ちいさい夏の島〜5部〜
−町
マコトは街灯の明かりに照らされながら歩いている。
どんなに周りの景色を見ても、記憶が取り戻される様子はない。
当てもなくさまようマコト。そこへ・・・
『ガサガサッ』
「!」
草むらから物音が聞こえ、中から幼い男の子が倒れてきた。
一瞬ビクッとしたマコトだったが、男の子に意識がないのがわかると走り寄る。
「大丈夫か!?」
「う・・う〜ん・・・」男の子は起きて眠そうに目を擦る。
「なんや。寝とっただけなんか」ホッとするマコト。
「兄ちゃん、誰?」のんきにキョトンとする男の子。
「“誰?”って・・・。
まぁ、そんなことはええから。なんでこんなとこで寝とったん?」
「・・・・・」男の子は黙り込む。
−公園
「病院から抜け出してきたぁ!?」
「し〜っ!声が大きい」男の子は焦り顔。
ブランコに乗りながら話している二人。
「で、草むらに隠れとったわけか。そらアカンわ。はよ戻ろ、病院」マコトは立ち上がる。
「嫌や!・・・つまらんねん。僕、元気やのに、なんで病院にいなアカンの?」
泣いてしまいそうなのを必死に堪えながら話す男の子を見てマコトは少し動揺する。
無理矢理連れていくわけにも行かず、またブランコに座り直した。
「友達と遊びたないか?」
「・・・遊びたい」
「そやったら、そんな急がんでもええやん。
ゆっくり休んで、お医者さんもビックリするくらい元気になってから遊べや」
「・・・・・」俯く男の子。
「きっと友達も学校で待っとるで。なっ?」
「・・・うん。僕、病院に帰る」ニコッとマコトを見る男の子。
「病院まで送ったるわ」マコトも笑い返す。
−病院の前
「兄ちゃん、ありがとう!」
「礼なんてええから、はよ行き」
「うん!」
男の子を見送り、ふと病院を見上げると・・・
「ウッ・・・!」
突然、体が痙攣し、頭は締め付けられるように痛い。
何が何だかわからず必死に頭を抑えるマコト。
『ドクンッ』
大きな心臓の音が聞こえ、次の瞬間目の前に見えたのは・・・自分。
病院のベットの上で眠っている、紛れもない自分の姿だ。
(「そうだ。・・・俺は・・」)
そして病室に一人の女性が入ってくる。
(「あ・・・あの人は」)
母なのだろうか。ここからは顔が見えない。
「母さん・・・!?」
女性はマコトの声に気付いたかのように、ゆっくりとこちらを向く・・・
「!」
マコトは我に返った。母であろう女性の顔を見ぬまま。
「ハァ・・・ハァ・・・」
意味なく押し寄せてくる疲れ。
マコトは木の陰に座り、目を閉じた。
次の日 朝。
朝日に照らされ、マコトは目を開ける。
「あいつら、もう来てるかな・・・」
少々よろけながらも立ち上がると、マコトは海へ急いだ。
〜6部へ〜
(1999.8.24up)
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