後悔
タイトルどおり。
同盟都市とハイランドの紛争が終わり、天山峠のタイマンから数ヶ月。
はじまりの紋章が持つ運命を(紋章が根負けしてくれたおかげで)乗り越え、ナタクとナナミとジョウイはめでたくも昔の通り仲良く3人で旅を続けている。
様々な艱難辛苦を乗り越えて現在の幸福をゲットした彼らはもちろん幸せいっぱいなのだが、中でもとりわけ一人は我が世の春という顔をしている。
「右手にナタク左手にもナタク。そのとなりにはナナミが元気に飛び跳ね、ああ世界ってなんて眩しいんだろう、いや、眩しいのは両脇にいる僕の天使たちの笑顔‥‥」
現在のジョウイの心境を文字にするとこうなる。
誰かが聞いていたらつっこみを入れてやりたくなるほどのおばかさんぶりである。
が、見てくれが非常に宜しく、流石に言葉にはしない為、彼がこんなおばかさんであることを知る人は殆どいない。
というか、皆騙される。
が、その真実をあますところなく知るものたちがいる。
3人のすぐ傍‥‥‥というより、ジョウイとナタクのすぐ横には、もうこの世の冬・しかも極寒という思いにひたっている存在がいた。
「‥‥‥まーた脳みそが旅行に出かけてとるんか。」
「言わんでくれ‥‥‥わしの主は最初っからこうや‥‥‥」
的確なつっこみを絶妙のタイミングで入れているのは、いわずもがな彼らの右手に宿っている輝く盾の紋章と黒き刃の紋章さんたちである。
はっきいりって、彼らはとってもうんざりしていた。出来ることなら現実逃避して部屋の隅でまぐろ寝でもしたい気分である。
何故かというと、あの戦いから後、宿主たちの毒気に当てられてる生活にいいかげん呆れてきたのだ。
今日は久しぶりに大きな町で宿を取った為、嬉しそうにナナミはナタクとジョウイを引きずって買い物に出かけた。
が、如何せん女の買い物は長いので、男どもは二人して途中でリタイアし、夕食時に宿で落ち合う約束をつけてナナミとは別行動を取ることにした。
そんなわけで時間をつぶしに町外れまで散歩してきたのだが、自分の隣をてけてけ歩いているナタクにジョウイはいたくご機嫌であった。
「ナナミと一緒じゃなくって良かったのかい?」
「いい、別に。」
相変わらずこの幼馴染は言葉少なにぽつぽつしゃべるので、声だけ聞いていると無愛想にも受け取れるが、そのツブラな瞳とほえほえした表情を見ていると、無愛想どころかそういう話し方がこの子には似合うように思えてくるから不思議だ。
「あいかわらずドリーミービジョンやな‥‥」
「いや、うちの主はかわええでー。」
「うちの主も顔だけはええで。」
「‥‥‥それフォローか?」
「そんくらいしかフォローできへん。(きっぱり)」
紋章の会話が聞こえないのは幸いなことだったが、聞こえないだけに好き勝手言われている事はもちろん当人達は知らない。
知っていたらうっかりしたことも考えられなくて大変だろう‥‥‥特に片方は。
その特に片方さんはというと、別に相手がナナミなのでナタクがあちらに同行してくれても構わなかったのだが、(それ以外の相手だったら今ごろ要らん殺傷事件が起こっている)彼にとってはその彼女よりも自分を優先してくれたというのがとっても嬉しくてとっても幸せだったらしい。
「ささやかな事で喜べるやっちゃのう‥‥‥」
「‥‥‥めでたい奴とも言うわ。」
思えばあの戦争が終って以来、自分一人でちょっと離れた場所でぼーっとしていると、何時の間にかナタクが隣にちょこんと座っていたり、後ろから髪をひっぱって構ってくれたり、なんやかやと気に掛けてくれているのが行動で見えるので、その度にジョウイは生きているって素晴らしい!と心の中で握りこぶしガッツポーズをしている。
間違っても自分が一度離反している前科があるので信用されていないのだとは露ほどにも想像していない。
「めでたいっちゅーより‥‥‥」
「‥‥‥なんや?」
「あほや。」
そんなツッコミが入っているとは露知らず、ちょっとした高台を登り、手ごろな岩の上に腰を下ろす。
視界の悪い日暮れ時。
人気のない場所。
