リトル・アイドル

〜望羽の冒険〜


 
前回までのあらすじ
 スーパーアイドルグループ「GOGO6(ゴーゴーシックス)」のメンバー狐狸田望羽(こりた・もう)は、ある日突然小さくなってしまう。マサルという男の子に拾われた望羽は、マサルの叔母さんであるミチコの結婚式に出席する。マサルの従姉のユカリが望羽のことを感づくが、どうにかマサルはユカリを撃退する。しかし、ユカリに放り投げられた望羽は、ブルドック犬ロビンの背中の上に落ちてしまう。あわててロビンを追うマサル。マサルの声に気がついた残りのGOGO6メンバー達も、望羽のあとを追うのだった。


「リトル・アイドル」最終回 そしてクリスマス
  望羽を乗せたブルドックは一目散に走っていた。
 気がつくと、目の前に、さっきの結婚式の花嫁と花婿が歩いていた。今度は花嫁がウエディングドレス、花婿がタキシードである。ふたりはお色直しがすんで、会場に戻ってきたところらしい。
 花嫁と花婿は、会場係の開けたドアから、会場に入っていった。そのドアが閉まりきる前に、望羽を乗せたブルドックも会場の中に走り込んだ。会場の中は、妙に静まりかえっている。
 「どうした? 変な雰囲気だな」
 望羽はつぶやいた。会場の中は静かな上に真っ暗だった。キャンドルサービスをする演出なのかも知れないが、しかし、この暗さと静けさは異様であった。ブルドックも足を止めて、あたりの気配をうかがっている様子だった。
 すると、突然「キャアッ」と言う女性の叫び声が聞こえた。
 望羽が、なにが起こったんだろうと思ううちに、パッと一本のスポットライトがついて、その中に、正体を現した会場係にうしろから羽交い締めにされ、胸元にナイフを突きつけられた花嫁の姿が浮かび上がった。花婿は驚いて叫んだ。
 「ミチコさん!」
 「マリ夫さん!」
 すると、ふたりの驚きをあざ笑うように、どこからか、「ワーハッハッハ」と言う笑い声が聞こえた。声の方を見上げると、なんと、結婚式のゴンドラの上に怪しい男が乗っていた。
 「夏木マリ夫くん、いや、ビーラップ星のマリオ王子。みつけるのに苦労しましたぞ」
 「これ、さっき電話ボックスの隣で話してた声だ……」
 望羽はつぶやいた。マリ夫が叫んだ。
 「わたしをマリオ王子と呼ぶとは、おまえ達はいったい……」
 「私たちは、ビーラップ星のお妃に申しつかって、あなたさまの持つ、王の印をいただきに参った者です」
 「なんだって!」
 ゴンドラが床に着いて、乗っていた男が降りてきた。男は、マリ夫の前に立つと言った。
 「さあマリ夫王子。どうぞおとなしく王の印をお渡しください」
 「王の印だと! おまえはビーラップ星から、わざわざわたしの王の印を取りに来たと言うのか! それにしてもなぜわざわざミチコさんとの結婚式の日に現れたんだ!」
 「失敗は許されないからです。一度失敗すれば、あなたはまた別の星に逃げてしまうでしょう。それを探すのにはたいへんな時間がかかる。我々には時間がないのです」
 「しかし、なぜ今さら。ビーラップにはパーク王子がいるはずじゃないか。王の印なら、パークも持っているはずだ。ぼくの王の印など、今更なんの役に立つ」
 「はい。確かにビーラップにはパーク王子がおられます。しかし、パーク王子の王の印は輝いていないのです」
 「なに!?」
 「王様は重いご病気です。早くパーク王子を次の王に決めなければなりませんが、パーク王子の王の印がどうやっても全く輝かないので、お妃さまは困り果てていらっしゃるのです。印が一度も輝いていない王など、諸侯も民人も、受け入れるはずがありませんから。パークさまのご生母であり、あなたさまの継母であるお妃は、そこでハッと、昔自分が追放したあなた様を思い出されました。ビーラップ王家では、王子が生まれると「王の印」と言う名の指輪が与えられます。あなたさまもそれを持っているはず。パークさまの指輪が輝かなくても、あなたさまの指輪なら輝くかも……。そこで、お妃は、あなた様から輝く王の印を取り上げ、パークさまに与えることにしたのです。パークさまを王にするために」
