「すまない。」
「……………え?」
「だから “すまない” って言ってるんだよ。」
「………………………は…?」
生きていれば、人から謝られたり人に謝ったりすることは1度や10度や1000度くらいは必ずあるものだ。
だがしかし、たった今ジョウイの目の前で謝っている人物は、いつもの妖怪軍団の中においてもっとも “謝罪” という行為が胡散臭く見える奴である。
「どした、ルック??」
「どうしたもこうしたもないよ。すまないごめん悪かったわざとじゃないからまァ赦せ。」
「…………………………………あァ?」
目の前で胸を張り腕を組み、見下しているとしか言い様のない姿勢で相手を見下ろしつつ鼻で笑っている奴に、なにをどう赦せばよいというのだろう。が、この場合、目の前に居るのはルックである。
“あの”ルックなのである。(←差別用語)
万が一彼が目に涙をたたえ、下から見あげながら「赦してくれる……?」だの「ごめんね……」などと縋ってきたら、それはとっても気味が悪いし、むしろそっちの方が怖い。
まるでどっかの井戸の中から髪の長い女がずるずる這い出てきてにじり寄ってきたという恐怖体験も真っ青だ。
そのことを「………」という7秒ほどのセリフの間に達観したジョウイは、漸くルックの口から謝罪が出てきたという世にも奇妙な怪奇現象から立ち直ったが、今度は今度でこの天上天下唯我独尊を絵に描いたような魔法使いのボキャブラリーの中に、分類上謝罪というカテゴリーが在ったことにびっくりしていたりする。
「君がごめんなさいって単語を知っていたとは驚いたな。」
「どういう意味だよ。」
この場合、驚く個所が間違ってしまっているジョウイがオカシイのか、謝罪の信憑性ゼロなルックの日ごろの行いと態度が悪いのか、そのあたりは一般人との感覚のズレにおいて良い勝負をしている2人だ。
「まあいいさ。それよりもこの僕が生まれて初めて自分から謝罪しているんだ。もっと畏まって聞け。」「仮にも謝っている奴の態度とは思えない。」
「仮じゃない。本気だ。」
「………いや、僕が求めているのはそういう返事じゃなーくーてー。」
読んでいた本を傘こ地蔵よろしくかぶり頭をかかえたジョウイだが、その抱える腕の角度といい腰の曲げ具合といい、現実逃避を訴える姿勢にかなり年期が入っているのがなんともいえない。
「とにかく謝りつつ免責を申し込むな。それからもっとへりくだれ。どう見ても君の態度は謝っているようには見えないんだ、ルック。」
「はんっ、どこが謝ってるように見えないって?」
「全部だ全部っ!! つか、はんってなんだよ、はんってっ!!」
思わず被っていた本を床に叩き付けてしまった後、それが借り物だったことをはっ!と思い出したジョウイは本を拾いあげ埃を取っ払いキョリキョロとタキ@持ち主の姿がないかどうかを確認するのだった。
その動きは一分の隙も無く、まるで計算しつくされたかの如く流れるような動作で、思わず見ているものを魅了せずにはいられない……と褒めたところで嬉しかないだろうし、ジョウイに “打ちひしがれて枯れ葉がルララ” ポーズが似合うのは今更なので、そんなことはどうで良い。
そしてルックという生物に正しい謝罪のやり方を教えるのは無駄な努力だと悟ったジョウイは、会話を進めるべく顔をあげ、あげたところで横からかけられた声に硬直した。「おいルック、何故謝ってるのかまずそれを話せ。」
「………………え…?」
聞こえてきたのはナタクの声だった。
これは間違い無い。
絶対に、ない。
ジョウイがナタクの声を聞き間違えることは、たとえるならばグレミオが菜っ切り包丁で魚を3枚オロシにしてしまうくらいの確率でないったらない。
