第1話 「さらば、友よ」


 夕日に向かって立つ五人のシルエット。
ナレーション「科学は何のために進歩するのか。そして、人の心を動かすものは何か。これは、友情と正義に命をかけた若者たちの物語である。友よ、この真心を受け取ってくれ」


 地下の洞窟を利用した工場。コンピューターを操作する科学者の後ろ姿。
「よし、これで完成だ」
 前にはステージのような空間がある。科学者はコードがたくさんついたヘルメットをかぶる。
「意念具現化装置、稼動!」
 スイッチを入れると、ウィンウィンという音と共に、ステージに巨大な物体がぼんやりとあらわれてくる。

 海沿いの都市を上空から映している。
 字幕「神奈川県逗子市」

 広壮な屋敷の門。
 字幕「人呼んで『おもいっきり御殿』」

 応接間。ふんぞりかえって座っている男(みのもんた)。
 字幕「おもいっきり商事社長」

「社長さん、世のため人のためです、資金の提供をお願いできないでしょうか」
 ぼさぼさ頭の科学者が頭を下げている。頭しか映っていない。頭を上げると長野博。
 字幕「大袈裟博士」

みの「そうねえ。金はどうにかなるんだけど」
大袈裟「お願いします。例の、スポンサーをはっきりさせる、という件、必ずやりますから」
みの「そこが一番大事なんだからね。うちなんかただの健康食品の会社なのに、儲けすぎだなんていう連中もいてね」
大袈裟「世のため人のために大金を支出している、というのを世間に訴えるチャンスですよ」
みの「で、名前はどうするの。おもいっきりレンジャー?」
大袈裟「いえ、そこは別の名前を考えてありまして」
みの「じゃあ、どこにうちの名前がはいるのよ」
大袈裟「その前、です。これでいかがでしょう」
 そう言うと、大袈裟は懐から紙を出し、広げてみせる。その紙にかぶさるように、タイトル。


「おもいっきり戦隊・Vレンジャー」
 

都会の雑踏。カップルや親子連れなど平和な日曜日の午後。
女「なんか変なにおいがする」
男「そうか? そう言われれば」
 何人かが立ち止まり、空気を気にする。
子ども「海だ、海のにおいだよ」
親「ほんとだ、海のにおいだね」
 その時、ズシンズシンという地響き。
「きゃあ」
「地震だ」
「あ、あれは何だ」
 指さす方を見ると、巨大なカニ(シオマネキ)が歩いてくる。シオマネキが大きなハサミを動かすたびに、潮風が起こる。

 洞窟の工場。
 科学者の後ろ姿。
「ふふふふ。苦しめ、苦しめ。みんな塩分のとりすぎで高血圧になるのだ」

 丘の上に立つ大袈裟博士。遠くに巨大シオマネキが見える。
「頼むぞ、間に合ってくれ」
 大袈裟博士は手に持っていた、カラフルな五つの玉を空中へ放りあげる。玉は空中で一度光ると、バラバラの方向へ飛んでいく。

 おもいっきり御殿。テレビを見ているみの。テレビでは臨時ニュースで巨大シオマネキの姿を映している。
アナウンサー「あの怪獣が起こす潮風には大量の塩分が含まれており、それを吸ってしまった人は塩分過多になってしまっているということです」
みの「だめだよこりゃあ。ただでさえ日本人は塩分取り過ぎなんだから」

 公園。一人でサッカーボールを蹴っている森田。その頭に玉がぶつかる。
「いってえ」
 周りを見回すが、誰かがぶつけたわけではないらしい。首を傾げ、玉を拾い上げると、玉から大袈裟博士の声。
「どこの誰か知らないが、君の力が必要だ」
 驚いて玉を見つめる森田。

 ボウリング場。ストライクをとってにっこりした井ノ原。しかし急に顔をしかめて頭を抱える。床に落ちた玉を広い、周りをにらみ回す井ノ原。

 室内プール。クロールで端まで泳いできた三宅がプールから上がりかけ、またプールに落ちる。
「何だよ」
 頭を押さえる三宅の前の水面に玉が浮いている。

 高校の校庭。ラグビーボールを持って走っている岡田。横の仲間にパスし、さらにそれを投げ返され、受け取ろうとするが失敗。頭に手を当てて立ち止まる。
「何やねん、今の」
 足もとには玉が転がっている。

