第2問◆6つの鍵 |
病室のドアを開き、V6のメンバー6人は神妙な面もちで中に入った。 部屋の中には白いベッドがひとつあり、そこに、70年配の老人が横たわっている。老人に向かって坂本がそっと声を掛けた。 「ジャリーさん、おかげんはいかがですか?」 そう、ベットに横たわっていたのは、パズルの国のV6の所属する芸能事務所、「ジャリーズ」の社長、ジャリー南川だった。南川は昨晩体調を崩し、病院に入院したのだった。 「V6か。よく来てくれたな」 「急に入院されたと聞いてみんなびっくりしました。……それで、V6に緊急のお話とはなんでしょう?」 坂本が尋ねた。すると南川は答えた。 「実は、ジャリーズ事務所のことで、ユー達に大事な話があるのだ。6人とも私の傍に寄りなさい」 「はい」 6人はベットを取り囲むように南川の周りに集まった。 「今日私は手術をすることになった。どういう結果になるかわからない手術なので、手術前に誰かにこの話をしておきたかったのだが、残念ながら今日は、マッチにも少年隊にもSMAPにもTOKIOにもキンキキッズにも、どーしても抜けられない仕事が入っていてね」 「はい」 「それでユー達6人に来てもらったと言うわけだ」 「……」 それではまるで、自分たちは暇でしょうがないダメタレントみたいではないか。6人はちょっと複雑な表情になった。南川は声を落とした。 「実は、わがジャリーズ事務所には秘密の金庫がある。そしてその金庫には、事務所になにかあった時のために、とても重要なものが入っている」 事務所の秘密金庫。これはたいへんな話だ。6人はごくりと唾を飲んだ。 「私はその金庫の鍵をユー達に託そうと思う。今こそ事務所の危機だ、と思ったときに鍵を開けて金庫の中のものを使ってもらいたい。金庫の中のものは、時期を間違えず使えば必ず危機を乗り切る効果がある」 そう言われた6人はそれぞれ、金庫の中身を想像した。いったい金庫の中にはなにが入っているだろうか。現金とか有価証券とかそういったたぐいのものなのか、それともなにかの情報といったものなのか……。 そこへ、なにやら見慣れぬ男がアタッシェケースを持ってやって来た。南川に命令され、男はV6の前でアタッシェケースを開いた。その中には、それぞれ形の違う鍵が6個並んで入っていた。その鍵を見ながら南川が言う。 「秘密の金庫には鍵穴が6つある。この6つの鍵が揃わないと金庫は開かない仕組みなのだ。大事な金庫なので用心した」 6人はうなずいた。 「ユー達はちょうど6人だからこれを1本ずつ渡せばいいようなものだが、そうすると、6人全員が揃わないと金庫が開かないということになる」 「はい」 長野がうなずいた。 「だが6人全員が即座に揃うのはとても難しい。どうしても何人かが仕事から離れられない場合もあるだろうし」 「そうですね」 岡田がうなずいた。 「なかには、いざというときに危機を危機だと認識できず、のほほんとしているような頭のヤツもいるかもしれんしな」 するとみんなが剛の顔を見た。 「なんで俺を見るんだよ!」 「剛、気のせいだよ」 健がなぐさめた。 「だが、そういったことで金庫が開けられないということになると、用心が過ぎて、事務所を救うタイミングを逃してしまうことになる。危機を乗り切るには迅速な判断が大切だ。しかし、いくらスピーディーとは言っても、1人の判断で金庫を開けるのはやはり危険だ。金庫を開けるには、せめて2人の同意が欲しい。それが考えた末の私の結論だ。わかるかね? 私は、誰でもいい、この中の2人が事務所の危機だと判断したら、金庫を開けられるようなシステムにして欲しいのだ」 「2人の判断で金庫を開ける……」 坂本が、南川の言葉を繰り返した。 「そうだ。1人1本ずつこの鍵を持っていたら6人が揃わないと金庫は開かないが、1人が何本ずつか鍵を持っていれば、2人の気持ちが揃えば金庫が開くようにできるはずだ。そうだろう?」 「そ、そうですよねえ?」 井ノ原が自信なさげに返事をした。 「わかってくれたか」 そう言って南川はアタッシェケースを持ってきた男を指さした。 「この男は優秀な鍵師だ。鍵のコピーは私が今からこの男に命令する」 そして南川は最後に重々しく尋ねた。 「だから、早く教えて欲しい。もうすぐ手術だし、私には時間がないのだ。……いったい鍵を何本コピーしてどのようにユー達に渡しておけば、ユー達のうち2人の判断で即座に金庫を開けられるようになるんだね?」 V6が即座にこの問いに答えられれば、南川はV6を見直し、手術成功のあかつきには、事務所におけるV6の待遇をもっと良くすることは確実だろう。だが、V6メンバーの表情を見ると、彼らが今すぐこの問いに答えるのはどうやら無理なようだ。 そこで、ユー達、もとい、君達にお願いである。V6メンバー達に代わって南川の質問の答えを考え、彼らにこっそりと教えてやってはくれないだろうか!? |
