DESTINY 〜約束の出逢い〜 

(by 黎さん 1999.12.16up)

〜 Scene・10 〜


“どうして、彼女のいない日々の中に、俺が生きる意味など見出せるというのだろう”

突然、冴子がいなくなってから、もうどれくらい経つだろう...
その間も容赦なく日々は流れていき、俺自身も、学生から社会人という立場へと変わっていた。 目まぐるしく、取り巻く環境が変化していく中で、俺だけがその流れについていけず、一人ぽつんと取り残されていた。

これが... こんな別れが、俺たちに用意されたラストなのだろうか...
そんなに簡単に、冴子は俺のことを忘れられるというのだろうか?
数々の障害を前にしても、この想いを断ち切ることが出来なくて、苦しみながら、迷いながら、そして時には、互いを傷つけ合いながらも俺たちはそれを乗り越え、やっと心を寄せ合い、二人で歩き出そうと決めたばかりじゃないか... 
それなのに、どうして... どうしてこんな別れを受け入れられるというのだろう...

これが本当に、冴子が最終的に選んだ答えだというのだろうか。
もしそうだというのなら、俺は... 別れを受け入れる覚悟を決めるだろう。
もちろん俺にとってその決断は、まるで、躰の一部を無理矢理にもぎ取られるかのような痛みと苦しみを伴うものになるだろうけど、最後の最後で、冴子の心に迷いが現れて、彼女が本当に必要としているのは俺ではないのだと、そう決断を下したのなら、それは仕方のないことだと諦めるしかないだろう。
その想いに押し潰されそうなほど、胸には冴子への想いが溢れてはいるが、俺は無理矢理にでも彼女を奪い自分の傍においておきたい、と思っている訳じゃない。
そこに心がなければ、何の意味もない。 俺を必要としてくれる冴子の心がなければ、どれだけ俺が冴子を求めても、それは彼女にとって苦痛になるだけだ。
冴子が俺の隣りにいることを望んでいないのなら、一緒にいたって互いを苦しめ合うことになるだけだ。 俺は彼女を苦しめたいんじゃない。
俺は、冴子を愛し、そして守りたい... そう思っているだけだ。
俺が傍にいることが、冴子を苦しめることになるのなら、俺はきっぱりと諦め、彼女の前から姿を消すだろう。

けれども、こんな一方的な別れでは受け入れようがないじゃないか。
何一つ彼女の口からその理由を聞かされぬまま、いきなり突きつけられた別れを黙って受け入れられるはずがない。 どんな結論を彼女が出したにせよ、俺はその理由を冴子の口からちゃんと聞きたかった。 そうでなければ、いつまでも俺はこの場で立ち止まったきり、前へ進み出すことが出来ない。 この気持ちに整理を付けなければ、歩き出しようがないじゃないか...

...本当に冴子は俺に、一人で歩き出せ、と言っているのだろうか。
俺にとって、冴子のいない日々を歩き出す意味が、果たしてあるのだろうか...
冴子がいてくれなければ、前へ進む意味などないような気がする。
今の俺にどうやって、冴子のいない一人の時を刻めというのだろうか...
冴子が俺のすべてなんだ。 その冴子を俺から取り上げられたら... 一体、何が残るというのだろう?

逢えない日々は、更に冴子への想いを募らせる...
日に日に強くなるその想いと、孤独感に、俺はどうにかなりそうだった。
どんな結果でもいい... 真実を知りたい。 このままでは気が触れそうだ。
何処にいても、何をしていても、想うのは冴子、貴女のことばかりだ...
冴子の滑らかな肌・しなやかな髪・柔らかな唇... 狂おしいほどに、俺のすべてが冴子を求めている。 もう一度、貴女に触れたい。 この腕に抱きしめたい。
あの優しい声で、もう一度俺の名を呼んでくれ。 俺に微笑みかけてくれ...
冴子... 何処にいるんだ...

こうなってみて初めて、俺は冴子について何も知らないことを改めて思い知らされた。
冴子を捜そうにも、どこから当たりを付ければいいのか、見当も付かない...
知っているといえば、彼女の自宅くらいだった。
もう何度、彼女の家の前まで足を運んだだろう...
しかし、いつ訪れても、彼女の車はなかった。 雨戸もいつも閉まったままで、中に人がいるようにも思えなかった。
...一体、どういうことなのだろう? 冴子に何が起こったのだろうか...
冴子の身に何かが起こっている... そう、きっとこれには理由があるはずだ。
そうでなければ、彼女が俺に何も告げずに姿を消す訳がないんだ...

何一つ冴子を捜す術はなかったが、俺が冴子のことで訊ねられる人が、たった一人だけいた。 冴子の友人の、貴島さんだ。 この貴島さんが最初に陶芸教室に通っていて、冴子にも習ってみないかと、教室に誘ったのだった。
しかし、貴島さんに訊ねても、冴子の所在は分からないとのことだった。 知っているどころか、私の方が聞きたいくらいだと、逆に俺が訊ねられてしまったほどだ。
けれども、昨日教室で会ったときの貴島さんの様子が以前と違って見えた。
何だか俺と視線を合わせたくないような、そんな感じだった。

帰り際に俺は貴島さんを呼び止めて、冴子から連絡はなかったですか? と、また同じ質問をした。 貴島さんの答えもいつもと同じだった... しかし、どこか彼女の様子が不自然に思えて仕方なく、俺は本当は連絡があったのではないですか? と、しつこく詰め寄った。
すると貴島さんは困惑したような表情を浮かべた後、俺に言った。
“快彦くんの辛い気持ちもよく分かるわ。 だけど今は、そっとしておいてあげて。
...冴子の気持ちも分かってあげて。”
俺はその言葉の意味を測り倦ね、どういう意味なんですか、と、彼女に訊ねたが、貴島さんはそれには答えてくれずに、逃げるように去っていってしまった。

貴島さんの最後の言葉が気になり、頭から離れなかった。
“冴子の気持ちも分かってあげて。”
...一体、どういう意味なのだろう.....


本当にもう、俺は冴子に逢えないのだろうか...
貴女がいなければ、俺の心は空っぽだ。 冴子、俺を一人にしないでくれ...


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