・ロボ。しかし、のがれることはできない。
森田「ほら見ろ」
岡田「うるさいな。気が散るやろ」
森田「けっ。口先ばっかりじゃねえか。ほら、ピンクの前でかっこいいところ見せてみろよ」
井ノ原「いいかげんにしろ、二人とも。俺がやる。ラーメン大好きツル!」
三宅「これじゃ戦いどころじゃないよ」
 巨大つぶやきはブロッコ・ロボの上体を起こすと、後ろからスリーパー・ホールドで締め上げる。
井ノ原「くっ、苦しい」
あい「助けてー」
森田「イエローがピンクに気を取られてるからこうなったんぞ」
岡田「何言うとんねん。レッドこそピンクのことばっかり気にしとったんやろ」
井ノ原「もうだめだ……」
三宅「僕がかわるよ。ラーメン大好きツル!」
 そこに、レシーバーを通して、大袈裟の声が聞こえる。
大袈裟「どうしたんだ、君たち。ブロッコ・ロボのパワーが急激に低下してるぞ」
井ノ原「戦いどころじゃないんだよ」
大袈裟「何があろうと、そのままやられちゃだめだ」
あい「戦わなかったら、あたしたちどうなるの」
 大袈裟はあっさり、
「死ぬよ」
五人「え?」
大袈裟「そのままやられたら、君たちは確実に死ぬ」
森田「死ぬって、そんな」
大袈裟「前にも言ったように、ブロッコ・ロボは君たちの意識と連動している。ブロッコ・ロボがやられれば君たちも死ぬ」
 静まり返る操縦席。
あい「そんなの嫌ーっ」
 井ノ原は巨大つぶやきに向かって、
「おい、やめろ。女の子もいるんだぞ」
タイチ「何言ってんだ。その女の子が卑怯だから今まで仲間がやられてきたんじゃないか」
あい「あたしが何したっていうのよ」
タイチ「お前はいつもルールを無視してるじゃないか。どうせお前なんか、見た目はちょっとかわいいけど、気のきいたことも言えないで座ってニコニコしてるだけで、後は顔のてかりばっかり気にしてるんだろう」
あい「なんですって。ひどーい。許せないわ。ラーメン大好きツル!」
 ブロッコ・ロボは猛然と巨大つぶやきをはねのけ、立ち上がる。
あい「よくも女の子にそんなこと言えるわね。だいたいあんた、何で出てくる順番が遅いのよ」
タイチ「そりゃあ、真打ちだから」
あい「どうかしらね。ほんとはみんなに期待されてないだけ何じゃないの。きっと、みんなに詰めが甘いとかなんとか言われてるんでしょ」
タイチ「……」
あい「どうせあんたなんか、メンバーの中で一番足が短いんじゃないの」
タイチ「……」

 坂本の秘密工場。
 ヘルメットをかぶっているタイチ。ほとんど涙目。

 体の埃を払うブロッコ・ロボ。
あい「ほんとサイテーね。女の子を傷つけたりして」
井ノ原「あ、あのさ……」
あい「何よ」
三宅「何か、向こうの方が傷ついてるような……」
あい「何言ってんのよ! あんたたち、どっちの味方なのよ!」
井ノ原「そ、そりゃあ、俺たちみんなVレンジャーだし」
三宅「みんな仲間だよな、な、な」
 同意を求められ、慌てて頷く森田と岡田。あいは四人をちょっとにらんだが、巨大つぶやきに目を向け、
「そっちが格闘技で来るんだったら、あたしはお父さんに出てもらうわ」
タイチ「お父さん? ほう、出てもらおうじゃないか」
 操縦席のあいが目を閉じて何か思い浮かべると、ブロッコ・ロボの回りに半透明の人の姿が現れる。

