井ノ原くんの問題
 
これは、V6が大阪MBSラジオで「オレたち×××やってまーす」という番組をしているとき、
たぶん、2000年頃に考えついて書いたものです。
 久本さんというのは、V6と一緒に番組パーソナリティをしてくれていた久本朋子さん。
V6メンバーは当初、順番に決まりのない3人ずつでこの番組に出演していました。
それを前提に書かれていることをご承知下さい。(2004.3.2 hirune)

 「お疲れさまー!」
 そう言いざま、元気に健がスタジオの外に飛び出した。
 「はい、お疲れさまー」
 スタッフたちが、もう出ていってしまった健に挨拶を返す。スタッフと打ち合わせをしていた久本さんも、顔を上げて手を振った。
 「お疲れさん、また来週なあ!」
 「来週も来るかどうかわかりませんけど〜」
 部屋を出がてら、そう言うのは長野。
 「来たらよろしくお願いしますー」
 「そうやなあ。そっちは6人が交替やからなあ。ま、わたしは健が来ればそれでええけど」
 と言いながら、当年取って35になる久本さんがガハハと笑う。これは、今日のラジオの中身と関係がある。久本さんの話では、V6メンバーの中で久本さんと抜群に相性がいいのは健! と、占いで出たそうなのだ。
 「わかりました、健は毎週来るようにしときます」
 そんないい加減な約束をにこにこしながら言って、長野は最後にまた「お疲れさま」と挨拶して部屋を出る。
 「あ、長野くん待ってよ」
 最後になってしまった井ノ原は、あわててジャケットをはおり、長野のあとを追いながら、最後に振り返って挨拶した。
 「じゃ、久本さん、気をつけて帰って下さい。皆さんお疲れさまでした」
 「あいよ、イノッチもなー」
 「お疲れさまー」
 
