ブイロクランドは大騒ぎ!

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 ここはブイロクランド国。とある野原で、ふたりの子どもが騒ぎながらとっくみあっている。
 「今日も俺が勝つぞ〜!」
 「そうは行くか。行くで、ネックブリーカードローップ!」
 「ちっくしょう〜! こっちはブレンバスターだー!」
 ふたりは組んずほぐれつプロレスごっこをしていたが、突然ひとりの動きが止まった。誰かに首根っこをつかまえられてしまったのだ。
 「またこんなところでプロレスごっこなんかして! 」
 そう言うのはすらっとしたなかなかカッコイー男。腰に差した剣や服装から見ると、どうやら騎士らしい。
 「もう少し女らしくできないんですか! あなたはこの国の王女さまなんですよ!」
 「坂本か! 離せ! 離せ!」
 王女さまはじたばたするが、騎士の手からは逃れられない。
 「離しません。忘れたんですか。今日は王女さまの13歳のお誕生日。それを祝って隣国からいいなづけの王子さまがやって来るんですよ。早くお城に戻ってきれいになさってください! こんな汚くって王子さまに嫌われちゃったらどうするんですか! ……あいててて!」
 騎士は暴れ回る王女さまに、すねを思いきり蹴飛ばされてしまったのだ。
 だが、騎士の話をぽかんと脇で聞いていた男の子は、びっくりして大声を出した。
 「……剛に……、いいなづけ〜!?」
 暴れる王女さまを取り押さえようとしながら、坂本と呼ばれた男はその男の子に怒鳴った。
 「なんだ准一、まだそこにいたのか。王女さまに乱暴な遊びを教えちゃいかんぞ!」
 「俺が教えてるんやない。いつも剛の方からやろうと言い出すんや……。ってそんなことどうでもええ! 剛、いいなづけってほんとうなんか!」
 「いい茶漬けってなんだよっ」
 暴れながら尋ねる王女さま。
 「いい茶漬けではありません、いいなづけ! 王女さまが大人になったら結婚するお相手ということですっ」
 「そんなの知らねえよっ」
 「いつも言ってるでしょう! 王女さまは生まれたときから隣国の王子と結婚することになってるんです!」
 「王子となんか結婚したくねえよ! 俺は窮屈なのはきれーなんだ! 離せっ。准一助けろーっ」
 「全く! 小さい頃はあんなに素直でかわいかったのに、どーしてこんなにお転婆になっちゃったんだか……」
 顔中を引っかかれながらも、王女さま教育係のカッコイー騎士の坂本は、剛王女さまをお城に引っ張って行った。あとに残ったのは、王女さまの遊び友達で森のきこりの許で育てられている准一だった。准一は呆然と突っ立って、泣き声で叫ぶ。
 「そんなあ。剛にいいなづけなんて……、嘘やろーっ」
 ここで准一の思い出……。
 ふたりが子供の頃……。准一と剛王女は今だってまだ13歳だが、それよりも遙か昔、物心もつかないちっちゃい頃……。気がつくと准一はひとりで森に迷っていたのだった。
 「えーんえーん……」
 泣いている准一の声を聞きつけたのは、坂本と一緒に馬に乗り、アメをなめなめ森を通っていた小さい剛王女。
 「ちゃかもと、止まって。誰か泣いてるみたいよ」
 言われて坂本は馬を止め、耳をすます。
 「……確かに子供の泣き声のようですね」
 当時はまだ凛々しい少年騎士だった坂本は、馬を下り木陰で泣いている准一を見つけて抱き上げた。
 「見かけない子供だな〜。おまえ、どこから来たんだ」
 坂本に抱き上げられても准一は泣くばかり。
 「え〜んえ〜ん……」
 「泣いてちゃわからないよ。名前はなんて言うんだ」
 「……じゅんいち」
 やっと名前だけを言う准一。だが、他のことは聞かれてもなにもわからずに首を横に振るばかり。
 「困ったな。これじゃ家に届けてやることもできない。歳は王女さまと同じくらいみたいだけど……」
 「この子迷子なの? かわいちょうね。わたちのアメをわけてあげる。はい」
 王女のアメをもらって泣きやむ准一。そんな准一に小さい剛王女はにっこりと笑いかけてくれたのだった。
 そして身よりのわからない准一は坂本の計らいで森のきこりに預けられることになり、王女と准一はいつもなかよく遊んで(というか殴り合って)育ったのだった……。
 以上、准一の思い出終わり。
 「剛にいいなづけなんて。俺、ずっと剛を大好きやったのに……」
 准一は手を握りしめた。
 「ようし。王子さまかなんかしらんが、剛は渡さへんで! 剛は俺のもんだー!」
 准一はそう叫ぶとお城に向かって駆け出した。

