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一 括 講 読

投稿時間:01/05/24(Thu) 07:30
投稿者名:きらきらぽー
Eメール:mamiko@grrrls.net
URL :
タイトル:Euphoria その1・中学〜高校「羽」(剛&昌編)
 高校1年の夏、やっと肩まで伸びた髪を俺(森田剛)は金髪にしてみた。制服のボトムもちょっと下ろす感じに履くようにした。いきがってファッション誌を研究してまるでコピーしたような格好をし始めた。
当然の如く学校ではうるさく言われた。中学時代の地元の友人は
「森田剛って高校生デビュー」
と笑った。一学期までの友達も離れるものが増えた。逆に同じような姿格好の人間が寄って来るようになった。でも、俺にはそんなヤツラはどうでもよかった。俺はあるたった一人のやつの為に変身した。そいつの名前は坂本昌行。彼を一学期の終わりに見かけたときから、俺は自分を変えようと、自分を認めさせようと頑張ったんだ・・・。

=============
 彼、坂本昌行とは、中学三年のとき1年間席が隣だった。坂本はいつも不機嫌そうな顔で、なかなか打ち解けてこない、大人びた奴だった。部活もやらずただ受験に向けて静かに一人でマイペースにやっていた。それに比べ俺は生徒会の副会長をしたり、サッカー部でレギュラーをしたり、何にでも参加していたし、クラスメートや部活の仲間とバカばっかりやって騒がしい生徒だった。そんな俺だからか、坂本は必要な事以外俺とは喋らなかった。俺はしゃべる友達も多かったし、特に気にしていなかった。

 もちろん坂本にも一人友達がいた、長野という柔和な印象のクラスメートだ。彼ら二人は本当に大人な雰囲気があって同じ中3とは思えなかった。背も俺より10センチは高い。普段から騒ぐわけでもなくただ静かに落ち着いた印象がある二人だった。ああいう大人っぽい落ち着いた人しか坂本とは付き合えないんだろうな。俺はそう思った。類は友を呼ぶ・・・。俺と坂本じゃ絶対ああいうしっくりと気の合う友達にはなれないだろう。

 受験が意識されてくる中学三年の2学期、俺は文化祭や運動会の役員をやる事になった。
「森田は成績いいし、バイタリティあるから」
と、皆口々に言う。ちょっとしんどいかとも思ったが俺は頑張った。それに俺にはほのかに片思いしている別のクラスの准子もいたし、目立って活躍して俺を意識して欲しかったし。そんな俺を坂本は冷ややかな目で見ていたに違いない。

文化祭で俺がしたスピーチは妙にみんなに受けた。先生方も
「森田にスピーチを頼んでよかった」
と誉めてくれた。運動会でも結構活躍できたと思う。友達の三宅健は
「森田はサッカーも強いし、走るのも速いし、勉強も出来るし。すごいよね!森田みたいに強い奴って尊敬するよ!」
と絶賛してくれた。俺も嬉しかった。そうだ、俺は強い男なんだ、凄い奴なんだ、とマジに思ったりもした。でも、どこか疲労感を消す事が出来ないようだ。なぜ。

 行事が終わった初冬、俺は結局好きな女の子准子とは付き合えなかった。というか、クラスで一番良く話す友達の三宅健がその子のこと好きだったと分かったから、あきらめた。健から准子と付き合い始めた話を聞いたとき、俺は
「よかったなあ、健は准子とお似合いだよ。」
と言っていつものように、うひゃひゃと声を出して笑ったんだ。健は、俺の彼女への気持ちに気がついていなかったみたいだった。ちょっと、きつかった。胸が痛い気がした。でも、俺の顔は笑っていた。声も大きく出して笑っていた。

 俺は強いんだ、こんなことじゃめげないよ、受験だってあるし、すぐに立ち直ってみせる・・・。(デモ、イママデヤッテキタコトッテ、イッタイ・・・ナンダッタンダ!)
健と准子が楽しそうに廊下を二人で歩くのを見る度に俺は震える唇にきつく力を入れて結ぼうとした。誰にも気づかれなかった俺の思い・・・。

 その日も健の准子とのデートの話を昼休みに聞かされて、5時間目が始まるチャイムの五分前に席に戻った。まだ、辛さが残っていたからか、ため息が出た。その時だった
「森田は強いんじゃないよ、本当は自分の弱い部分を隠しているだけなんだ。」
と低い声で坂本が言った。俺は耳を疑った。なんでこいつが、急にこんな事を言うんだ?!
「無理するなよ、肩に力はいってるぞ。」
まっすぐ俺の目を見て言った。



 確かに俺はいつも疲れをどこかで感じていた。皆の期待を裏切りたくない、俺は強い奴でいないと。何でも出来る奴でいないと。・・・だめなんだ、頑張らないと駄目だ。皆を引っ張っていける人間でいないと・・・だめなんだよ・・・。−−−そう、そんな風に思って生きてきた。でも、特に話もしていない坂本がなんだって俺の心を見透かすように言うんだ?!

