合戦
子供は風の子元気な子。








べっとりと濡れた服が重たい。

というか、周囲が冷たいので濡れた服がそのままアイスノンの如く身体にはりついたために、自分が冷凍食品になったようだ。

そりゃあ子供は風の子とかなんとかいうが、いや、メンツの中には文字どおり風の申し子という奴もいるが、この状況はちょっと違うんじゃ無かろうか。

「さ‥‥さすがに‥‥‥つかれちゃ‥‥‥た‥。」

「‥こ‥‥‥‥こんなにバイオレンスな雪合戦‥‥‥始めてだ‥‥‥」

「こ‥‥‥こちらこそ‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥(声も出ない)」



雪の中に炸裂した雪玉たちと一緒になって転がっているのは、世界にはばたく問題児どもである。



「なんか‥‥この辺、スカスカしちゃったな‥‥‥。」

「‥‥‥見晴らしは良くなったよね。」

全員息があがりばったりと倒れ伏している今の姿を、うっかり暗殺者さんたちが発見したらミレニアムお年玉もののていたらくだが、彼らが転がっているのは見晴らしのよい場所なので、近づいてくる人がいればすぐにわかる。

が、問題はそことはだいぶ違うところにあるのだ。



「タキさんちの庭でやらなくて正解だったね。グレミオさんに怒られちゃうよ。」

「‥‥どこでやっても問題があると思うぞ、僕は‥‥‥。」

この場所はわすが1時間で平地に変ったのだと知れば、彼ら見た目とは違いにどんなに危険な集団なのか聞かなくても判るというものだろう。

元気にお外で雪遊びをしていた秀麗様と美形君と可愛い子ちゃんと美人さんな(誰が誰を描写しているかは敢えて伏せる)4人が、寒さと運動のおかげで頬を桜色にしながら純白の雪原で並んで陳列している様子は見ごたえのあることこの上ない。




しかし見た目は文句のつけようなない彼らは、実は抜群に酔っていた。







礼儀正しく年末のご挨拶に来たナタクたち3人と、最近グレミオの料理に惚れた風の紋章持ちは、年末からそのまま年明けた現在までマクドール家に滞在している。

原因はもちろんトランの英雄さまが御所望あそばされたからなのだが、その理由というのが数年ぶりに帰郷している彼への年末の来客&挨拶ラッシュとやらを断わる為というのだから勝手といえば完璧に勝手な理屈だ。

が、それを指摘し諭すような無謀なチャレンジャーはこの世には居ないので、大抵の望みはまかり通ってしまってる。

ただ理由がなにであれ、彼が来客をシャットダウンしたとしても実質的には誰も迷惑を被らないのは事実であるし、たとえ腹の中では

「これ以上無駄な営業スマイルと時間を使わせたら、グレッグミンスターを冥土の肥やしにしてやる」

と愉快なことを想像をしていたとしても、その辺の外交戦略に関してはもともとの身分と育ちと教育のタマモノで、流石に卒がないタキである。

これほどまでボランティア精神のカケラもない男に、一国の王座を譲ろうとするのは政策ミス以外のナニモノでもないのではなかろううか。

伊達にソウルイーターの主はやってない彼の性格というものを、レパント氏はもう少し勉強するべきである。




それはそれでおいといて。




それまでひっきりなしにやって来ていた来客への対応にげんなりと疲労困憊を感じ、ついでに寝不足とストレスのダブルパンチでご機嫌斜めになっていたタキの元に、みずから葱をしょって鴨たちがやって来たのは年の瀬も押し迫った時期だった。

そしてそんなありがたい食材たちをタキが逃がすはずは、もちろんない。

ナタクが「こんにちわ。年末のご挨拶に来ました」

の「こんにちわ」も言い終わらないうちに

「良く来たね、さあ、入ってくれ。」と彼の肩を抱き

「寒かったろう、すぐにお茶を用意させるから。」とナナミの背中をエスコートし、なにか言いたげなジョウイを

「もちろん泊まっていってくれるんだろう、なぁ?」

と鉄の視線で黙らせた早業は、この後もトランの英雄伝説として語り継がれて行くに違いない。(謎)