 さて、しばらくしてお城では、剛王女がおつきの小間使いにドレスを着せられ、大広間に連れてこられていた。
 「やー、王女のドレスかわいいですよ。見違えました」
 坂本が、剛を連れてきた小間使いに話しかける。
 「さすが佳代さんだ。センスがいいですね」
 「そんなことありませんわ……」
 「いいや、剛王女をこんなにかわいくできるなんてすごいですよ」
 剛はそう言う坂本を横目で睨む。
 「……坂本、デレデレしてんなよ」
 「で、デレデレなんてしてません!」
 「センス良くなんかねえよ。こんな恰好だっせーだっせー!」
 「ダサくありませんよ。それでいいんですよ」
 「では坂本さん、わたしはこれで。王女様をお願いします」
 そう言うと大広間から去る我妻佳代。佳代の後ろ姿を見送る坂本。そんな坂本の向こうずねをけっ飛ばす剛。
 「い、痛ー!」
 「坂本、大声出すなよ。もうじき王子様達が来るぜ。なあ、じいちゃん」
 王女の話しかけたじいちゃんとは、ブイロクランドの王様のことである。
 「そうじゃよ坂本。おまえはいつもイライラしすぎじゃ。そんなにカッカしてばかりじゃと早く老けてしまうぞ」
 王女のおじいさまである王さまはとっても王女に甘かった。
 「んぺー」
 坂本にあかんべする剛王女。
 「くっ……」
 悔しそうに歯がみする坂本。
 ぱんぱぱぱぱーん。
 トランペットの音が響く。
 「健王子さまのおなーりー」
 大広間に現れたのは、お付きを従えた隣国のリトルプリンス、健王子だった。
 健王子は、ふてくされた剛王女の姿を見るなりぱっと顔を赤らめた。
 「あれが僕のいいなづけの姫? な、なんてかわいい女の子なんだ……」
 そこへ、お城に駆けつけた准一が、叫びながら大広間に向かって走り込んできた。
 「待ったー! 剛は俺の幼馴染みや、絶対誰にも渡さ……」
 だが、そのとき。
 お城を包む空全体が急に真っ暗になり、大広間からは人々の悲鳴があがった。
 「きゃあああ!!」
 「だ、誰かー!」
 「わっはっはっはっは……。俺は大魔道士、パンサーイノハラだ〜」
 広間が暗くなると共にいつのまにか、ヒョウ柄のマスクにマントをはおった怪しい男が広間の真ん中に現れていたのだ。
 「ぬっ」
 腰から剣を抜いて身構えながら、騎士坂本が怒鳴る。
 「魔道士がこの城になんの用だ!」
 「今日はここで王女さまの誕生パーティーがあるんだって〜〜? この俺さまを呼ばないなんてひどいんじゃないのー!?」
 「なんだと!」
 「王女さまはどこかな〜!? あ、この子か。子供だけどなかなかかわいいじゃな〜い。将来有望だ〜」
 「こらあ、剛に手を出すなー!」
 そこへ飛び出してきたのは准一である。
 「食らえ! 准一ボンバー!」
 だが、准一が殴っても魔王イノハラはなんともない。
 「わはははは。俺は大魔道士よ。ガキなんかに殴られても、蚊に食われたほども感じないもんね」
 「くっそーっ」
 「王女さま。俺といっしょにおいで〜。うちには面白いおもちゃがたくさんあるよ〜。お兄さんがいっしょに遊んであげるからね〜」
 「姫、早く逃げて!」
 今度は健王子が王女をかばって短剣を引き抜き魔王に斬りかかった。だが、健王子もすぐに弾きとばされた。再び健王子が魔王に斬りかかる前に、健王子のお付きの騎士、長野が健王子の前に立った。
 「王子、ここはわたしが! イノハラ食らえっ」
 そういいざま、長野が剣を突き出す。むろん坂本も背後に王女をかばって身構えている。
 「魔道士イノハラ! 王女は渡さんぞ!」
 「わはははは」
 長野は隣国一の剣の使い手、坂本はこの国一番の剣の使い手だったが、このふたりの斬りかかった剣は、どちらも手応えなく、すかっと魔道士イノハラを通過してしまった。
 「ほんとの俺はこっちだよ〜」
 すでにイノハラの実体は、離れたところに移動していたのだ。イノハラがそこで呪文を唱えマントを一振りすると、長野と坂本は広間の壁に叩きつけられてしまった。
 「う、うぬっ」
 「こしゃくなっ」
 立ち上がろうとしてもすぐには立ち上がれないふたり。だがイノハラは、今度は王さまのほうを向いて手を伸ばした。
 「そう言えば、この国のどこかに、魔法の力を持つ宝石があるっていう噂だよね。どんなものかよく知らないけど、王さまの王冠にでも付いてるのかな。王さま、俺にそれちょうだい〜」
 「な、なにをするのじゃ!」
 イノハラが王冠を取ろうとするので、王さまは王冠をつかんで抵抗する。
 「……てめー、うちのじいちゃんになにしやがる!」
 剛王女の瞳が燃え上がった。
 「……准一! 健王子! 三人でいっしょにイノハラに攻撃しよう!」
 「よし!」
 「わかった!」
 頷く准一と健王子。
