リトル・アイドル |
〜望羽の冒険〜
![]() 「GOGO6(ゴーゴーシックス)」は、日本で、いや、今やアジア各地で大人気の、スーパーアイドル6人組。 しかし、ファンとの写真撮影会の朝、寝坊した「GOGO6」メンバーの狐狸田望羽(こりた・もう)は、突然小さくなり、鳥にさらわれてしまう。探しに来たGOGO6メンバー、毛宅(けやけ)ミン、岡市准太、よし原井ノ彦、博野長史、昌本坂行に気づいてもらえなかった望羽は、マサルという男の子に拾われ、マサルの叔母さんであるミチコの結婚式に出席する。望羽のことを従姉のユカリに感づかれたマサルが、望羽を連れて結婚式を抜け出すと、望羽を探すマネージャーとミンがいた。マサルは望羽に、ミン達のところに連れて行こうかと尋ねるが、望羽はそれを断るのだった。 |
「リトル・アイドル」第3回 |
「なんで?」 マサルが尋ねた。 「あいつらにこんな姿を見られるくらいなら、狐狸田望羽はなにかの事件に巻き込まれていなくなったとでも思われたほうがよっぽどいいや」 そう言うと、望羽はそっぽを向いた。 「そんなあ」 すると、望羽が、まじめな声でマサルに尋ねた。 「じゃあマサルに聞くけど、オレのこと見て、どう思う?」 「どうって」 「オレ、こんなに小さいんだぜ。おかしいだろ。だいたい、オレが狐狸田望羽だって言ったって、誰も信じないよ」 「そんなことないよ! 望羽くんだってわかるよ! 僕にはわかった。「GOGO! 放課後」いつも見てるもん」 「ありがとうな」 そう言って、望羽は、さびしそうに笑った。「GOGO! 放課後」とは、GOGO6がレギュラー出演している、テレビの人気バラエティ番組の名前だった。 「それはきっと、マサルが子どもだからだよ。マサルはまだ、時には人が小さくなるってことも信じられる年なんだ。でも、大人はそうじゃない。オレ自身だって、まだこれは夢なんじゃないかと思ってるくらいだもん。でも、夢じゃないんだよな」 マサルは自分の父親と母親のことを考えた。望羽の言うとおり、ふたりはきっと、これが狐狸田望羽くんだと言っても、信じないに違いない。お母さんは、望羽くんをよく見もしないで、お母さんは虫が嫌いなのよ、早く捨てなさいと言うだろう。 「そう……、かもしれないけど」 マサルは自信なさそうになった。 「だろう。だからオレはあいつらのとこには行かない」 「でも……」 そのとき、ふたりのいる電話ボックスのすぐ外に、人が来た気配がした。 この電話ボックスは、上の方しか窓がないので、どうやら外に来た人間は、下にしゃがみ込んでいるマサルと望羽には気がついていないらしい。ドアの外で、男がふたり、声をひそめて話し始めた声が聞こえた。 「どうだ、うまく行ったか」 「はい。うまいこと全員に飲ませました。今頃は全員ぐっすりです」 「マリオ王子はなにも気づいていないな」 「全然気づきません」 「よし。マリオ達は、あとどれくらいで会場に戻るんだ」 「10分か15分後には」 「これでお妃さまの褒美は我々のものだな」 「そういうことです」 最後にふたりの男は、ふふふふと怪しい笑い声を立て、また去っていった。 男達が去ると、マサルと望羽は顔を見合わせた。 「今の、なんだったんだろう」 「ずいぶん妙なことを言ってたけど、映画かなにかの収録かなあ?」 「確か、マリオ王子とか言わなかった?」 「そう聞こえた」 「マリオって、確か、今日の結婚式のミチコ叔母ちゃんのお婿さんもマリ夫って言う名前だったと思うけど」 「へえ」 「スーパーマリオみたいな名前だから、僕、覚えてたんだ。今の話、ミチコ叔母ちゃんのお婿さんとなにか関係あるのかなあ。望羽くん、どう思う」 「うーん……」 ふたりが首をひねっていると、いきなり電話ボックスのドアが開いた。ふたりは、さっきの男達が戻ってきたのかと思ってドキッとしたが、そこに立っていたのは、ユカリだった。 「ユ、ユカリちゃん……」 「見つけたわよ、マサル」 ユカリはにやりと笑った。それを見るとマサルはぞっとした。 マサルは今まで、ユカリとの口ゲンカに一度も勝ったことがなかった。勝ったことがないどころか、ユカリとケンカすると、もとはユカリが悪いことでも、全部マサルのせいにされ、あとでお母さんにひどくしかられるはめになるのだった。