ちいさい夏の島〜6部〜

(by あやっぺさん)


−海岸

朝焼けに明るく染まる海。
翔と南はそれを眺めながらマコトを待っていた。

「マコト、来ないねぇ」

「あぁ・・・」

「記憶が戻ったのかなぁ?」

「あぁ・・・」

「って、翔!聞いてる!?」

「あぁ・・・」まだ寝惚け眼の翔。南の話をまともに聞いていない。

「もぅっ!!」

そこにやっとマコトが来た。

「翔!南!」

「あっ、マコト〜」



「記憶が戻ったの!?」南が目を丸くする。

「まぁ、一部分だけやけどな」

砂浜に3人並んで腰を下ろし、マコトが昨日の出来事を話す。

「どういうきっかけ?」翔も真面目に話を聞いている。

「町歩いてたら病院から抜け出してきたっちゅう男の子と会ってな。
 その子を病院に送ってったら、急に頭が痛なって・・・。
 見えたんや。病院のベットで寝てる自分が」

「・・・ホントかよ」信じられないといった顔の翔。

マコトはコクリと頷く。

「そんで病室に女の人が入ってきたんやけど、顔が見えんまま意識が戻ってしもうた
んや」

「その人に心当たりはないの?」

「多分・・・母さんや。俺、体弱くてずっと病院に入院してたんよ。
 その辺は全部思い出した。でも、どうしても母さんの顔だけは思い出されへんね
ん」

そう言って悔しそうな顔をするマコトに、翔と南は声を掛ける。

「少しでも思い出せたんだから大丈夫だよ。きっと全部解決するって!」

「でも、俺ら明日帰んなくちゃならねぇんだ。明日までには何とかしようぜ!」

「・・・ありがとう・・・」

それだけ言うとマコトは耳を真っ赤して俯いた。
その横で2人はニコッと笑い合い、立ち上がる。

「じゃ、合宿最後の練習にでも行こっか」

「また後でな」翔がガッツポーズをつくる。

「おぅ」

マコトが顔を上げたとき、立っている2人の隙間の向こうに何かが見えた。
よく見てみると、それは島に向かって静かに合掌している一人の女性の姿だった。
一人の・・・女性・・・


『ドクンッ』

(「またや。でも頭は痛くない」)

「ヒック・・ヒック・・・」誰かの膝の上で泣いている子供。

(「小さい頃の・・・俺や」)

誰かに優しく頭を撫でられながら、ひたすら泣きじゃくっている。

(「これ、確かじいちゃんが死んだとき・・・」)

「誠。おじいちゃんはなぁ、あの島で生きてんねんで」

顔は見えないが、きっとマコトの頭を撫でている人の声だ。

「・・・あの島?」

「そう。おじいちゃんは海の向こうに見えるあの島でな、
 この町の人とずぅっと生きとる。だから寂しないねんよ。みんな一緒や」

ここでやっと声の主である、あの人の顔が見えた。

(「母さん・・・」)


マコトは意識を失い、砂の上に倒れた。

「おっ・・おいっ!マコト!」慌てて翔が抱き起こす。

「マコト!!」

この時、もう海岸にマコトの母の姿は無かった。



『ピーーーーー』

「誠!!・・・まことぉ・・・!」

悲しい叫び声が何度も聞こえる。
病室のベットの上にはマコトが眠り、もう二度と目を開けることは無い。
そんなマコトを家族は取り囲み、やりきれず涙を流していた。

(「父さん、母さん、みんな。そんなに泣かんでもええって。
  俺はここにおるやろ?・・・ここにおんねん!!」)

家族はマコトには目もくれない。
マコトの声は届かない。
今、もう自分は“誠”ではないのだ。
家族の手から離れてしまった以上、もう自分は“マコト”でいるしかないのだから。


『バッ』

マコトは寝ていた体制から勢いよく起き上がる。
うなされていたのかもしれない。額に脂汗をかいている。

(「・・・ここはどこや?」)

周りを見てみると、たくさんのボストンバックが置かれている。
翔や南が合宿している部屋だ。でも、いるのはマコトだけ。

(「そうか。俺、気ぃ失ってもうたんや。あいつらは・・・練習やな」)

ふいに、頭の中に翔と南の声が聞こえてくる。

「――きっと解決するって!」

「――明日までにはなんとかしようぜ!」

さっき海岸で話していた言葉だ。

(「!今、何時や!?」)

午後5時。意識を失ってから、もうそんなに時間は経っていた。

「そろそろ、ケリつけてこなあかんな・・・」

マコトは部屋を出る。



〜最終部へ〜

(1999.9.2UP)