冷たい手


「すっげ〜・・・ムカつく!」

改札口をぬけて、・・・ここは駅のホーム。
とはいえ、人は本当に数えるほどしかいない。
空の星の数に比べてしまうと、変な寂しささえも覚える。
活気づいている昼間からは考えられない、ぽっかり浮かぶ寂しさ。
だが青年/健は、静けさしかないホームをチャンスと言わんばかりに、
胸の内を叫び出す。


いくら叫んだって、モヤモヤは消せやしない。
ただ逃げてる。・・・逃げたいだけ。
ひとしきり叫び、力なくベンチに腰掛ける。

「ふぅ・・・」

一息ついた瞬間・・・

「疲れるよなぁ〜。まぁ、あんだけ騒いだんじゃ無理ねーけど」

「!!」

自分の近くには、誰もいないと思っていたのに。
でもこの青年/剛は、動きも喋りもせず、ずっと座っていたのだから
気がつかなかったのも当たり前だ。

「・・・・・声も掛けないで、ずっと聞いてたのかよ」

「いい暇つぶしでした」

「!・・・」

「で、なんで怒ってんの?」

「・・・お前に関係ねーじゃん」

「あぁ、俺には関係ないね。暇つぶしだよ、暇つぶし。お前も暇だろ?」

「・・暇・だけど・・・」

「じゃあ決まり!言ってみろよ」


余すとこなく、すべてをヤツに話した。
叫ぶなんかよりすっきりしたし、イライラも治まった気がする。
ヤツが話し出す。

「お前さ、さっきよりよっぽどいい顔してるよ。
 今みたいに何でも全部話せる奴、他にもいるだろ?」

「・・・いるけど、余計話せねーよ。
 なんかヤなんだ。自分の弱いとこ見せちまうみてぇでさ」

「・・恥ずかしいことじゃねぇんじゃねーの?
 何でも話せる奴なら、・・・どんなお前だって受け入れるよ。
 強いとこも弱いとこも、全部お前自身なんだから・・・」

話し終わったと同時に、ホームに電車が入ってきた。

「なんか、お前ってさ・・・」

「いくか!」

会話をかき消すように、奴は勢いよく立ちあがる。

「おいっ!」

「・・ほ〜らっっ!!」

立ちあがらせようと俺の手を引く・・・




―――――― 冷たい手


本当に生きているのか。

そこまで心配させてしまうくらい、冷たい手。

温めてあげなければならないのか。

・・・そんな必要なんかない。

温かさなんて、もう持ってる。

ヒトを知り、ジブンを教えて初めて気づく・・・


―――――― 温かい気持ち



〜END〜

(1999.5.16up)


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