ちいさい夏の島〜4部〜

(by あやっぺさん)

−小高い丘

「えっ!?じゃあ、お前って・・・」

「そう。もう死んどるみたいや」

一本の大きな木。
南は幹を背凭れにして立ち、その横で翔は座っている。
やはり表情は穏やかでない。
少年は枝に腰掛け、現実としては信じ難いとも言える自分の状況を二人に話していた。

「でもさぁ・・・。君、名前は?」

「マコト」

「なんで死んだはずのマコトが俺達には見えるんだろう?」

「・・・たぶん“死んだ”っちゅうことを俺がちゃんと自覚しとらんからやと思う。
 そもそも、死んだ理由も、自分が何でこの島にいるのかもわからへん。
 記憶は全部抜け落ちとる。覚えとんのは名前だけやった」

マコトは苦い顔をする。

「でも、腹は減らんしな。やっぱ死んどるんかなぁってなんとなく思うてるだけや」

「・・・マコトの姿を見たのは俺達が初めてだよね?」

「そういうことになるな。
 お前らみたいに好奇心だけでこの島に来るような物好きおらんもん」

マコトが“だけ”を強調して言った。

「それどーゆー意味だよっ」翔がマコトを見上げる。

「ハハッ」

マコトはピョンッと木から飛び降り、続いて翔が立ち上がった。

「俺は翔。で、こっちは南」

「よろしく!」南が笑って言った。

「あぁ、よろしくな!」

「そうだ!マコトも俺達と一緒に町来ねぇ?」

「えっ、・・・う〜ん」マコトは困った表情。

「でも、マコトは翔の兄貴にだって見えるはずなんだよ?
 ボートに乗ってたらバレちゃうじゃん」

「何言ってんだよ。そこが腕の見せ所じゃな〜い♪」


−海岸

約束の7時。翔の兄のボートはすでに着いている。
大きな岩陰に姿を隠し、翔たちは何やらコソコソと話をしている。

「いいか?うまくやれよ」そう言って先陣をきったのは翔。

ボートに向かって歩いてくる翔を見つけ、兄は身を乗り出し、

「遅いぞ!」などと文句を言っている。

翔はニヤリと微かに笑い、例の作戦を実行に移した。

「あ・・兄貴。俺さ、・・・ちょっと・・腹の調子が・・・!」腹部を抑えて座り込む。

当然これは演技である。

「おっ・・おいっ。翔!」兄はボートを降り、翔の所へ向かう。

兄の動きを確認した南はマコトに合図し、それを受けたマコトはボートへ走る。
ボートに辿り着くと同時に飛び乗って物陰に隠れた。
兄は全く気付いていない。作戦は成功だ。
翔はまたもニヤリと笑い、

「あっ、大丈夫。もう直った!」そう言ってピョンピョン飛び跳ねてみせた。

「えぇっ?」

「遅くなってごめん!翔、大丈夫?」何事もなかったかのように岩陰から南が走ってくる。

「大丈夫!」

「心配させんなよなぁ・・・」兄は安心した様子。

本当に心配してくれた兄を目の前にして、騙してしまったことが二人を複雑な気分にさせていた。
二人は心の中で兄に謝り、やがて嬉しさを隠しきれずに微笑んだ。



「今日はありがと、兄貴」

町へと帰ってきたのだ。
翔と兄が喋っている間に南とマコトはボートを降りた。
兄と別れると三人は合宿所のほうへ向かう。

「ねぇ、マコトは・・・」南が何かに気付く。

「?・・・あっ!そうか。マコトを合宿所には連れていけねぇ」

「どうする?」南がマコトのほうを見る。

「俺ならええよ。その辺散歩してるし」

「でも、マコトがこの町の人間だったとしたら、そのままで歩くのはマズいんじゃない?」

「そうやなぁ・・・」

「別に顔さえ見えなきゃいいんだから、俺の帽子使え」

翔はズボンのポケットに入っていた帽子を取り出し、マコトに手渡す。

「なんか悪いな」

「いいって。気にすんなよ」

「げっ!翔、早く帰んないとヤバいかも」南が時計を見て焦る。

「マジ!?じゃあマコト、明日の朝ここで!」

「バイバイ!」

二人は合宿所へ帰っていく。
時折後ろを向いてマコトに手を振りながら。
マコトも手を振り返しながら、本当に嬉しそうだった。
あの島に一人ぼっちだった自分が、今こうして二人の“友達”ができたのだ。

「・・・・・」

二人の姿が見えなくなると、マコトは町へと歩き始める。



〜5部へ〜

(1999.8.20up)


(「STORIES」に戻る)

(メインのページへ)