 なんだかいらいらした。今まで誰にも話していなかった気持ちを勝手にえぐり出されて、不愉快な感じがした。その反面、どこかほっとしていたのも否めない。
「なんで、坂本君に言われなきゃなんないんだよ。」
机の上でペンをぎゅっと握った。
「・・・森田を見ていると、なんだか大変だなって、ずっと思っていたんだな、俺。」坂本は次の授業の教科書を出しながら言葉を続けた。
「とにかく、無理に元気ぶるのはやめといたほうがいいんじゃないか?強がっても疲れるだけだと思うぞ。」
俺は結局何も言えなかった。ただ、なんとなく、心のどこかでふうーっと深呼吸できたようなそんな感じがした。・・・その後も坂本とは特にたくさん喋るわけではなく、残り少ない中学生活を消化した。俺の心にちょっとだけ雪解けがある予感はしたが、なぜだかどうしても反発してしまう。

 俺も坂本も高校に合格し、卒業式を迎えた。三宅は准子と仲良く同じ高校へ行くそうだ。今はそれを落ち着いた気持ちで見守れる。
卒業式のその日、俺はどうも坂本が気になった。大人っぽい坂本。洞察力も深く・・・。なんだか負けた感じがあって。奴と同等になりたい。奴が俺の心をお見通しだったように、俺も奴のことを驚かせてやりたい。反発なのか、なんなのか、俺はどうもいらいらした。

 電車の方向も全く別になった俺と坂本は殆ど会う事はなかった。俺もなんとなく奴の事を忘れていた。ところが高1の一学期の終わりに俺は駅前の本屋で坂本を見た。隣には長野君もいた。中学の頃と制服が変わったせいもあるのか、二人が更に大人に見えた。背も、また伸びたみたいだ。長野君が俺に気づき微笑みかけてきた。
「森田君、久しぶりだね、元気だった?」
長野君はいつも優しい。さわやかな笑顔。落ち着いていて大人のような。坂本の友達・・・。こういう人だからな・・・。一緒にいた坂本も気づいたようだ。特に何も言わず、口元が少し揺るむ。俺はついガンを飛ばした。それを見た坂本が
「変わらないな、おまえは。」
とつぶやいた。

 すごく、悔しかった。坂本にバカにされた気がした。子供だって、中学のままのガキだって言われた気がした。顔が熱かった。俺は赤くなってくる顔を見られたくなくて、その場を逃げ出した。長野君は不思議に思っただろう、でも坂本は・・・。ーーーそのとき決めた。絶対次に会うときはバカにさせない。卒業式の日思ったように、いやそれ以上に思いは強かった。奴より凄い人になりたい。みとめさせたい!


==============
 それから、今に至るんだ。背も伸ばしたかったが、まずはルックスから変えてみようとした。髪を金髪にし、流行のファッションを追ってみる。ちょっと強そうに見えるように。中学の頃のような健康的な元気な少年、っていうのはもう嫌だ。負けない。驚かしたい。奴より凄いっていわせたい。次に会うときまでには・・・・!

 そして高校2年の初夏、約一年ぶりに坂本に遭遇した。去年と同じ場所、駅前の本屋で。それまでも時折坂本らしい姿を見かけることはあったが、まだヤツを納得させるほどにはなっていない、と思い気づかれないうちに坂本の視界から外れるようにした。でも、高校2年の今、そう今なら、彼を驚かす事ができる!俺は、そう確信し坂本に声をかけた。

「ひさしぶりだな。」急にかけた俺の声に本を立ち読みしていた坂本が気づく。
「森田・・。おお、ひさしぶり。」
「最近どうよ」驚いたそぶりもない坂本にいらいらしながら言ってみる。お前、俺が見えてないのか?
「まあまあだよ。森田は?」
「別に」こんなに変わった俺に、なにも一言もないのか?!特に俺に興味を持たない坂本にむかついていた。そんなとき坂本が言った。
「森田、お前・・・」
お!やった、やっときづいたか!どうよ、俺。もう昔のガキっぽい俺じゃないんだからな。
「昔の方が良かったよ。」
「・・・・!」何を言うんだ、こいつ、俺、こんなに・・・!
「また、なんだか、別の意味で無理してるな。」坂本がつぶやくように言う。
「なあ、お前自分に自信持てよ。自分自身に!素のままの森田がいいんだよ。余計な力を抜いて・・・さ。自分を愛してやれよ。」
坂本のその言葉と同時に、本当に力がすーっと抜けていく。なぜ?
「俺は中学の頃のお前が良かったと思うよ。」
なんだか俺は涙が出そうだった。
「だって、あの頃だって、無理しているって言っていたじゃないか!」
「ああ、お前はいつだって無理しているかもな。でも、本当の自分が悲鳴をあげているのに気づかないのかなあ。今、限界がきて特にな。」
「・・・。」俺は言葉に詰まる。
「無理しないで、気持ちにゆとりを持てよ、俺とか友達だっているんだから、たまには頼ってこいよ。」この坂本の意外な言葉に驚いた。
「友達?」
「え、違うのか?がっかりだな、俺は森田の友達だと思ってたけどな。」
なんだ、そうだったんだ、友達って、思ってくれていたのか。本当に体が、気持ちが軽く感じた。普通でよかったんだ、我慢しなくて良かったんだ、自分を自分が認めてやらなければ・・・。
「あれ?坂本君、森田君、意外だね、偶然またここで会うなんて。」
そこへ長野君がやってきた。どうも美味しいラーメンの店ガイドを探しに来たようだった。
「今日、この町の七夕祭りだね。二人とも行かない?期末も終わってるだろうし、羽を伸ばそうよ。」
今までの俺達の会話なんて知らない長野君がにっこり笑う。
「そうだな、行こうか、森田も。」
坂本もつられて少し笑って言う。
空も俺の気持ちと同じくらい晴れ晴れしている。催涙雨にならない七夕。
「楽しみだね、一緒に行けて嬉しいよ。」
心の声がやっと現実に解き放たれた。俺の心は羽が生えたように軽かった。






