裏うた
書いちゃったものは仕方ない。








楽しい夕食が終り、そして今はすっかり深夜。

昼型のナタクは既に熟睡してしまっているし、僕もそろそろ眠りにつこうかとベッドに潜り込んだころ「ソレ」はやってきた。






「………こんばんは。」

「うわっ」

ぼくたちが借りている深夜の客間に音もなく部屋に滑りこんできたのは、この家で一番堂々と歩き回る資格のある人物だった。

「夕食のときは楽しそうだったなぁ、ジョウイ。」

「ななななんだよ、こんな夜中に!」

「……静かにしないとナタク君が起きるよ?」

「………っ」

いつもの赤い服じゃ無くって白い寝間着になっているところが幽霊っぽ……くはない。

幽霊はこんなに意気軒昂じゃないし、これほど恐いモノでもない。

「なんの用だよ、こんな時間に。」

「なんの用とは連れないなあ。君が僕の歌を聞きたそうだから聞かせてあげに来たのに。」

「………………………………………はい?」

たっぷり10数えるくらいの間をおいて、いわれた言葉を理解する。

「それじゃあ、なんの歌が良い?」

「………………いい。」

「時間的には ”ねんねんころりよ” かなあ。」

「いいって言ってるだろうっ」

「良いんだね。じゃあついでに添い寝もしてあげよう。」

「要らんって言ってるんだ!聞けよ人の話しっ……っってっ!! ベッドに入ってくんなっ タキっ!!」

ああ、これが隣で寝ている誰かさんだったら両手を広げてとってもウェルカムなんだけど………ってそんなロマンチックに逃げている場合じゃ無いぞ、しっかりしろ僕!

「だから静かにしないとナタク君が起きちゃうよ。」

「………っっ(もが)」

……押え込み、寝技一本。

どこで修行したのか聞いて……みるのはわが身の為に止めとこう。

「この状況を見られたら、ナタク君が誤解してくれそうだなあ♪」

「……ナタクはそんな風には考えないぞ。絶対二人とも仲良いねって思うだけだっ」

僕としてはナタクのそのセンスと理解力がちょっと悲しくなることがあるけど、この場合はその方が有難いというか、タキをどかすにはナタクに起きてもらうのが一番早いんだけど。

だけど、僕に憑いている幽霊よりタチの悪いモノはこう囁いた。



「僕が余計なことを言わなければ、そう思うだろうねえ。」



間近で奇麗な顔で微笑まれても、僕は108星じゃないから真実が見える。







……………………………………………………悪魔だ。






ここからははっきり言って拷問タイムの始まりだ。


ナタクを起こさないためか否か、タキの歌は歌というより呟きに近かったが、そんなことが何の慰めになるというんだろう。(いや、ならない)

音程がどうとかリズムがどうなんてそんなことを気にする余裕も無く、逃げられないようにしっかりと首に回されたタキの右手の甲、暗闇にぼわっとうかぶ魂喰いの紋章さんとにらめっこ状態で、ひたすら硬直したまま、耳元に流れ込む歌詞と低い低〜い笑い声を聞かされ続ける。




「ねんねんころりよ……………ククク……」




この世に生れて18年。

こんなに恐ろしい体験をしたのははじめてだ。

学校の怪談だの、恐怖の館だの、怪奇ホラー現象だののほうが何倍も何百倍も何千倍もマシだ!

だってこいつは現実の世に存在してしかも実体があるんだぞ!! (涙の床ばし:心の中)



実際は十数分のことだったろうが、僕には何倍にも感じられた恐怖の時間。

ようやく気が済んだのかはたまた飽きたのか(多分後者だろう)、背中に張り憑いていたタキが離れてほっと気を抜いた瞬間、彼は去りぎわの親切でトドメを刺してくれた。



「そういえば戦時中にナタク君の城でも面白い歌を教えてもらったっけね……」

………………お前の子守り歌よりオモシロイモノがあってたまるか。

そう言ってやりたいけど、折角自ら帰ろうとしているコワイモノを引止めるほど僕は愚かじゃあないし、はっきり言って疲労困憊、これ以上の墓穴は掘りたくない。

「………………………おやすみなさい。」

そういって頭からシーツをひっかぶった僕の耳に、どうしてだかはっきりとその歌詞は聞こえた。




「アズキ研いで食おうか、人取って喰おうか………♪」








………お前が歌うと冗談にならん。








今夜の体験の為に、髪の毛が真っ白になっていたとしても僕は驚かない。

驚かないけど、このままじゃあまりにもあんまりがあまるんで(←恐怖でオカシクなっている)、この騒ぎ?にも負けず隣ですやすやと寝ている大物の天然記念物に助けを求めに行った。




「ナタク……ナタク………………」

「……ん……………うん?」

寝入りばなを揺り起こされて半分ねぼけた状態がなんとも言えず可愛い……じゃなくて、申し訳ないんだけど、このさい背に腹はかえられない。

「お願いがあるんだ。」

「………なに?」

「一緒に寝てくれ。絶対に神かけてこれっぽちも変なことはしないから。」

「はぁ……?………いいよ、べつに………」

なにか余計な事を言ったかもしれないけど、もう気にする気力も無い。

もそもそと布団に潜り込み、今度こそ安らかな眠りに就……く前に、

「………ナタク…」

「……まだ…なに………?」

「子守り歌を歌ってほしい。」

「………………………………………………………は?」

僕のあまりにも信じがたい台詞にナタクは一発で目が覚めたらしい。

生まれつきの大きな目が点になってるが、この際それに見惚れている場合じゃ無い。(そんな目に惚れるな)

見慣れた姿と慣れた体温に落ち着きを取り戻したら、余計にあの恐怖が思い出されてハレルヤなんだっ!

「ジョウイ、熱でもあるんじゃ……」

おでこをくっつけて検温してくれる状況は勿体無いほど美味しいけれど、今はソレを楽しむどころじゃない。

「あの歌が耳に焼き付いて……離れなくて……」

「………うた???」

「毒消しというか、耳直しというか、リフレッシュというか、とにかく頼むっ! このままじゃ頭の中であの歌がまわって眠れないんだっ」

ナタクがなんだそりゃな顔をしているけど、なにがあったかなんて説明したって絶対に信じてもらえないだろう。

「………………どうしたの?」

「妖怪が………………」

「ようかい?」

「………………………(涙)」

「????????????????」

仕方ないなあという表情で、でも子守り歌はしらないから寝るまで話をしててあげるねと言いながら抱き抱きしてくれる良い子のナタクには本当に涙が出るほど申し訳ないけど………

夜中、寝間着、ベッドの上で抱き抱き状態。

普通なら時間的にも体制的に頂きますご馳走様な状況なのに、それを利用する余裕が無いという事だけでもきっちり夕食時の報復はされたと思う。

ついでに恐怖の時間と明日の寝不足のおまけ付き……。

今までだってタキを侮った事はなかったけど、まさかこんな非常識な事をする奴だとは………いや、あいつならやりかねないとは思っていたけど、よもやこんな反撃に出てくるとは!(床ばし!)

タキ……君は僕の常識と想像の範疇から飛び出すぎだ。あまりにも読めなさ過ぎる。

あれと同類になる気は無いから読みたいとも思わないけど。




しかし今夜のお礼はどうしてくれよう。













……………………やめとくのが賢明というものだな、絶対。

10倍になって帰ってくるのは本日今夜ついさっき、身をもって理解した。



とりあえず現在幸せを感じられる事だけを念頭に眠る事だけ考えよう。

……眠れたら。(遠い目)











ジョウイ?愛してますよ、ええ、本当に。