探偵物語・3
危険を売る女
前編
電話が鳴った。カーテンの外は明るい。時計を見ると九時過ぎだった。
二日酔いで痛む頭と、むかむかする胃をなだめながら、携帯電話を耳に当てた。
「夕べはどうも」
若い女の声だった。
「は?」
「坂本さんでしょ」
「はい」
「あたしよ、あたし」
俺は、電話を一度耳から離し、ディスプレイを見た。発信者名は「ゆうこ」と表示されている。
「あ、あの……。ゆうこさんですか」
「そうよ。思い出してくれた? ちょっと仕事の話があるんだけどさ、これから行っていい?」
「仕事……はい。お待ちしております」
「じゃあ、十五分後に」
電話はそれで切れた。
「ゆうこ」という名には全く心当たりがない。
ヒントは、最初に言われた「夕べはどうも」だ。
昨日の夜、どこかであったらしい。
俺は、急いで着替え、コーヒーメーカーに豆をセットし、目につくゴミを片づけながら、必死に、思い出そうとした。
夕べは……。餃子屋で、ビールと水餃子の夕食を済ませた後、情報収集を兼ねて、飲みに行った。時々行くスナックだ。この間、「どうにかする会社」の三人組にひどい目にあわされたので、知らない店には極力行かないことにしている。
カウンターで水割りを飲みながら、客同士のうわさ話に聞き耳を立てていると、思わぬ情報が手に入ったりする。
スナックでのことを思い出そうとしながら、上着のポケットを探った。あった。
名刺だ。
もらった名刺は絶対になくさない。いつどこで役に立つかわからないからだ。俺が手にした名刺には、「相木法律事務所 中沢裕子」と書かれていた。
約束通り十五分後、女が現れた。
茶髪というより金髪に近い肩までの髪。細身のスーツ姿。それほど若くはないが、まだ三十にはなっていないだろう。
親しげな笑みを見せ、ソファーに腰を下ろした。俺は、いれたてのコーヒーを勧めながら尋ねた。
「弁護士さんでしたっけ」
「やあねえ。ただの受付とお茶くみよ。覚えてないの?」
「で、仕事というのは」
「ちょっと待ってよ。あたしのこと覚えてないんでしょう。酔っぱらってたもんね」
確かに酔っていた。何かで盛り上がってずいぶん飲んだような気がする。スナックで飲んでいた時の途中から、この部屋に帰ってくるまでの記憶が欠落している。
「申し訳ない」
「あんなことまでしておいて」
「あんなこと……。わたしが何か」
「ふうん。心神喪失状態だったっていうわけね。それで済むのかしら」
俺は必死に記憶の海の底をさらった。カラオケで何か歌ったような気はするが、後は思い出せない。
「ま、いいわ。あたしの出す条件をのんでくれたら、許してあげる」
「条件?」
「そう。紹介料一割」
探偵業務の仲介業者なのだろうか。そんなものが仕事として成り立つとは思えないが。
「引き受けるかどうかは仕事の内容によります。法に触れることはできません」
俺は、手のひらににじんだ汗を、ズボンで拭いた。
「一週間前に、倉庫が焼けたでしょ。近所で」
「夜中の火事ですか」
「そう、それ」
ちょうど一週間前の夜、取り壊しが決まり、空っぽになっていた倉庫が全焼したのだ。夜中に消防車が走り回り、サイレンで目が覚めたのでよく覚えている。
「あの倉庫にね、保険がかけてあったの。火災保険」
俺は黙ってコーヒーをほんの少しすすり、頷いた。
「ところがね、その倉庫の持ち主が怪しいのよ。取り壊しが決まってて、空っぽの倉庫が焼けて保険金が二億よ。できすぎだと思わない?」
「はあ」
「どう考えても怪しいわよね。それでね、保険会社からうちの事務所に相談があったの。保険金の支払いを拒否した場合、どうなるかって」
「なるほど」