^^^^あとがき^^^^
あ、なんだかあっというまに終わってしまいました。初投稿作です。まだまだ荒削りでした、ごめんなさい。
このお話には准さんイノッチは出てこられないのですが、Euphoriaシリーズの最終編浪人編でこのコンビが主役になりますので待っててください。あと長野君と健君も高校編の主役コンビとなります。ドラマのような感じで見ていただけると嬉しいです。

投稿時間:01/05/24(Thu) 07:34
投稿者名:きらきらぽー
Eメール:mamiko@grrrls.net
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タイトル:Euphoria その2・高校2年「夢」(健&博編)
 僕(三宅健)はなぜここに居るのか、講義の途中少し後悔し始めていた。
「すごい、よいセミナーがs予備校で夏あるらしい、合宿制でやる気が出るんだってさ。高校2年の今だからこそ、受講する意味がありそうだよな!」
という、中学からの友達の森田剛に誘われ、
「中学でもトップだった森田君が言うんですもの、健にもいい影響があるはずよ。あなたとは今は高校は違うけれど、仲良しなんでしょ?森田君が一緒だったら母さん安心だし。是非いっていらっしゃい」
と母が乗り気になり、つい僕もこの合宿セミナーに参加してしまった。しかし、いざ来てみると名門校のトップクラスの精鋭ばかりが参加して、朝から晩まで講義。夜の自由時間も参加学生の半分は自習室へ、半分はチューターとして参加している一流大学の先輩方に質問している。一緒にきている剛(森田)は前者だ。彼は人にアドバイスを聞くことなくマイペースに勉強に励む。それも出来ない僕はなんとなく居場所がないようにも思えた。知らないチューターの先輩に一人で話し掛けに行くのも気が進まないし。

 剛は中学でもいろんな活動をしているのに、成績は必ず学年でトップ。特にがりがり勉強をしているふうでもないのに。彼のようなものを天才というんだ。きっと。その天才と同じセミナーを受けるのは、本当に無理があった。比較的マイペースな僕だが、「何をやっているのか謎」な講義ばかりの毎日に、徐々に苦痛を感じていたのだ。

 講義が終わりやっとちょっとくつろげる夕食の時 に、剛が僕のところにやってきた。
「健、お前、なんだかつまんなそうだな、無理に誘って悪かったか?」
剛は栗色の髪をかきあげながら言う。
「え、そんなことないよ。来たのは・・・ぼくの意志だし・・・。緊張感のあるこういう生活もいいかなって、思うよ。」
僕は苦笑した。剛に心配をかけるのも嫌だったし、特に何の心構えもせず、ぼんやりとした自分の情けなさを痛感したのもあった。
「なら、いいんだけどさ。」剛は言葉を続けた。
「受験とかってさ、あっという間らしいぜ。2年になってまだまだ先って感じがしてたけどさ、なんか従兄弟の快彦の話だと、この時期から意識してないと、苦労するって。あ、快彦って高3なんだけど、この1年が早かったーっていつも言うんだよ。確かw大の文系志望だったと思うんだけど。最近はあと半年ーなんて焦ってるみたい。」
うひゃひゃと笑いながら剛は言っていた。剛の従兄弟の快彦さん、音楽好きな1つ上の人、僕も剛の家で何度か会った事がある。熱血漢で笑うと目がなくなっちゃう、一緒にいるだけでも楽しい人だ。なんだか、快彦さんが受験で焦っているなんて、想像すると可笑しかった。でも。。。
「んー、なんか明日は我が身だね。」僕は身につまされる思いだった。だってまだ頭の中に受験とか、志望校とか、なにもかもイメージがつかなくて、漠然としすぎているから。剛はいつもしっかりと自分を持っている。特に最近。ちょっと前までは神経がピリピリ張り詰めているみたいで、心配もしたけど、その頃でさえ自分のやる事はきちんとこなしてた。自分の道をちゃんとわかっているみたい。

 夕食も終わり、夜の自由時間、自習室か、チューターへの質問か、どちらも特に積極的にはなれない僕はロビーでぼんやりしていた。剛は
「明日の講義のテキストの単語だけでも調べないとね」
と言ってさっさと自習室へこもった。彼はなんだかこの高校2年の夏休み、一時金髪にしていた髪も自前のダークブラウンに戻し、受験体制へと切り替え始めている。当然彼はT大志望だろう。県内でも一番の高校へ進学し、いっときグレながらも(少なくとも僕にはそう見えた)その賢い高校でトップ10以内に入っていたというのだから。間違いないだろうな。そんなことを思っていたとき・・・。
「こんばんは!」チューターの一人が声をかけてきた。凄い笑顔。びっくりした!確かこの人k大の理学部の長野さん。セミナーの最初のスタッフ紹介で名前を聞いて知っている。
「君、三宅君だよねえ。」
え、なんで、僕の名前?きょとんとしていると
「僕の弟が君と中学同じでね。前に、写真見せてもらった事があるんだ。文化祭か何かでトナカイの着ぐるみ、きていなかった?それが印象に残っていてね。弟はよくクラスの子の事を家で説明してくれていて名前が記憶にあったんだ、そして今回のセミナーで君を見かけて..同じ子じゃないかって思っていたんだ。」
あ、中3のクラスに長野君って居たっけ。すごく笑顔の印象的な。確かにあの長野君にそっくりだ。そっか、長野君も頭良かったけど、お兄さんってこんなに優秀な人だったんだ・・・。僕はなんだか世間って狭いなあと実感した。そして中学の文化祭を思い出した。あの頃は良かったな、自由で楽しくて。
「このセミナーに来てるってことは、難関校志望なの?どこの大学行きたいの?理系?それとも文系?」
この質問に僕は言葉が詰まった。
「えーとー。。。」
本当に、僕はいま宙ぶらりんだ。文系か理系かもわからず、勉強もそんなにしていないし。塾もやめちゃっているし。大学だって、どこにいけるのかすら考えていない。
「あ、ごめんね、会ったばっかりでいろいろ聞いちゃって!」
長野さんは僕が困っているのを見て気を遣ってくれたみたいだ。。その後、チューターの打ち合わせがあるからって、急いで去っていった。

