第11話 「人の心」


 ルアーを飛ばすツリヴィトンの映像。
ナレーション「鉄板DISHが生み出した新たな武器・ツリヴィトンのために、町は混乱におちいろうとしていた。果たしてVレンジャーはツリヴィトンを倒すことができるのか。これは、正義と友情に命をかけた若者たちの物語である」

 坂本の地下工場。
 モニターを見ている坂本たち。
坂本「何をやっているんだ、これは」
ジョー「なんやろなあ」
トモヤ「釣ってるんだよ」
坂本「何を」
トモヤ「人の心を」

 町の様子。
 手をつないで歩いていたカップルにルアーが触れると、二人は手を離し、ぽかんと立ちつくす。
 銀行の前。ピストルを持って逃げる強盗。ルアーが触れて立ち止まる。追いかけてきた警官は、
「何だ」
と不思議そうに強盗に手をかけようとするが、これもルアーが触れて立ちつくす。
 つかみ合いの喧嘩をしていた二人。ルアーが触れると手をだらんとさげて立ちつくす。

 Vレンジャー本部。
大袈裟「とにかく出動だ」
 五人は頷き、隣の部屋へ駆け込む。

 坂本の秘密工場。
坂本「ほう。すごいな」
ジョー「これなら大混乱や」
 楽しそうなトモヤ。

 空を飛ぶブロッコ・ロボ。
 操縦席には変身した五人。

 町は無表情な人間ばかりになっていく。
 クラクションが絶え間なく響き、混乱している様子。

 竿を振り上げたツリヴィトン。その前に、轟音とともにブロッコ・ロボが降り立つ。背中にはもちろん「おもいっきり商事」の文字。

 坂本の秘密工場。
坂本「来た」
ジョー「ええか、慎重にいくんやで」
 頷くトモヤ。

 向かい合って立つツリヴィトンとブロッコ・ロボ。
岡田「何かでかい奴やなあ」
井ノ原「あそこまででかいと不便だろうな」
三宅「ほんとの人間のわけないじゃん」
あい「でも、背が高くてかっこいい」
森田「絶対たたきつぶしてやる」
 ツリヴィトンはじっとして動かない。森田が話しかける。
「おい、でかいの。聞こえるか」
トモヤ「聞こえるよ」
森田「何なんだ、お前」
トモヤ「何って言われても」
井ノ原「お前も、こないだからごちゃごちゃやってる何とかってやつのメンバーだろ」
トモヤ「そうだよ」
三宅「何ていうんだっけ」
トモヤ「俺たちか?」
森田「そうだよ、お前たちだよ」
トモヤ「えーっと……。はい、ここで問題です。俺たちの名前は何でしょう」
井ノ原「知るかよ、そんなこと」

 坂本の秘密工場。
 トモヤが小声で、隣にいるジョーに聞く。
「何ていうんだっけ、俺たち」
 ジョーはまじまじとトモヤを見て、これも小声で、
「鉄板DISHや、鉄板DISH」
 不安な顔で二人を見る坂本。

 ブロッコ・ロボとツリヴィトン。
トモヤ「俺たちは鉄板DISHだ。まいったか」
森田「まいらねえよ。もういい、さあ、勝負だ」
トモヤ「勝負? ふん、俺と勝負しようなんて一世紀早いんだよ」
森田「一世紀早いって、お前、一世紀が何年だか知ってんのかよ」
トモヤ「……。そ、そういうお前は知ってるのか」
森田「……。とにかく勝負だ、勝負」
井ノ原「(小声で)恐ろしくレベルの低い勝負になりそうだ」
あい「ほら、もう早くやっちゃいましょうよ」

