投稿時間:01/05/27(Sun) 07:48 投稿者名:きらきらぽー
Eメール:mamiko@grrrls.net URL :
タイトル:LIFE 1
「ありがとうございます、長野先生」 老婆は涙ぐみながら、長野博に礼を言う。 「いえいえ、僕にできることはこの位の事だけです。僕でお役に立てればいつでも言って下さいね。」 博は微笑みながら、老婆の手を優しく握った。老婆はほっとしたようにミノリカワ商事のオフィスビルの中にあるその部屋を出て行った。 先生と呼ばれている長野博は、別に教師でも、医者でも、弁護士でもない、一介のサラリーマンである。それがなぜ先生と呼ばれるのか・・・。理由は博にはあるときから不思議な能力”未来予知能力”が備わり、その事を知る者が博を頼って博のオフィスを訪れ、長野に己の未来や家族の未来を見てもらうからだ。彼らは口々に長野先生、と彼を呼び敬う。 一番それに困惑しているのは長野博自身だった。なぜなら、博には他人の未来を見ることが出来る、つまり、悪い未来でも、相手に告げなくてはいけないからだ。 「・・・お気の毒ですが、貴方の会社は半年後、このままでいきますと倒産してしまいます。」 こんなふうに相手に対して大変辛い宣告もしなければならない。 「え・・・、そんな・・・・。長野先生、な、なんとかならないでしょうか?」 相談者は焦りを隠し切れずに博に詰め寄る。 「そうですね・・・。”このままでは”ということですから、なんとか今からでも対策を練りましょうか?有能な弁護士やいろいろな方に相談なされば、なにか救いがあるかもしれません。未来は必ずしも変えられない、というのではありませんから。」 博のこの言葉は真実だった。ある程度複数の要因が重なって、未来は作り上げられる。未来予知は殆どの場合、博の告知どおりになるのだが、いくつかのそこへいたる要因を上手く取り除けば、多少のずれを生じる事があるのだ。悲しい未来を見てしまう博ではあるが、彼は何とかして、そこから彼らを救ってあげたいといつも思うのであった。
博は普通のサラリーマンである、いや、それは今や過去の事かもしれない。博のこの並々ならぬ未来予測の力を知った、博の会社ミノリカワ商事の役員達は、この力を求める彼らのビジネスパートナーや、会社にとって有益になりうる政界の大物、そして彼らの親族などを、博のオフィスの部屋に連れてきた。そして、その誰もが、博の的確な未来予知に驚愕し、ある意味ものごとを先に知ることにより、自分の時間や力の温存を多少できるようになる。心配事がなくなるのであるから、それに関わる事をなくすことが出来るのだから・・・。博の存在は会社にとって今やなくてはならない存在となった。事実、会社の近い未来、一つ一つの取引の有用性、そのような事も博の目を借りれば簡単に且つ正確に把握できる。いつしか、彼の元来の仕事は極端に減少し、未来を見る、予測することがメインの仕事になりつつあった。 彼はこの事になんの不満も言わず、いつもにこやかに微笑んでいた。なぜなら、役員のうちの何人かは、博の両親に親しい関係にあり、両親が事故で死んだ後、ひとりになった博を不憫に思い、様々な面で世話をしてくれたのだから。博はこの役員達の恩に報いるためにも、自分の能力を惜しみなく使った。
「ただいま、戻りました。」 夜遅く、博は帰宅した。表札は「長野」ではなく「坂本」である。両親が事故で亡くなった時、伯父の家に引き取られたのだ。そこには1つ年上の昌行も住んでいた。 「おう、今日も遅かったな。」 ぶっきらぼうに昌行が言う。 「あ、起きてたんだね、昌行。」 博がコートを脱ぎながら昌行の方を見た。昌行はタバコに火をつけようとしていた。 「いつも、遅くまで大変だな、無理すんなよ。」 タバコの最初の煙をふーっと吐き出す。 「ああ、大丈夫。僕は頑丈に出来ているからね。」 博はにっこり笑って、軽くシャワーを浴びにバスルームに消えた。 「確かにな・・・。あの事故でもお前だけ、生きてたんだしな。」 昌行は約一年前の記憶に思いを馳せた。博と両親が乗る乗用車は大破していた。トレーラーに巻き込まれ、原型を留めていなかった、乗用車。集まる人々、パトカーの音、救急車のサイレン。その中で、奇跡的に命を取り留めた博・・・。 「あれ、ご飯、今日は鍋物だったの?」 