邸宅内に連れ込まれていく愛しい人質2人の背中を見つめながら唖然としていたジョウイは、3人で年末年始をゆっくりと過ごしたいというささやかで可愛らしい望みと、ナタクとの年末年始限定の深夜イベントへの甘い期待を粉々に打ち砕かれ、

「僕って‥‥‥厄年だっけ‥‥‥?」

という乾いた呟きを玄関に木霊させたのだった。



ついでに、気がついたらある日の朝からどこぞの性格悪魔法使いまで食卓に同席するようになっており、結果として人口密度が2倍になったマクドール家は例年にない賑やかさで年を越すこととなった。

更にそのまま年が明けても、世間が通常生活に落ち着くまで――要するに今度は年始の挨拶にくる連中を避ける為に――滞在させられつづけている。




もっとも館主の望みで滞在しているとはいえ、ここに居るのが楽しいことは間違いないのだ。

ナタクとナナミは素直に喜んでいるし、ルックは蔵書の量と料理の質にご満悦となっており、ただひとりジョウイだけが疲れた風情で「帰ったら絶対に厄払いに行ってやる…」といいつつも、なんだかんだでタキとのボケ・ツッコミのコンビネーションに磨きをかけながら寛いでいる。

本人から寛いでなどいないとのコメントが入るかもしれないが、周囲にはそう見えるのだから却下だろう。

それを見守るグレミオに至っては「今年は坊ちゃんに弟君と妹君とお友達が出来たみたいです、テオ様、奥様、テッド君、ご安心下さいね。」などと墓前でうるるうする始末。

こんな人間ドラマを同じ屋根の下で繰り広げられてながら生活しているクレオやパーンは、自分達のまともな神経を守る為、今年も気が付かないふりがやたらと上手くなることを悟るのであった。





しかし、嵐とは忘れたころにやってくる。

娯楽の神の名にかけて。






本日は、ひさしぶりに全員が朝と言える時間帯に目をさました。

目を覚ましたというよりグレミオ達が買い物に出てしまうので起こされた、というのが正確なところだ。

「朝食はご用意しておきました。沢山召し上がってくださいね。あと、お酒も飲んで良いですけど、こちらはちょっとにして下さいよ。」

という留守中の注意を残して、お目付けたち(グレミオとクレオとナナミ)は連れ立って出かけてしまい、ばかでかい玄関先まで見送りに出たこの国でいちばん危険な留守番部隊は、にっこり笑って

