楽しい話 65

その時 新幹線が止まった



8月24日 北京オリンピック閉会式………など、どうでも宜しい事態が勃発しました。

大阪から、東京に帰りたいのに

新幹線が動かない!

大雨の為に動かない!



新幹線がSTOP、その情報がもたらされたのは、8月24日の20時の事でした。

それでもチケットを取って、新幹線のホームに行きました。

なぜなら、この時まだ我々は信じていたのです。

新幹線なんだし、多分そのうち動くだろう と。

なんだかんだで自宅には帰れるだろう と。

いつ復旧するのか目処がついてないと放送されても、根拠もないのにどこからかやってくる「新幹線はきっと動く!」という希望を信じて待っていました。

そして同じ希望を信じる同士が、ホームのあちらこちらに居たことをはっきりと覚えています。



ですが、待てど暮らせど新幹線は一向に発車しません。

それどころか、駅構内には発車待ちの新幹線がたまる一方です。

1台、また1台とホームに到着し、そのまま発車することなく徐々に……徐々に、しかし確実に、新幹線は新大阪駅の構内を侵食してゆき、

そしてとうとう駅の全ホームが新幹線で み つ し り と埋め尽くされるという事態に陥ってしまいました。

ホームとホームの間に、新幹線が み つ し り 。
見渡す左右も遠くの景色も、新幹線で み つ し り 。



そしてこの時になって、恐ろしい事に気が付きました。

最初は新幹線が大阪駅構内を侵食したように見えていたのですが、真相は逆だったのです。

どの駅も新幹線で埋め尽くされているため、進むことも退くことも出来ない………

そう、新幹線こそが逃げ場を失っていることに!

もう新幹線は大阪駅構内から逃げられなくなってました。

捕らえたのは駅。 囚われたのは新幹線。

判りやすく例えるなら

腹黒い受:大阪駅構内
うかつな攻:新幹線

です。

そして閉じ込められた新幹線のせいで、我々乗客も動きがとれなくなってしまったのです。

いや、新幹線に見切りをつけてしまえばよかったんですが、その選択は見切るかわりに家に帰れなくなるという諸刃の剣なのです。

明日仕事の友人。そして家に恐竜もどきの鳥がいる自分。

更に戦利品が詰まっているカバン。(取扱危険物レベル5)

駅員に手荷物検査などをされず、ただの旅行者ですという仮面をかぶったまま、無事に帰宅することが一番の目的なのです。

所持している戦利品(という名の危険物)を早く安全な場所に保管したいのです。

心の底から。




そのため、新幹線が動くか動かないかはっきりしない間は、帰宅したいがために動静を見守るしかなく、それゆえに駅から移動することが出来ませんでした。

これではまるで我々乗客は、魔性の新大阪駅にたぶらかされ弄ばれる新幹線に、未練たらたらで振り回される当馬ポジションです。

どんなに心が帰宅を急いでも、新幹線なしの状態ではホームから一歩も飛び出せないのです。

生身で飛び出したら、むしろ駅員さんが飛んできます。

「お客さん駄目です!危ないですよ!なんか俺たちが危ない!今、すげえ危険!駅構内、修羅場で気がたっちゃってヤバイ!もう超テンパり!だからおとなしくしとけぇぇっ!! 」

って、きっと飛んできます。

新幹線に振り回される同じ境遇同士としては、彼らに迷惑をかけることは出来ません。


でも身体が痛い。

立ちっぱなしだから足が痛いし荷物重くて腕も痛い。

我々乗客の思いはひとつ。

お願い(新幹線)、私たちあなたをずっと見守っているのよ!
あなたのこと
(はよ動けって)ずっと、ずっと見ているのよ!⊂⌒~⊃。Д。)⊃

……みたいな?(なんか選択すべきAAを間違った気がするけど、まあ良いや)



しかし、どんなに帰りたくても現実的には動かない新幹線を凝視するしか出来ず、じりじりと時計の針だけが動いていく。

動くべきは新幹線なのに、進むのは時間だけ。

止まってる特急は特急ではありません。

特に急いでないどころか、車輪ひとつ急いでいません。

新幹線は、扉があいてましたからチケットを持つ乗客が座ることは出来ましたが、別便のチケットを持つホームの乗客や駆け回る駅員に対しては 非情 の一言です。

新幹線は微動だにせず、クールに我々を眺めているだけでした。

乗せるのはせめてもの人道的配慮、でも信号が青にならないなら発車はしない。

というシチュエーションで新幹線の先頭車両の両脇にくっついてる吊り目ライト、あれを見てください。

どっかの吊り目委員長が

「僕には乗客を乗せる理由はあっても、発車する理由がない。(`ー´)」

と語っているように見えてきます。



腹立たしさ倍増です。

でも人によっては萌え話の発火点かもしれません。

その場合、周囲が一般人だらけならば、固有名詞を出さずにコードネームを使って話せば良いのです。

たとえば

新幹線ってツンデレだよね、でもうっかり集中豪雨とかに不覚をとって身動きとれなくなったりするんだよね、
でもって巻き込まれて何も出来なさそうな乗客が、最後は勝つんだよね、だって金を払う客が最強だもの。世間というのはそういうものだもの。
そんな乗客に、駅員っていつも敬語つかって話すじゃん。心の底から乗客が大切だから出来るんだろうねー。