 Vレンジャー本部。
大袈裟「何だ、あれは」

 坂本の秘密工場。
 モニターを見つめるタイチ。驚きのような喜びのような表情。
タイチ「炎の飛竜!」

 巨大つぶやきの前に立つブロッコ・ロボ。その回りに半透明で現れた姿はプロレスラー藤波辰爾(ふじなみ・たつみ。映画「新宿少年探偵団」参照)。
 ブロッコ・ロボは、半透明の藤波の着ぐるみを着たような状態になり、巨大つぶやきに突進していく。
 巨大つぶやきは慌てて足を蹴り上げるが、ブロッコ・ロボはその足をつかみ、自分の体を回転させながらひねる。
タイチ「ドラゴン・スクリュー!」
 巨大つぶやきは崖下へ落ちる。ブロッコ・ロボはそれを見下ろし、巨大つぶやきが立ち上がると、少しさがり、助走をつけて飛び、巨大つぶやきに体当たり。
タイチ「ドラゴン・ロケット!」

 坂本の秘密工場。
坂本「何でやられる方がいちいち技の名前を言うんだよ」
 しかし、タイチは夢中になっていて耳に入らない。

 地面に倒れている巨大つぶやき。ブロッコ・ロボはその背後に回り、巨大つぶやきの上体を起こして、覆い被さるように頭と右わきの下に腕を回して締め上げる。
タイチ「ドラゴン・スリーパーホールド!」
 ブロッコ・ロボは巨大つぶやきを立たせると後ろから羽交い締めにし、そのまま上体をそらせて後ろへ投げる。
タイチ「ドラゴン・スープレックス!」
 したたかに後頭部を地面に打ちつけた巨大つぶやき。スーッと姿が消える。
あい「いい気味よ」
 ブロッコ・ロボの操縦席。あいを見つめる四人。恐怖に顔が引きつっている。

 Vレンジャー本部。
大袈裟「つ、強い。強すぎる。一体どうしたんだ」

 丘の上。
 並んで座っている森田と岡田。離れたところにブロッコ・ロボが立っている。
森田「何だよ、話って」
岡田「あいちゃんのことなんやけどな。俺、別につきおうてるわけやないんや。俺、身を引くから、自分が付き合ったらええやん」
森田「いやだよ。あいちゃんはきっとお前のこと好きだよ」
岡田「いいや、そんなことはない。絶対にない。リーダーはレッドや。リーダーが一番もてなあかんて」
森田「もてるのはいいけど、あいちゃんはちょっと……。お前付き合えよ」
岡田「あんなん、うっかり怒らせたら殺されてまうやん。俺がうまいこと取り持ったるから」
森田「俺だって怖いよ」
 そこへ突然声がかかる。
あい「何してるの、二人で」
 二人がぎょっとして顔を上げると、いつの間にか、あいがそばに来ていて二人を見ている。
「ヒエエッ」
 驚きと恐怖で思わず抱き合う森田と岡田。それを見たあいは、驚いて、
「えっ。あなたたち……。そういう関係だったの」
 慌てて離れる森田と岡田。
森田「ま、まさか……」
岡田「そんなんちゃうねん」
 あいは二人の言葉に耳を貸さず、顔を赤くして走り去る。茫然と見つめ合う森田と岡田。何となく気まずく、二人ともポッと顔を赤らめモジモジする。そこに遠くから、
「おーい、帰るぞ」
という井ノ原の声。

 坂本の秘密工場。
 ヘルメットをつけたまま気絶しているタイチ。しかし、恍惚の表情を浮かべている。
 あきれた顔でそれを見ている坂本。

 空を飛ぶブロッコ・ロボの操縦席。あいは興味深そうに森田と岡田を見比べている。
ナレーション「本当に恐ろしいのは敵ではなく、味方だった。妙な雰囲気を残しながらもVレンジャーの戦いは続く。行け、Vレンジャー。サイコーにナイスで、危ない愛に目覚めちゃったら面白いかもしれない戦士たち」

TO BE CONTINUED!


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