第4問◆ツバメと新幹線
 
  古代史ドラマ「飛鳥随想」に中臣鎌足役で主演することになった准一は、ロケ先の奈良・京都と東京を忙しく往復する毎日を過ごしていた。
 その日も准一は大阪へ向かう新幹線に乗り込み、新幹線が発車するとすぐ携帯を開いた。携帯のサイトで井ノ原が書いている日記「イノッチの“だって涙が出ちゃう。男の子だもん”」(略称「イノだて」)を読むためである。
 井ノ原の日記を読みながら准一は思わず、「あ」と小さく声を出した。自分の仕事が忙しくて忘れていたが、井ノ原の日記には、昨夜、トニセンが大阪で千秋楽を迎えた芝居の打ち上げの様子や長い芝居を終えた感動がつづられてあったのだ。
「舞台お疲れさま」
 准一は携帯に向かってつぶやき、決意を新たにした。みんなそれぞれの仕事をがんばっているのだ。自分もこのドラマに全力投球しなければ、と……。
 ちょうど窓の外をツバメが飛ぶのが見えた。まるで新幹線と競争でもするかのように。
「おまえもがんばりや」
 准一はツバメに言った。それからじきに、准一はうとうとと居眠りを始めた。


 夢の中でも准一は大阪に向かう新幹線に乗っていた。
 そして大阪方面からはちょうど、舞台を終えた坂本、長野、井ノ原が新幹線に乗って東京に向かってきているところだった。どうしてそんなことがわかるのかわからないが、夢だからわかるのである。准一は時計を見上げて時刻を確認した。時計はちょうど12時を指していた。
 そのときだった。准一の新幹線の先頭から、ツバメが一羽飛び立った。ツバメはすばらしい速さだった。准一の乗った新幹線よりはるかに速い。
 ツバメはそのまま飛び続け、なんと、トニセンの乗った新幹線の先頭に届くや否や、まさにツバメ返しの名の通り身を翻し、今度は再び准一の乗った新幹線の先頭まで戻ってきた。そして准一の乗った新幹線の先頭に届くやいなや、再びツバメ返りをしてトニセンの乗る新幹線の先頭へと飛び立っていく。ツバメは延々とそれを繰り返すのであった。
 「目が回る!」
 夢の中の准一は、新幹線に乗っていながら、まるで自分がツバメになったかのように、ツバメの飛ぶ軌跡をも感じているのであった。いったいこれはいつまで続くのか……。夢ながらも准一の頭がくらくらしてきたとき。
 准一とトニセンの乗った新幹線が轟音をたててすれ違った! 同時に准一はツバメの存在を感じなくなった。ツバメは飛ぶのをやめたらしい。准一は急いで時計を見上げた。時計は1時半ぴったりを指していた。
 メールの着信音が鳴った。准一はあわてて携帯を開いた。そこには、こんなメールが届いていた。

 「准ちゃんに質問です。准ちゃんの乗った新幹線の速度は時速200km。俺たちの乗った新幹線は時速150km。ツバメの飛ぶ速度は時速300kmでした。
 ではいったい、俺たちの新幹線がすれ違うまでの1時間半の間に、ふたつの新幹線を往復したツバメは全部で何km飛び回ったことになるでしょう? ……もし間違えたら夏コンの時、准ちゃんに女子用のスクール水着を着てもらうから、よく考えてね。by井ノ原(´`)」
 

 新幹線に乗って居眠りしていた准一が急に「うーん、うーん」とうなされだした。
 賢明な読者諸君。准一の安らかな眠りのために、准一に代わり井ノ原の問いに答えてやってはくれまいか?
これは古典的な問題です(^^)(2004.6.8 hirune)


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ツバメと新幹線◆解答・そして……
<解答>
 ふたつの新幹線の間をツバメが往復した距離を出して計算した人はいませんよね? ほんとは、そう計算させるひっかけ問題なのですが、hiruneの文章ではうまく書けませんでした(笑)。
 そうです、答は単純に速度×時間で求められます。300km/h×1.5h=450km。ツバメは450kmを飛び回りました。


 「な、なんか悪い夢を見たみたいだ……」
 額にかいた嫌な汗を拭きながら准一は目を覚ました。
 すぐに新幹線は大阪に着いた。新幹線の改札に近づいたところで、准一はギョッとしたような顔になり、帽子を深く下ろして足早に歩き出した。
 「あれ? 准ちゃん!? 准ちゃんじゃないの!?」
 井ノ原の声がした。
 「ほーら、やっぱり准ちゃんだ」
 行き過ぎようとする准一の前に回り込んで顔をのぞき込んだ井ノ原がにこにこしながら言った。
 「今俺が声かけたの、気がつかなかったの? やー偶然だねえ。俺たちが大阪の間、元気にやってた? せっかくだから一緒に飯でも食いたいけど、新幹線の時間がすぐだからさあ。新幹線に乗ったらメールするよ」
 井ノ原からメールすると言われ、急に准一の顔色が変わった。准一は怒鳴った。
 「……450キロ!!」
 「は!?」
 「これでいいやろ! 俺は水着は絶対着いへんからな!」
 そう叫ぶと准一は、キョトンとした顔の井ノ原を残して改札に向かって駆けだした。
 後ろで待っていた長野と坂本が井ノ原の所にやって来た。
 「どうしたの?」
 「さっきのヤツ岡田じゃなかったのか?」
 「いや、確かに岡田だったけど……」
 とまどった顔で井ノ原が言った。
 「……450キロっていったいなんだったんだろう……」
 「岡田も疲れてるんだよ、きっと」
 長野が慰め顔で言った。
 「さあ、東京へ帰ろうぜ!」
 坂本が促した。3人はエスカレーターに向かって歩き出す。
 いつのまにか季節は初夏。駅を歩く人たちも皆半袖だ。どこかの軒に巣でも作ったのか、3人の頭上をツバメが飛びすぎていった。
 
ツバメと新幹線おわり(2004.6.30 hirune)