おまけに二人きり。
TPOがばっちり揃い踏みしたこの状況で、何もしないでいるほどジョウイは小心者ではあったが甲斐性無しではなかった。
なかったので、隣に座っている親友にすりよりその延長でナチュラルに抱きこむという技をかけた。
「‥‥‥‥‥‥あのさあ‥‥‥ジョウイ‥‥」
「なに?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥まあ、別に‥‥誰も見てないからいいけど‥‥‥なんか‥‥」
「ごめんね、でもこうしてると安心するんだよ。」
などとこれだけは親に感謝しろというばかりの出来の良い顔に極上の微笑を浮かべてやわらか〜く囁く、というその辺の人ならまず一発で騙される方法でナタクを言いくるめる。
そのタチの悪さときたらもう百戦錬磨の詐欺師並だ。
しかし。
「別にあやまらなくって良いよ‥‥‥嫌じゃないから。」
そうお返事を返して背中に手を回し返してくる最愛の親友に、一瞬思考も行動も固まり、続いて視界がばら色に染まり、更にその後は自制心と忍耐と理性のトライアスロンが開始される。
ジョウイが希代のナンパ師だとすれば、ナタクは天性のたらしある。
どっちにせよタチが悪いことには違いないので、悪い物は一まとめになっていた方が世の為人の為‥‥‥なのかもしれない。
しかして、それは二人がそうなろうがどうなろうが関係無い他人にとってはであって、二人と切っても切れない仲になっている紋章達にとっては、他人事では済まされない。
「いつまでオンリーユーな事しとるんや!」
「わしは抱きつくなら女の子の方がええわいっ」
「わしかてそうや!」
当人達は幸せで納得していても、世間一般から見れば充分に変な光景でしかない抱擁を(だってそうだろ:笑)見るだけでなく体感もしている彼らの神経は疲労の一途を辿っている。
「なあ‥‥‥わしらずっとこのまんまか?」
「‥‥‥まんまやろうな」
「‥‥‥宿主、変えへんか?」
「無理や。見てみい、心身ともに充実しまくりよって逃げられへん。」
「‥‥‥いっそどっかに捨ててくれんかなあ」
「わしらがあれば不老不死や。一生一緒やで?」
「だからなんや?」
「そんなオイシイもんをわしの宿主が手離すと思うか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥思わへん。」
「せやろ‥‥‥?」
「っちゅーことは、なにか?わしら一生このまんま‥‥?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ (/‖゚ロ゚)/」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥\(゜ロ ゚‖\)」
そんな嘆きが右手で叫ばれているもの露知らず、知っていたところで気にしないであろうお二人さんは、結局とっぷりと日が暮れて夕食時になるまでこの状態でいた。
ちなみに、幾人かそんな状態の二人を見かけた通行人もいたことはいたが、なにせ外見が可愛らしいとか麗しいという表現が似合う奴らなので、世間一般常識に見合う良い方向に誤解してくれてそのまま立ち去っていくに終った。
それはひとえに、彼ら通行人が一般常識を持ち合わせた健全な方々だったおかげである事を、抱き合っている当の本人達は忘れてはイケナイ‥‥‥最もその前に、知らねばならない、という事の方が先かもしれないが。
「なして始まりの紋章たる高貴な身のわしらがこないな目に会わんとならんのやっ」
「‥‥‥選ぶ相手を間違ごうた‥‥‥‥‥‥。」
「わしら、まだまだニンゲンを見る目が甘かったわーっ」
「次の機会には絶対慎重に選んだるっ」
「なあ‥‥‥次っていつや‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
あまりにも遠く霞む未来の姿に、「後悔先に立たず」という諺を噛み締める二つの紋章たちだった。
こんな世界は滅んだ方が良いと思います。