投稿時間:00/12/22(Fri) 22:39 投稿者名:ビンボー藤原
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タイトル:坂本家の難儀なクリスマス
いよいよ年も押し迫り、もうじき21世紀を迎えようという今日この頃、坂本家は相変わらずのクリスマスイブを迎えていた。 「ただいまー」 「あら、准、おかえりなさい。ずいぶん早かったのね」 准一は背負ったランドセルを降ろしもせず、真面目な顔で博子に聞く。 「なあ、母ちゃん、サンタクロースってなんや?それって俺らの家に来るんか?」 「サ、サンタクロース・・・来たことないわね・・・」 急に目を伏せ、寂しそうな顔になった博子に准一はとまどってしまった。 「おかん、サンタクロースって来なあかんもんなんか?オレ、べつに来んでもええで。学校でみんなが今夜サンタが来るとかしゃべっとったから聞いてみただけや。そんな顔せんといてよ」 「ごめんね。お父さんがふがいないばっかりに。ホントはクリスマスで、准にもサンタさんが来ないといけないのに・・・。うっうっ・・・」 「オレ、サンタなんかいらん!なあ、泣かんとってや」 准一がオロオロしていると、後ろから三人の兄たちの声が聞こえてきた。 「おい、准。教えてやるぜ。サンタってのはな、待ってても来ねーんだよ。こっちから連れて来ねーとな」 「そうだよ。それにはな、金ってもんが要るんだな。無料(ただ)じゃあ来てくれねえ」 「サンタさんに来てほしかったらね、みんなでバイトしようよ。オレたちも手伝うからさ」 准一はうるんだ瞳で振り返って、三人の兄を見つめた。 「兄ちゃんたち、オレのために手伝ってくれるんか?けど小学校じゃバイト禁止やなかったっけ?」 「だいじょうぶ、だいじょうぶ。バイトっていってもピンからキリまであるさ」 「オレたちの言うとおりやってりゃいいの」 「善は急げって言うからさ、ランドセル置いたら今から行こうぜ」 「うんっ!」 元気よく返事した准一は飛び跳ねるように兄たちの後についていった。
四人は商店街の中を歩いていた。街にはジングルベルが流れ、道の両側にリースや星が飾られている。 「わー、きれいやなあ」 准一はみとれながら歩いているが、兄たちの表情は厳しい。 「准、さっさと歩かねーか!」 「だって見てや。きれいやん。わー、でっかいケーキがあるわ」 「いいか、准」 と快彦は准一の頭に手を乗せて、真剣な顔で言った。 「このバイト作戦が成功すれば、うちにもあんなクリスマスケーキが来る。もしかしたらサンタさんだって来てくれるかもしれねえ。だからがんばるんだよ!」 「そうだよ」 と剛も続ける。 「オレだって一回くらいサンタさんに来てほしいよ。でもさ、ただ待っててもサンタさんは来てくれなかった。まともなクリスマスなんて送れた年はなかった。オレ、やっ ぱ世の中金だって悟ったの」 「だからさ」 と最後に健が言った。 「父さんなんかにはまかせておけねーよ。このままじゃ一生クリスマスとは縁なしだよ。だからオレたちの力でクリスマスを迎えるんだよ。サンタさんを呼び込むんだよ」 小・中学生らしからぬことを言う兄たちに影響されて准一も真剣になった。 「わかった!オレがんばるわ。で、何をしたらええん?」 「あれだよ」 と快彦はケーキ屋を指して言った。ケーキ屋の前にはクリスマスケーキがたくさん並べられている。 「お前と健で行ってこい!いいか、必ずケーキをゲットしてくるんだぞ!オレと剛は次の作戦を実行してるからな」 「はあ?ケーキをゲット?どないして?」 あっけにとられる准一の耳に健が囁いた。 「いい?あの売り場の真ん前に行って、じ〜っと物欲しそうな目でケーキを見てるんだよ。できれば指くわえてよだれなんか垂らしてるともっといいや。わかった?さあ、行って!」 首をかしげながらも准一は健の言うとおりケーキの前に陣取って物欲しそうな目でケーキを見つめつづけた。見つめているうちに本当に欲しくなって、准一はよだれとともに目に涙が溢れてきた。 「ぼ、ぼく、どうしたの?ケーキ買いに来たの?お金は?」 とまどった店員の声に准一は涙を袖で拭きながら首を横に振った。そこへタイミングよく健が現れた。 「あ、准、ここにいた!どうしたんだよ?いったい」 「け、健兄ちゃ〜ん!」 准一は健の胸に泣きついた。 「ダメだよ。うちは貧乏なんだからね。いくらクリスマスイブだからってケーキなんて贅沢なもの買えるわけないよ。我慢しようね。