 「そんな……」
 「さ、おわかりになりましたら、ビーラップの平和のために、おとなしく王の印をお渡しください。ささ、早く!」
 マリオ王子は苦悩のまなざしでミチコを見た。ナイフを突きつけられながら、ミチコは気丈に言った。
 「マリ夫さん、わたしのために気持ちを曲げちゃだめ! わたしはどうなってもいいの!」
 「うるさい、女!」
 会場係がミチコの喉にナイフをつきつける。
 「ミチコさん、危ない!」
 「ええい、急げ。マリオ王子、花嫁の命が惜しくないのか」
 マリオは一瞬うつむいて考えたが、すぐに心を決めると、自分の指から指輪をはずし、会場係に言った。
 「これを投げるから、ミチコさんを放してくれ!」
 「……わかった」
 「マリ夫さん、だめ! だめよ! 大事な物を悪い人に渡さないで」
 「ミチコさん。しかたがないんだ……」
 いよいよマリ夫が指輪を投げようとするのを、望羽はただ呆然と見ていた。
 ……いったい、この安っぽい話はなんなんだ。やっぱり映画の撮影なのか。ビーラップ星とか言ってるからにはSF映画か。しかし、マリ夫も悪者も、SF映画の主役にしては全然イケてない。とすれば、これはコメディか。それにしてはミチコさんの演技がシリアスだ。あれでは同情こそすれ、ちっとも笑えない……。
 しかし、ロビンは、マリ夫が指輪を投げようとすると突然「ううううう」と歯を向いてうなりだした。
 マリ夫が指輪を投げるのと、ロビンが宙に飛ぶのは、どちらが早かったろうか。
 急にロビンが飛んだので、背中に乗っている望羽は、振り落とされそうになって、あわててロビンにしがみついた。
 一秒後には、放り投げられた指輪の描く弧と、飛び上がったロビンの描いた弧がちょうどぶつかりあった。
 「うわ!?」
 ロビンの背中にしがみついていた望羽の首に、太い指輪がちょうど、フラフープみたいに引っかかった。ロビンはそのまま着地すると、すばやくテーブルの下に隠れた。
 「な、なんだ!?」
 「犬が指輪を取った!?」
 敵があわてふためくその隙に、マリオは急いでミチコのそばに駆け寄った。
 「マリオさん!」
 「よかった、ミチコさん。無事ですか」
 「ええ……。でもいいの? マリオさん。王の印とか言う大事な指輪が」
 「指輪はまた取り戻せるかも知れない。でもミチコさんは宇宙にひとりだけです」
 「マリオさん」
 「しかし、パークの印がどうやっても輝かなかったのなら、ビーラップはもしかして僕を必要としているのだろうか……?」
 考え込むマリ夫。心配そうにマリ夫をみつめるミチコ。
 その間に、はいつくばってテーブルの下をのぞきこんだふたりの悪漢は、とうとうロビンの姿をみつけてしまった。
 「いたぞ、あの犬だ」
 「コンチクショウ! 指輪をどうした!?」
 背中に望羽を乗せたまま、テーブルの上に乗り移り、あっちのテーブルからこっちのテーブルと逃げるロビン。
 ロビンがちょうどマリ夫のそばを飛んだとき、望羽は力一杯指輪を放り投げた。
 「ほらよっ」
 「マリ夫さん、指輪!」
 「あ!」
 マリ夫はあわてて指輪を手のひらに受けた。すると指輪は突然、☆キラリーン☆と光りだした。
 「か、輝いた。指輪が……」
 マリ夫の手の上の指輪は、突然日の光のように明るく室内を照らした。指輪の光で、今まで暗闇に沈んでいた会場の中がはっきりと見え、テーブルにつっぷして眠っている客達の姿もよくわかった。
 そして、その光を受けたマリオの姿は、見る間に変わっていった。1分もすると、さっきまで太って冴えなかったマリ夫が、いつのまにか、すらりとしたハンサムな青年に変わっていた。
 「マリ夫さん、あなたの姿が」
 ミチコが驚いて叫んだ。
 「王の印の力で、お妃にかけられたのろいが解けたんです。ミチコさん、これがぼくの本当の姿です。僕のこの姿は嫌ですか?」
 「嫌じゃないけど驚いたわ。でもわたし、姿なんてなんでもいいの。マリ夫さんがマリ夫さんなら……」
 そう言うとミチコはマリ夫の胸に身を寄せた。