ユカリにみつかるくらいなら、さっきの男達にみつかったほうがましだったとマサルは思った。 「ユカリちゃん、な、なに? なんでこんなとこに来たの?」 マサルが震える声で尋ねると、ユカリは片手をつきだして言った。 「さっきあんたがポケットにしまったもの、見せなさいよ」 「な、なんのこと?」 マサルは望羽を入れたポケットを押さえながらあとずさりした。 「さっき、あのテーブルで、あんた、おばさんにないしょで、ハムスターみたいなものに餌をあげてたでしょ」 「……」 「あたしの目はごまかせないわよ。あんた、おばさんとおじさんに内緒でなにか飼ってるのね。ずいぶん小さかったわね。ハムスターの赤ちゃんかなにか?」 「……」 「あたしもずっとハムスターが飼いたかったのよ。おばさんに黙っててもらいたかったら、あたしにも貸しなさいよ、ハムスターの赤ちゃん」 マサルの額にはあぶら汗がにじんだ。 「し、知らないよ、ハムスターの赤ちゃんなんて……」 「あーら」 ユカリの目が邪悪に光った。 「シラを切るつもり。せっかくチャンスをあげたのに」 「……」 「一年坊主の癖に生意気なのよ!」 そう言うと、ユカリはいきなりマサルのポケットに手を突っ込んできた。望羽はいきなりユカリに顔をつかまれ、逃げようと暴れまくった。 「モガモガ!」 「キャッ」 一度望羽をつかんだものの、望羽が暴れると、ユカリは驚いて望羽を手からふりほどいた。 「危ないっ」 あわててマサルが手を伸ばし、どうやら望羽を手のひらに受け止めた。 ユカリは気味悪そうに、マサルの手の中の望羽を見た。 「な、なにそれ。ハムスターにしちゃつるつるしてる。……人形?」 「あ、あははは。そう、人形、人形だよ。ユカリちゃんが勝手にハムスターとか言うから、僕、なんのことかと思っちゃった」 マサルは必死で笑顔を作った。 「こ、この人形、今、一年生の間で流行ってるんだ」 「そんな話、聞いたことないわ」 ユカリはじいっと望羽を見る。マサルはあわてて望羽をポケットにしまった。 「さ、ぼく、ママのところに戻らなきゃ」 歩きかけたマサルを、ユカリが呼び止める。 「待ちなさいよ」 「な、なんだよ」 「それ、人形じゃないわよ。さっき動いたもの」 「音に反応して動くんだよ」 「ほんとかしら……」 ユカリは疑い深い。 「ほんとだって」 「ほんとうなら、もう一度見せなさいよ。じゃないとおばさんに言うわよ」 マサルはしぶしぶポケットから望羽を出した。望羽をつかんだマサルの手が微妙に動いて、なにかを伝えてきた。望羽はそれを察知して、人形の振りをすることにした。マサルの手の上に乗せられた望羽は、人形のようにうつむいて座って、じっとした。 「ほらね。静かにしてれば動かないの。さっきはユカリちゃんが騒ぐからさ」 マサルは嘘が苦手なのだろう。望羽の載っているマサルの手のひらは、じっとりと汗で湿っていた。 「ふーん」 ユカリは興味ありそうに望羽をチョンチョンとつついた。望羽はつつかれるまま人形のようにゆらゆら動いて見せた。 「確かに人形みたいね」 「だろ」 「どこで売ってるの」 「ヨ、ヨーカドーとかジャスコとかだよ。でも、すぐ売り切れちゃうんだ。次はいつ入荷するかわからないって」 「……。よく見ると結構かわいいわね」 ユカリはマサルの手から望羽を取り上げた。 「あっ」 「大丈夫だって。ちゃんと返すから。これ、パンツしかはいてないけど男の子なの?」 ユカリは望羽のパンツを下げて中を見ようとする。望羽がぎょっとすると、マサルがあわててユカリから望羽を取り返した。 「男だよ。戦闘服とか防具とかもあるんだけど、ぼくはそっちまで買うお金がなかったんだ。だからパンツだけなの」 「へえー」 そう言いながらユカリはもう一度マサルの手から望羽を取り上げた。ユカリのヤツ、なんてすばやいんだろう。マサルは心の中で歯がみした。 「見れば見るほどよく出来てる〜。……でも、なんかこれ、GOGO6の望羽くんに似てない?」 「そ、そうかなあ。ぼく知らないや」 「似てるわよ。これ、どうやったら動くの?」 ユカリに聞かれ、マサルはしぶしぶ答えた。 「大きな声を出すとか、歌を歌うとかするんだよ」 「そうか。じゃあ、『あああああ!!』」 耳が割れそうな大声だったが、望羽は、ユカリの声に合わせてゆらゆら揺れて見せた。 「ふーん……。次は歌ってみよう。