 そして三人は同時にイノハラに向かって飛び上がった。
 すると三人の姿が白く光り出し、三人いっしょにイノハラに跳び蹴りを食らわした瞬間、あたりにはすごい閃光がきらめいた。
 「ぐ、ぐわあああ……」
 三人の攻撃を受けて苦しげにもだえる魔道士パンサー・イノハラ。王女、准一、健王子の三人は勢い余って自分たちも床に転がるが、すぐに立ち上がる。
 「い、今のはなんなんだ……」
 言い終わらないうちに見る間にイノハラはぐぐぐぐと小さくなり、煙のようになっていつのまにか見えなくなってしまった。
 「じいちゃん!」
 「王さま、大丈夫ですか」
 王さまに駆け寄る三人。
 「あ、ああ大丈夫じゃ。それより、さっきの光、あれは……」
 「はい、まちがいありません。あれは、この国とわが国の王家の血筋を引く者が力を合わせたときに起こるという伝説の技、”カミセン・ライトニング・アタック”だと思われます」
 「やはりそうか……」
 そう言ったのは、傷口を押さえながら立ち上がった騎士・長野だった。それを聞くと、坂本は不思議そうに首を傾げ。健、剛、准一を見つめる。
 「剛姫と健王子が力を合わせたときにあの技が出るのは不思議ではないにしても、あのときは、どういうわけか准一も光っているように見えたが……」
 「……じゅんいち……」
 そうつぶやくと、長野はじっと准一を見つめたが、突然はっとした顔になり、
 「で、では!」
 と叫んだ。
 「もしかしてあなたさまは、健王子と腹違いの兄弟の准一王子! まさか生きておいでだったとは!」
 「ええーー!」
 長野の言葉に驚く坂本、准一、剛。
 「准一が」
 「健王子と」
 「腹違いの兄弟!?」
 「はい。健王子も准一王子も幼いときに母君を亡くされました。おふたりのお母上はおふたかたともおやさしい性格で、お互いに嫌ってはいらっしゃらなかったのですが、おふたりを育てた者同士はいがみ合うようになり、十年前、おふたりがみっつのとき、准一王子は突然行方不明になってしまわれたのです」
 「今から十年前というと」
 考える坂本。
 「ちょうど准一を拾ったときだ……」
 「じゃあ、お、俺も王子なのか……」
 驚いて、次の言葉が出ない准一。長野が笑顔でうなずく。
 「はい。さっきの輝きが間違いのない証拠。あなたさまは王子です」
 「じゃ、じゃあ剛のいいなづけと言うのは……」
 「わが国の王子どちらかが剛王女と結婚すればよいのです。准一さまが行方不明になられてからは、我が国には健王子しかいらっしゃらなかったので、健王子がいいなづけとされていましたが、准一王子が見つかった今は、剛姫と結婚されるのは健王子でも准一王子でもどちらでもかまいません」
 「やったー!」
 飛び上がる准一。
 「剛と結婚するのは幼馴染みのこの俺や〜!」
 「ちょ、ちょっと待てよ。俺だって剛姫を一目見たときから運命を感じたんだよ」
 「なに言ってるんや。俺なんかどんだけ乱暴者の剛に殴られたり蹴られたりしたと思ってるんや。それでも続く愛が本物の愛や」 
 「そっちこそなに言ってるんだよ。俺なんか、こんな胸ぺったんこでがに股の姫を一目見てかわいいと思ったんだよ。こっちの愛が本物だろう」
 「なんやと〜」
 「なんだと〜」
 だが、にらみ合う二人に剛王女のパンチが炸裂した。
 「うっせー! よけいなお世話だー!」
 剛王女は腰に手を当てふたりに怒鳴る。
 「よく聞けよ! 俺はどっちとも結婚しねーからな! 俺は俺だ! やりてーよーにやる!」
 そう言うと剛王女は、ドレスの裾を細い脚の太股まで持ち上げて大広間から逃げ出した。
 「そんなあ、せっかく俺が剛のいいなづけになれそうやったのに!」
 「待ってよ、姫! 僕たちまだなんの話もしてないよ!」
 准一と健王子は、あわてて立ち上がるとすぐ剛王女を追って駆けだした。
 「やれやれ……」
 あきれてそれを見送る坂本と長野。
 「あの三人いったいどうなるんだ……」
 そこへ息せき切って駆けつけたのは、美人小間使いの我妻佳代だった。
 「さ、坂本さん!」
 「あ、佳代さん」
 「大広間に魔道士が現れたんですって? 王様と姫様は!?」
 「大丈夫ですよ。魔道士イノハラはもう去りました」
 「そうですの……」
 ほっとしたのか、力の抜けたような我妻佳代。
 「ああ見えてもさすが王女と王子です。彼らは強い力に守られているんですよ」
 「……」
 「そのぶん剛王女は人並みはずれたおてんばですけどね。佳代さん、魔道士はまたこの城を狙うかも知れません。気になることがあったら、いつでもこの坂本に言ってください」
 「……わかりましたわ」
 佳代が去ると、坂本はその後ろ姿を見送る。そんな坂本を見て、長野はうなずく。
 「ははーん……」
 