いつか僕らが大人になって、お金稼げるようになったら、みんなで買おうね」 なだめる健の声に准一は泣きじゃくりながらうなづいた。 「うん、いつか買うてな。きっとやで」 「まあ、なんて可哀想な!ぼくたち、ちょっと待ってて。店長に聞いてきてあげる。どうせクリスマスケーキなんて余っちゃうんだから、1つくらいいいんじゃないかしら?」 二人の子供を見かねて、親切な店員がそう言って店の中に入り、にこにこしながら戻ってきた。 「1つ持っていってもいいって。よかったわね、ぼくたち。みんなで仲良く食べるのよ」 「わあっ、本当っ?!ありがとう!僕、こんなケーキはじめて!」 「すごーい、ありがとう!なあ、健兄ちゃん、ケーキ持たせて。オレ、持って帰りたいねん!」 健と准一は目を輝かせ、満面の笑顔でケーキ屋で何度も頭を下げた。
「よし、うまくいったか?こっちもほら、見てみろよ」 ケーキを手にした健と准一を見た快彦は、二人に自分の手にあるものを見せた。 「おっ、すっげーじゃん」 「え?その紙きれなに?どないするん?」 准一の頭を快彦と健の鉄拳が襲った。 「バカ。これはありがたくも貴重な商店街の福引きの券なんだぞ。この商店街の端から端までオレと剛で拾って回ったんだよ。見ろ、これで5回は引けるんだぞ」 快彦は得意そうに券を高々と掲げた。 「5回か。で、剛は?」 「あそこでがんばってる」 快彦の指す方向を見ると、電器屋の前で剛がテレビにかじりついていた。 「剛兄ちゃんテレビ見てるやん」 「まあ、もうちょっと見てろって」
「ぼうず、そんなとこで寒いだろ?お家にテレビないのか?」 ずっと店の前にがんばっている剛に店のおじさんが声をかけた。 「うん、ないんだ。うち貧乏だからさ。一回古いのをもらったことあんだけど、ぶっこわれちゃってそれっきりなの。だからここで見せてよ」 「可哀想になあ。どうにかしてやりたいけどテレビは高いからなあ。たしか商店街の福引きの景品になかったっけな?」 「そんなもん引けるほどの買い物なんてできねーよ。金ねーもん」 「うーん、そうだなあ。まあ、もうちょっと中でテレビ見て待ってなよ」 「うん」 剛は中へ入り込んでテレビの前に座りこんだ。 「あっ、いらっしゃ〜い」 しばらくして店に客が入ってきた。 「子供にプレゼントにねだられちゃってさ、DVDあるかな?」 「はい、ありますよー」 客は高価なDVDを抱えて帰り、福引き券は受け取らなかった。 「ほら、ぼうず。この券やるぞ。これで50回は引けるんじゃないかな?」 「わあ、おじさんありがとうっ!」 剛は大量の福引き券を手に店を出ていった。 「剛、よくやったな。さあ、いよいよ福引きだ」 「クリスマスには子供に高けぇ電器製品のプレゼント買う金持ちの親がいるからさ、けっこう狙い目なんだよ」 「けど、これってバイトって言えるんか?」 准一の頭に三人の鉄拳が飛んできた。
福引き会場は多くの人で賑わっていた。 「さあ、なんと1等はテレビだよ!2等は温泉旅行、3等は米10キロ、4等はフライドチキンセット、5等はクラッカーね。空くじなしだよ。さあさ、引いていってよ!」 呼び込みの人が大きな声で叫んでいる。 「わかってるな?狙うもんは」 「1等やろ?」 「バカ、テレビなんてなくてもいい、そんなもの。狙いは米だ!米さえあれば、当分ひもじい思いをしなくてすむっ!」 「オレさ、ちょっとテレビも欲しいなー、なーんて」 「剛、ダメだよ。電気代もただじゃないんだからさ。いままでどおり隣で見せてもらうの」 「さあ、行こうぜ」 四人は意気揚々と福引き会場に向かった。 「はい。えっ?こんなに?すごいねえ。全部で、えーと57回!」 「一人一回ずつ交代で引いていこうぜ」 四人は一回ずつ順番に福引きを回していった。5等の白い玉が次々と出てきた。 「案外うまくいかねーもんだな」 「これでクラッカー30個だぜ?どうするんだよ?これ」 「文句言わずに気合いいれて引けよ」 「あ、オレの番や」 32回目に准一が出した玉は4等の赤玉だった。 「やった!フライドチキンや!」 「やったぜ!これでちゃんとしたクリスマスが迎えられる!」 四人は飛び上がって喜んだ。 「さっ、次行くぜ」 「この調子でがんばろう!」 しかしなかなか白以外の玉は出てこなかった。次々と5等のクラッカーがたまっていく中、ついに最後の1回となってしまった。 「これで最後かー!」 「快兄、最後にドカーン!と引いてよ」 「いくらなんでもクラッカー55個はないよ。最後は米だよ」 「もうなんでもええから当てて!」 