紋章
こんなのが手に宿ってたらグレますね。
ここは天山の峠。
王となることを放棄し約束の地へとやってきた同盟軍のリーダー対、律儀に何時間待ってたハイランド皇王の最後の戦いが行われていた。
「なぜ戦わない、ナタク!」
「‥‥‥‥‥‥僕達が戦う理由はない」
「戦う理由はあるんだよ‥‥‥」
片方は戦争には勝ったものの、最愛の義姉を亡くしすっかり傷心になってしまった上に親友に叩きのめされ、はっきり言って泣きたい心境であったし、
もう片方は全部自分が罪をかぶって消えて行こうと目論み、齢17にして世の中を渡りきり、人生を悟ってしまった臨終まぎわの気分に浸っている。
「君は同盟軍のリーダーなんだよ、ナタク‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
何度言っても反撃してこようとしない相手に仕方なく攻撃をしかけるものの、もとより殺意なんてこれっぽっちも無い為に必殺の一撃なんて叩きこむ事も出来ず、傷だけがいたずらに増えじりじりと時間が過ぎて行く。
そうして数刻がたったころ、何度も攻撃をしかけてもどうしても戦おうとせず傷だらけになってしまったナタクより先に、、元から殆ど体力が残っていなかったジョウイの方が限界点に達した。
「ナタク‥‥‥僕は君が羨ましかった‥‥‥そうやってどこまでも優しくなれる君が‥‥‥‥‥‥」
「別に優しくなんか無いで、わしの主。」
「そうなんか?」
「自ら危険に飛びこむのが得意なだけや」
「‥‥‥なんかあったんか?」
「そっちが獣さんちと喧嘩しとる間、毎日戦闘戦闘で疲労困憊や。」
「毎日酷使されとったんわ、そっちも一緒かいな。」
「僕は‥‥‥そんな君にどこかで嫉妬したのかも‥‥‥‥‥‥しれない‥‥‥」
そう言った直後ジョウイの手の中から棍が滑り落ち、全ての力が抜けた様にその場に膝をつく。
「‥‥‥く‥‥‥‥‥‥っ」
自分の傷の痛みも忘れて急いで駆け寄り、倒れる寸前で相手を抱き留めると、既にその顔からは血の気が引き、立つことさえ出来ない状態になっていた。
「ジョウイ!」
その顔色にロックアックスの回廊で抱き上げたナナミの面影が重なり、永遠に失ってしまった時の恐怖感が思い出されて、知らずのうちに身体が震える。
そうして刻一刻と最後の時を迎えつつあるこの状況を、実は二人以外にも体験している者が居た。
二人の右手に宿り、年中無休で二人の動向から思考回路までも共有してきた始まりの紋章の対、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章である。
「力を‥‥‥使いすぎた‥‥‥」
残された時間があと僅かである事が判っているのか、ここにきてはじめてジョウイは二つの紋章がどんなものなのか、そして分かれたままの紋章を持つということがどんな結果を生むのかを話す。
「ルカブライトの残した獣の紋章‥‥‥それを封じるためにはこの黒き刃の紋章を使うしかなかった‥‥‥」
刃 「そうや。こいつも紋章使いの荒さちゅーたら鬼や!。」
盾 「獣さんちのお犬様との大喧嘩じゃ、やつれもするわなあ。」
「でも‥‥‥別かれた紋章の力を使うのは、自分の命を削ることになるんだ‥‥‥」刃 「判ってて使うんやからタチ悪いでー。」
盾 「‥‥‥そのこと知らへんで、うちの主。」
刃 「なにいっ\(゚ロ ゚‖)/」
切れ切れに語るジョウイの言葉を、だからルカやネクロードとの戦いなどで紋章の力を使いすぎた後は、意識が薄れて何度も倒れたのかとぼんやりした頭で理解する。
だったら、どちらか片方の力が尽きたとしたら‥‥‥
はっきりいって紋章の立場居してみれば、主たちが戦って始まりの紋章の姿にしてもらうのが一番良いのであって、してもらいたいのである。
このまま主の命がなくなれば自分だって無事では居られないので、彼らにとっても二人の選択肢はけっこう死活問題なのだ。
だが彼らの主達は、ジョウイの方は既に衰弱しきっていていまわの際だし、ナタクの方は静かなパニックを起こしていて、はっきり言って他の事に構っていられる状況ではない。
「だから‥‥‥僕の力を君に渡す‥‥‥紋章をひとつに‥‥‥‥‥‥」
