投稿時間:01/02/12(Mon) 21:08 投稿者名:ピンキー藤原
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タイトル:ラヴ・コネクション
第1話
ネオン街から少し離れた閑静な場所に、隠れるようにして存在する小さなカクテルバー。 そこでは、男と女の様々な恋のドラマが生まれる。 出会い、別れ、幾つものドラマを、僕はカウンター越しで遠巻きに見ているだけ。 時には笑い、時には怒号の叫びを上げ、そして時には号泣して酒を煽る人間模様。 今夜も、僕の前では若い男女が微笑しながらグラスを傾けていた。
「健。就職決定おめでとう。いよいよ社会人ね」 「ありがとう。君のおかげだよ、めぐみ」 「私は何もしてないわ」 女性は可笑しそうにクスクス笑いながら彼を見た。 「ううん。オレが何度面接に落ちても、君がいつも励ましてくれたからだよ。めぐみ無しでは今のオレはいなかった」 「もう、健ったら大袈裟なんだから!」 そう言いながらも、彼女も満更でもなさそうだ。 「ね、ねえ…。めぐみ…」 「ん…?」 口を噤んでしまった彼に、彼女は「何なのよ〜」と彼氏の袖を引っ張りながら催促の言葉を求める。 「オレね、前から考えていたんだけど…。初月給を貰ったら、買いたい物があるんだ」 「なあに?買いたい物って」 彼女がきょとんと目を丸くする。 「君に…指輪を買ってあげたいんだ」 「え……?」 頬を染めて聞き返す彼女に、彼氏は照れ臭そうに頷いた。 「まだ若すぎるかも知れないけど、本気だ。オレにはめぐみが必要なんだ。幸せにしてあげるから…」 「健…」 嬉しそうに涙ぐむ彼女を、彼氏の方も気遣うように微笑んだ。 お互い幸せそうに見つめ合う恋人達。 オレンジ色のほのかな光が、優しく二人を包み込む。と、その時、 「話が違うじゃないっ!」 突然聞こえてきた大声に驚いて顔を上げると、どうやら向かい側のカップルが、揉め事を始めたらしい。 「しょうがないだろう! 倒産しちまったんだから!」 「あんな大手会社がそう簡単につぶれる訳ないじゃないっ!」 「今はこの不況だ。大手だろうが小会社だろうが、つぶれる時はつぶれるんだよっ!」 少し小柄な男性に、筋肉質のどう見ても美人には見えない女性が大声で言い争っている。 「ひどいわっ!あの時のプロポーズの言葉は何だったの? 幸せにしてやるって…そう言ったじゃないっ!」 「い、いや…。だからあの時とは状況が…」 男は誤魔化すように目を反らし、苛立ちを落ち着けるように酒を煽った。 「ねえ、聞いてるのっ?まだあなた、入社して三ヶ月じゃないの!」 「聞いてるよ。あのな、こうなった以上、オレ達別れた方がいいと思うんだ。お前も貧乏暮らしなんてゴメンだろ?」 「な、なんですって?私のお腹の中には新しい命が…」 「じ、じゃあそういう訳だから! 達者でな!」 「ちょ、ちょっと待ってよ!まだローンも色々残ってるのにっ!」 女は逃がさないというように、男を羽交い絞めにしてすがり付いた。 「そ、そうだ! その結婚指輪、質屋に入れちまえよ! なっ?それがいい!」 「イヤよ! これだけは売らないわ!」 「お前がオレの初任給かっぱらって買ったんだからいいじゃねーか! とにかくオレは新しい人生歩むために、お前とは別れる!」 「ひど〜いっ! まだ結婚して三ヶ月なのよ〜! あっ、待ってよ、剛〜!」 男は女の腕を何とか振り切ると、足早に店から出て行き、女も後を追うように駆け出していった。 「……」 しばらくの間、それを惚けて見ていた若いカップルは、後味悪そうに顔を見合わせた。 「け、健。やっぱり結婚はもう少し考えた方がいいと思うの」 「えっ? 何でだよ! 世の中、あんな夫婦だけじゃないよ!」 彼氏の方が慌てて彼女の説得にかかった。 しかし、彼女は顔を引きつらせたまま、「ご馳走さま」と言って、さっさと店を出て行った。 「ちょ、ちょっと! めぐみっ!」 「お客様、お勘定…」 彼氏は慌てて財布から一万円札を取り出すと、「釣りはいいから」と言って猛ダッシュで彼女の後を追いかけていった。