 時間は深夜の零時を少し過ぎたところである。火曜の夜の10時から12時までは、生放送のラジオの仕事があり、それを終えた今は日付も変わり、曜日は水曜に変わっていた。
 井ノ原がスタジオを出ると、健と長野は、スタジオ前の廊下で井ノ原を待ってくれていた。
 「あ、待っててくれたのー」
 井ノ原が思わず笑顔で言うと、健がかわいくない声を出す。
 「たりめえだろ」
 「そうかよお、たいてい黙って先に帰っちゃうじゃねえかよ」
 「黙ってなんか帰りません。声かけて別れようと思っても、井ノ原くんはたいてい知り合いと出会って話し込んじゃうんじゃねえか。だからしょうがなく先に帰ってるの」
 「そうなのお?」
 「そうだよ」
 健と井ノ原がそんなことを言い合っている間に、長野は腕時計をちらりと見た。
 「じゃあオレ、これで帰るから」
 「え、なんかあんの、長野くん」
 「友達と飲みに行く約束してるんだよねー。うまくて気の利いた店をみつけたらしいんだよ」
 「へー」
 「じゃあねー」
 長野はにこやかに手を振って、ふたりに背を向け、さっさと廊下を歩きだした。
 「ちぇえ、うまい店ならオレたちも誘ってくれればいいのによー。長野くん冷てえなあ」
 健と残されて、井ノ原は口をとがらせる。
 「なあ、健」
 「いいじゃない。長野くんデートかもしれないし、たまには普通の友達と飲みたいのかもしれないし、邪魔しちゃ悪いよ」
 と健は大人ぶった返事をする。健がそんなことを言うのを聞くと、井ノ原は、どうしても健をからかわずにはいられなくなってしまうのだ。エレベーターに向かって歩きながら、井ノ原は健の顔をにやにやしながらのぞき込んだ。
 「すげえ、健、大人だね」
 「大人とかそういうんじゃなくて、普通そう考えるだろ。たとえメンバーでも、他の人のことはあれこれ気にしないほうがいいんだよ」
 「さすがはたちになると違うね。このごろの健は言うことが違ってきたね」
 「からかうなよ」
 「あ、わかっちゃった?」
 「……、もう」
 健がふくれる。
 テレビ局のドアを開けると、恐ろしく冷たい風がふたりに吹きつけた。井ノ原はぶるっと身を震わせる。車寄せにタクシーが何台か止まっている。健がタクシーに手を挙げようとするので、井ノ原は急いで健に声をかけた。
 「健、今日はこのまま帰るの」
 「うん、明日ロケが早いからね」
 「でもさあ、晩飯、まだだろう? どうせこれからなんか食うんだろう?」
 「うん、まあ……、でもうちに帰って食べればいいし」
 「そんなさびしいこと言わないでさあ。オレ、送るから、どっかで飯食ってこうよ」
 「ええー」
 「なにがいい? こんな時間じゃ飲み屋か焼き肉、寿司……、あとファミレスか。どこでも好きなとこ連れてくからさ。こう寒くちゃひとりでこのまま帰る気にならないよ。ね、お願い! 健くん、健ちゃん、三宅さん。オレに送らせて。一緒に食べてこう」
 下手に出た井ノ原に、健は悪い気はしないらしく、井ノ原の顔を見て、もったいぶったように考え込んだ。
 「うーーん、そうだなあ」
 「な、な、いいだろ。そうだ、食べたらちょっとビリヤード寄ろうか。ボーリングでもいいけど」
 そう言い募ったのがいけなかったのだろうか、健はあきれた顔で井ノ原を見て、
 「これから井ノ原くんと出かけたら、帰りたくなっても帰れそうにないや」
 と言った。
 「え?」
 「悪いけど、オレ、暇じゃねえんだよ。明日は早朝ロケのあと、伊東家の収録もあるし。やっぱプロなら体調を整えとかなくちゃいけないだろ」
 「……」
 「寝不足だとメイクののりも悪くなっちゃうし。ブルーとJとも遊んでやんなきゃ。悪いけど、やっぱ帰るね」
 「そんなっ」
 「井ノ原くんもあんまりネルをひとりでほっといちゃだめだよ」
 「……わかってるよっ」
 健が手を挙げると、待っていたタクシーがすぐにふたりの前に止まる。健は手早く自分の家のある町の名前を告げた。(なんとこのラジオは大阪で放送されるラジオなのに、収録は東京のテレビ局で行われているのだった!)
 タクシーに乗りこもうとしながら、ふと動きを止めて健が言った。
 「そういえば、来週なら、ラジオのあとみんなで飯食いに行ってもいいなー」
 「よし、わかった、来週だな!」
 「でも来週も井ノ原くんとオレがいっしょにラジオをやるとは限らないよね。……まあいいや、誰とでも、オレ、来週いっしょにラジオをやる人とはご飯を食べて帰ろう!」
 「なんだよ、それ……」
 「じゃあね、井ノ原くん、舞台の稽古がんばってね」
 タクシーに乗り込んだ健が手を振った。あっという間にタクシーが出ていく。
 「あーあ、行っちゃったー……」
 タクシーを見送りながら、井ノ原は、健が言った言葉をもう一度繰り返して考えてみた。
 「来週かあ。健は、誰とでも、来週いっしょのヤツとは飯を食うって言ったんだよなあ……。来週もまた、オレと健といっしょになるかなあ」
 なにかが心にひっかかる。自分の車を止めた駐車場のほうへ行こうとして、井ノ原は足を止めた。
 「待てよ。確か、オレは、先週もラジオに出たはずだ」
 思い返す。確かにそうだ。先週は、坂本くんと岡田といっしょにラジオに出た。坂本くんが「マーベラスでーす」って自己紹介して……、確かラジオの収録の前、井ノ原が久しぶりに来たと言ったら、岡田は「自分は3週連続で来てる」と言ったっけ。
 今週が長野くんと健とオレ、先週が坂本くんと岡田とオレだから、どちらもトニセンふたりとカミセンひとりの組み合わせなのに、オレ以外のふたりはどちらも違うメンバーだったんだ……。
 そのときだった。
 「!?」
 ふと見上げた星空に、井ノ原は、V6・6人の中のさまざまな組み合わせの3人のメンバーが、それぞれ楽しそうに話している光景が、輝きながら浮かび上がっているのを見た。それは、ひとつは今日のメンバー、井ノ原と長野と三宅であり、ひとつは先週のメンバー、井ノ原と坂本と岡田であり、またひとつは井ノ原と三宅と森田であり、ひとつは井ノ原と坂本と森田であった。また、井ノ原の入らない3人のグループもたくさんあった。坂本が森田と三宅の相手をしているのもあれば、長野が三宅と岡田の話を聞いている場面もある。カミセンの3人が話しているものもあれば、トニセンの3人が話しているものもある。驚いて、井ノ原はつぶやいた。
 「……これ、いったい、いくつの組み合わせがあるんだ……」
 このままこの星空を見上げて考え続けていたら、きっと井ノ原は、なにか、世の中の真理をみつけたかもしれない。だが、いきなり、後ろから大きな声が井ノ原を呼んだ。
 「イノッチ! ……なにしてんの」
 「あ、久本さん……、スタッフの方たちも」
 「イノッチ、ずいぶん前にスタジオを出たやろ。今までなにしてたん。……あれ? 長野くんと健は?」
 「いやあ、ふたりとも用があるとか言って、先に帰っちゃったんですよ」
 「そうかあ。今夜はわたし、東京に泊まりなの。だからこれからみんなで繰りだそうって言ってるんだけど、そんならイノッチも来る?」 
 願ってもない誘いである。
 「行く行く行きますよ。……そんならそうとはじめから誘ってくれれば、余計なことを考えずにすんだのに」
 「……余計なことって?」
 「いや、余計なって言うか……。別に余計でもないですけどね。大丈夫、オレどんなに忙しくても誘いを断ったりしませんから。行きましょう、行きましょう」
 「そんなら、守衛さんに行って、車は置いてったほうがええで。飲むからな」
 「わかりました」
 元気よく返事をして、井ノ原はいそいそと駐車場の守衛室に向かった。すっかり、さっき自分が考えたことを忘れ果てて……。
★★★