弟たちに見守られながら、快彦は最後の1回を回した。出てきた玉は・・・! 「あっ、金(きん)だっ!金の玉だっ!」 「ほんまや!金○や!」 准一の頭に三人の鉄拳が見舞われた。 「大当たり〜!1等賞〜!」 商店街にカンカンと鐘が鳴り響き、四人は目をぱちくりさせた。 「1等?ということは?」 「テレビだ!米じゃないっ!」 「どうするんだよ?これ」 子供たちの手にテレビが手渡され、四人はとまどってしまった。 「カンカンカ〜ン!今度は3等賞〜!」 四人の後に引いたおばさんが3等の緑の玉を出していた。 「あっ!米だ!」 「ねえ、あれと交換してもらわねえ?」 「うん、言ってみようよ」 四人がおばさんに「テレビも欲しいけど、食料のほうが先決問題なんです」と交渉に行くと、おばさんはすごく同情してくれた。 「まあ、こんなに兄弟がいるのにお腹いっぱい食べられないの?なんて可哀想に。いいのよ、このお米は持って行きなさい。かわりにテレビなんて気をつかわなくていいの。どっちもあげるわ。そうね、重いから運んでもらうように、おばさん頼んであげるわ」 と、おばさんは福引きの係の人に頼んでくれた。福引きの係りの人は気持ちよく承諾し、テレビとお米とフライドチキンとクラッカー55個を家まで運んでくれることになった。 「やったよ!15年間生きてきて、初めてのクリスマスらしいクリスマスだよ!」 「やればできるもんだねぇ。オレ、なんか感動しちゃったよ」 「やっぱ父さんなんかにまかせとけねーよ。オレたちの家はオレたちで守ろうぜ」 「やった!ケーキや、フライドチキンや〜!」 喜びのあまりケーキを振り回した准一の頭に三人の鉄拳が降ってきた。
博子は一人家で留守番をしていた。 「やっぱり私もパートに出ようかしら。このままではあの子たちがあまりにも不憫だわ」 とため息をついているところに昌行があぶなっかしい足取りで騒がしく帰ってきた。 「おーっ、母さんただいまー!いやー、今世紀最後の競馬で当てちゃったよー」 「お、お父さんっ、その格好は?!」 見ると昌行は真っ赤なサンタクロースの衣装を着込んでいる。 「どうだ?似合うだろ?なんたって今日はクリスマスイブだからなー、サンタの格好して可愛い子供たちを喜ばせてやろうってわけさ」 「お父さん、お酒臭いっ!」 昌行の顔も服に負けないくらい真っ赤である。しかも手にはまだ焼酎の瓶を抱えている。 「へっへっへ。競馬仲間にぱーっとおごっちゃった。めったにねえことだもんなー。きれーいに使っちまった」 「お父さんっ、そんなっ。私や子供たちがいるのにっ!」 博子が怒りの鉄拳をお見舞いしようとしたその時、家の前に車が止まり、テレビや米を運んできた。 「あの?これはいったい?」 驚く博子に運んできた男は子供たちの福引きの賞品だと告げて帰った。 「おっ、あいつらもやるじゃねーか。よーし、このテレビを質屋に売って宝くじだーっ!」 「お、お父さんっ、やめてくださいっ!」 しかし、馬の耳に念仏、酔っぱらいに説教、である。
四人の子供たちがはしゃぎながら家に帰ってきたのは、すでに夕方暗くなってからだった。 「ただいま〜!ねえねえ、荷物もう着いた?」 「すげーだろ?オレたちがんばったよー!」 「そうだよ、みんなでさ・・・あれ?」 「あ、テ、テレビがあらへん!」 狭い家のどこにもテレビらしき物体は存在していなかった。 「えっ?なんで?あっ、これフライドチキン!誰だよ?全部食ったの」 「うそっ、ひとっつもねえの?」 「焼酎の瓶が転がってる・・・ということは?」 「父ちゃんが食ったんか〜?もしかして」 四人の視線は、悲しそうにうなづく博子から、いびきをかいて寝転がってる昌行へと移動した。 「みんな、ごめんね。母さん止めたんだけど、言うこときかなくって。お米だけは守ったんだけど。でもありがとうね。これでしばらくは白いご飯がお腹いっぱい食べれるわね」 「うん、それにケーキがあるからさ、みんなで食べようよ」 「しかしそれにしても父ちゃんのやつ許せねーよな」 「これが残ってるよ。ほら、55個のクラッカー」 「ということは一人11個ずつやな?」 クリスマスイブの夜、坂本家に55個のクラッカーの音が響きわたった。それからしばらくの後、サイレンを鳴らしながら救急車が1台家の前に止まって走り去っていった。ともあれ、Happy Merry Christmas!
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