 僕は剛以外に、僕を知る人がいてなんとなくほっとした。だって、ここでは僕、居場所が・・・。場違いなんだ・・・。来るべきじゃなかったな。
セミナーの生徒は8人部屋に押し込められて寝起きをする。2階建てのベッドが4つある小さな部屋。不運な事に僕と剛は別の部屋にされていた。本当にひとりぼっちだ。剛は、人をひきつける魅力があるから、きっと別の部屋でもうまくやっていけているだろう。それに比べて僕ときたら・・・。8人部屋の生徒の中にはまだ1年生だが僕達と同じ2年生のセミナーに参加している人もいた。凄く優秀なんだ。中程度の僕のような学校から参加しているのは聞かない。自己紹介のとき、痛感した。セミナーももう半分。あと5日で終わりだ。もうすぐ帰れるんだ。そんな事ばかり僕は考えていた。

 翌朝、長野さんが朝食のときに僕の近くにやってきた。ちょっと気持ちが和んだ。
「今日の講義なに?」
またさわやかな笑顔で話し掛けてきた。
「古文と現代文です。午後は英語かな?」
「そっか、がんばってね。国語好き?」
「アー好きだけど、点数取れないです。」ちょっと困って僕が言うと
「そっかー。でもね、国語って日本語、ってことだよね。じゃあ、現代文って、日本人が話している事を学ぶわけでしょ?日本人だったら、現代文ちゃんとできないと変なんだよね、本当は。だって、意思疎通が日本語、つまり現代文で出来ないってことになってしまわない?」
「・・・!」
僕はなんだかこの言葉にはっとした。現代文=普通の日本語=日本人同士のコミュニケーション!?
その後長野さんはお勧めの参考書を教えてくれた。

 長野さんの言葉を反芻しながら授業を聞くとなんだか、すごくわかってくるみたい。魔法のよう・・・。じゃあ、英語は?僕の心はだんだん勉強を別の角度から見えるように、そして意欲的になっていくようだった。

 その晩の自由時間に長野さんにお礼を言いに行った。そしてそのついでに長野さんがお勧めのいろいろな参考書や問題集を教わった。
「ありがとうございました、本当に嬉しいです。」
「僕は何もたいした事していないよ。問題集も参考書も使う人のやる気次第だよね。使わないで持っているだけじゃ駄目だよ。」
長野さんがいたずらっぽく笑う。つられたのかもしれないけど、僕も此処に来て初めて心から笑う事が出来たみたいだ。
「ねえねえ、三宅君ってやりたいこと何?」
「いっぱいありますよー。言語学とか、考古学とか、犬とか好きだから獣医さんもやってみたいし、環境問題も興味あるし、新エネルギー研究とかも・・・。」
言っていて少し恥ずかしくなってきた。ただの夢だ、出来もしないただの夢物語だ。無理だよね、えらそーなこといって、全然分かってないのに。それなのに、長野さんは嬉しそうに微笑む。
「よかった、それでいいんだよ、夢をこんなに若いうちから限定しちゃうなんてもったいないよね。たくさんやりたい事があったほうが、楽しいよ。」
これを聞いて、長野さんは気楽だなあ、人事だと思って・・・、と少し残念に思ったそのとき、
「だからさ。。。理系とか文系とかって、今決めなくていいんだと思うよ、やりたい事が先だよ。そこから絞り込んでいけばいいじゃない。数学が得意だから理系、っていうのもいいけれど、やりたいジャンルが理系に多いからこっちにした、っていうほうが長い目で見ていいって思わない?」
「・・・!そう・・・ですね!」
僕は驚いた。本当に、この長野さんっていうのは凄い事言うよね。今までの後ろ向きの考え方がどんどん変わっていく。この人のおかげで。

 その日以降、どんどん僕は気持ちが前向きになって、授業もいろんな発見がある面白いものに感じられるようになった。知らない人ばかりの一緒の部屋でも、なぜだか打ち解けられる感じがしてきていたし、劣等感も少し緩和された。気持ちの上でも収穫のあるセミナーだった。たった一人の先輩に出会えただけでこんなに前向きになれるなんて。残りの日々はすがすがしく、本当にあっという間に過ぎてしまった。

 「うーん、セミナーきてよかったなあ。難しい講義も多かったけど、俄然ファイトが出てくるなあ。次の模試が楽しみになったりして!」
セミナーからの帰りの電車の中で剛が隣で言う。僕は違う意味が強かったけれど、本当に来てよかったと思えた。
「誘ってくれて、ありがとうね、剛。僕も本当に来て良かったよ。」

