投稿時間:01/02/14(Wed) 18:18 投稿者名:きらきらぽー
Eメール: URL :
タイトル:きらめく日々とバレンタイン 前編
「ただいま!」 大きな声で、玄関の戸を開け、学生カバンをドンっと廊下にほうり投げる。彼は森田剛、中学1年。埼玉にある小さな市の外れに住んでいる。時は2月に入ってすぐ、この年は暖冬といわれていたはずなのに、意外に寒かった。 「うーっ、さっみー。早くコタツに入るぜー。」 コートを脱ぎ捨て、学生服のまま、居間へ向かうと、母親(鷲尾真知子)ともう一人の客と思しき人物が先にコタツに入っていた。 「お帰り、剛ちゃん。」 母親がにっこりと笑う。剛は、母親の『剛ちゃん』という呼び方が嫌いである。”そんな子供じゃねーよ”と心の中でよく思っていた。 「あ、お客さん・・・と思ったら、寿司屋の光浦靖子じゃねーか。なんで最近うちによくいるんだよ!」 剛が露骨に嫌そうな顔をする。光浦靖子、彼女は剛の一家が最近よく利用する回転寿司屋の店員である。その店は剛の住む市の中心部に、最近出来たもので、評判は上々。30皿食べると、タダ、というのが売りで、中学生の剛は頑張っているのだがなかなかそこまでたどりつけないでいた。 「あら、御馬鹿な剛君が帰ってきたわね。ちゃんと勉強してる?」 光浦は剛の母の前でもはばかることなく嫌味を言う。実際のところ、光浦と剛は犬猿の仲である。 「うるっせーよ、このブース!」 剛も負けずに言い返す。 「これっ!剛ちゃん!そういう事を言ってはいけません!」 母に注意され、ちょっとひるむ剛。仲の悪い光浦が先に居間にいてコタツに入っていたのもあって、彼は同じコタツに入る気を無くしていた。光浦は剛にブスと言われ、憤慨して眼鏡をかけなおしている。 「お、俺、やっぱり今日、三宅健のうちで宿題するわ。夕方には戻るから。」 剛は居間の戸を閉めようとすると、母がこう言う。 「あら、そう?健君のところね。そういえば、あなた、目の検診、今日行っておいたら?健君のところだったら通り道でしょ?眼鏡屋さん。」 剛は目が少し悪かった。以前は総合病院の眼科に通っていたが、最近は評判の良い眼科が附設した眼鏡屋で検診をうけ、視力を矯正している。母はゲームやテレビで、目が悪くなるのを恐れ、定期的に通わせ、レンズも交換していた。 「あー、めんどくせーなあ。」 剛が少し口をとがらせる。母親の心配をよそに、剛は授業中以外は眼鏡を余りかけなかった。そのせいか、大変目つきがきつく、人をにらんでいるような印象を与える。 「あ、眼鏡屋さん行くんだったら、私も近くだし、一緒に途中まで行ってあげてもいいわよ。」 光浦がフフンと笑いながら言う。どうも、光浦の眼鏡も同じ店で買ったらしい。寿司屋と眼鏡店は目と鼻の先にあったので、通いやすかったのであろう。 「あら、来たばかりなんだから、もっとゆっくりしていきなさいよ。」 母が、席を立ちかけた光浦をたしなめる。 「お前となんて一緒に行きたくねーよ。」 戸をピシャリと閉めながら剛は憎まれ口を残して去る。居間では”失礼ねー、覚えてらっしゃい、今度あんたのニギリにはシャリ多め、ネタ少な目にしてやるから!”という光浦の大声が響いていた。