 翌日。
 「キャー!」
 ブイロクランドのお城に、女性の悲鳴が響く。声のした部屋に駆けつける坂本と長野。
 「どうしました!」
 「佳代さん、大丈夫ですか!」
 「姫様の衣装箱を開けたらカエルがいっぱい入ってたんですー!」
 「……あいつらのしわざだ!」
 坂本と長野は、王女達のいるはずの部屋のドアを勢いよく開く。
 「……剛王女! 健王子! 准一王子!」
 「三人ともいないぞ」
  
 「いいか、行くぞ! カミセン・ライトニング・アターック!」
 お城の裏山では王女の怒鳴り声が聞こえた。
 「だめだめだめ、タイミングが全然合ってない。もっと高く飛んでキックする!」
 「も、もうへとへとや」
 「剛姫、もうかんべんして〜」
 「もうほんと弱っちいな、おまえら」
 「だって剛姫はさっきから一回も練習してないじゃんか」
 「うるせー、口答えすんな。俺はふたりが完全に揃ってから合わせるんだよ。……お前達、これさえ完璧に使いこなせれば俺たちは無敵なんだぜ。魔道士イノハラもやっつけられるし、坂本や長野の言うことだって聞かなくてすむ」
 「だってもう無理やて」
 「疲れて立てないよ〜」
 「……あ、そう」
 へたったふたりを冷たく見下ろす剛王女。
 「……せっかく最後までがんばったほうといいなづけになってやってもいいかなーっって思ってたのによ。残念だなーっ。ふたりとも俺と結婚したくないんだ」
 それを聞いてがばっと起きあがるふたり。
 「よ、よし、僕もう一度やるよ」
 「俺だってやるで!」
 「よーしその調子だ、がんばれがんばれえ! いち、にいの、カミセンライトニング……」
      
 さて、ここは魔道士パンサーイノハラのおうち。
 「ちっくしょう、全治三ヶ月の重傷だ」
 イノハラはギプスをはめてベットに寝ている。
 「全く、この俺がこんなめに会うなんて。なんてやつらだ……」
 しかし、そう言いながらもイノハラは急ににやにやしながら天井を見上げる。
 「……まあいいや。俺って実は、自分の手に負えないような子が好きなんだよね〜。あの王女さまってまさしく俺のタイプ……」
 
 「こらあ、三人とも待ちなさい! 衣装箱にカエルを入れたのはわかってるんです!」
 「坂本だ! 准一、健、あっちに逃げろ!」
 「ダメです。これからお仕置きですよ!」
 「げ、こっちからは長野か」
 「……王女、ほうらもう逃げられませんよ」
 追いつめられた剛王女は、いきなりポケットからなにか取り出して坂本に投げる。
 「ほーれ坂本、芋虫やるぜ!」
 「ウ、ウギャー!! む、虫虫! 怖い!」
 「うひゃひゃひゃひゃ! それ今だ、逃げろーっ」
 ……ブイロクランドの王女さまのお転婆は、ますますひどくなりました。

 なんか続きそうな感じはするんですが……、読み切りということでお願いしますーっ。

(2001.6.3 hirune)

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