タオルで髪を少し拭きながら、ダイニングにやってきた。 「だったの?じゃなくて、今から食べるんだよ。」 ブスッとしながら、昌行が言う。 「あれ、叔父さんたちは?・・・あ、そっか、今日から長期海外出張だっけ。」 「ったく、ちゃんと覚えとけよなあ。」 遅くまで我慢して、自分と食べるために夕食を待っていてくれた昌行に感謝した。 「昌行、鍋好きだもんね。味が楽しみだな。・・・待っていてくれて、ありがとう。お腹すいてたんじゃない?」 「・・・・。」 昌行は無言で、鍋をもくもくと準備しだした。すぐに良い香りがダイニングを包んでいった。 「ハラ減ってたのはお前も同じだろ。」 昌行がボソッと言った。 「ご心配なく、僕は残業のときに、オニギリの差し入れ3つもらったから。」 博がにっこりと笑う。昌行は「やっぱり、こういうヤツだよ、博は・・・。」と心の中で思った。「プラモデル作りながら待ってた俺って、一体・・・・。」ため息をつく昌行をよそに、博はもう鍋の中をつついていた。
==== 約一年前 ==== 雪の降る寒い晩、二人の天使が交通事故の現場に立っていた。 「痛ましい・・・。かわいそうやな、ケンくん。」 黒髪の背の高い方の天使が、栗色の髪の少し背の低い方の天使に話し掛けた。 「本当にね。こういう悲しい事故、なくなってくれるといいのにね。ジュンイチは、事故の魂を運ぶの初めてだもんね。」 ケンくんと呼ばれた、栗色の髪の天使は黒髪の天使ジュンイチを気遣うように言った。 「うん、でも大丈夫や。早いところ、魂を安らかに天国に運んであげようや。ケンくん。」 「ちぇっ、調子いいなあ。悪いけど、僕は君の先輩天使なんだからねえ、あんまり態度悪くしないでよね。」 ケンが少し口を尖らせて、飛んだ。バサッと大きな翼をはばたかせると、少し白い小さな羽が雪と一緒に舞い落ちた。最初にケンは、運転席の父親の魂を天国へ運んだ。 「ジュンイチ、あと、二人ぶん、よろしくね。」 ケンはそうジュンイチに言い残して、天国の扉の奥に消えた。 次にジュンイチは助手席の母親の魂を抱きしめた。普通は何も話さぬ魂が、このとき急に言葉を発した。 「お願い、天使さん、息子だけは生き残らせて。私の魂が天国に行けなくてもいいから。どうか、お願いだから!」 「えっ。なんやねん、こういうこと、あるんか?」 ジュンイチはびくっとした。確かに後部座席にもう一人倒れていた。”綺麗なにーちゃんやな、ルネッサンス期の絵画のようや”ジュンイチはため息をついた。しかし、その青年はほとんど息はない。先輩天使のケンはあと二人、と言った。”つまり、この後部座席の綺麗なにいちゃんも連れて行かねばいけないんや”と、ジュンイチは心の中で再確認する。 「おばさん、それは無理や。俺、おばさんと、もう一人、そのにーちゃんも連れて行かんと、ならへんのや。かんにんな。」 ジュンイチは、はばたこうとする。すると、母親の魂が、ジュンイチの腕をするりとすりぬけた。 「困ります。ほら、博はまだ、生きられる」 母親の魂が後部座席の青年に近づいて言った。博と呼ばれたその青年は確かに微かに息があり、魂はその体から抜け出るか、抜け出ないかの瀬戸際にある。怪我の具合も急いで治療すれば何とかなりそうだ。 「ありゃ、確かにこれは生きられそうな感じやな。もったいないわあ、この人の魂持っていってしもうたら。」 ジュンイチはつぶやいた。 「後生ですから、天使さん、博だけはこの世に生かしてやってくださいな。」 母親の魂は震えながら懇願する。ジュンイチはあっさりと認めた。 「ええよ、確かに、博さんっていうこの人、まだ生きられるで、無益な殺生はいかんのや。」 ジュンイチは笑って母親の魂を抱き天へ向かった。そして、救急隊員の一人に向かって自分の羽を落とした。きらきらと光るその羽が救急隊員の体に触れると同時に、 「生きてます!奇跡です、この事故で。。。!」救急隊員は叫び、博を急いで病院へ運んだ。