よくある話だ。俺は、カップを両手でつつむようにし、コーヒーの香りを楽しんでいるふりをした。ほんとうのところは、吐き気がして、コーヒーものどを通らないのだ。
「保険会社にも専門の調査員がいて、調べてるんだって。でも、見落としがあるかもしれないから、外部の目で調べなおしてもらう積もりだって言うのよ。だからあたし、坂本さんのこと思い出して、心当たりがありますって言ったのよ。それでね、そこに頼んでみようっていうことになったの」
「ちょっと待って」
俺はカップを皿の上に置いた。
「ということは、事務所の仕事としてここに話を持ってきているわけだよね」
相手の話し方があまりにもなれなれしいので、俺もつい、くだけた口調になった。
「そうよ」
「じゃあ、紹介料一割、というのは、こっちがそちらの事務所に支払うわけだよね」
「ううん。あたしに払うの。あたしのアルバイト」
「それは変でしょう。勝手にマージンを取るのは問題だな」
「あらそう」
女は冷たく笑った。
「いやならいいのよ。私立探偵なんていっぱいいるんだし。よそに話を持ってくだけだわ。あたしにあんなことまでしておいて、よくそんなことが言えるわね」
俺は自分の脳が恨めしかった。なぜ思い出さないのだ。なぜ覚えていないのだ。
もっとも、脳は脳で、俺に対して、アルコールの摂取のしすぎだと言いたいことだろう。
俺は平静を装うために、カップを取り上げ、コーヒーを一口飲んだ。温かい液体が食道を伝わり胃に到達した。そこで胃液と一緒になって口へ逆流しようとしたのを抑え込み、深呼吸をした。
「ビジネスはビジネスとして話を聞こう。その倉庫の火事が、持ち主の放火によるものだということが証明できなくてもかまわないのかな」
「あら、引き受けるの」
「興味はある」
「仕事に? お金に?」
「……両方に……」
俺の返事を聞いた女は、なぜかうれしそうだった。
「じゃあ決まりね。あたしから藤木さんに連絡しておく。その保険会社の専務さんなの。条件が決まったら教えてね。紹介料は一割よ。いいわね」
そう言い残して女は去った。
俺はそのあとしばらく、胃の反乱に苦しみながら、何とか女のことを思い出そうとした。
しかし、かろうじて、スナックで隣に座ったことと、名刺を交換したことが思い出せただけだった。
その日の午後には電話があり、夕方、藤木という男が尋ねてきた。
もう五十は過ぎているようだ。髪はかなり白い。
きちんとスーツを着ている。肩書きでは専務ということだった。どことなく精気が感じられなかった。
俺がコーヒーを出すと、丁寧な礼をした。
「おおよそのところはうかがいましたが、最初から詳しく話していただけませんか」
俺はノートを広げ、そう尋ねた。藤木は頷き、ゆっくりと話し始めた。
倉庫は取り壊しが決まっていて、何も置いてなかった。
以前は、警備会社と契約して、機械警備を行っていたのだが、契約は先月で切れていた。したがって、何者かが侵入したのだとしても、警報は鳴らなかった。
消防署の現場検証によると、倉庫の裏口付近から火が出て全焼したらしい。あたりに人家がなく、通報が遅れたので全焼してしまった。
所有者は、消防署で罹災証明を作ってもらい、保険会社に保険金支払いを請求してきたが、調査中だと保留している。所有者の倉庫会社は「長門倉庫」といい、長門という男の個人経営に近いという。
「保険金の支払いを拒否するということですか」
俺はそこで口を挟んだ。
「まだそういう返答はしていません。いずれにせよ、支払いまでには一ヶ月ぐらいはかかります。ただ、不審な点を調べているだけです」
「保険金目当てに自分で火をつけた可能性があると、にらんでいるわけですね」
「はい」
藤木は頷いた。
「たしかにできすぎた話ですね。ボロ倉庫が焼けて二億円が手に入れば、こんなにおいしい話はない。わかりました、調べてみます」