ちょっと問題がややこしかったでしょうか? 要するに、「1人では金庫を開けられないが、どの2人でも2人いれば必ず鍵が6つ揃って金庫が開くようになる」ためには、6人それぞれがどんなふうに鍵を持てばいいか、という問題です(^^) (2004.3.19 hirune) |
<解答> 6人中の2人が同意しないと6つの鍵が揃わないということは、各メンバーには欠けている鍵があるということになります。しかも、欠けている鍵は6人とも異なります。そうしなければ、6人がそれぞれ独立した発言力を持たないからです。ですから、6人がそれぞれひとつずつ違う欠けた鍵があるように5本の鍵を持てば、6人中どの2人でも、2人が揃えば6つの鍵が全部揃い、しかも、2人いなければ鍵が開かないようになります。 たとえば、6つの鍵をそれぞれ、1、2、3、4、5、6と命名するとすると、坂本は1を除く2、3、4、5、6の鍵を持ち、長野は2を除く1、3、4、5、6の鍵を持ち、井ノ原は3を除く1、2、4、5、6の鍵を持ち、森田は4を除く1、2、3、5、6の鍵を持ち、三宅は5を除く1、2,3、4、6の鍵を持ち、岡田は6を除く1、2、3、4、5の鍵を持つというようにすればいいわけです。5本も鍵を持ち歩くって、ちょっとたいへんですけどね(笑) 南川の前で答えに詰まってしまったV6メンバー達だったが、しばらくすると全員が同時に叫んだ。 「わかった!!!」 そして6人がいっしょに話し始めたので、南川が手で制した。 「待ってくれ。私は聖徳太子じゃないんだ。話すのは誰かひとりにしてくれ」 そこで坂本が、6つの鍵はどれも4本ずつコピーして欲しいこと、そうすると、元の鍵を合わせてどの鍵も5本ずつとなるので、自分たちはそれぞれ1本は欠けた鍵があるように5本の鍵を持つ、そうすれば、1人では金庫の鍵は開けられないが、2人いればどの2人でも金庫が開けられるようになる、ということを理路整然と説明した。 それを聞くと南川は感心した。 「なるほど。ユー達がそんなに頭がいいとは思わなかった。見直したよ。実は今、事務所には、この仕事さえ受ければ大ブレイクは間違いなしという、すごい仕事のオファーが来ているのだが、それはV6に任せても良さそうだな」 「とーーーーぜんです」 坂本が深くうなずいた。他の5人もうしろでうなずいた。 鍵はすぐに4本ずつコピーされ、メンバーは5本ずつ鍵を持った。やがて医師と看護婦が部屋に来て、南川は「後は頼む」と6人に言い残して病室を出ていった。 部屋を出て歩きながら、健が心配そうに言った。 「ジャリーさんの手術、大丈夫かなあ」 励ますように長野が言った。 「大丈夫だよ。ジャリーさんは運の強い人だ」 井ノ原が言った。 「それにしても俺達、よくあのとき、鍵をどう持てばいいのかわかったよなあ」 剛が言った。 「なんか俺、突然、頭の中で声が聞こえたんだよ。それが答えだったんだ」 岡田が言った。 「俺もそう。人間、ここぞというときには頭が働くもんなんだな」 坂本が突然足を止めて5人の顔を見回した。 「みんな。俺達はたいへんなことを任されたんだ。ジャリーさんが元気になるときまで、事務所の命運は俺達の手に握られている。事務所の危機を見逃さないよう、一瞬も気を緩めちゃならないぞ」 「うん!」 6人はうなずきあい、それぞれ5本の鍵を強く握りしめた。 |
☆ ☆ ☆ |