 「ええい、ラブシーンしてる場合か〜」
 「輝く王の印を渡せ〜!」
 悪者達は王の印の光にまぶしそうにしながら、マリ夫とミチコに飛びかかろうとした。
 そのときドアが開いた。そこにいたのは、マサルと、マサルを取り巻くようにした、GOGO6の5人だった。
 「この部屋だよ!」
 マサルが叫んだ。GOGO6の5人もてんでに怒鳴った。
 (昌本)「望羽!」
 (准太)「望羽くん! いるんか!」
 (ミン)「望羽! どこ!」
 (よし原)「望羽、早く出てこい!」
 (博野)「望羽、すぐにテレビ中継が始まるぞ!」
 すると、どこかとても遠くのほうから、すごく小さな望羽の声が聞こえた。
 「みんな! ちょうどよかった。花嫁と花婿を助けてくれ!」
 その声を聞いて、GOGO6の5人はすぐに、不思議な光の満ちた会場の中の花嫁と花婿と、ふたりに襲いかかろうとしている悪漢達をみつけた。
 (博野)「こいつらのことか!」
 (よし原)「なんかわからないけど、きれいな花嫁さんは絶対悪くないぜ!」
 (ミン)「みんな、望羽の言うとおりに」
 (昌本)「よし、花嫁達を助けよう!」
 (准太)「やるで!」
 5人は悪漢達に飛びかかった。ふたりの悪者はすぐにこてんぱんにやられ、テーブルクロスでぐるぐる巻きにされた。
 「ミチコ叔母ちゃん、大丈夫!」
 マサルは花嫁に駆け寄った。
 「大丈夫よ、マサルちゃん。ありがとう」
 マサルを抱きしめ、涙ぐむミチコ。マリ夫もGOGO6に深く頭を下げた。
 「皆さん、ありがとうございます。なんとお礼を言って良いか……」
 「いえいえ〜」
 「それより、望羽は!」
 GOGO6のメンバー達はあたりを探したり、花嫁と花婿に望羽のことを尋ねたりしたが、花嫁と花婿は、申し訳なさそうに、残念だけれど自分たちも望羽さんのことは見かけなかったと答えるしかなかった。
 「望羽! どこに行っちゃったの! 出てきてよ!」
 ミンが叫んだ。しかし、答えはなかった。
 「どういうことなんだろう……」
 がっくり肩を落としたミンの背中を、やさしく博野が叩いた。
 「ミン。望羽にはなにか事情があるみたいだ」
 「うん……」
 キョロキョロあたりを見回していたマサルは、一仕事終えて疲れたように隅に寝そべっているロビンを見つけた。マサルはロビンを抱き上げて、小さな声で呼んだ。
 「望羽くん、望羽くん!」
 すると、ロビンの耳の後ろからこそこそと望羽が出てきた。
 「ダメだ、もう行かないと」
 時計を見ながら昌本が言った。
 「そんな……。望羽が心配でテレビになんか出る気になれないよ」
 ミンが泣きそうな顔になった。
 「ミン。きっと望羽は戻ってくるよ。それまでなんとか僕たちでごまかそう」
 しかし、そういう博野の顔は、暗かった。
 「ちくしょう! さっき聞こえた望羽の声は、いったいどこからだったんだ!」
 よし原が、テーブルクロスでぐるぐる巻きにした男達をけっ飛ばした。
 「さあ、行こう。せっかくデビュー7周年記念のテレビ中継なのに、GOGO6が誰もいなかったら話にならない」
 「……わかった」
 准太がうなずいた。
 とうとう5人は廊下に出ていった。ロビンを抱いて、マサルも廊下に出た。
 歩いていく5人の背中はとてもさびしそうだった。これが、今大人気のスーパーアイドルGOGO6メンバーの5人だなんて。
 「マサル……!」
 そのとき、ロビンの背中から声がした。
 「ロビンを下におろしてくれ、早く」
 「望羽くん?」
 マサルは身をかがめてロビンを廊下におろした。ロビンは、すごく疲れているようで、そのまま廊下に寝そべった。
 望羽はロビンの背中を滑り台みたいに滑り降りると、マサルを見上げてにやりとした。
 「マサル、今日はいろいろありがとうな」
 「望羽くん……」
 「よく考えてみると、オレはもともと人より小さいんだ。前よりも、もうちょこっと小さくなったって、誰も気にしないさ」
 そして、望羽は今度は前を向き、廊下を歩いていく5人の背中に向かって怒鳴った。
 「みんな!」