そして実際ルックの後ろにあるドアを開けて入ってきたのは、見間違えようも無いほど見慣れた赤くて茶色くて黄色いかわいいかわいいそりゃあもうかわいい(もうええっちゅーの)ユーアーマイオンリーユーアーマイトレージャー…なナタクの姿だった。
だが………今のは変だ。
何かが変だ。
「な…なんかいつもと口調が違ったような……」「いいや、僕はいつも通りだぞ。」
「!? やっぱり変だよっ!! 熱でもあるのかいナタク!!?」
慌ててルックを押しのけ (この時点で抗議が飛んだがジョウイの耳には当然入ってない) 駆けより、ナタクのおでこに手をあてて熱を測ってみたが、手のひらに伝わってくるのはあくまで平熱の温度でしかない。
「熱はないみたいだね……とすると、どっかで頭でも強く打ったとか、悪いモノでも食べたとか………ああでも、ナナミの料理を食べても平気な君がそんじょそこらの毒物を食べたところで胃を壊すはずもないだろうし……」
「ジョウイ。」
ナタクの肩に両手を置き、さりげなく大層失敬な独り言を言い始めたジョウイだったが、いつのまにやら服の裾をちょいちょいとひっぱり彼の名前を呼ぶものが一人増えていた。
「ジョウイー。」
「煩いな。」
「ジョウイってばー。」
「煩いって言ってるだろタキっ!」
今はお前に構っている暇はないんだとばかりに勢い良く振り返ったジョウイの視線の先には、想像に違わずトランのアズキ研ぎ (J氏命名) ことタキ=マクドールが不遜な態度で―――はなく、首をちょこんとかしげ邪気のないツブラな瞳でまっすぐこちらを見つめて立っていた。
純粋にトランの英雄に愛と夢とファンタジーを持っている者が見れば「ああなんて愛らしい…っ!」な姿なのだが、ジョウイの目にはツブラお目目のタキなんぞ、不思議な物体にしか映らない。
「………………………タ…タキ?」
「誰がタタキだ、人を初鰹の仲間みたいに呼ぶなっ!(ベイシ!)」
「あいて!?」
タキの名前をどもったところ、目の前のナタクから彼が言うには妙なセリフとセットで裏手パンチを食らい、めんくらった表情で相手の顔をまじまじと見つめたジョウイだったが、先ほどから服の背中をつまんでほえほえと佇んでいる後ろのタキと、半分据わったような目つきでにやにや笑っている目の前のナタクを交互に見た結果、彼はあるヒトツの仮定を思い付いてしまった。
それはものすごく、とても想像するだに恐ろしく、考えるのもすんげェ嫌なくらいなのだが、多分恐らくこれしかないんじゃなかろうかというような事実である。
そしてしばらく逡巡した後、漸くジョウイは勇気を振り絞り思った事態を口にした。
「あえて非常識な発言をさせてもらうけどさ……………」
「言えよ。」
「うん。」
「どーもさっきから、ナタクがタキの口調でしゃべってて、タキがナタクっぽいんだよ。」「そーだろそーだろ。」
「うん。」
「ということは、タキとナタクは今、タキがナタクでナタクがタキってことかい?」「その通り。」
「うん。」
「つまり、2人は中身が入れ替わってるんだね?」「ああ。」
「うん。」
口の端をあげてニヤ…と笑うナタクに、ぽやぽやとした笑顔でうんうん肯くタキ。たとえこのサイトが坊×主じゃなくて主×坊であっても、この表情は頂けない。(大謎)
「……………………………………………………………………ミラクルファンタジー…。」ふらりと壁に手を付きカーテンに縋ってしまったこの時のジョウイの背中にタイトルを付けるとしたら、まさに「哀愁」しかないだろう。
そんな彼の肩にそっと手を置き、ルック先生はのたもうた。
「知合いの女の子が時間を超えてテレポートするのにヒントを貰ってね、過去のものをテレポートで現在に運べないかどうか試していたんだけど、何かが何故だか何となく間違ってしまったらしくてご覧の通り。」