「なんで、光浦、最近うちによく来てるんだろ。かあさんと気が合うのかな、やめてほしいぜ、ったくよー。」 剛は健の家の方向へ自転車を走らせながら、独り言を言っていた。光浦の勤める寿司屋と友人の健の家はすぐ近く。そして、この街で一番便利な大型スーパー『伊東屋』も近くにあり、健の家はとてもロケーションが良い。剛の家は最近開発された、国道沿いの建売住宅地の中にあるので、商店が多い街中からはかなり外れていた。店へ行くのには自転車で10分はかかる。母親もマイカー族で、彼女の運転がなければ駅へ行くにもかなり不便になる。剛は飲食店や大型スーパー『伊東屋』の近くに住む健を、何度うらやましく思ったか知れない。 「そういえば、眼科に寄れって言ってたな。しかたねえな。」 いつのまにか、街の中心部まで来ていた剛は、交差点で右手に見える眼科の入ったその大型店舗『伊東屋』を見て呟く。剛の通う眼科は、この4階建ての『伊東屋』の3階に入っていた。その眼科は『伊東屋』内にあるので、日常の買い物も一度に済ませられるので、剛の街では割と流行っている。さらに、もっと流行る要因には眼鏡売り場の店員が二十歳そこそこと若くハンサムで優しいというのもあるのだろうと、剛は推測していた。
「あ、剛君、いらっしゃい。目の調子はどうや?」 その眼鏡売り場へ入ると、剛はすぐに例のハンサムな店員・岡田准一に声を掛けられた。もう1年近く通っているので、よく覚えられている。剛は人見知りするタイプなので余り無駄な話はしないのだが、岡田は営業スマイルでたくさん話し掛けてくる。岡田は目が大きく美しいので、眼鏡店の店員としてはうってつけだろうと、剛は頷きつつ、彼の質問に答える。 「あ、まあまあですけど。検診に来ました。」 岡田さんはルックスがいいよな、と剛は心の中で思いながら、診察券を岡田に渡す。岡田は口角をスッとあげて笑い、奥の眼科の受付にいる看護婦・渡辺えり子へ手渡しにそれを持って行った。剛がその間、店内を見ると、今日も女性の客が多い。気付くと並外れたスタイルを誇る叶家の姉妹も来ている。”こいつら岡田さん目当てだろうな・・・。”剛は、心の中でバカにしつつ、奥の眼科へと進んだ。看護婦の渡辺えり子は保険証を提示するように剛に言い、今日はコンタクトを作る患者さんが少ないからすぐに終わります、とにっこりと笑った。
「よかったじゃん、目、特に悪くなってなくて。」 健はニコニコと笑って、剛の頭をくしゃくしゃっとなでる。 「剛、あまり、眼鏡かけてないから、悪くなってると思ってたよー。」 検診はすぐに終わり、ここは健の家。剛は、今日の眼科での検診の事を話していた。 「僕、目がいいから、よくわからないけど・・・、剛、もっとちゃーんと眼鏡かけてないと、目が今より悪くなっちゃうんじゃないの?」 健が少し心配そうに剛を見る。 「うるせーよ、眼鏡なんかかけてるとカッコ悪いじゃねーか。授業中だけで充分だよ。そんな事心配してくれなくてもいいからさ、お前、俺の宿題の心配してくれよ。ドリルの問題、明日までって速井先生言ってだろー。」 と、けむったそうに言いながら、剛は健のノートをとる。 「あ、やっぱりねー、僕のところに来る理由なんて大体そうだよね。宿題写すときばかりだもんね、やなこった。」 健がプイッと横を向く。 「おい、つれないこと言うなよ、今度面白いゲーム貸してやるからよー。projectV6っていうヤツ。頼むよ、健ちゃん。速井先生、宿題忘れると、大袈裟に怒って廊下掃除とかさせるじゃん。やだよ、俺。この前ラジコンもとりあげられたし。結局速井先生自分で遊びたかっただけみたいだけどさ。ねーねー、お願い!見せてー、ノート。」 剛が言うと、健はしぶしぶノートを開いて、宿題の書いてある箇所を指差した。 「うひょひょひょ、持つべきものは賢き友人。」 剛は当然というように、サラサラと、宿題を写し出した。