「なにー?おいてきたあ〜?!」 天国で天使ケンが天使ジュンイチに叫ぶ。 「そうや。だって、あの博っていうにいちゃん、まだ使えるねん、あの体。もったいないやん、生きられる魂もってきちゃうのは。」 だらりと寝転んだまま、のほほんと天使ジュンイチが答える。 「も、もったいないやんって・・・。」 ケンは頭を抱えて続けた。「俺たちがそんなの決定しちゃいけないんだよお。」ジュンイチを一人であの場に残すんじゃなかった、とケンは後悔しきり。 「せやけど、緊急のときは天使が決定してええって、神さん言っとったで。」 ジュンイチはまだ、のんびりと構えている。 「違うよお。確か、そういう時って、現場の死神さんに同意を得ないといけないはず。そうじゃないと、その魂に支障が出てくるんだよ。」 「支障って?」 ジュンイチも少し焦りがでてきた。 「う〜ん、詳しい事は分かんないんだけど、僕も。」 ケンはがっくりと肩を落としている。神様からお叱りを受ける事も、ケンの気を重くしている原因のようだ。それをちょっと察知したのか、ジュンイチは、 「ええよ、俺、神さんに聞いてくる。こういう時どうしたらいいかって。」 寝転んでいたジュンイチがぱっと起き上がり、すばやく神様のおられるところへ向かって飛んでいった。 「ちょ、ちょっと待てよー。指導天使は僕なんだから、僕が報告にいくよお。」 ケンもそれに急いで続いた。
救急治療室では、博はまだ意識が戻らずにいた。ベッドの見えるガラス越しには友人の井ノ原快彦と、従兄弟の昌行が心配そうに彼を見つめている。博を介して、二人は面識を持ち、ここ数年は3人で行動する事もよくあった。 「長野君、このまま、目を開けないなんて事、あったら・・・。」 快彦がつぶやく。 「何も言うなよ、井ノ原。」 きっと同じ気持ちであろう昌行が、首を振った。全身事故の怪我だらけの博は、何も答えない。
その頃、二人の天使は神様の館から、死神の館へ向かっていた。 「あ〜あ、やっぱり、死神さんのところに行かなきゃならなくなったよお。遠いのに。」 ケンが文句を言っている。 「ええやん、そんなに神さん、怒ってへんかったし。ようは死神さんと交渉するって事やろ。そうすれば、なんとかなるんやろ?まかしとき、なんとかしとくさかい。」 ジュンイチが気楽に言う。ケンはまだ心配だった。そして、死神の館に着いた。館の中は薄暗く、奇妙に静かだった。 「怖い人なんやろか、ケン君会った事あるんか?」 ジュンイチがちょっと不安げに言う。 「今になって、怖がってどうするの!僕だって会った事ないよっ。」 いざという時には強くなるケン。もう行くしかない、会って話をするしかないんだもの、ケンは気合をいれるように背筋を伸ばして、死神の居室のドアを開けた。 部屋の中は、暖炉の光と数箇所に置かれたランプに照らされて、廊下よりずっと明るかった。といっても、天国の神々しい明るさとは違い、あくまでも照明によるものだ。さらに、そこかしこに、多くのメモやペンが散乱し、仕事に忙しい様子がうかがわれた。 「あの、死神さん、こんにちは。天使のケンといいます。後輩の天使ジュンの先日の件でお話が・・・。」 ケンが大きな声で部屋の中の人影に告げる。すると、その人影がすうっと消え、いきなりケン達の目の前に現れた。死神ならではの能力だ。 「うわっ、なんやねん、びっくりしたわあ。」 ジュンがそれに驚いて後ずさりする。 「ノックもなしに開けるなよ、お前らの事は、神から連絡受けて知ってるよ。」 寝癖をそのままにしたようなフワフワとした薄い色の髪の小柄な死神はぶっきらぼうに言った。それを指摘するように、ジュンイチは、 「死神さんなあ、寝癖つきっぱなしやで、大丈夫?」 慌ててジュンイチの口をケンが塞ぐ。ここで死神を怒らせて話し合いが決裂するのを恐れたのだ。 「うひょひょひょひょ」 いきなり死神が笑い出した。 「こんな、失礼な天使初めてみたぞ。はっきりしてていいなあ。」 笑いながら死神は続ける。 「俺はゴウ。死神さんって呼び方はやめてくれ。嫌いなんだ、そういうの。」 これを聞いてほっとしたケンは、用件を伝えた。 「そうか、ようするに、死ぬ予定の魂を勝手に置いてきちゃったってことだな。」 死神ゴウが神妙な顔でこう言いながら、近くのメモを探した。目的のメモを見つけると、それを入念にチェックしながらゴウはこう言った。 「その魂は一度、身体から抜け出てるはずだ。普通、この手のケースでは魂に支障が少し出てくるわけなんだが・・・。うーん、この博って男の魂の場合は・・・そうだ、天国に居る魂のように、時空の観念がゆらぐ、他の人の過去や未来等が俺たちのようにそこそこわかってくるんだ。」 