それから数分後。 店の扉が開かれ、先ほどの小柄な男と、筋肉質の女が入ってきた。 女は、気だるそうに欠伸をすると、徐に頭に手を乗せ、ロングヘアのカツラを取った。 「…お前等な、いい加減、人の恋路を邪魔するのやめろ」 カウンターの中からグラスを拭きながら、僕は言った。 「いいじゃん。あれくらいでビビるようなカップルは、大したことねーって証拠だよ」 「そうだよ。坂本君だってザマーミロって思ってたんでしょ。チップも貰えて良かったじゃない」 小柄な男も口を挟んだ。 「オレの事はマスターと呼べって何度も言ってるだろう。ったく、これでまた客が減ったよ。おい剛! ウィンナー切れてるから買って来い。井ノ原、そこの空き瓶片付けろ」 二人は生返事をして、仕事をすべく、僕の前から消えていった。 こんな従業員を雇ってるオレも、我ながら偉いよな。 今宵は、あのカップルの前途多難な日々を想像しながら、店を閉じるとしよう。
第2話
此処は知るひとぞ知る、小さなカクテルバーである。 カウンターと、小さなテーブルが二つあるだけで、客も少なめだ。 BGMは、小さな音でジャズクラシックを流している。 今夜も僕は手馴れた手付きでシェーカーを振り、目の前のカップルにお手製のカクテルを差し出した。 「何だか夢みたい。一軒家に住めるなんて」 女性が嬉しそうに笑って、相手の男性に微笑んだ。 「はは。まあちょっとは無理したけど。どうにかなるさ。長いローンの事は考えず、今晩はとことん飲もう。喜美子」 「ええ! 私、博と結婚して良かった!」 二人は笑顔で乾杯した。 「昨日も隣の奥様に言われたの。この歳で一軒家に住めるなんてスゴイって!」 彼女は興奮を隠し切れないように、何度も歓喜の声を立てて笑った。 「少し都会とは離れてるけど、同じ都内だしね。これからもお互い協力し合って、頑張っていこうね、奥さん」 女性は「こちらこそよろしく」と言って目を細めて笑う。 どうやら新婚さんらしい。男の方はまだ二十代だろうに、一軒家を買ったなんてスゴイ話である。と、そこへ、 「家を手放すですって?」 店中に響く大声に、目の前のカップルが驚いて振り返った。 「だってしょうがねーじゃん。もう競売の手続き済ましてきた。弁護士さんもその方が良いって…」 「ひどいわっ! まだ住んで半年なのよ? 修理だっていくらかかったと思ってるの?」 「だから、これからの事考えると、やっぱりオレには無理だって解かったんだよ。一ヶ月分のローンだって四苦八苦してるのに、これから先、何十年も支払っていかなきゃいけないなんてさ…」 男はそっぽを向いて酒を飲んだ。女の方はヒステリックに大声で喚いている。 あまりの煩さに痺れを切らしたのか、男は女に向けて怒鳴った。 「大体なあっ! お前がマンション暮らしは近所付き合いが面倒だからとか、隣の奥さんに負けられないとか変な闘争心燃やすから、こんな羽目になっちまったんだろーがっ!」 「んまっ! 剛ったら私のせいにする気? ひどいわっ! 私が何をしたって言うの?」 「今言っただろうが! そんなに近所付き合いが面倒なら、オレと別れて他の男探せばいいだろ」 投げやり口調の男に、女の方も怒り奮闘である。 「解かったわよ! 別れましょ!」 「ああ、そうしよう! 明日役所行って、離婚届貰ってくる」 吐き捨てるように言い残し、男はコートを片手に店を出て行った。 残された女性は、残った酒をガブガブ飲み干すと溜息を吐き、終いには泣き始めた。 それを見ていたカップル達は、居心地悪そうに顔を見合わせる。 「ね、ねえ、あなた。やっぱり一軒家はやめといた方がいいかもね…」 「ええっ? 何言ってんだよ!? もう不動産屋に手続き済ましちゃったし…」 男は目を丸くして女性に詰め寄った。 「と、とにかく今はまだ時期じゃないのよ。やっぱり元の安アパートで我慢しましょ」 そう言って、彼女は「先帰る」と言い残し、店を出て行った。 「ち、ちょっと待てよ! 喜美子っ!」 「お客さん、お勘定が…」 僕の声に、男性は思い出したように財布を取り出すと、よほど慌てていたのか財布ごと僕によこして店を出て行った。
「おー。今日は儲かったじゃない。いくら入ってんの? マスター」 女装したウチの従業員、井ノ原を横目に、僕は財布の中身を調べる。 「…二千円」 「何だよ? もしかして足りねーんじゃねーの?」 裏口から入ってきた同じ従業員の剛が、大声で僕に詰め寄った。 口を尖らして頷くと、二人は「ボッタクリだ〜」と口々に文句を散りばめる。 「元はと言えばお前等の責任だろーが。ったく、幸せ者を見るとすぐそうやって変な芝居始めやがって…。人の夢を壊すのが趣味なのか?お前等は」 僕が呆れたように言った。 「オレ達は、ちょっと身の程を知れって事を教えてやっただけだぜ」 「そうだよ。実際『やめろ』なんて声を掛けた訳じゃねーし。いいじゃん」 「人の幸せを壊して楽しいか?」 「楽しい〜っ!」 はあ…と溜息を吐くオレの前では、罪悪感の欠片もない二人がスカートを捲ったりしてじゃれ合っていた。 「剛、氷切れてるから買って来い。井ノ原、空き瓶片付けろ」 「へいへい」 二人はつまらなそうに僕の前から消えていった。 やれやれ。また客を失ったよ。 先ず、従業員の態度を何とかしないことには商売上がったりである。 今夜はあの新婚さんたちに幸あらんことを祈って、店を閉じることにしよう。