「大丈夫だよ。」

「いってらっしゃい。」

と、お返事だけは100点満点のものを返したのだった。



しかしお目付けたちの背中が見えなくなった途端、先頭をきってタキが

「‥‥‥何が大丈夫かなんて、僕は具体的には言わなかった。」

と呟きながら踵を返し、続いてジョウイが

「僕も飲まないなんて返事はしてない。」

と続け、最後にナタクが

「グレミオさん、飲んでも良いって言ったもんね。」

と笑顔で宣言する始末。

そうして3人が戻った居間には

「僕はなにも聞いていない。よって、なにをしても自由のはずだ。」

と高らかに謳うルック先生が、右手にはボトル左手にグラスを掲げて既にどっかりと鎮座ましましていらっしゃったのだった。





案の定といえば案の定で始まった酒盛りなのだが、最初はそれでも大人しかったのだ。

ちゃんとそれなりにグレミオの言い付けを守って、ちびちびと飲っていただけだった。

年末年始なのだから多少の羽目は外しても良いということで、いつもは"適量"という事に拘るグレミオの目も口もあまり煩くなかったのである。

だからここ数日間というもの、飲むこと自体にスリルもサスペンスもアドベンチャーも無かったので、実のところ彼らにはそんなに飲みたいという欲求があったわけではない。

ところがそういう時に限って以外なところに落とし穴があるあたりに、日ごろの行いの良さがにじみ出ている。



今回の落とし穴は、グレミオが下手に置いていった酒の量よりもその種類の多さに原因があった。



いろんなものが、ちょっとずつ。

これが食材ならばともかく、酒でこれをやることを専門用語で「ちゃんぽん」という。

ついでに言うなら、最も悪酔いするのもこれだ。



すぐに空いてしまう瓶を見て、まだちょっとしか飲んでいないから大丈夫などと錯覚しはじめた時にはもう遅い。

その頃には転がっている空き瓶の数なんざ、完全にアウトオブ眼中である。

そして前後不覚になるほどではないにしても、彼らの場合は「シラフ」と「飲酒」のギャップがあまりにも激しすぎた。

本人達にはその気がなかったとしても、この4人は右手には真の紋章を宿し、ふつーじゃない攻撃力を兼ね備え、ふつーとは言えない非常識なステータスを持つ、不老不死の健康優良児集団だ。

見た目はかわいくとも中身がそういう原材料なので、酔った時の危険指数ときたら「あまり正気じゃない」状態とほぼ同等だと構えて良い。

理性のタカが緩みネジが飛んだ彼らがどんなにヤバイ集団になるかは、昨年度の花見事件(「泥酔」参照)に係わった者ならば、骨身にしみて覚えているはずだ。

記憶によると、確かその後の二日酔に懲りて4人とも

「酒は飲んでも飲まれるな」

という教訓を胸に焼き付けたはずなのだが、彼らの『喉元過ぎれば全部忘れる』という逞しい生きざまは今年も健在らしい。





「グレミオさんに言われたから、ちょっとだけにしておかないとね。」

「これ、ちょっとしか飲んでないよ。」

「あれ‥‥‥?さっきもちょっと、とか言った気が‥‥‥」

「気にしない気にしない。」

こうしてあれよあれよというまに空いていく酒瓶が床にごろごろしはじめ、ついでに飲んでいる全員がへにょへにょぐにゃぐにゃぴーっぽっぽ♪な状態になりかけた頃、今年も勘がばっちり冴えているお目付け役がその勘をフルに活かして帰宅してきた。

青緑の瞳に居間に転がる我が子達(違)、もとい邪魔な物体を映しながら

「まったく…仕方のない方たちですねえ。」

と空き瓶とグラスを片付けはじめるグレミオの金髪からは、幻覚じゃなくて角が生えていそうである。

「……あのね、ちょーっとだけしかね、のんでないっ‥‥‥て、おもったんだけどね。」

「それにしては、たくさん瓶がありますね。」

「‥‥な‥‥な‥なんでだろうねー、えへー。」

ゆらゆらと左右に揺れながら油汗だらだらで言い訳するお坊ちゃまに対して、

「ちょっとお外にでも行ってきたらどうですか?涼しくてすっきりしますよ。」

と優しく思いやりあふれる声色で微笑むグレミオがあくまで笑顔なのがほんとうに恐くて、他の3人は微動だに出来なかったという。







という一幕が終ったあと、4人はコートとマフラーにくるまれただるま状態で散歩に出た。

「タキさん、お散歩ってどこに行くんです?」

「うーん‥‥‥夕食まで帰ってくるなって言われたからねえ‥‥‥」

般若も裸足で逃げ出すんじゃないかという恐ろしい笑顔に追い出され、ぽてんぽてんとゆっくり歩いて酔い覚ましをしながらどこに行こうかと思案しているうちに、気がつけばグレッグミンスターの城門まで辿りついてしまっていた。