 大袈裟博士の研究室。
 巨大モニターを見上げる大袈裟博士。モニターは盛んにハサミを振り回している巨大シオマネキとのどを押さえて苦しんでいる町の人々を映し出している。
「まだか。間に合ってくれ」
 その時、どやどやと足音がして、自動ドアが開き、四人が入ってくる。
「待ってたよ!」
 笑顔で迎える大袈裟博士をにらみつける四人。
森田「何なんだよ」
井ノ原「あんた誰だ」
三宅「ここに来い、ここに来いってこの玉がうるさくて」
岡田「けっこう交通費がかかったで」
 それを出迎えた大袈裟は、
「あれっ、四人だけなのか……まあいい。君たちに頼みがある」
森田「頼み?」
大袈裟「そうだ。君たちは今から正義のヒーローだ」
井ノ原「あんた、頭おかしいんじゃないの」
 それには答えず、大袈裟は巨大モニターを指さし、
「君たちがあの怪物をやっつけるんだ」
三宅「できるわけないじゃん」
大袈裟「できるんだ。君たちは選ばれた戦士なんだ」
岡田「選ばれたって、誰にやねん」
大袈裟「その玉にだ」
 四人は手にした玉を見る。
大袈裟「その玉は、すぐれた特殊技能を持つ人間を発見する機能を持っている。君たちは特別な人間なんだ」
井ノ原「そりゃあ、俺はほかの奴とは違うと思ってるけどね」
大袈裟「いいかい。その玉を左手で握って、こうやって胸に当ててみてくれ」
 四人は大袈裟のまねをして左手を胸に当てる。
大袈裟「それから、右手でVサインを作って『V』といいながら右手を突き出す」
岡田「ぶ……V!」
 その途端、岡田が黄色い戦闘服を着たヒーローっぽい姿に変身。頭にはヘルメットをかぶっているが、顔は見える。
井ノ原「おおっ、いいね。俺もやろう。V!」
 井ノ原は黒い戦闘服。
 森田と三宅が続くと、それぞれ、赤と青の戦闘服に変身する。
森田「すげえ……」
大袈裟「ほら、君たちはスーパー戦隊なんだよ」
 四人は自分たちの格好をみてうれしそうな顔になるが、三宅が森田の背中を見て、
「何だよ、これ!」
「どうした」
 ほかの三人は三宅の方を向く。三宅は自分の背中を見ようとするが見えない。しかし、三宅の方に体を向けた三人の後ろ姿が映ると、そこには大きく「おもいっきり商事」の文字。
森田「だ、だせー」
三宅「いやだよ、こんなの」
 大袈裟はちょっと慌てるが、
「スポンサーなんだよ。とにかくお金が必要だったんで……」
井ノ原「気にいらねえな。だいたい、何で俺がブラックなんだよ。リーダーはレッドだろう」
大袈裟「そ、それはだね、その玉がそう判断したんだ。ブラックはニヒルな二枚目っていうことになってるし……」
 それを聞いた途端、井ノ原はニコッとして、
「ニヒル? いいねえ。ま、俺しかいないよな。変な主役より、脇役の方が目立つってこともあるしな」
大袈裟「君はVレンジャーのブラックだから、Vブラック、だ」
三宅「Vレンジャー?」
大袈裟「それが君たちの名前だ」
井ノ原「その前に、なんとか戦隊ってつくだろう。それは何ていうんだ」
大袈裟「それは……。おもいっきり戦隊」
 露骨に嫌な顔をする四人。
 何か考えていた岡田は、
「スポンサーがいるっちゅうことは、金が貰えるんか」
大袈裟「そ、そりゃあ、普通のアルバイトよりは出るかも……」
岡田「何やねん、その『かも』っちゅうのは」
大袈裟「お金は出ないかもしれないけど、テレビには絶対映るから。君らが悪者と戦っているところがニュースで放送されれば、芸能界からスカウトがくるかもしれないよ」
四人「スカウト!」
大袈裟「だって、正義のヒーローなんだから。そのために、顔は隠さないように作ってある」
岡田「そこまでの金がなかっただけやないやろな」
大袈裟「そ、そんなことはない。断じてない。君たちのために特別にデザインしたんだ」
 顔を見合わせる四人。
三宅「背中の文字が気になるけど」
森田「やってみるか」
大袈裟「ありがとう。君たち専用の戦闘ロボットも作ってあるんだ。隣の部屋に行けばすぐ分かる。入り口はそこだ」
 大袈裟がドアを指さすと、
森田「よっしゃ。いこうぜ」
井ノ原、三宅、岡田「おう」
 四人はドアを開け隣の部屋へ行く。
 大袈裟はモニターに目を向け、寂しそうな表情になってつぶやく。
「さようなら、坂本くん」

 コードのついたヘルメットをかぶり、不気味な笑いを浮かべている坂本のアップ。

 モニターは巨大シオマネキと苦しむ人々を映している。
ナレーション「大袈裟博士のつぶやいた言葉の意味は何か。そして、戦士たちは勝てるのか。今や、運命の戦いが始まろうとしていた」

TO BE CONTINUED!


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