藤木はほっとして大きく息を吐いた。
「で、いかほどかかるのでしょうか」
俺は少し、ノートの余白でざっと計算した。
「契約期間は二週間。諸経費込みで三十万円。いかがでしょうか」
相手の緊張が少しゆるんだ。
「ぜひお願いします。ここで前払いしておきます」
藤木は、内ポケットから分厚くふくらんだ財布を取り出し、一万円札を三十枚数えてテーブルに置いた。
俺はそれを確認し、領収書を書いた。あて名は藤木個人でいいということだった。
「報告は、会社の方にしますか」
「いや、内密の調査ですから、わたしの携帯に電話を入れてください」
そう言って、藤木は名刺の裏に携帯電話の番号を書いて、俺に渡した。
「くどいようですが、真実は藤木さんの予想通りではないかもしれません。真相究明がわたしの仕事、と考えてかまいませんね」
「もちろんです」
藤木は大きく頷いた。
翌日、俺は、目が覚めるとすぐに、銀行で口座に入金した。手元に置くと使ってしまう。
それから、喫茶店のモーニング・セットで朝食を済ませ、倉庫街へ向かった。
まずは現場を見なくてはならない。
自転車で三十分。川を渡った埋め立て地。川の手前まではアパートなどが建っていたが、川を渡ると空き地と駐車場しかなかった。
焼けた倉庫の跡地には、ロープが張られ、見物人が数人、ロープ際に立って焼け残った鉄骨を見上げていた。
俺もその仲間に入って、黒く焦げた床などをながめた。
すでに専門家による現場検証は済んでいるわけだから、俺が何か発見できることはなさそうだ。付近を回ってみようかと思った時、後ろから肩をたたかれた。
「よう」
声でわかった。あいつだ。振り向くと、井ノ原がニヤニヤしながら立っていた。
「探偵さん、見物かい」
「ええ、まあ。通りかかったものですから」
「ふうん。犯人は必ず現場に戻ると言うからなあ」
「またまた、勘弁してくださいよ」
「いや、冗談、冗談。それにしても、きれいに焼けたもんだなあ」
井ノ原はそう言って、焼け跡に目をやった。
「出火の原因は何だったんですか」
「さあねえ。それは消防署に聞いた方がいいだろう」
それだけ言うと、立ち去り、少し離れたところに止めてあった車に乗って、中にいた同僚と話をし始めた。
俺は自転車でその場を離れ、倉庫街を回ってみた。
倉庫の裏口付近から燃え始めたという。
裏側には、トラックが一台通れるほどの道があり、それを隔てて川になっている。
川の水面は、地面より一メートルほど低かった。
灰色の水がゆっくりを流れている。川幅は広かった。
自転車を押して歩いているうちに、倉庫と倉庫の間に、青いシートで作ったテントが目に入った。
俺はそのテントに近づき、声をかけてみた。
「誰かいますか」
すぐに、無精ヒゲがまばらに伸びた顔が一つ出た。
「こちらにお住まいなんですか」
相手は黙って頷いた。
俺は、自転車を止め、テントに歩み寄った。
「わたくし、こういう者でして」
名刺を差し出すと、相手は珍しそうに受け取った。
「探偵なんてのがほんとにいるのか」
「はい。警察や消防には、火事のあった晩のことを聞かれたんですか」
男は、意外に白い歯を見せてニヤッと笑い、
「タダじゃしゃべれねえな。情報提供料ってのを出してくれねえかな」
俺はおとなしく千円札を三枚差し出した。
「ありがとよ。あそこの倉庫の火事のことだろ。覚えてるよ。夜中に車の音がしたから、何だろうと思って顔出したらさ、スーツ着た男がなんかしてたんだ。黒っぽい車に乗って来てた。そいつがいなくなってしばらくしてから、燃えだしたんだ。何かしかけたんじゃないかと思うよ」
俺はメモを取りながら尋ねた。
「いくつぐらいの人でした」