「‥‥‥そと、行こうか。」

「え?でも僕とナタクは通行許可証を持ってこなかったんだけど‥‥‥。」

「僕がいるんだから顔パス。」

「‥‥‥それはそうですよね。」

そんなわけで、こんな雪の季節には化物も殆ど出現しないし、このメンツが揃っていれば黄金竜だろうか銀狼だろうが何が出てきても遅れは取るまい(というより、本人たちが一番危険で最強のバケモノだ)ということで、結局お散歩のコースはグレッグミンスターの郊外に決定されたのだった。






「うわー、まっしろー。」

城門から暫く歩いて行った先、ナタクですら外交上の理由ということで滅多に出してもらえなかったトラン共和国の大地、そこに広がる雪に覆われた山脈と裾野に広がる平野、そしてあちこちに点在する正反対のコントラストの黒い木立という単調な景色が、太陽の光を反射した雪に照らされて眩しくも静謐な風情を作っている。

小休止がとれそうな少し小高い場所で足を止めると、誰の痕跡も残っていない新雪をみて、おそらくこの世界の"軍主"という部類中では最も可愛らしいであろうナタクが楽しそうに雪玉を作ってはそこら辺にぽいぽい投げて遊び出す。

「手が冷たいんじゃないかい?」

「へいきー♪」

緩やかな坂を雪玉がコロコロと転がってゆくのを見ているのが楽しい様子だが、やっている本人が可愛いのだからそれだけで価値があるというものだ。

少なくともジョウイにとっては、そこにナタクが居るというのが最重要項目なのでそれ以外はどーでも良いだろう。

そうこうして暫くすると、見ているのに飽きたのかジョウイが雪を手に取り玉にしてナタクに手渡ししてやりだす。

「前はさ、よく3人で雪合戦したね。」

「そうだったね。」

「ナナミも連れてきてあげればよかったかなあ。」

「街の外は危険なんだから女の子を連れてきちゃ駄目だよ。‥‥‥ほらナタク、手が赤くなってるじゃないか。」

濡れた手袋を外して、すっかり冷えてしまったナタクの手をジョウイが握って暖めてやる。

「‥‥暖かい?」

「うん、あったかい。でもこれじゃジョウイの手が冷たくなっちゃうよ。」

「そしたら今度はナタクが暖めてくれるんだろう?」

「そだね。」

「‥‥‥‥‥‥よく他人を無視して二人の世界を作れるなあ。」

ナタクは忘れてたのかもしれないしジョウイは忘れたふりをしているだけかもしれないが、そのへんの事実はともかく現実としては、この場は別に二人きりの銀世界でパウダースノーのラブシュプールと言う美味しい状況ではない。

黙って見ていたタキが笑うしかないという表情で感想をもらしたが、全くその通りだ。

「悔しかったら君もグレミオさんとやれば良いじゃないか。」

「悔しくないから別にいい。」

「なら、邪魔するな。」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」

酒が入っているのと多少の慣れ合いが生まれてきたことによる恐いもの知らずの返事でタキとの会話を打ち切ったジョウイが、ごそごそと足元の雪で何かをしはじめたタキから、もっぺんホワイトラブな雰囲気を作りなおそうとナタクに視線を戻した瞬間、



バビューン!!!



「うわあああっ!」

二人の頭上をメジャーリーグ真っ青の剛速球が駆けぬけた。



「わー、きれい♪」

パラパラと駆けぬけた雪の残骸が降り注ぐのをご満悦の表情で眺めるナタクとは逆に、口の端を微妙につりあげたジョウイが幽霊のように立ち上がる。

「邪魔すんなと言ったろうが。」

「しなかったら、僕が暇じゃないか。」

「なんだそのむちゃくちゃな理屈はっ!」

「いいじゃないか当てたわけじゃ無し、ただ遠投しただけだろう。」

「遠投なら人のいないほうに投げろよ!」

「それじゃつまらない。」

「‥‥‥‥‥‥結局、つまり、解りやすく言うと僕の邪魔したいんだろう、タキ。」

「噛み砕いて言うとそうなるなぁ♪」

からかわれても相手をしなきゃいいと思いつつも、話しかけられると律儀に相手をしてしまい、その結果墓穴を掘るのがジョウイという人間だ。

そしていつもならここから楽しいボケとツッコミの漫才が始まり、それを他の者がのほのほと笑いながら眺めるのがセオリーなのだが、しかしこの時はいつも黙っているナタクが唐突に会話に加わってきた。