 嫌な事、考えたくない事だった進路が全然違ったものに見える。これからたくさん知識を集めよう。世界を見つめよう。そして心を育てていきたい。
    ・・・・・・・・
 「健!長野さんから手紙よ。」母が階下で呼んでいる。そう、僕はここから遠いk大に通う一人暮らしの長野さんと文通している。いつも、胸を打たれることを書いてきてくれるいい先輩。本当に感謝している。僕は夢を胸に、ペンを走らせる。いつか長野さんに胸を張って、どの夢がかなったかを笑顔で話す事が出来ますように。そんな日が来る事を信じている。




^^^^あとがき^^^^^
なんか勢いで書いてしまいました。次でシリーズ最後のイノッチと准君のお話です。こっちはコメディっぽくなりそうです。この時期だから。。。受験生の皆さんがんばって!という気持ちで書きました。

投稿時間:01/05/24(Thu) 07:39
投稿者名:きらきらぽー
Eメール:mamiko@grrrls.net
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タイトル:Euphoria その3・浪人「生」(准&快編)
 渋谷の騒がしいセンター街を抜けハンズの少し裏道をとおると、たくさんのレア盤をおくCDショップがある。俺はここを歩くのが好きや。たまに、お目当ての品があると、
「おお、俺をこのジャケットが待っていてくれたんやなあ。やったでー!」
と嬉しくなる。けども、そんな音楽生活もそれほど熱心にし続けるわけにはいかへんのや。だって、俺、浪人生なんやから。

 俺が受験に失敗したことに、周りの連中はほんまにおどろいとった。俺も、皆が「准一はk大行くのが当たり前や」
と言っとったの、よう知ってん。なんか、恥ずかしかったー。きっと大阪おったら、勉強できんかったやろ。だって、俺、他の奴みんな大学いっとって、自分だけ行けへんのが、悔しくて辛くて。投げ出しとったやろ。そういう俺の気持ちわかっていたのか、おかんが
「もう、大阪におるんやったらやる気がでえへんやろ?准一!あんたは東京に一人で出て予備校に通ってきちんと勉強せにゃいかんよ!」
と俺を東京に出しよった。実は東京っ俺が小学生の頃まで住んでた所だから、そんなに違和感はあらへんかったし。もちろん、俺は今は立派な大阪人やから東京行って巨人ファンの中で野球見るのは辛いやろうけど。おっと、話が横道にそれた・・、ま、通うことになった予備校の費用もなんとか模試の成績で優待生扱いで安くはなったんやけど、おかんに迷惑かけとるのは変わりない。なんとか今年で合格せにゃあかん。俺はいつも心に誓うのだが、どうも5月病とでもゆーんかいな、身が入らへん。あ、浪人じゃあ5月病とはいわへんのか。

 俺が大阪に子供の頃来る前、つまり関東に居た頃の幼馴染の健と剛も志望校、合格したそうや。うらやましいなあ。なんで俺だけ落ちよったんやろ・・・。神様ほんま、冷たいわ。・・・・そんな事思いながら、また俺はレア盤探しにショップに来とった。
そしてみつけた。
「あ、あれは!俺がさがしとった、あのバンドの自主制作盤や!!」
心の中で俺は歓喜の声をあげとった!
ドン!
いきなり後ろから小走りしてきた男にぶつかった。その男は細い目をさらに「線」みたいに細くして、にたーっと笑って、俺の求める品を手にとった。ジャケットを見つめにやにやしとる。きもわるー。え!?てことは、この細目のにーちゃんも俺の欲しいこの自主制作盤を買おうとしとるんか?それはあかん、あかんでえー!!

 俺の、鬼気迫る視線に気づいたのか、細い目のにーちゃんは、こっちを見とる。俺はゴクリと唾を飲み込む。買うな、買わんといてー!!心で叫ぶ。すると細い目にーちゃん
「あのー、君、これ買おうと思っていた?」
と聞いてきた。
「へ?あ、あー、そうですけどー・」
なあ、にいちゃん堪忍や。その自主制作盤はこの世の中に1000枚しかないんやで、ファンならどうしてもそいつが欲しいんや、お願いだから買わんといてくれや!俺はまた心の中で叫ぶ。きっとそんなんが顔に出ていたんかもしれん。
「そっか、そっかー。どうしよう、んーーー、ま、いいや、これ君に譲るよ。多分、これ、友達で持っているのがいそうだから、聴かせてもらえればそれでいいし。」
「ほ、ほんまに?」おー、ごっつラッキーやんかあ。細い目のにーちゃんはそれを快く譲ってくれた。感涙・・・。
「ほんまに、おおきに!」
俺は嬉しくて礼を言って帰り、その日はやっと買えたその自主制作盤を大事にMDに落としゆっくりとその音楽を聴きながら幸せな一晩を過ごせた。こいつが手に入るなんて、ほんまついてるわあ。ほおずりほおずり・・・。



 それから数日後の予備校の帰り、今度は西新宿のレアCDショップ街を歩いていた。やっぱ、関東に来て一番良かったんはこの掘り出し物いっぱいの街でレア盤探せる事かもしれんなー。