 「オレはここだ!」
 すると、昌本が、博野が、よし原が、ミンが、准太が、いっせいに振り返った。
 最初にミンがぷっと吹き出した。
 「望羽、パンツ一丁でなにやってるの?」
 「……え?」
 わらわらわらっと、すぐに5人は望羽を取り巻いた。
 (昌本)「おまえ、ずっとどこにいたの?」
 (ミン)「その格好なに?」
 (准太)「さっきの結婚式、いったいなんやったん?」
 (よし原)「オレたちがやっつけちゃった人たちって、誰?」
 (博野)「て言うか、おまえのことどんだけ探したと思ってんの」
 「……みんな、オレを見て、驚かないの?」
 望羽のほうがびっくりして、尋ね返した。
 「驚いたよ。パンツ一丁で現れるんだもん」
 「……オレ、オレ、こんなに小さくって」
 それを聞くと5人はいっせいに笑い出した。
 「なに言ってんだよ。望羽がでかくなったら驚くけど、小さくってなんで驚くんだよ〜」
 「え??」
 望羽は、自分の体を見、GOGO6の仲間達を見、それから振り返って、うしろから望羽を見ていたマサルを見た。
 「オレ、もとに戻ったんだ……」
 マサルが手を振りながら飛び上がって、手を叩いた。
 「そうか!」
 「望羽、さっきからなにを言ってんだよ!」
 よし原が望羽の肩を抱いた。
 「いけねえ、テレビまであと1分しか時間がないぞ!」
 昌本があわてた声を出した。
 「急ぐぞ!」
 博野が叫んだ!
 「おう!!!」
 ミンと准太と望羽が叫んだ。
 6人は人々に振り返られながら廊下を走り、中継のはじまる部屋に飛び込んだ。待っていたファン達は大喜びで彼らを迎えた。特に望羽のファンは、体調が悪いということで写真撮影に出てこなかった望羽が出てきて、しかもパンツ一丁だったので、狂喜乱舞だった。
 時間ぴったりに放映が始まったテレビカメラの前に走り込み、6人は怒鳴った。
 「オレたちが……!!!」
 そしてそのあとは、ファンも一緒に怒鳴った。
 「GOGOシーックス!!!!!!」
 部屋の後ろでは、マネージャーがうれしさのあまり泣き崩れていた。
 