「‥‥じゃ、あれを目掛けてみるとか、どうですか?」

「‥‥‥え?」

「あれ。」

彼が指差した先には何事にも我関せずがモットーのルックが、ほてほてと一人で数十メートル離れたところを歩いている姿がある。

「‥‥‥‥‥ナタク。」

「ナタク君‥‥‥。」

「‥‥なんてね、冗談で――――」

『ナイスアイデアだ♪』

見事にハモったタキとジョウイの声を聞いた瞬間、ナタクは――――――――特になんとも思わず、何にも考えていなかったので、手を出す二人に綺麗な雪玉を作って渡してあげたのだった。

そして渡された二人は、それぞれの雪の塊をご丁寧にキュッコキュコと握り固めると、トランの英雄は野茂英雄の真似をしてトルネード投法で、元皇王は大魔人佐々木のフォークボールを思い描きながら、二人揃ってダイナミックなフォームで豪快に遠投をかました。

青空、白い白球、空を見上げる若者達が駆けぬける青春のヒトコマ。

これで場所が甲子園なら完璧だ。(謎)

「ふたりとも強肩だねー。」

「‥‥‥飛ぶなあ。」

「そちらこそ。」

二人のピッチャーと解説者が見守るなか、投げられた2つの雪玉は綺麗な放物線を描いてルックの近くに墜落――――――






ベシャ!!ドシャ!! ボフン!!






―――――――――――――――イヤな微音が届いた。






「‥‥‥‥‥‥‥‥‥あれ?」

遠目から成果を眺めていた3人の視界の先から、急激にルックの姿が消える。

「‥‥‥え?もしかして命中‥‥?」

「‥‥‥‥‥‥ルック、新年から大当たりだね。」

「そういえばあいつ、運悪かったなあ。」

非人道的な感想をぬけぬけと漏らす3人から、100メートルほど離れた地点で突然飛来した雪玉の連発(後にマブダチ攻撃デッドボールスペシャルと命名される高等技)に顔から雪につっこまされた風の紋章の申し子は、優美な姿を雪まみれにしてゾンビの様に起き上がる。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥良い度胸だ。」