あくる日、学校では、女子がなにやら騒がしかった。剛は多少、クラスの女子のその騒ぎようが気にはなったがまずは健を探した。 「あ、健。昨日はサンキュ。助かった。」 剛がニッと八重歯を出して笑いながら、健に話し掛ける。 「どーいたしまして、で、ゲームは持ってきてくれたの?」 健が目を輝かせる。 「あ、わりー、忘れた。」 剛が悪びれずに言うと、健がプーッと頬を膨らます。 「もう、これだから!いやだよねえ。」 「わりいわりい。じゃあさ、今日、健の家に持っていくからさ、勘弁しろよ。」 剛がウインクした。健がそれならば、と表情が緩む。 「な、けどさ、なんなの?この女子のもりあがりようは。」 剛が話を変えるように健に言う。それを聞いて呆れたように健が答える。 「来週バレンタインだからでしょ。この連休にチョコ買いに行ったり、そういう算段してるんでしょう。」 なるほどね、と剛は思った。剛にとって残念ながらバレンタインは殆ど関係ない行事である。母から義理チョコをもらう位のものである。もらえない男のサガか、毎年、嫌な気分になるのもこの日である。今年もそんな時期か、と思いつつ話を健にふる。 「健、お前、去年何枚貰った?」 この問いに、慌てふためき赤くなる健。 「なんだよ、今さら。知ってるはずでしょ?剛と同じだよ。」 その答えに満足したのか、剛がつぶやく。 「お互い寂しいよな。今年も結果は同じって感じだよな。」
ふと、周りを見渡すと、クラスの女子は2年生の生徒会役員にあてたラブレターやプレゼントを見せ合っている。生徒会の役員はなぜか毎年モテるようだ。坂本昌行生徒会長を筆頭に井ノ原快彦副会長、長野博会計・・・。剛は、あるところにはあるんだよなあ、チョコレート、とため息をついた。
家に帰ると、また、昨日と同じ家族で無い者の靴が玄関にあった。 「また、光浦靖子じゃんよ。」 チッと舌打ちしながら、剛がつぶやく。 「なんだって、お前毎日来てんだよー。」 剛はガラリと居間の戸を開ける。 「来てちゃ悪いの?」 昨日と同じようにコタツに入っていた光浦はフンッと横を向く。 「ワリーよ。俺、お前来てるとむかつくし。」 剛が光浦をにらむ。母親がそんな喧嘩する二人を止めた。 「まあまあ、二人とも。それに剛ちゃん、光浦さんはね、大事なお話をママとしているのよ。邪魔しないでね。また、健君と遊んでくればいいじゃない?」 「へえー、剛君は、いつも男の子と遊んでるんだねー、彼女いないんだねー、かっわいそーに。それじゃバレンタインも期待薄いよね。」 光浦が攻撃してきた。その「バレンタイン」という言葉は今の剛にとっては聞きたくないものであった。 「うるせーなー。どうせ、お前なんてあげる相手もいねーくせに、俺にばっかりくだらねーこと言ってんじゃねーよ。」 剛が言い返す。 「あたし、大丈夫だもの、素敵な人いるから。あんたこそ貰えないくせに強がっちゃってさ、ばっかみたい。」 光浦が余裕の微笑をした。剛はカチンと来て再び口を開く。 「おーおー、上等じゃねーか。俺だって貰えるんだよ、チョコの一つや二つ。」 「へー、じゃあ、今度そのチョコ見せてもらおうかな。ホントにもらえるんだったらねー。」 「あ、あったりめーじゃねーか。もらえるよ、見せてやるよ。」 売り言葉に買い言葉で、剛は果たせそうも無い約束をしてしまった。実のところ、家族から位しかもらえるあてはない。剛の表情からそれを察したのか、光浦は勝ち誇ったような顔で言った。 「自分で買ったりするのはなしだからね、そんなのバレたら詐欺だからね。悪いけど、この街のチョコ売り場の女の子、私友達多いからそんなことしても全然ダメだから。もちろん、お母さんから貰うというのもダメ。ほんっとーに女の子からもらったチョコじゃないとカウントしないよ。」 光浦は駄目押しの条件をつけてきた。一方的に言われるのも嫌だった剛はこう言いかえした。 「俺ばっかじゃフェアじゃねーよ。お前もちゃんと本命チョコをあげたところ、写真とかなんか証拠持ってこいよ。」 光浦と剛のこんなくだらないやりとりを母はあっけにとられてみていた。二人が仲が悪いのは前から知っているので、話を途中で止めることが出来なかったのだ。母は呆れて首を横に振りため息をついた。