「若くはねえようだったな。五十ぐらいじゃないか。やけにキョロキョロ周りを見ててさ。俺のいるところは暗かったから、俺のことは見えなかったんだな」
「長いことここに住んでるんですか」
「半年ぐらいかなあ。倉庫から段ボールがでるからね」
何度か、段ボールをリヤカーに積んで運んでいる人を見たことがある。収入になるらしい。
「助かりました。ありがとう」
俺が礼を言うと、男はまたニヤッと笑った。
「こっちこそありがとよ」
俺は自転車で、焼け跡に戻った。
井ノ原は、一人で、少し離れたところから見物人を見ていた。俺は、その横に自転車を横に止め、サドルにまたがったまま声をかけた。
「放火なんですかね」
「さあな」
「不審な人物がいたっていうじゃないですか」
「何でそんなことを聞く」
「いやあちょっと気になって。教えてくれたら、いいこと教えますよ」
「何だよ、いいことって」
「かわい子ちゃんがいる店、見つけたんですよ。すれてない、今時珍しい子ばかりですよ」
俺の言葉を聞いて、井ノ原は、四方に目を配り、小声で言った。
「五十歳ぐらいの男の目撃証言がある」
「倉庫の持ち主ですか」
「年格好は一致する」
「その人のアリバイは」
「微妙だ」
「裏の方に住んでるホームレスからの情報ですか」
「そうだ。お前も聞いたのか」
「どうもありがとうございました。お店はこれです」
俺は、以前、岡田に貰った「ビバビバ」のマッチを渡し、その場から去った。
最初に俺にあった時、井ノ原は、「犯人は必ず現場に戻る」と言っていた。やはり、放火の線で捜査しているのだ。
事務所に戻る途中で腹が減った。倉庫街から橋を渡ってしばらくしてからファミリーレストランをみつけ、五百八十円のランチを食べた。
ミックスフライ定食だった。
食べ終えてから事務所に戻るまで、歯に挟まった白身魚の肉が気になってならなかった。
事務所に戻り、糸楊枝で歯の隙間を掃除し、それから藤木に電話した。
倉庫の所有者の長門については藤木の方でも調べていた。火事のあった夜は、自宅にいたという。家族の証言は証拠としては採用されない。井ノ原が「微妙だ」と言ったのはこのことだろう。
ホームレスの目撃談も、藤木はすでに知っていた。
要するに、俺が調べ上げた以上のことを、藤木はすでに知っている、ということだった。
俺は、長門の会社と自宅の住所を教えて貰い、様子を見に出かけた。
会社の窓から、長門らしい姿が見えた。小太りの実直そうな男だった。しばらく長門の会社のあるビルの入り口を見ていたが、暴力団関係者の出入りはなかった。
近所の飲食店での聞き込みでも、悪い評判はなかい。
捜査第一日目はこうして終わり、五時をすぎてから、裕子から電話があった。
「どうだった。何かわかった?」
「まだ初日なんだから。警察だって何もつかんでないわけだし」
「しっかりしてよ。いいお客さんなんだからね。もしかして、ボーナスがたんまり出るかもしれないわよ。がんばって」
「もしかして、ボーナスが出ても一割は払わなくちゃならないのかな」
「当たり前でしょ!」
電話が切れると、俺はため息をついた。
翌日、俺は長門の自宅を見に行った。駅から徒歩十分の一戸建てだ。
敷地は四十坪ほどだろうか。
藤木からの情報では、長門と同年配の妻。息子二人は独立し、大学生の娘がいるということだった。
計算してみると、俺と同じ歳の時に、子供が三人いたことになる。
地図を見ながら、道を捜す振りをしてうろついていると、娘が出てきた。茶髪にキャミソール。ミニスカート。いかにも今風の娘だ。
娘は、駅へ向かう道を歩き始めたが、すぐに携帯電話が鳴り、耳に当てた。娘の声だけが聞こえる。
「何言ってんの。会いたくないの。パパのことなんか、関係ないもん。じゃあね」