「あ、それっておトクやんかあ。」 ジュンイチがあっけらかんと言う。 「お得ってねえ。急にそんな風になったら、気持ち悪いと思うよ。本人。」 ケンは対照的な態度だ。さらにゴウは続けた。 「それと、この長野博、どっちにしても魂は天国に持ってこなくちゃいけないことになってるぞ。どうする。」 「え、今から行って、持ってこないといかんの?そんなのかわいそうやん。折角助かったんやで。治療すれば、まだまだ元気に暮らしていけそうな体だったんやし。」 ジュンイチが反論すると、 「お前が、そういうの決める事じゃないって、何度も言ってるじゃないかあ。」 ケンが超音波のような声でジュンイチを諌めた。 「二人とも、ここでもめるなよ。」 少し考え込んでいたゴウが天使二人をたしなめる。 「長野博のこの特殊能力、多分予知とかだと思うんだけど、これもそんなにガンガン使わなければ、ある程度命は延ばせるけれど、多分、自然とこれを使わざるを得ないことになるんだろうな。」 ゴウは長野博の未来データを見ながら続けた。 「1つだけジュンイチのやったことを活かせるチャンスはある、俺がある指定した時間に命を落としてもらうんだ、長野博に。」 「え、それじゃあ、結局魂とるんやんかあ。あんまりや。折角命拾いしたのに・・・。」 ジュンイチが涙目になった。ケンも同情したのか、瞳がうるむ。 「待てよ、聞けよ、誰が魂を天国に持って行けなんて、言ったんだよ!最近の天使はせっかちだなあ。」 ゴウの話には続きがあった。 「一時的に魂を引き止めさせてもらう、そして24時間以内に予定外の魂を代わりに頂くんだ、どうやらそれに値する悪さをしている魂もあるようだし。うまくすると、2人くらいそういう悪さをした魂が不慮の事故で取れるかもしれない。そうすれば、博の魂を戻して生き返らせる事が出来る。」 「えー、でも、死ぬ事が大体確定したら、僕達のスケジュールに組み込まれるはずでしょ?その2人だって、そうなったら、代わりの魂として使えないんじゃない?全くの予定外の魂でないと、だめでしょう。」 ケンが突っ込んだ。 「そのスケジュール組んでるのは、誰だよ。俺、死神じゃん。」 ゴウがニパっと八重歯を出して笑った。 「俺が都合つけとくよ、この2人に関しては、スケジュール公開しないでおくから。」 「でも、ゴウくん、どうしてそこまで長野博の命を考えてあげてるんだい?」 ケンが不思議そうに尋ねる。 「長野博の体がそんなにダメージ受けてないのに死ぬ事にしてしまったのは、俺のミスだ。それに、見ろよ、こいつの今までの人生・・・。」 ゴウが死神の持つ人の人生についてのデータの中の長野の部分を天使二人に見せた。ゴウも、ケンも、ジュンイチも沈黙した。 「・・・だろ、こういう人には生きててほしいよな。」 ゴウが言うと、二人はうなづいた。
つまり、博の予知能力は、両親と一緒に巻き込まれたこの交通事故のときから、備わったものである。その理由は博自身も良く知っている。というのは事故後、殆ど意識がなかった博の元に二人の天使が現れたのだ。そう、二人の天使は死神ゴウと話し合い、博に事の次第を明かしに来たのだ。 「ひろしぃ。ごめんなあ。俺が独断でこんなことしたせいで迷惑かけちゃったなあ。」ジュンイチが博の耳元で言う。話をしたこともないのに、既に”ひろし”と呼び捨てだった。その言葉に博は目を開けた。 「君、君達は?だれ?」 体の動かない博の意識の中に天使が入り込んできたのだ。 「僕達、天使です。体が辛いところごめんなさい。」 ケンが丁寧に言う。 「あ、そうか、事故で僕・・・。もしかして父さんと母さんは?!」 「すみません、もうご両親の魂は天国にございます。」 ケンの言葉に博はショックを受けた。自分だけが助かった事実に困惑しているようだ。 「本当は博も、天国に行かんといけんかったんやけど、博のおかんに頼まれてな、それに体もまだ大丈夫そうやったから魂はこばなかったんや。」 ジュンイチが事の次第を話した。正式の手順を踏まずに博の魂を残した事、これから予知の能力が備わる事、けれど本当は博は死ななければいけないこと。 「じゃあ、殺してくれていいよ。」博は微笑んだ「君達に迷惑かけられないし、両親ももういないんだし。魂を運んでいいんだよ。」 それを聞いたジュンイチが怒った。 「博のあほっ!