それからしばらくV6メンバー達は、5本の鍵を常にじゃらじゃらと肌身離さず携え、事務所の危機となるような情報が入っては来ないかと耳をすまし、緊張した日々を過ごした。 (ちなみに、V6ファンの間では、今V6メンバー達の間で鍵がブームになっているという噂が起こり、じゃらじゃらとたくさんの鍵を付けるのが流行した) その間に南川は無事に手術を終えた。 まだ面会はできないものの、南川の術後の回復は順調だという話を聞き、V6メンバーたちはほっと安心の息をついた。 そして、事務所になにごとも起きないうちに、南川は体力を回復し、面会謝絶も解けた。V6メンバー達は、肩の荷を下ろした気持ちで、南川と面会することとなった。 6人で連れ立って前と同じ南川の病室に向かいながら、井ノ原が言った。 「いやー、せっかく俺達の実力を見せるチャンスだったのに、なにも起こらないなんてちょっとつまんなかったな」 「なに言うんだよ井ノ原くん」 と健が言った。 「事務所の危機なんてないほうがいいに決まってるだろ」 「それはそうだけどさー。でも、考えて見ろよ。事務所が危ない!ってみんなが騒いでるときに颯爽と俺達が出てって秘密の金庫を開けるんだぜ? 誰もが俺達を見直すよ。それにしても金庫の中身ってなんだったんだろう」 「ちょっと興味あったなー。なんかすごいものだったんだろうな」 と、剛。 「そういうのは知らないほうがいいんだよ」 と言うのは長野だった。 「知ってしまうと厄介だったりもするから。だから秘密なんだよ」 「まあ、なにごとも起こらなかったとはいえ、俺達V6がちゃんとジャリーさんの頼みをやりとげたことは確かだよな」 と坂本が重々しく言った。 「無事だったのはなによりだ。きっとジャリーさんも俺達を評価してくれてるだろう」 「うん!」 みんなはうなずいた。これで、すごい仕事はV6のものなのだ。 「さあ、病室に入るぞ!」 坂本がドアをノックした。 「やあ、ユー達、見舞いに来てくれたのか。ありがとう」 手術後でやつれてはいたものの、6人を迎えたジャリー南川は笑顔であった。 「まあ、そのへんの椅子にでも座ってよ」 「いえ、結構です」 「そうなの? で、私がいない間、事務所のほう、どうだった?」 いよいよ肝腎の話だ。V6は全員揃ってピシッと姿勢を正した。 「は。事務所にはなんら危機らしいものはありませんでした!」 「そう。ならいいの。まあ、別に心配もしてなかったけどね。なに? 妙にみんなしゃっちょこばってるね。どうしたの? ガムでもどう? ブルーベリー味だけど」 そう言われて坂本はどう答えていいかわからないような顔になった。 我慢できなくなって井ノ原が口を挟んだ。 「あのー、ジャリーさん」 「ん? なに?」 「事務所の秘密の金庫の話なんですけどね」 「事務所? ……秘密? ……金庫?」 「あの、これ、俺達が手術前に預かった秘密の金庫の鍵なんですけど」 井ノ原はそう言って自分の分の鍵を見せた。他のメンバーもじゃらじゃらと自分の鍵を取り出した。 「大事な物ですから、早くお返ししたくて持ってきました」 「ユー達みんな、妙な鍵をごっそり持ってるんだねえ。なにそれ。私への見舞いなの? なにか最近の流行もの?」 「……ええーー!?」 南川の反応に、6人は思わず大きな叫び声を挙げた。 「ジャリーさん!?」 「俺達をからかってるんですか!?」 「あのとき、あんなに真剣に俺達に鍵のことを頼んだじゃないですか!」 「まさか、まさか、忘れちゃったんですか!?」 「絶対大ブレイクする仕事を任せるって話も忘れたんですか!?」 「ジャリーさん!!」 するとそこへ、南川の姪のジュリエット不二山(こんな名前だが日本人)が、大きな花瓶いっぱいの花を持って部屋に入ってきた。 「あら、V6来てたの。見てよこの花、すごいでしょ。さっき東山くんが持ってきてくれたのよ」 「ジュリエットさん……」 「どうしたの。なにかあったの?」 「ジャリーさんの手術、失敗だったんですか……?」 「なに言ってるの。伯父さんの手術は成功よ」 「そうだ、私は元気だよ。どうしたんだね、ユー達みんな顔色が悪いよ」 「だだだって、ジャリーさんは、手術の直前に俺達に言ったことを忘れちゃってるんですよ」 それを聞くと、ジュリエットは大きな声で笑い出した。 「いやあねえ。だから手術は成功なんじゃないの。手術の前の晩、伯父さんは急に様子がおかしくなって、わけのわからないことばかり言い始めたの。伯父さんのすることに反対すると怒り出すので、したいようにさせてあげてたのだけど、手術の後はもうちっともそういうことはなくなったわ。元の伯父さんよ。だからもう、大丈夫なのよ」 「じ、じゃあ、事務所の秘密の金庫っていうのは……」 「うちの事務所に秘密の金庫なんてないわよ」 V6はコントのようにこけた。 |
6つの鍵おわり(2004.3.28 hirune) |