どうやら、男の誘いを断っているらしい。
俺はそのままあとをつけた。娘の行き先は大学だった。新しい情報は得られなかった。
電車に乗り、事務所に戻った。
まだ昼までには間がある。
俺は、自転車の前輪のブレーキの調子を見て貰いがてら、長野の所へ行った。
「昼食をおごるよ」
と言うと、今日はチャーハンとギョーザがいいという。変に遠慮しないところがいいところだ。
俺は中華丼にした。
いつものように、食べながら、倉庫の火事の話をした。
「そりゃあ、保険金目当てに自分で火をつけたと思われても不思議はありませんね」
「目撃者もいるしな」
長野は、餃子をつまんだ箸を止めた。
「その目撃談は気になりますね」
「うん」
「ほんとうに、倉庫街に住んでるのかなあ、そのホームレス」
「どうして」
「だって、食べ物はどうするんでしょう。たいていのホームレスは、コンビニが、賞味期限の切れた弁当なんかを捨てたのを拾って食べてるわけでしょう。あの倉庫街じゃ、食べ物は手に入らない」
「段ボールが手にはいるから住んでる、って言ってたぜ」
「倉庫からは段ボールはほとんど出ませんよ」
「え」
「倉庫からは、段ボール箱に入ったまま小売店に運ばれます。うちにくる自転車だってそうです。だから、小売店からは段ボールはでます。よく、スーパーの裏なんかにからの段ボール箱が転がってるでしょう」
「しかし、倉庫から直接客の家に配達して、段ボール箱は持って帰るっていうのもあるだおろう」
「そういうところは、大量に段ボールが出ますから、たいてい、廃品回収業者と契約しています。ただゴミにして出したりはしません」
今度は俺の手が止まった。
午後は、倉庫の所有者の会社の経営状態を調べて回った。
特に問題はない。不況で仕事は減っているが、不動産を多く持っていて、いざとなればそれを売ることができる。
同居家族は、妻と娘一人。その娘は昨日見ている。
日が暮れてから、俺はもう一度倉庫街へ行ってみた。
離れたところに自転車を止め、足音をしのばせて裏に回った。
倉庫の壁が続いている中、焼け跡だけが底なしの暗黒のように見えた。
青いシートで作ったテントが見えた。しかし、人の気配はない。
俺はテントの前に立った。
「今晩は」
声をかけたが返事はなかった。入り口から中をのぞき、用意してきた懐中電灯で中を照らした。
毛布と卓上コンロ、食器。雑誌が数冊。二・五リットル入りの焼酎のペットボトルがあった。中身は水だろうか。
懐中電灯を消し、テントの前から、焼けた倉庫の方を見た。確かに、裏口があったあたりを見ることができる。街灯の数が少ないのではっきりは見えないが。テントには街灯の光はほとんどとどかない。
俺が、テントから離れようとした時、かすかにエンジン音がした。俺はまたテントの前に戻った。
すぐに、赤いスポーツ・カーが現れた。倉庫の焼け跡の横に止まる。
若い男が運転席から降りてきて、助手席のドアにもたれて立った。助手席は窓を開けただけだ。
「ほら、きれいに焼けてる」
「ほんとだ」
「感謝してくれよ」
「どういう意味」
「俺、ほんとにカオリが好きなんだ。君のために何かしたいんだ」
「何言ってんのよ。あなたのお父さんが困るんじゃないの」
「大丈夫だよ。こんなにうまくいくとは思わなかったよ」
「わけわかんないこと言わないで。帰ろう、こんな暗いとこ、いや」
女の声が、だんだん大きくなってくる。男は肩をすくめて運転席に戻り、爆音を響かせて走り去った。
俺は、車のナンバーをメモ帳に書き付けた。
それから一時間ほど倉庫街を見て回ったが、ホームレスの姿はなかった。
(続く)
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