第3話
愛は死よりも、死の恐怖よりも強い。それは誰が言った言葉だっただろう…。 今夜も僕の目の前で、カップルが楽しそうにグラスを傾けている。
「聞いてや佐智子! オレな、営業スマイル一等賞を社長から表彰されたんやで!」 「まあスゴイじゃない!」 「えへへ〜」 二人は嬉しそうに笑い合った。 男の方はまだ二十歳そこそこといった所だろう。それに対し、女性の方は少しばかり年上のようだ。 「あ、あんな。佐智子。オレな…」 「なあに?」 グラスを弄りながら男は意を決したように口を開いた。 「こんな素晴らしい表彰状も貰ったし、オレ昇進出来るかも知れん。そ、そしたらな…」 ん?と聞き返す年上の彼女。 「オ、オレとな…」 「お客様、今宵のジンはイタリアから取り寄せた最高級の物を使っております。いかがですか?」 驚いたように二人が僕の顔を見る。 「そ、そんなの後でいいわ! 話の腰を折らんといてや。なあ、佐智子。さっきの続きなんやけど…」 男は女に体ごと向き直り、真剣な眼差しで話を続ける。 「オレは確かに佐智子よりはうんと年下やし、まだまだガキかも知れん。でもな…」 「お客様。これは私のオリジナルカクテルなんですが、良ければ味見をなさって頂けませんか?もちろん、私の奢りです」 僕は女性の目の前にピンク色のカクテルを差し出した。 「まあ、綺麗な色ね。じゃあお言葉に甘えて…」 彼女は嬉しそうにカクテルに口をつけた。 「とっても美味しいわ」 「ありがとうございます」 女性は僕に向けて嬉しそうに微笑んだ。 それを見ていた彼氏の方は、気が気じゃないように僕と彼女の顔を交互に見ている。 「お褒めに授かり、光栄です。早速、明日からメニューに入れて置きます」 「ええ。人気が出ると思うわ」 彼女が熱っぽく僕を見る。 「さ、佐智子。オレの話を聞いてや」 彼氏の言葉が聞こえないのか、彼女は僕から視線を外さない。 「ねえ。このカクテル名前は決まったの?」 「そうですね。あなたのような美しい女性から誉めて頂いたので…ビューティーインマイハートセンチメンタルジャーニーってのはいかがでしょう?」 「ふふふ。ちょっと長いわね。でも発音は良いと思うわ」 彼女は可笑しそうに僕を見て笑った。 それを見ていた年下の彼氏は、ついに痺れを切らしたように僕に怒鳴った。 「ちょっとアンタ! オレの佐智子と喋んなやっ! 佐智子、場所を変えよう!」 男はそそくさとコートを羽織ると、彼女の腕を引っ張って立ち上がらせようとする。 「いいじゃない准一。私この店気に入ったわ。もう少しいましょうよ」 「あかんっ! 帰るんや佐智子っ」 「では、あなただけ帰ってはどうですか? 無理強いすると彼女が可哀想ですよ」 僕の大人な意見に彼女は益々心を惹かれたように、うっとりと呟いた。 「やっぱり大人の男性が一番だわ…。准一くん。今まで楽しかったわ。ありがとう」 「さ、佐智子…何言うて…」 「私たち、やっぱりジェネレーションギャップがありすぎたのよ。あなたも他にいい人見つけて幸せになってね」 「さ、佐智子…そんな…」 男は膝をつき、椅子にへばり付いて泣き出した。
「オレ等、今回何もしてねーぞ」 「坂本君も人が悪ィよなー。人の恋路を邪魔してんのはどっちだよ」 空き瓶を抱えた井ノ原と、紙袋を手に持った剛が、突っ立ったままその光景を見ていた。 「しかし坂本君の若者嫌いにも困ったもんだよね」 「この店、もう終わりじゃねーの?」 二人は蝶ネクタイを緩め、「転職考えなくちゃ」と言いながら仕事に戻っていった。
−完ー
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「学校」のカラオケ館、オープニングショートコントがあまりにも素晴らしいので、この感動をいつまでも忘れたくないと思い、作ってしまいました。剛くんの素敵なバーテン姿とイノッチの笑える女装がとってもお似合いですよね(笑)。 女の子役は、昔カミセンがカルピスのCMで叫んでいた女の子の名前を使いたかったんですが、めぐみちゃんしか覚えていなかったため、私の知り合いの方のお名前をちょっと拝借させて頂きました。(いー迷惑)
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