刃 「してくれ〜。頼むわ〜。このままじゃ死ぬ〜」
盾 「するかいなあ‥‥‥うちの主の性格だと‥‥‥」
そういって最後の気力をかき集め、右手を伸ばしてくる相手を見て、どうしてこの事今まで話さなかったのか、知らせなかったのか、そしてどうしてこの間際になって話したのかを、唐突に理解した。
他の方法を考える余裕と時間を持たせない為。
そしてそれは、ナタクが自分の方を贄にさせない為。
「‥‥‥そんなことは出来ない」
刃 「なんでや!(床ばしばし)」
盾 「ほらな。」
「頼むナタク‥‥‥僕はもう耐えられない‥‥‥‥‥‥」
刃 「わしも耐えられへんでー。」
何を言っているんだろう、こいつ。
自分がいなくなっても大丈夫だなんて勝手に思いこんで、全部一人で背負って被って、それで満足して決着をつけるなんて、そんなのは責任感が強いなんて言わない。
なんでこんなに自分の存在に自信が無いんだろう。
大事に思わなくなったことなんて一度だって無いのに、ナナミだってだからあの時に二人を庇ったというのに、どうやったら分かってもらえるんだろう‥‥‥無くせないものなんだって。
「‥‥‥そんなこと‥‥出来ない」
盾 「あ、腹くくった‥‥気がする。」
「おねがいだナタク‥‥‥このままじゃ僕らの命はとも尽きる‥‥‥」
刃 「頼むわ〜、始まりの紋章にしたってや〜。後生や〜」
「‥‥‥‥‥‥そんなことは出来ない‥‥‥‥」
大事な人の犠牲の上で生きていく気力なんて、そんなものが自分に有るとしても持ちたく無い。
世の中に存在するどうしようもない運命がこれなのだとしても、信じたくない。
諦めて受け入れるという事が絶対に許容できないのなら、残る道は一つしかない。
盾 「‥‥心中する気やで。」
刃 「(゚ロ ゚‖) 説得せいや!」
盾 「どうやって。」
妙に静かで穏やかな表情になったナタクに、もう自分では動くことも出来ないというのに不安だけはまだ感じる事が出来るらしい。
‥‥‥なにを考えてしまったんだろう。
「ナタク‥‥‥頼む‥‥‥‥‥‥右手を‥‥‥‥‥‥」
刃 「いいかげんなんとかせんと、わしらの身も危ういで。」
盾 「いや、冗談じゃなく共倒れする気や。」
「ナタク‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥そんなことは、できない。」
刃 「あかん、こいつらいつまでたってもどうどう巡りや。」
盾 「せやな。」
このまま二人して終るなんて、そんな結末を迎えるためにナナミを失ってまで今まで頑張ってきたわけじゃないけれど、一人で残されるよりはこのまま死んで行くとしたって、
「それでも僕は‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
二人一緒ならその方がいい。
そしてそれでも奇跡があるなら、一緒に一度でいいから。今、この時に。
刃 「反則技やけど仕方ない。」
盾 「始まりの紋章の力、使うで。」
ナタクがそんな風に思い目を閉じた直後、突然二つの紋章が輝きはじめ、二人の傷と身体を癒す。
「これは‥‥‥この力は‥‥‥‥‥‥身体が癒されて‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
もう手の尽くし様が無いほどに衰弱していた自分と、無抵抗で攻撃を受けて傷ついていた相手の身体がすっかり元通りになり、二人してしばし呆然となる。
「始まりの紋章‥‥‥それは二人が争い戦った果てに現れるもの‥‥‥」
なにが起こったのか良く分からない二人の前にレックナートが現れ、自分達の思いの強さがはじまりの紋章の力をも超えた事を教える。
こうして今までにしてきた事も全部背負いそれでも生きていく決心をしたジョウイと、そんな親友とこれからも一緒に生きてく事を選んだナタクは、ここをもう一度自分達の旅の始まりの場所として駆け出して行った。
走って行くすぐ先には、キャロで待っている少女の報告が待っていることを二人はまだ知る由もない。
そして‥‥‥
刃・盾 「根負けしたわ。」 二つの紋章の呟きは、誰にも聞こえることはなかった。