☆☆☆☆☆☆

 大騒ぎのGOGO67周年の日も過ぎて、季節は冬になり、今日はクリスマスイブ。
 そんな日も、人気者のGOGO6メンバーには仕事が入っている。しかしその仕事も今日は、夕方前には全部終わる予定だった。
 「みんなに、クリスマスイブくらいはゆっくりすごして欲しいと思ってさ」
 と、マネージャーは機嫌よく言った。
 マネージャーのうちでは、先月末に無事に女の赤ちゃんが生まれていて、それ以来マネージャーは上機嫌が続いていた。
(赤ちゃんが生まれたとき、マネージャーがあまりにかわいいと自慢するので、望羽はお愛想で、「そんなにかわいいなら、オレがお嫁さんにもらおうかな」と言ってみたことがある。するとマネージャーは、血相を変えて「絶対に望羽くんだけはうちの子に近寄らせない」と宣言したのだった。マネージャーによると、他の5人は近寄っても良いそうであるが、昌本と博野は自分よりも年上なので、娘の婿になるのは遠慮してもらいたいということだった)
 今日の最後の仕事は、雑誌のグラビア撮影だった。
 まずはひとりずつの撮影で、撮影のないメンバーは、てんでにそのへんで、ゲームをしたり雑誌を読んだりして順番を待っていた。
 雑誌を読んでいるミンの隣で、望羽は、マネージャーが渡してくれたファンレターの束を取り出した。ファンレターはどれもかわいい女の子の字で、「望羽くん大好き」というような内容が書き連ねてあった。望羽は、行儀悪くソファに寝そべって、それを読んだ。
 しかし、ある手紙を手にしたとき、望羽は寝そべるのをやめて、起きあがった。ミンがそれに気がついて、不思議そうに望羽を見た。
 ミンが見ると、望羽の手にしている手紙は、大きな子どもの字が書いてあった。その手紙は何枚もあり、望羽は真剣な顔でそれを読んでいた。
 「望羽?」
 ミンは望羽を呼んでみた。しかし、望羽はそれにも気がつかずに手紙を読んでいる。
 やがて望羽は手紙を読み終わった。そしてなんだか、ぼうっとした表情をしていた。
 「望羽、どうしたの? その手紙、誰から?」
 ミンは尋ねてみた。すると望羽は、黙ってその手紙をミンに渡した。ミンは手紙を読み出した。

もうくん、こんにちは。マサルです。

 このあいだの「ゴーゴーほうかご」のもうくんは、すごくおもしろかったです。ぼくはおおわらいをして、おかあさんにへんなかおをされました。あと、「ろうじんまさもと」もおかしかったです。ゴーゴーしっくすはさいこおです。

 きょうは、みちこおばちゃんから、うちに、おてがみがきたので、そのことをかきます。
 みちこおばちゃんと、まりおおじさんは、このあいだのけっこんしきのあと、きゅうに、「じれいがおりた」といって、ふたりでとおいくににいってしまいました。
 おばちゃんとおじさんがいったのは、「びーらっぷ」という、くになのですが、あとで、おとうさんとおかあさんでしらべても、そんなくにはちずにのっていませんでした。
 それで、おとうさんとおかあさんはしんぱいしていたのですが、きょう、おばちゃんから、きれいなしゃしんのついたえはがきがとどきました。
 えはがきの、おばちゃんとおじさんのしゃしんは、ふたりが、まるでおひめさまとおうじさまのようなかっこうをして、にこにこしているしゃしんでした。
 おてがみのほうには、「びーらっぷ」についたときはいろいろあったけど、「ゆびわのちから」でみんなうまくいった、とかいてありました
 あと、「びーらっぷ」でのしごとはたいへんなので、ふたりはにほんにかえれないかもしれないけど、とてもしあわせなのでしんぱいはしないでください。みなさんもステキなクリスマスをおすごしください。おせわになったゴーゴーしっくすのみなさんにもよろしく。できればみんなにプレゼントをとどけたいので、クリスマスの日はそらをみあげてみてくださいとかいてありました。
 てがみをよんだおとうさんとおかあさんは、かおをみあわせていました。それからおとうさんが「ふたりともおとなだから、あとはふたりにまかせるしかないな」といいました。おかあさんは「そうね」といいました。