♪オーオオー、GOGO踊ろ、ランラララン♪」 望羽はしょうがなく、GOGO6のヒット曲「GOGO踊ろ」のフリに似た感じでちょっと踊った。 「も、もういいだろ」 「そうねえ。案外おもしろいわ。あたし気に入っちゃった。これちょうだい!」 「だ、だめだよ。さっき返すって言ったじゃないか」 「そんなこと言わないわよ。今度おこずかいもらったら、同じの買ってあげるから」 「それじゃダメなんだよ。ぼくはその人形が気に入ってるの!」 「いいじゃない。ケチ。もーらった」 「ちくしょう、返せ!」 「べーだ」 「返せ、返せ!」 マサルよりずっと背の高いユカリは、望羽をつかんだまま手を上に上げて、マサルの手の届かないようにする。望羽は必死でユカリの手を逃れようとしたが、ユカリにあまりにぎゅっと胴を握られているので、苦しくて目の前が朦朧としてきた。マサルはそれに気がついたらしく、とうとうユカリに飛びかかった。 「望羽くんが苦しがってるじゃないか! 早く返せ!」 「キャア」 マサルにつっかかられて転びそうになったユカリは、弾みで望羽を空中に放り投げた。 「望羽くん!」 マサルは必死で望羽をつかまえようとしたが、勢いよく飛ばされた望羽は、今度はマサルの手には届かなかった。 そのときだった。廊下の向こうから、「ロビンちゃん、待って!」と叫ぶ声が聞こえた。さっきの老婦人だった。老婦人は必死でなにかを追いかけている。そして老婦人の前には、なにかがこちらに向かって猛スピードで走ってくるのだった。 空中に飛ばされた望羽は、ちょうど、その走ってきたものの背中に着地した。 走っていたのは、首にピンクのリボンを付けた、白いブルドックだった。振り落とされまいとして、望羽は急いでそのリボンにつかまった。 「ロビンちゃーん、待って、どこ行くの!」 「あ、望羽くんが!」 「あんた、あの人形に“望羽くん”なんて名前付けてんのね」 転んだまま、ユカリはそう言ってマサルをバカにした顔で笑った。マサルの瞳が怒りで燃えた。 「望羽くんになにかあったらおまえのせいだ! バカユカリ!」 そう言うとマサルは、すぐそばにあった大きな花瓶を手に取り、中身の花と水をユカリの頭からぶっかけた。 「ぷわっ。な、なにすんのよ!」 「二度と僕に意地悪するな! おまえなんかずっとこうしてろ!」 マサルは、ユカリの頭にからっぽになった花瓶をすっぽりかぶせると、叫びながら走り出した。 「望羽くーーん!!」 「ロビンちゃーん……。もうダメだわ。追いつけない。ゼイゼイハアハア」 老婦人は、ユカリのそばで倒れてしまった。ちょうど、マサルとすれ違ってやって来たホテルマンが、老婦人に駆け寄った。 「お客様、大丈夫ですか? それにこの花瓶をかぶった女の子はいったい……」 ホテルマンがユカリの頭の花瓶をどけた。 「お嬢ちゃん、どうしました。そんなにこの花瓶がお気に召したんですか?」 するとユカリは泣き出した。 「ドレスがめちゃめちゃだわ。ママに怒られる〜」 ユカリはいっかな泣きやまず、老婦人はゼイゼイハアハアと息をするばかりで話が出来ない。ホテルマンが途方に暮れていると、マサルが去ったのとは逆の方から、息せき切って5人の青年が走ってきた。そしてまず、5人の中で背の高いほうの3人の青年が尋ねた。 (昌本)「すみません!」 (よし原)「今、このへんから、“望羽くん!”って言う声がしたのを聞いたんですが……」 (博野)「もしかして、GOGO6の狐狸田望羽がここにいたんですか!?」 「さ、さあ……」 突然5人の青年に取り巻かれたホテルマンは驚いたようだったが、思い出して、マサルが去った方を指さした。 「そういえばさっき、小さな男の子が「モーくん!」と叫びながら向こうに走って行くのなら、見ましたが」 すると今度は、残りの二人が返事をした。 (准太)「小さな男の子が向こうに行ったんですね!」 (ミン)「ありがとうございました!」 5人はうなずきあった。 「よし、行ってみよう!」 「ああ!」 5人は、ホテルマンが指さした方向に走り出した。 |
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(2002.12.19 hirune) |
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