ZERO



「・・っだっつんだよ・・!あぁ〜!!・・・やってらんねー」

さっさと帰りてぇんだよ、俺は!
考えただけで吐き気がする。あんなヤツらの事なんか・・・。
家に帰りゃアイツが居る。
アイツならわかってくれるよな、俺のこと・・・。


あの街、やたらギラギラして光だけで人を飲み込んでる。
俺の大嫌いなあの街から、やっと抜け出せたと思ったのに。
なんだよ・・・この渋滞。
ナメてんの?俺のこと。
ただでさえイライラしてる俺を掻き立てるように、
工事の赤いランプが悠長にピカピカ光ってやがる。


今日はちょっと調子悪いだけなんだよ・・・な。
質問に「YES」か「NO」だけで答えたようなもんのインタビューだって、
ただ突っ立ってるだけだったロケだって、全部なんだか調子が悪かったから・・・。
明日からは大丈夫!・・・・・だよな?
大丈夫だって言えよ。・・なぁ・・・。


やっと渋滞から抜けられた。
家まで、あともう少しだ。
でもまだムシャクシャしてる。全部自分のせいなのに・・・。
いっそ、あの家にでも車ごと突っ込んでやろうか。
突っ込んで、大嫌いな俺自身を殺してやる。
あとはどうにでもなれ。
なぁんて、出来もしない馬鹿なこと考えてたら家に着いちまった。
こんなことなら、だぁれも居ない夜道をぶっとばして満足してりゃよかったなぁ。

 <ガチャッ!>

やっべ・・・!
・・・・・・俺が帰るとうるさいくらい吠えて出迎えるアイツが、このでかい音でも
起きない。
11時だもんな・・・。
小さな寂しさを感じながら、ろくなもんありゃしない冷蔵庫を覗く。
ふとした瞬間、このイライラの始まりを思い出した。


中学の時よくつるんでたヤツらと久しぶりに会った。
俺はそれだけでなんだか嬉しかった。
今となっては、その時の俺はなんて単純だったんだろうって思う。

時間は流れてるんだから、全然変わらない奴なんているわけないけど、


 「おまえは変わった」


なんて、簡単にヤツらは俺にそう言った。
どうして、俺との間に壁をつくるようなこと言うの?
別にたいして変わっちゃいねぇんだよ。
姿かたちは確かに変わった。
それヌキにしても変わったって言うんなら、
テレビによく映るようになったとか、遊んでる時間が少なくなったとか、
ただそれだけのことでなの?
同じようなこと時々言われるけど、みんなそういう考え?
こんなこと真剣に考えるって馬鹿だと思う?
当然なのかよ。俺らのやってることに壁が出来ちまうのって。
俺は今やってることに後悔なんてしてない。
いつも好き勝手、やりたいことやってる。
俺を「変わった」って思うのは、俺を見るお前らの目の方が変わったからだろうよ。

自分の考えを追い詰めすぎて、なんだか一人で疲れてる。
都会という名の、箱の中の生活にすらまだ慣れていないってのに・・・。
叫んで助けを呼びたくっても、喉乾いて声出ないや。


「・・・ワンワン!!」

「!!・・なんだよぉ、起きたのか」

赤ん坊の夜泣きみたいに、コイツは起きるとしばらくの間は寝むろうとしない。
俺もまだ眠くないし、家に居てもつまらない。
一人と一匹で夜中の散歩に出掛けた。


意味もなく走る。
あいたいから、だれかに。

このまま・・・
俺の周りすべてをとめちゃいたい。

流されてどっか行こう。
時間の波に揺られて、俺の知らないところへ・・・。 

ゼロからまた始めよう。
明日になれば、きっと変われる。


・・・結局、俺はどうしたい?
どうすりゃいいの?わかんなくて、全部ヘンになっちまいそう。

誰か、俺を助けて・・・
誰なら信じられる?何なら信じられるの?
どこまで信じられる?
教えてよ・・・なんもわかんない。

「ワン!」

俺はやっと我に返った。
一本道をどんどん進んで、かなり遠くまで来ちまったらしい。
空には星がひとつも見えない。
夜の闇の中で黒々と光っている雲に、
街のネオンの明かりで出来たウソの雲が重なって、余計に空が曇って見える。

そういえば、このネオンって12時までだったなぁ・・・。
時計を見てみると、もう12時1分前のカウントが始まっている。
・・・・・よし!決めた!
悩んでたって仕方ねぇや。
明日から新しく始めよう。俺のペースで、俺らしく。


あと10秒・9・8・7・6・5・4・3・2・1・・・
   

ゼロになった。
まっしろになった。
新しい『俺』は、今始まったばかりだ・・・。



〜END〜



(1999.5.2 up)


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