キレイな顔の据わった瞳は、危険な光に煌いていた。





「‥‥‥あ、紋章が発動した‥‥‥‥‥‥感じ。」

着弾地点を注意深く観察していた視力の良いナタクがつぶやく。

「やっぱり怒ったか。」

「いっそ連発して撃沈しといた方がよかったかもしれない。」

当てときながら飄々とそんな感想を漏らせる彼らの肝は腰が座っていること甚だしい。

さすがヤバイ紋章に選ばれた主たちは、選ばれただけあるということだろうか。

前方から風で舞いあがった雪の塊が吹雪の勢いで自分達に向かってくるのを見定めながら、3人はそれぞれの対応を迫られる羽目になった。

すなわち「謝るか」「逃げるか」「応戦するか」のどれかである。

「ルックが謝って許すヤツとは思えない。」

「じゃあ応戦しかないな。」

ハナから"逃げる"という選択肢はキャンセルのピッチャー達が、何故だか楽しそうに右手の手袋を外して暗褐色の紋章を晒す。

それを見ていたナタクだけは、ちょっとこれまでの経過を思い出し一瞬考えこんでから

「えと、それなら僕が言い出したし、3人対1は可哀想だから、僕はあっちの味方する。」

と言い残してルックの方に走りだした。

「っ!?ナタク!? 僕は!?僕よりルックを選ぶのかい!!??」

この世の終りという悲壮な顔と声でジョウイが訴えるが、止める手が相手を捕まえるより一瞬早く愛しい幼馴染は傍からすりぬけて、敵陣に駆けていってしまった。

この時ジョウイは数年前に己がナタクとナナミにしたことを逆リピートされ、心底反省の念に暮れたという。

が、そんな役にもたたない感傷 (あいやまったく) に浸っているのを見守ってやるようなタキではない。

隣で悲しみにるーるーるるー‥‥と黄昏ているジョウイを蹴倒してやり、自分も身をかがめてブリザードをやり過ごす。

「たかが雪合戦で泣くな!遊びとはいえ、僕は負ける気は無い。」

「‥‥‥‥‥タキ、お前そのうちトモダチ無くすぞ。」

「やかましい。僕の足をひっぱっるようなトモダチなんざ要るか。そんな役立たずは喰ってやる。」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥がんばりまス。」



そしてそのころもう片方の陣地では

「ルック大丈夫?ごめんね。悪かったから味方するから。」

「?‥‥‥‥意味がよくわからないけど、僕は勝負するからには容赦しないよ?」

「もちろん。やるなら完璧にだよね。敵はケチョンケチョンにしなきゃ♪」

「宜しい。」

と、無事に同盟が結ばれていた。







全員‥‥‥‥‥‥正気じゃない。








そのあとからの小一時間というもの、この辺りには雪崩注意報や大雪警報をはじめ、ありとあらゆる特別警戒注意報が発令されても全く無駄、というくらいの大嵐が巻き起こった‥‥‥らしい。

なにぶんにも合戦を見物していた命知らずもいなければ、嵐の真っ只中にいた当人たちは何も覚えていないので詳しい報告は出来ないのだ。

ただし彼らの言うところによる「雪合戦」をした結果、地図によるとこの辺りには大きな雑木林があったらしいのだが雪合戦後には綺麗な更地になっているので、まあ、つまり、かなり普通じゃない雪遊びが行われたことだけは間違いない。

どっかの地図職人から文句が出ること請け合いだ。





しかし土木工事をしたお子様たちはそんなことつゆほども気にすることもないく―――大体、気にするようなまともな神経をしていたらこんな天地無用な真似は出来ないはずだ―――あんまり激しく運動したせいで、やりあい始めた原因が何だったのか忘れてしまったらしい。

戦いが一段落したあとは何事もなかったのごとく仲良く一蓮托生マイムマイムで寝転がっている。



「つ‥‥疲れた‥‥‥」

「‥‥‥ねむい‥」

「寝るな、寝たら死ぬぞっ(ばしばし!)」

「殴ったな!?オヤジにも殴られたことがないのに!−アムロ・レイ−」

「‥‥‥あの、それより僕らって死なないんじゃ‥‥」

見渡す限りの平らな銀世界を作り出した張本人達は、そのド真中でだらだらと夕暮れまで戯れ続けたのだった。(一部会話がマニアックなのは電波の乱れのせいです)







そうして日も影ったころになり、やっと戻ってきた彼らは当然といえば当然、たとえ真の紋章を持っていたとしても人の子は人の子ということを証明するかのように、全員が一応に赤い顔をしてふるふると震えていた。

「グレミオ‥‥‥あついけどさむい‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥っくしゅっ」

代表して身体の調子をうったえるタキに、良く出来た専業主夫はひとこと

「‥‥‥お風呂に入ってすぐ寝てください。」

という指示を出し、ため息と共におかゆを作りに台所に消えて行くのだった。






その後、病人だからなのか飽きれたからなのかは解らないが、今回の飲みすぎ事件に関してグレミオや、”あの”ナナミすらからもお小言がなかったことが相当堪えたのか、はたまた久しぶりに高熱を出したのが余程苦しかったのか、その辺の真相は定かでないにしろ、以後4人はちゃんぽんだけは二度とやらなくなったという。









一年の刑は元旦にあり。(謎字)