 さて、大事な思考を中断して世俗の喜びに向かってしまった井ノ原くんに代わり、君たちに質問する。

 1) V6メンバーのうち、任意の3人を取り出した場合の組み合わせはいくつあるのだろうか。もちろん、「長野・井ノ原・岡田」も「井ノ原・岡田・長野」も、同じ組み合わせと見なす。

 2) 来週のラジオに出演するのが、必ずV6メンバーのうち3人であるとして、三宅と井ノ原、両方が出演する確率はどれだけだろうか。もちろん、他ひとりのメンバーは誰でもよい。

 




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井ノ原くんの問題・解答編
 1) V6メンバーのうち、任意の3人を取り出した場合の組み合わせはいくつあるのだろうか。もちろん、「長野・井ノ原・岡田」も「井ノ原・岡田・長野」も、同じ組み合わせと見なす
n 個のものから r 個とった組合せの個数は(n!)/{(n-r)!r!} の式で求められる。(n!=1×2×…×n)。
この問題ではn=6,r=3であるから、上の式にその数字を代入すると「1×2×3×4×5×6/1×2×3×1×2×3」となる。よって答えは20通り。
 2)来週のラジオに出演するのが、必ずV6メンバーのうち3人であるとして、三宅と井ノ原、両方が出演する確率はどれだけだろうか。もちろん、他ひとりのメンバーは誰でもよい。
3人のうち2人の出演者が井ノ原と三宅なら、残る1人の席は他のメンバー4人のなかの1人が入る以外に組み合わせはない。よって組み合わせは4通り。1)の答えによって、6人の中の3人の組み合わせは全部で20通りなので、この問題の答えは4通り/20通りとなる。よって答えは1/5。