 けど、心のどこかでもう一人の俺がゆうとる
「これでええんか?准一。」
俺はその声をかき消すようにMDウオークマンの音量を大きくした。

 何店舗かまわったが、今日は収穫なしのようやった。1時間近く歩き回って、俺も少々疲れたわ。腹も減ったし。すぐ近くに見えたラーメン屋にとにかく入ってとんこつラーメンを頼んでみた。3時半という中途半端な時間にも関わらず割と人が入っている店やった。ひょっとして美味い店、穴場の店かもしれんと思い、目の前にやってくるであろうラーメンにおのずと期待が高まる。年の近そうな色白で明るめの軟らかそうな髪のにーちゃんがハスキーボイスで店主にこう言うのが聞こえた。
「いやー、東京ではここのラーメンは3本指に入ると思いますよ。帰省の度にこの店に僕は来るんですよ。まあ、最近は横浜の家系ラーメン制覇を目論んだりもしているんですけどね。いずれにせよ、店長の作るラーメンは絶品です!ほんと、ご馳走様でした。」
にこにこ顔のその綺麗なにーちゃんは満足そうにお腹をなでながら店を出て行った。そうか、そんなに美味いのか!彼と入れ替わりにまた人がやってきた。ごっつ繁盛してる店やなあと思いつつ、その人の顔を見て驚いた!
「あ、あの細い目のにーちゃん!」
俺は心の中で叫んだ。恩人やー。あのレアな品を譲ってくださった神様のような人やでー。
「あれ?君は??この前の!」
その細い目のにーちゃんも気がついたようだった。にーちゃんは今日もたくさんCDショップの袋を片手に下げていた。


 「先日は本当にありがとうございました!」俺は立ち上がって挨拶をした。
「いやいや、いーってことよ、俺はいろいろ聴くのが好きなんだから、どうしてもあれが欲しかったって言うんでもないし・・・。あ、ほら、ラーメン来たよ。ここのは美味しいんだから、伸びる前に食べた方がいいよー。」そのにーちゃんは親切に言ってくれた。俺はお待ちかねのラーメンが来たのにも気づかんほど、妙に興奮していた。こんな偶然ってあるんかあ?俺たちはラーメンを食べながら自己紹介をした。彼の名前は井ノ原快彦というそうや。これが俺たちの出会いやった。実際、ほんの時折下宿の大家さん一家くらいしか、ほとんど人と喋る事のなかった俺にとって、よく喋る井ノ原さんの存在は貴重やった。

 「へえー、岡田は浪人生だったのか。」
まだ会ってちょっとしか経たへんのに、井ノ原さんはもう俺を呼び捨てにしている。でもなんだかそれが妙に親しげでちょっと嬉しくもあったんや。ただ、浪人生でこんなにふらふらしている俺。井ノ原さん、なんか言ってきそうやなあ。ちょっと、俺、不安に思う。
「俺は今w大の2年。よろしくなー。」
井ノ原さん、全然浪人生って事に触れへんかった。あれ?っとちょっと俺拍子抜けしたで。その日、いきなり井ノ原さんの家に俺はあがりこんだ。ギターやらCDやら散乱した部屋は、いかにも楽しんでる大学生っぽかった。ええなあ、大学生って。俺は凄く憧れを感じた。
「このCDいいんだよー。岡田も聴いてみろよ、あ、こっちのアルバムもいいしな。」
と井ノ原さんは何枚も俺に渡してよこした。あまり興味がないのもあったけど、その楽しげな笑顔と熱い語りに負けて、つい俺は借りてしまった。このうち数枚は聴くことなくホコリをかぶる運命にあったわけなんやけど・・・。
「なあ、快彦っ!お前が言ってたコンビニのイタリアン棒餃子なかったぜ!ったくほんとにそんなモン存在したのかよ!」
急に玄関が大声と共に開けられる。そこには爆発したような謎なパーマのかけ方をした背の小柄な青年が立っていた。
「うわっ、くっせーな、この部屋。あいかわらず!ちょっとは掃除しろよ!」小柄な青年が顔をしかめる。
「わりいわりい、剛、イタリアン棒餃子あれ、コンビニのじゃないや、なんとかっつーファミレスのだ。もしかして、探しちゃった?」井ノ原さんが言うと、どうも憎めない。
「ったくよー、坂本君まで一緒に探してたんだからなあ。あー、時間無駄にした!俺、春の学祭の準備で忙しいだよ、といってもサークルの先輩の手伝いだけだけどさあ。とにかく、快彦世話やかせんなよなあ。」ぶつぶつ言っている青年の勝気な態度、そして目つきの鋭く、神経質そうな細い眉、見覚えのあるその顔・・・。
「剛君!森田剛君やないか!」俺は思わず叫んだ。
「え、あれ?岡田、俺の従兄弟と知り合いだったの?」
井ノ原さんがの細い目が気持ちだけちょっと大きくなる。
「あ?お前、岡・・・田?あのトローい坊主の岡田准一かあ?なんでお前が快彦の貧乏部屋にいるんだよ?」
剛がドカドカと部屋の中心までやってきた。
「おいおい、貧乏部屋はないだろー。」
ちょっとショックを受けとるようや、井ノ原さん。相変わらず、剛君、言いたい事をぽんぽんゆうとるわ。
しっかし、世の中わからんもんや。ほんま、狭いと思ったわ。俺と剛君、健君のおかん同士がずっと仲良くしてて、時折おかん達3人で集まったりしとったから、なんとなく剛君も健君もどうしているのか、おかんからはぎょうさん聞いていたで。そやけど、本人に会うのはもう、何年ぶりやろか・・・。この日はお互いの近況を話して盛り上がった。