「………………………」
「まァこいつらを過去にふっ飛ばしちゃったり、過去のこいつらを呼び寄せてしまうのに比べたらマシだったっていうか。」
「………………………………」
「些細で小さなミステイクさ。」
「ミステイクで済むか―――――っ!!!!」
「おい、人の本を落とすなよ。」
無意識に頭をかかえたおかげで再び借り物の本を落下させてしまったが、流石に今度はジョウイもそれに構っている余裕はなかった。
「どう始末つけるつもりだこの2人をっ!!!」
ルックに詰め寄りながら問いただすジョウイの迫力はなんせ問題が問題なだけあって希にみるほど凄かったのだが、それに対するルック先生のお返事は至って簡潔だ。
「………消す?」
「やめれ。」(ベゴ!:本の角で殴打)
これはタキ。
「ちょっと困る…。(^▽^;)」
これはナタク。
しかし、しゃべっている時の外見はサカサマなのである。
困った顔をして頭をかきながらふこふこと笑っているタキ(くどいようだが中身がナタク)はともかく、いつもにこにこ笑顔を耐えないナタクが(しつこいが中身がタキ)が、据わりきった目で本気殴りをしてくるとよくわからないが精神的ショックを受ける。
ルックですらそう思うのであるからして、ジョウイのショックが筆舌に尽くし難いのは読者諸君にもご理解頂けるだろう。(いや、頂いてくれ)
「よりにもよって外見ナタクの中身がタキで見た目がタキの中身がナタク!! これから先、僕にどうしろというんだ!!!!」これが例えばルックとタキの中身が入れ替わったのだとしたら、ジョウイにとっては 「ああそう、ご愁傷サン。」 のヒトコトで済む問題だった。
なんせこの2人に対してとる自分の態度は、常日頃からあまり差がないからだ。(問題児キングと問題児エンペラーだから)
だが、ナタクとタキでは、扱いも態度もささげる愛情も努力も誠意も段違いの上に180度まったく違う。
片方はいつでもウェルカムなラブリーハニー、もう片方は近寄りたくない妖怪アズキ研ぎ。
このままだと、ナタクの中身を取れば外見上タキを相手にしなければならず、ナタクの外見を取れば実体タキを相手にしなければならないわけで、外見と中身のどっちに惚れているのか究極の愛情の形を試されているようなもんだ。
「そりゃあ中身を愛しているというのが選択としては正しいのかもしれないけど、だってナタクは外見も可愛いのは事実であって、あの外見にあの中身だから良いんであって、この状態で中身がナタクの方を選べば僕はタキに……タキと……タキを………タキ…タ……タ……タラッタランラン。」
「おいジョウイしっかりしろ。コッチの世界へ帰ってこい。」
タキ(外見ナタク)に肩をつかんでゆさゆさゆさぶられ、外見にだまされてふと正気に返っても、目つきを見たらすぐわかる。
目の前にいるのは、あくまでタキだ。
文字通り、ナタクの皮をかぶったタキなのだ。
そんな相手をどうこうする気など起きるはずもなく、本物のナタクに憩いを求めようと振り返ってみれば、そこにはやっぱり外見上のタキがいる。
前門のタキ。後門にもタキ。
「ああっもうおしまいだっ!!! この世は闇だっ!! 僕の死に様よう見とけって違う違うっ!しっかりして僕っ!!!!」「そこまで嫌がられるといっそ清々しいなあ…(^▼^#)」
「どーしたのジョウイ?大丈夫??(^▽^)」
「………錯乱してるね。しばらく放っとこう。」
いい友人たちをもって、ジョウイは本当に幸せだ。(謎)
そして現場の状況は、アッチの世界にいってしまったジョウイを置いて勝手に進む。