プリプリと膨れながら部屋に戻った剛だが、本当はかなり後悔していた。真剣に考えてもどうも貰えるあてはなさそうだ。もし、親友の健が沢山貰うようだったら、1つくらいおすそ分けしてもらおうとも思ったが、本人の話ではどうも無理そうである。どうしたらよいものか、どこか沢山もらえていて、1つくらい譲ってくれるような人がいないだろうか、と考えた。生徒会役員などはどうかとも思ったが、彼らとの接点は殆ど無い。あの位もてそうな人・・・。 「そうだ、眼鏡屋さんの岡田さんだったら、本命チョコ以外もたくさん貰えそうだ!」 剛は思いついた。バレンタインの当日は、なんとかして岡田からおこぼれを貰おうと決心した。
「剛ってば、まったく、バカな約束しちゃってさあ。」 この日の夕方、約束のゲームを持ってきてくれたかと思えば、いきなり眼鏡店の入っている『伊東屋』に連れ出された健もいい迷惑、呆れ顔である。 「俺のところに来たって、だめじゃん、もらえないもの同士だし。」 全くその通りだ、だから、お前に頼んでるわけじゃないんだよ、と剛は思う。 「だから、岡田さんに頼もうと思ってさ、一人で行くのも恥ずかしいから、健につきあってもらってるんじゃん。」 剛は眼鏡店のあるフロアへ続くエスカレーターに健と乗った。 「うーん、そういうのって大丈夫なのかなあ。それに、俺、岡田さんって見たことないんだよねえ、眼鏡とか必要になった事無いしさ。そんなにモテるタイプなの?」 少し文句を言い出した健に、剛は言う。 「まあ、見ればどんなにもてそうか判るって。」 店の前のショーウインドーの前に体をちぢこませてしゃがんだ状態で二人は隠れながら、店内の様子を伺った。
店内は、あいかわらず女性がいっぱいだった。雑誌を見て受付を待っている女性も、何気にチラチラと岡田を見ている。受付で岡田に応対されている女性も顔が緩みっぱなしである。 「・・・確かに、すごいかもしれない・・・。」 健がその光景を目にしてうなる。 「だろー。だから、多分、主婦のお客さんとかのなんとなーくの義理チョコとかも、岡田さん貰えそうだろ。」 剛の言葉に健も頷いた。 「うんうん、あ、あれ英語の冬月先生じゃない?あの人、婚約者の鬼塚先生とかいるのに、すっごいニコニコして岡田さんの事見てるよー。これは、冬月先生もチョコあげそうだね!」 剛と健は凄い凄いを連発しながら、顔だけショーウインドーの横に出して、岡田の様子を見ていた。
「あらあら、剛君どうしたの?」 剛と健の背後からいきなり声がした。附設の眼科の看護婦の渡辺えり子である。挙動不審の二人をいぶかしげに見つめている。 「あー、看護婦さん、この前はどうもー。」 剛がしどろもどろになる。 「この前の検診の結果かなにかの事?」 数日前の検診の事を渡辺看護婦が言い出すが、 「いや、違うんですけど。」 と、剛は困った顔で否定する。
その時、いきなり岡田がこちらを振り向いた。 「やっやばい!見つかった!」 剛が焦って言う。
続く・・・
^^^^^あとがき^^^^^ 「ある朝のひととき」でトニセンだけだったので、今回はカミセンだけでお話を作ってみました。なんとなく、バレンタインだなーと思って書いてしまった短編です。渡辺えり子さんは、ご存知の性格のよさそうな大柄な女優さん、光浦さんはあのタレントさんをそのまま配役しました。岡田君だけ大人の役にしました。
|