楽しい話 3

ミスターモラル



さて。

電車の中。

あれはなんだね。

いろんな人がいるね。

どうみても一人しか座れないスペースに、二人分くらいの物量があるおしりを振りながら座ってくるおばさまとか。

両手で2本の吊革につかまって、まるでグリコなポーズをしているおねえさんとか。

いい気分でへたくそな演歌とか歌ってるオヤジとか。

しかし、そんな人たちは、良くはないが、まだ良い方だ。

世間には俺こそ正義!と思い込み、迷惑を振りかざし胸を張ってる素晴らしい方々がいらっしゃる。

先日。電車のなかでうららかに睡眠をとっていた私の耳に、それはそれは耳障りなオヤジのだみ声が

入ってきた。どうやらわしの目の前に立って新聞を読んでるアネさんに文句をたれているらしい。

「新聞の角が当たる」「目に入ったらどうするんだ」「失明したら大変だろう」「折りたたんで読め」

なんて感じの事を麗しくも無い大声で機関銃よろしく延々とぶちかまし続けるのだ。

おい、おやっさん。言ってることは判るさ。確かに折りたたんで読んで欲しいと思うだろうさ。

だが、一枚の新聞紙の角で失明わせんと思う。それにアネさん本人だけにボソリと言えばよかろう。

あんたの(むちゃくちゃ聞きたくないほど汚い声の)大声の方がよっぽど迷惑だっちゅーの。

そしたらアネさんも切れてしまって「そんな言い方せんでもええやろう!」とカウンター。

自己中心的モラル・オン・ザ・電車バトル開始(カーン)←ゴング

なあ‥喧嘩は良くないよ。五月蝿くって、わしは寝られんじゃん。降りろよ、おまえら。

今すぐ電車から飛び降りろ。それくらいの根性みせたら、いっそ拍手したる。(死ぬって)

なんて事を思いつつ、苛々しつつ、なんとなく目をあけたら、反対側のとなりで文庫本を慎ましげに

読んでた人の良さそうなどっかのお父さんが、恐怖で固まっていらした

可哀相に。恐かろうに。君の気持ちは言わんでもわかる。うん。(心の中で肩ぽん)

で、次に止まった駅でアネさんは降りていった。ふう。これで車内に平和が戻ったぞと。さて寝よう。

‥‥‥しかし、彼の正義感はこれでは治まらなかった!

運悪くわしのとなりの人も降りてしまったので、その「俺は正義の味方だぜ」オヤジが私の隣に

座ってしまった! 座んな! 立ってろ! あっちいけ!! (゜ロ゜) ←ってカンジだ。

こいつ、なにかやる。ゼッテーなにかしやがる! そう思って警戒していたら案の上やりやがった。

「お! おい!なあ、そこのじいさん、ここ座れや、ここ!ここ!!(座席上で暴れる)

そう。お年寄りに席を譲るというのは正しい。正しいが、時と場合と方法と譲ってくれる人による。

正しい判断力を持っていた呼ばれたおじいさんは、その譲歩を丁重にお断りなさっていた。

しかし、そんな事で彼の正義感はひるまなかった。

「遠慮するなって、いいんだよ、ほらここ!ここ!!(立ったり座ったり座席ばしばししたり)

座席ばしばしでゆれるわたくし。

‥‥‥‥‥‥‥ 連結部分にでも、閉じ篭めちゃおっかな 。

‥‥‥‥‥‥‥ それとも窓開けて、ほおり出しちゃおっかな。(やっても犯罪にならない気がする)

そんなこんなで、俺のモラルと正義感はどうだ!と言わんばかりの態度で隣に座ったそのおっさんを、

視界の端にも入れたくないので、一度も顔を見ることはなく、

されど電車を下りる際に「すまん」と言いながら礼儀正しく足を踏み付けといたのだった。

−大完結−