 坂本の秘密工場。
 あいの声を聞いたジョーがトモヤに、
「あの女や。あの女がいっちゃん手強いで」
 頷くトモヤ。

 ツリヴィトンがいきなり竿を振ると、ルアーがまっすぐブロッコ・ロボの操縦席めざして飛んでくる。そして、ブロッコ・ロボの体を通り抜け、避ける間もなくあいに触れる。
 とたんに無表情になるあい。
岡田「どないしたん」
 あいは全く反応しない。
三宅「ピンクが変だ」
井ノ原「ほんとだ。あいつにやられたんだ」
森田「畜生!」
トモヤ「その女の子の心は貰ったぜ」
 森田の顔色が変わる。
森田「プッチーン」
トモヤ「どうした」
森田「切れた」
トモヤ「何が」
森田「マジ切れた。絶対許さねえ。勝負だ」
トモヤ「よし、じゃあ、ルアー投げで勝負しよう」
井ノ原「何だそれ」
トモヤ「的を決めてルアーを投げるんだ。的に近い方が勝ち」
三宅「そんなの絶対こっちが不利に決まってるじゃないか」
トモヤ「ははーん。できないんだな。逃げるんだな」
森田「逃げるもんか。やってやる。的はどれにする」
 ツリヴィトンは周りを見回し、高いビルの屋上に目を留め、
「ほら、あそこのビルの上のネオン。サン何とかって書いてあるやつ」
 ブロッコ・ロボもそちらを向き、
森田「ああ、あれか。サンって書いてあるな」
三宅「三菱(みつびし)のことか……」
岡田「ルアー投げるんなら、的は低いとこにあるもんのほうがええやろ」
井ノ原「やったことあるのか、イエロー」
岡田「ああ、前にチャレンジしたことがあるで」
三宅「やったあ。イエローにやってもらおうよ」
 森田はむっとして、
「嫌だ、俺がやる」
井ノ原「どうしたんだよ」
森田「とにかく俺がやる。あいつにもイエローにも負けねえ」
 顔を見合わせるブラック、ブルー、イエロー。
井ノ原「低いとこのがいいなら、あそこの蕎麦屋の看板なんかどうだ」
森田「そばや……」
 ツリヴィトンも町を見るが、どれが蕎麦屋なのか分からない。
トモヤ「ソバって、どんな字だろう」
井ノ原「ほら、あそこだよ。青地に白い字で蕎麦って書いてあるだろう」
森田「ああ、あれか。コウカっても書いてあるところだね」
三宅「更科(さらしな)だろ……」
トモヤ「もっと簡単なのにしろよ。あっ、あれがいいよ。ハッピャクって書いてある看板」
 ツリヴィトンの指さす先を見るブロッコ・ロボ。
森田「あ、あった。確かにハッピャクって書いてある」
三宅「八百屋(やおや)だよ……」
井ノ原「どうせなら、本当に魚を釣ればいいじゃねえか。こんだけでかいんだから、鯨でも釣れるだろう」
トモヤ「そうか、そういう手があったか」
森田「そうしよう。でかい魚を釣った方が勝ちだ」
トモヤ「よし。勝負の前に準備するからちょっと待ってくれ」
森田「何だよ、早くしろよ」
 ツリヴィトンは両手で何かを空中に放り投げるような仕草をする。すると、細い光が四方へ飛び散る。
 とたんに、操縦席のあいの生気が戻る。

 坂本の秘密工場。
坂本「何をしたんだ」
トモヤ「何って、キャッチ・アンド・リリースが基本でしょう」
ジョー「リリースて、お前……」
トモヤ「常識だよ」

 Vレンジャー本部。
 モニターを見ている大袈裟。
「一体何が起こっているんだ」

 ブロッコ・ロボ操縦席。
 まわりを見回しているあい。
「どうしたの。あたしどうしてたの」
岡田「何やしらんけど、ぼうっとしてたで」
三宅「自分では覚えてないの?」
あい「何にも……。なんかたくさん人がいるところにいたような気がするけど」
森田「見てな、今俺があいつをやっつけるから」
あい「どうやってやっつけるの」
森田「釣りで勝負するんだ。でかい魚を釣った方が勝ち」
あい「やだあ、そんなの。釣ったら手でつかむんでしょ」
森田「もちろん」
あい「やだ。生きてる魚なんかさわれない」
森田「俺がつかむんだからいいじゃない」
あい「やだ。そんな勝負するんなら、あたし帰る」
三宅「帰るって、そんな」
井ノ原「そうだよ、あいつをやっつけなかったら、町の人たちはどうなるんだよ」
 町の様子を見ていた岡田が、
「ちょっと見てみい。なんか平気そうや」
 見ると、町の人々は元に戻っている。
 恋人同士は手をつなぎ、喧嘩は続き、強盗は逃げ、警官は追いかけている。
森田「あれっ。ほんとだ」
あい「これだったらもう勝負しなくていいでしょ。とにかく、生きてる魚なんかつかんだら、あたしは一生このロボットに乗りませんからね」
 そこで森田はツリヴィトンに向かい、
「と、いうことなんだけど」
トモヤ「じゃあ、勝負はなし、と」
森田「まあ、そういうことかな。いいか、それでも」
トモヤ「俺はいいよ。もうたっぷり楽しんだから。じゃあな」
森田「ああ、じゃあな」
 ツリヴィトンの姿がスッと消える。

 坂本の秘密工場。
 坂本が、笑顔でヘルメットをはずしているトモヤに向かって怒鳴る。
「どういうことなんだよ!」
トモヤ「何が?」
坂本「何がって、お前」
 ジョーが慌てて坂本とトモヤの間に入り、
「ま、世の中いろいろあるってことや。さ、トモヤ、帰ろ、帰ろ」
 ジョーは、そう言って、トモヤの背中を押してドアの方へ行く。
 怒りに体を震わせながら見送る坂本。
 トモヤは坂本を振り向きながら、
「あの人、なんで怒ってるの?」
ジョー「ま、とにかく帰ろ」

 Vレンジャー本部。
 茫然としている大袈裟。
「一体なんだったんだ……」

 夕日を浴びて立つブロッコ・ロボ。
ナレーション「こうして何だか分からないうちにツリヴィトンは去り、町に平安が戻った。しかし、Vレンジャーの戦いはまだまだ終わらない。行け、Vレンジャー。サイコーにナイスだけどちょっぴり不安な戦士たち」

TO BE CONTINUED!


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