 「坂本荘」これが俺の下宿だ、6畳一間の部屋は井ノ原さんの所と同じ位の狭さやけど、あそこまで汚くしてるつもりはない。この日、夜遅くに自分の部屋へ戻ると、急に静かな誰も居ない空間に、妙な違和感を覚えた。ちょっとだけ寂しいような。いつもなら、どうってことないんだけどなあ。大阪の俺を知ってる人には絶対会いとうないし、こういう一人暮らしを楽しんでいたんやし。きっと井ノ原さんがうるさすぎたから、ギャップが激しくてこんな風に感じとるんやろ、俺。この晩は、井ノ原さんがムリヤリ貸してくれたCDを2枚位聴きながら眠った。昼間の楽しさが曲と共に蘇って、夢見も良かった。

 翌朝、予備校へ出かける時に、大家さんの所の息子の昌行さんに出会った。彼はアメリカの大学に行くため、8月くらいまでは日本でのんびりした生活をしとるんや。うらやましいなあ、ほんまに。いつもなら軽く挨拶する程度なのに、今日にかぎって昌行さんは俺を呼び止めた。
「岡田君さ、いっつも音楽聴いてない?」
なんだかいつにも増して不機嫌そうや。俺、実は昌行さん苦手なんや、だっていつも怖そうな顔しとるし、下手な事言ったらどつかれそうな感じやし。・・・音楽、あ、もしかしてうるさくしてしもうたかいな?そんで昌行さん、めっちゃ不機嫌になってしまったんやないか?俺はちょっとドキドキした。
「ええ、聴いてますけど・・もしかしてうるさかったんやないですか?もし、そうやったら、ほんま済みません!」俺は丁寧に謝った。
「ああ、ちょっとうるさいぞ。」あー、やっぱりおこっとるわ、昌行さん。
「勉強大丈夫?ナガラ勉強派?」
こんなことを尋ねられるとは・・・。けど、俺、実はナガラでもなく、つまり家ではなんにも勉強してへんかった。なんでやろ。
その後、昌行さんはヴォリュームを下げろ、とムスッとして俺に文句を言ってからプラモデルの新作を買いにモールへ行ってしまった。俺はなんだかきちんと昌行さんの目を見て話せず・・・何をどう答えたかちゃんとは覚えてへん。



「本当にこのままで、ええんか?」
また心の中でもう一人の俺がささやいた。



 浪人生活というのはなんだか自分だけ時間がとまったようや。多くの同級生達は大学行くなり、専門学校行くなり、就職するなり、新しい時を生きている。俺はここに留まってるだけなんやろうか・・・。俺はそんな自分の不安から背を向けるようにCDを買いに街をふらついた。そのうち予備校に行くのもおっくうになった。知り合いが居ないところだからこそ、浪人生活、しっかりと勉強できるなんて思っとったのに、なんでやろ?これはもう5月病やない。 俺の時間が止ったまま勝手に夏がやってくる。

 8月に入り井ノ原さんから電話が来た。それまでも何度か会う事もあったし、剛くんの大学祭にも一緒に行ったりしたんやけど、7月は井ノ原さんが大学の試験があるらしく会っておらんかった。電話の内容はどうやら井ノ原さん所属のバンドサークルが吉祥寺で小さなライブをやるから来いとのこと。何組か面白いバンドが出るらしい。剛君も来るという。俺は久しぶりのイベントを楽しみにしておった。

 その井ノ原さんのライブの当日は剛君と健君に会った。初めての吉祥寺駅で地図を見ながら困っているところに、二人が通りかかったんや。俺、方向音痴やねんな、地元の人がいて助かったわ。そうそう、健君はほんま、何年ぶりやろ。殆ど声が変わっていないのには驚いたで。関西の大学に行っているので、夏休みの帰省らしい。
「そっかー、岡田こっちで勉強してるんだね。でも、確か8月って模擬試験がたくさんあるんじゃない?大丈夫?」
健君は昔どおり真面目やった。模試、それは余り考えたくない事やったから、俺はお茶を濁した。当の井ノ原さんのライブはちょっとナツカシ気味になるフォークソング系やった。気持ちがほぐれる、癒される音楽や。井ノ原さんのオリジナルやった。凄いなあ、才能あるんやな、井ノ原さん、と感心した。