 そのあと、おかあさんはえはがきをみて、「ゴーゴーしっくすのみなさんによろしくってなにかしら」とくびをかしげていましたが、そのうち「それにしてもまりおさんはとってもハンサムねえ。ゴーゴーしっくすのおかいちくんをもっとおとなにしたかんじ」といって、ためいきをつきました。
 ぼくがさいしょみたとき、まりおおじさんはふとっていたようなきがするのですが、あとでみたら、ちがうひとのようにすごくかっこよくなっていました。ぼくも、あとのかおは、おかあさんのいうように、おかいちくんににているとおもいます。
 それで、ぼくが、まりおおじさんのかおはけっこんしきのとちゅうでかわったんだよねというと、おかあさんは、「マサルはゆめでもみたんでしょう」といって、よくはなしをきいてくれませんでした。おかあさんは「みちこちゃんは、いったいどうやってあんなすてきなひととしりあえたのかしら」といって、とてもくやしそうでした。
 でもぼくは、ゆめをみていたのは、おかあさんとおとうさんのほうじゃないかなあとおもいます。もうくんはどうおもいますか。
 
 あれからユカリはぼくにちかづかなくなりました。ぼくがこわいみたいです。いいきみ。これからもぜったいユカリにまけません。
 もうくんは、もうちいさくなりませんか? ちいさいもうくんはかわいかったです。ほんとうはずっといっしょにいたかったけど、でも、もう、ちいさくならないほうがいいとおもいます。みんながしんぱいするからです。
 
 みちこおばちゃんとまりおおじさんにあえないのはさびしいけど、いつか、ぼくも、「びーらっぷ」にいけるかな?
 ぼくはこれからも、ゴーゴーしっくすをおうえんします。もうくん、おしごとがんばってください。みんくん、おかいちくん、よしっち、ひろのくん、まさもとくんによろしく。

 こりたもうくんへ
                                    マサル
「なに、これ」
 読み終わると、不思議そうな顔をして、ミンが言った。
 「この子、望羽の知り合い? 童話作家志望とか?」
 そのとき、撮影が終わって准太が戻ってきた。
 「次、望羽くんやて」
 「わかった」
 返事をすると望羽は立ち上がって、すぐにスタジオに入ってしまった。
 ミンは、首を傾げながら、もう一度マサルの手紙を読んでみた。
 「なんやの、それ」
 そう言って准太も、ミンの読んでいる手紙をのぞきこんだ。