と語りあえば良いのです。

新幹線や集中豪雨を誰のコードネームにするかは、それぞれの脳内で編集してください。



大切なのは順応性。

そして応用力です。




そんな順応性と応用力をフル活用していたので、私の頭は楽しい世界をさまよえましたが、その間に世界は動いてました。

ホームに変化が起こりはじめたのです。

でも、新幹線が動いたのではありませんでした。

出発の希望を信じ、新幹線の冷酷な仕打ちにも耐え忍んできた我々の同士たちが、次々と床に沈み始めたのです。

最初は、ギャルの集団でした。
次に、子供連れの家族。
続いて、学生や若者。
それから、年配の方々。
最後まで 
「俺は企業戦士!!戦士は床に膝などつかぬううぅぅ!!!」 と粘っていたサラリーマンたちも、とうとう床に座り込んでしまいました。



全滅 です。

ホームの乗客、全滅 です。



8月24日 22時30分 JR新大阪駅26番ホーム。

見渡す限り立ってる人間が一人もいない、という信じられない光景が、そこに生まれました。



たまに聞こえてくるチャイム音に、発車か!? と顔をあげて希望に満ちた表情で周囲をキョロキョロしても、新幹線が動くことはなく、チャイムが発車案内ではないことが判ると、がっくりうなだれ、再び諦めと悟りが混じった表情に戻って壁によりかかる。

そんな絶望感がただよう中、冷たく硬いホームに崩れ落ちながらも、それでもわずかな希望にすがって何度も何度も電光掲示板を見上げる………。

人類最後の日、の予行演習みたいな光景です。

その間に、先行して新幹線にのった戦友(とも)から、リアルタイム速報が入ってきます。

「静岡のあたり、すごい雨だよー」
「品川と東京の間に新幹線が15台詰まってるー」
「品川-東京が90分かかるとかいってるー」
「雨漏りしてきて床がぬれてるー」



って、あの……



新幹線って雨漏りするんですか?




乗客を駅に降ろせない、そんなふがいない自分に新幹線が流した涙。とは思えない 思わない さすがに。

そんな戦地(?)からの情報と、先ほどまで駅の電光掲示板に乗ってた発車予定の表示がつぎつぎと消えてく状況から、とうとう自分たちも決断するときがやってきました。

「駄目っぽ?」
「無理っぽ。」
「ホテルあるかな?」
「探そう。」
「取れた♪」
「じゃ、移動」

こうして新幹線に別れを告げ、駅構内に戻った私たちの目に飛び込んできたのは

払い戻しの窓口に並ぶ 


客客客客客客客客客客
客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客客×10倍があちこち発生、な感じ。




いっぱい人が並んでるのなら、今日の昼間にたくさんみたからもういいよ_| ̄|●

なんでもいいから駅から出してください。

私たちは早くホテルに行って明日のために早く眠るまえにこのかばんの中の戦利品をちらっ☆とかぴらっ★とかじゃもったいないからじっくりと読みたいんです。




そんな本能が野生の勘を呼び起こし、払い戻しの列をかいくぐることに成功。(あ、別にズルはしてません。正攻法です。)

翌日のチケットをゲットしてホテルに到着したときは、すでに翌日になっておりました。

疲労困憊だね。
ぐったりだよ。
はやく横になりたいー。
もう何かを考えるのも面倒だもん。
化粧を落として浴衣に着替えて、明日の為にすぐ休もうね。

って口ではお互い話してるのに、どうして身体は読書してるかな。



翌日、5時に起きて新幹線に乗って、なんとか全員地元駅に戻りました。

戦利品を抱えそのまま戦場に旅立った(=出社)戦友達には、心から敬意を払いたいと思います。

こうして、夏の大阪であるにも関わらず涼しく過ごしたインテックスに感激してたら最後ででかい罠にかかった旅行は、幕を閉じたのでした。

冬のインテは 「ドキ★ドキ!スーパースノウDay♪」

とかは勘弁してください。>大気圏