 ライブの出番が終わると、井ノ原さんは俺を見つけて楽屋に呼んでくれた。ごちゃごちゃと機材が置かれる楽屋はほこりっぽく、独特の匂いがした。最初はライブの感想を話したり、他愛のない話やったけど、久しぶりに会ったせいか、ちょっと井ノ原さんの感じが違っとるように思える。そんなふうに感じている矢先に井ノ原さんがこう切り出した。
「あのさ、前から1つだけ気になってた事があるんだけどさ、」
俺はどきっとした。なんやろ、いきなり。真顔やで。殆ど初めてみる井ノ原さんのマジな顔。ひょっとして、浪人なのに勉強してないとか、そういうことやろか、今まで話題にも全く出えへんかったし。
「なんで東京に来て浪人してるん?確か志望校はk大だったよねえ。そしたら大阪にいた方が近いし、時々キャンパスにも遊びに行けるし、あっちにも確かいい塾あったよねえ。k大行くならその塾の方がいいって、聞いたことあるけど?」
井ノ原さんはいつもよりずっと真面目な表情で言った。
「・・・なんか嫌なんです。皆大学行ってるし、浪人してる自分を見られたくないっていうか。」
俺はちょっと言いにくかったんやけど、ぼそっと言葉が口をついて出てしまった。 こんなこと、人に打ち明けるの初めてやし、ほんま言いにくかったはずなんや。けどなんでやろな、井ノ原さんにはつい本音を出してしまった。
「まあ、こっちにいると自由だよね。誰も知らないし、束縛もないしね。好きなように音楽三昧も出来るしね。」
井ノ原さんは俺に同意するようにちょっと笑って言ったかと思うと、こう続けた。
「でもさ、それって逃げてない?」
痛いところやった。何も言い返せへん。
「お前、ちゃんと今、現在、自分の人生いきてるのか?友達が見てたっていいじゃないか、それがお前の人生にどこまで関わってくるんだ?変なプライド捨てた方が幸せだよ。」
そうかもしれん。どうしても俺は変に周りを気にしてしまうんや。こういう自分も情けなくて動けなかった。けど、まてよ、自分の人生?時間を止まってると思っとったけど、それってなんや、違うってことやろか?

「なんてな、俺に会ってから更にCD聴く時間ばっかり増えられても嫌だからさ。CD聴く時間の倍は気持ちだけでも受験に向けてくれよ。だから、1枚の70分のCD聴いたら、その日は少なくともその倍の140分は机に向かって欲しいなー。」
井ノ原さんは俺の肩をぽんと叩きながら笑った。
時間、時間、俺の時間はちゃんとあったんやな、俺がCDを聴いている時間、街を歩いてる時間。それを俺は止まってるなんて思っとったけど、それは違ったんや、俺が無駄にしていただけや。止まっとったのは自分や。自分が自分の人生をとめておったのや。こんなことに何で気が付かんかったのやろ。

「あ、あと、岡田の行ってる予備校だけど、あそこは模試の結果やら成績やらを学期ごとに親に送ってるって知ってた?」
「え?そうなんすか?」
ほんまに初耳やった。おかんはもう俺のこっちでのダメぶりを知っとるはずや。せやけど、一度もそういうこと俺に言わへん。俺のこと信じてくれとるんやな。それで一言も説教せずに見守ってくれてるんや。おかんの信頼を裏切って音楽に逃げ込んでいた自分を反省した。
「ま、気にすんな、逃げずに前へ進んでればいいんだよ。誰にどう見られようが構わないでさ、今を生きる、そんなんがいいじゃない?・・・あ、俺、この後打ち上げとかあるからさ、また電話するよ。忙しいのにきてくれてありがとうな。」
いつものこっちの気持ちまで和む笑顔で井ノ原さんは言った。そして、また1枚CDを貸してくれた。”Very Best”と、書かれた2枚組みやった。
「これ聴いたら、ちゃんと倍は机に向かえよ。」
俺もつい笑顔になった。井ノ原さんって気持ちを楽にしてくれるんやな。おおきに。

 ライブの帰り道、井ノ原さんに俺が楽屋へ呼ばれたのを気にしたのか、剛君が言った。
「岡田さあ、快彦に説教されてたんじゃねーか?あいつ、話し出したら止まらないからさ、大変だったんじゃねーの?」
「うん、快彦さん、アツイ男だからね、なんかうるさい位に言いそうかもね。大丈夫だった?」
健君もちょっと心配そうに聞いてくる。
なんだか、皆を心配させたんかな、俺。
「いや、言われて良かった事ばっかだったし、平気やで。」
俺は自然と顔が笑えてきた。あれは説教とかと違う。俺が耳をふさいどったことを、井ノ原さんが気づかせてくれたんや。そして、プライドに押しつぶされていた生きる力を解放してくれたんやで。
「ならいいんだけどねー。」
健君も剛君も心配性やな。俺は大丈夫やで。これからは平気や。
「心配してくれておおきに、二人とも。ただね、俺ひとつだけ不安な事あんねん。」
二人は不思議そうな顔で、なにか、と尋ねてきた。
「明日、模試なんや、健君の最初の質問が大当たりや。明日から毎週なんや、勉強せんと!俺、先に帰るわ、またな。」
俺はあっけにとられる二人を置いて駅へと走り出した。
「一夜漬けじゃ実力とは言えねーぞー!」
剛君が後ろで怒鳴ってた。健君の高い笑い声も聞こえる。た、確かに・・・剛君の言う通りなんやけど。

 駅の方向に夕日が落ちるところや。なんかかっこええなあ、俺夕日に向かって走っとる。俺の時間は止まってるわけやなかった。自分が後ろ向きになってただけやった。井ノ原さんの言葉が頭を回る
”逃げずに前へ進んでればいいんだよ。誰にどう見られようが構わないでさ、今を生きる、そんなんがいいじゃない?”
そうや、そうやった。俺は俺。自分の時を生きたいな。人を気にすることなく。大阪に戻って勉強するのもいいな。そしたらおかん驚くやろな、きっと。
俺はこの夕日を忘れへん。生きることを再認識したこの日を・・・。





^^^^あとがき^^^^
前2作が(特に剛&昌編)が暗い印象だったんで、かるーくしたら、内容が薄くなってしまいました。メンバーの役回りが気に入らないもので不愉快な気分になられた方、おられましたらごめんなさいね。でも、V6ファンですので、愛を込めて作りました。読んでくださり有難うございました。



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