あんた、自分のおかんがどんな思いで俺に頼んだと思ってるんや。そんなに簡単に死ぬなんて言ったらあかんで!」 「とにかく、指定される時間までに、申し訳ないんですが、もう一度瀕死の状態になっていただかないといけません。段取りは僕達でしますが・・・。そして貴方の魂を僕らの仲間のゴウさんに預かって頂いている間に、僕達が手順どおり事を行いますので、その後生き返っていただくことになります。」 ケンは、身代わりに他の魂を持っていく事やゴウが死神である事を告げるのを控えた。これ以上ショックを与えてはいけないと思ったからだ。とにかく、もう一度魂を体から抜いてその間にゴウが非公開にしている魂を持っていけば、博は救われる、生き返るのだから。ジュンイチも折角助けた魂、この博を生かしたかった。 「わかりました。とにかく僕はご指定の日にもう一度死ぬわけですね。」 遠くを見るような瞳で博がつぶやく。 「正確には、”死”とは異なりますが、形式的にはそれに近いでしょう。けれど、必ずあなたは生き返ります。どんな形にせよ、生き返るのです。間違いなく。」 どことなく寂しそうな博を励ますように、ケンは心を込めて強く言った。 「・・・ありがとう、二人の天使さん達。ご迷惑をおかけしましたね。」 博は微笑んだ。 「迷惑、ちゃうねんで。ひろし、いい人すぎるわ、俺たちに任せといてや。」 ジュンイチがポンと自分の胸を叩いて言う。 「他人の未来が見えてしまう能力ですが、いろいろ辛い事もあるでしょうね、でも、生き返りましたらその能力は消えますからご心配なく。」 ケンは能力に関するフォローも忘れなかった。 「指定の日に関しては、また、決まり次第告知しに参ります。ゴウさんが代わりに来る事も有るかもしれませんが、はっきりはまだ決まっていません。大体1年くらい後になるとは思いますが・・・。」 ケンとジュンイチの姿が、博の意識からすうっと無くなった。
「あ!長野君が目を開けた!」 快彦が叫ぶと、隣に居た昌行が博の手を握る、 「がんばったな、博。」 快彦が医師に告げに行くと、すぐザワザワと病室が慌しくなる。長野博は、悲惨な交通事故の生死のはざまから戻ってきたのだ。 ========
「今日は3人の方が、長野に予知をしてほしいそうだ、時間は・・・。」 上司が博に告げた。忙しいミノリカワ商事のオフィスの中で、全く違った内容を仕事にしつつある博。同じフロアには快彦も働いている。同僚の快彦は、博から予知能力の事を聞いて知っているので、特に驚きもしなかったし、博が「恩返しが出来るなら・・・」と考えて、この予知能力を惜しまず会社の言うとおりに用いている事も知っていた。同居人の昌行も、能力については実際に見るまでは信じなかったが、時間をかけて納得できるようになった。 「大丈夫かあ、頭痛くなったりしないの?」 快彦が博に聞いてくる。 「大丈夫、自然に見えちゃうだけだし。」 博がお決まりのスマイルで返す。 「へえー。じゃさ、俺、もうすぐ彼女できるかなあ?」 「また、その質問?・・・また遠のいちゃってるみたい。」 「なんでだー!!」 快彦が博のネクタイをひっぱった。苦しがりながらも博は笑っていたが、心の中で思う事があった。”もうすぐ、天使が言った期限の一年・・・” 死の時期が近い事を博は悟っていた。
坂本昌行は新聞社に勤めている。しかし、美術専門のライターだったので記事の内容により、比較的時間にゆとりがあることも多かった。経済面担当のライター仲間の城島が特ダネだと喜び、担当の違う昌行のところに話しに来た。 「なんだ、このネタ・・・。」昌行が息を飲む。そのライター城島の見せる手帳には博が勤めるミノリカワ商事の黒い噂について、メモが記されていた。最近ミノリカワ商事が様々な企業と手を組み、多大な所得を裏で得ているという話だ。 「まさか、博が絡んでいるのでは・・・?」昌行は嫌な予感がした。城島も、昌行と同居する従兄弟がミノリカワ商事の社員と知り、なにか情報を得るためにやってきたようだ。 「俺は何もきいていないが、このネタの裏は取れているのか?」昌行が尋ねると、城島はなかなか尻尾がつかめない、新しい事業の展開が他の企業と組んで行われている様子もまだないし、なぞだ、と語った。多大な所得、そして提携・・・、一体どういうことだろう・・・。昌行は考え込んだ。
続く
|