 最後に6人そろいの写真を撮り終わり、今日の仕事は全部終わった。
 「じゃあな」
 「お先に」
 昌本と博野が、にこやかに片手をあげて控え室を出ていった。
 「オレはこれからうちでクリスマス会なんだよ。鍋やるんだ」
 そう言うよし原も、楽しそうだった。
 「おまえたちも、暇だったら来ない?」
 しかしそう言われて、チャーミー3の3人は、顔を見合わせた。
 「あ、クリスマスに暇なわけないか」
 そう言ってよし原は人の良さそうな笑顔になった。
 「ごめんごめん。クリスマス楽しめよ。じゃあ、また明日な」
 明日はまた6人揃ってのテレビの生出演があるのだった。
 「バイバイ!」
 「よしっちもいいクリスマスを!」
 「おう」
 よし原も去って、チャーミー3の3人も、ぼちぼちと部屋をあとにして、廊下を歩きだした。
 「望羽、これからどうするの」
 ミンに聞かれて、望羽は時計を見た。
 「待ち合わせ?」
 「うん」
 「オレも。でもまだちょっと時間があるんだ」
 「オレもや。電話が来るまで時間がある」
 「下でなにか飲んでこうよ。望羽はどう?」
 「いいよ」
 3人はエレベーターを降りて、ビルの1階の喫茶室に入った。喫茶室のガラス張りの窓の向こうに、クリスマスの街を行く人々が見えた。
 「クリスマスっていいよね」
 ココアを飲みながらミンが言った。
 「オレ、クリスマスの日、街を行く人を見るのってすごく好きだ」
 「そうやな」
 「見てるといつも、みんな幸せになりますようにって思うんだ。雪でも降ってきたら、最高。空からみんなへのプレゼント」
 「うん」
 望羽と准太はうなずいた。ミンが言った。
 「それで望羽、さっきの手紙のことだけど、あれ、なに? もう一度読んだけど、やっぱ意味わかんなかった」
 「ああ、あれ……」
 「オレも読ませてもらった。なんや、気になるんやけど、よくわからん」
 「特によくわからないのが、「もう、もうくんはちいさくなりませんか?」ってところ。どういうこと、これ」
 「そうや。マサルってもしかして、GOGO67周年の日に、望羽くんのことを捜してた男の子のことか?」
 「そう……」
 ミンと准太の言葉に、望羽はうなずいた。それから望羽はコーヒーをかきまぜながら、思いきって話し出した。この話は、今まで誰にもしていなかった。どうせ話したって信じてもらえないだろうと思って。
 「実はオレ、あの日、すっごく小さくなっちゃってさ。このスプーンの半分くらいに。そんなに小さくなったから、鳥に捕まって食われそうになったり、女の子につかまれて死にそうになったりしてたいへんだった。最後は、ブルドックのロビンと一緒に、ビーラップ星のマリオ王子を助けたんだ。その、マリオ王子って言うのは、ちょうどマサルの叔母さんのミチコさんと結婚式をあげてたんだけどね。おぼえてるだろ、あの結婚式。最後におまえたちが来て、助かった。オレ、あのとき、ロビンの耳の後ろにいたんだよ」
 「……」
 「一度はもう元に戻れないのかと思ったけど、おまえたちのところに戻ろうと思ったら、もとの大きさに戻れたんだ。……それにしても、なんでオレ、あの日急に、小さくなったり元に戻ったりしたのかなあ……」
 そこまで話して望羽が顔を上げると、目の前のミンと准太は固まっていた。
 「望羽、おまえ……」
 「かわいそうに。やっぱりあの日はそんなに疲れてたんやな……」
 ミンと准太は、胸を詰まらせたような声でそう言った。望羽はあわてて言った。
 「違うって! 信じてもらえないかもと思ってずっと黙ってたけど、あの日オレはホントに!」
 そのとき、准太の携帯が鳴った。電話に出ると、准太はすぐ、元気な声で返事した。
 「うん、わかった。あの店やな」
 すぐにミンの携帯も鳴った。ミンも、うれしそうな声で相手に答えた。
 「GOGO6の仕事? 大丈夫、終わってるよ」
 「そろそろ行くか」
 ふたりの電話が終わると、望羽は立ち上がった。
 「うん」
 「そうやな」
 ミンと准太も、そう言って、すぐ立ち上がった。

 「みんないいクリスマスになりますように!」
 「じゃあ!」
 「また明日!」
 店を出ると、3人はそう言って、それぞれ別の方向に向かってクリスマスの街を歩き出した。
 「あ、雪だ!」
 うしろから、ミンの突拍子のない声が聞こえた。望羽が振り返ると、確かに、きれいな羽みたいな白い雪が、空から舞い落ちはじめたところだった。
 
短い連載でしたが、「リトル・アイドル」、楽しんでいただけましたでしょうか。主人公を「こりた もう」という名前にしたら、連載中にまた「こりた もう」と言いたいことが起こって、ほんとに「こりた もう」です(^^;

 とはいえ、最後はクリスマス。GOGO6メンバーにとっても、お読みいただいた皆さまにとっても、ステキなクリスマスであることを祈って、最終回といたします。みなさま、よいクリスマスを!
(2002.12.24 hirune)
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