手持ちぶさたに着慣れないタキの服のあちこちをうにうにとひっぱりながら 「これからどうしようルック、どうしましょうかタキさん。」 とナタクが話し掛けると、ルックは既に自分が原因のくせしてこの事態はどーでもいーという衒いで 「このままの方が面白そうだよね。」 と返答し、肝心のタキに至っては 「確かに僕は(ジョウイの反応っぷりが)楽しいな。」 と返す始末。多数決で言うと4人中3人までもが入れ替わり事件をのほほんと甘受しているし、自分を超客観的に見られる機会なぞそうそうあるわけじゃない。
そしてここには “それでいいのかお前達” と至極まっとうなツッコミを入れてくれる常識ある良識人は一人も居ない。
あえていうならナタクが 「僕はあまり困らないかもしれないですけど、ジョウイが困っているのは困るし………」 と眉を寄せたくらいで、それだって世紀の問題児コンビにかかれば続く会話はこのようになる。
「なんていい子なんだろう、ナタク君は。ほんっとジョウイには勿体無い。」
「その姿でそのセリフを言うと、自画自賛しているとしか思えないんだけど。」
「そんなことより見ろ、あのナタク君の僕の姿。元が良いからあんな風に口に手をあてて首をかしげる姿も、いつも違った魅力があると思わないか?」
「……………本当に自画自賛する馬鹿野郎がここにいたか。」
だがそんな希有な状況を楽しむ雰囲気は、続いたナタクの言葉で粉砕された。「それにこれから先、ナナミのご飯を食べてタキさんの身体が耐えられるかどうか……反対に、僕の身体は平気でもタキさん、ナナミのご飯食べられます?」
「そ…っ!そうか!!その問題があった!!(゜□ ゜‖)」
この時点で、多数決だと“元に戻せ組”対“どーでもいーや組”が2対2。ジョウイに初めて味方が出来たわけだが、それがタキだったのは運命の皮肉というべきか二人の赤い糸(グラスファイバー製)というべきか。
「ルック、早く元に戻せ!今すぐ戻せ、さあ戻せっ!!!」
「っっっ!! (襟首つかんで揺するな野蛮人っ!)」
「へー、僕がルックを怒るとあんな感じなんだー。ね?ジョ……なんで逃げんのジョウイ〜?? 」
「ごめんっ!!中身がナタクだって分かっていても、タキに間近で微笑まれるのは怖いんだっ!!! (逃避)」
「ちょっと待てジョウイ。僕の顔が怖いとは聞き捨てならないぞ!」
「タキさんの顔って怖いかなあ、ルックー。ゞ(゜◇゜)」
「……っ!っ!!っ!!! 」(←呼吸困難中)
「ねージョウイってば、タキさんの顔のどこが怖いの?(((((/ ゜◆゜)/」
「あああっ両手を広げて迫って来ないでくれーーーっ!(脱兎)」
「ジョウイ……それ以上失礼な反応をしてくれたら、元に戻ったとき思いっきり抱き締めてキスするぞ…(怒りふるふる)」
――――現場は引き続き混乱している模様です。
チャンネルはそのままで、しばらくお待ち下さい。
こうして十数分の空白の時をはさみ、ようやく4人は秩序ある世界に戻ってきた。
余談になるが、この騒ぎに収集をつけたツルの一声はナタクの 「せっかくだし、記念にちょっとソウルイーター使ってもいいですか?(^▽^)」 だったそうな。
タキたちとしては是非ヤメテ欲しいが、世界の願いとしては是非やってほしいことではある。
「で。どうやったら元に戻せるのか目星はついているのか?」どっかりと椅子にふんぞりかえり、顎で問いただすのは―――中身はタキだからこの仕種をするのはともかくとして、ビジュアルがナタクだとどうにも貫禄やら威圧感が追いつかないのが返って不気味なアンバランスさをかもしだしていて、これはこれで結構怖い。
その姿を見てジョウイが 「僕の天使がまるで宇宙人……」 といって嘆いていたが、その呟きはもちろん奇麗に無視された。
「大丈夫さ。入れ替わりが起きた時の手順と感覚は覚えている。」
「人数がタキとナタクの2人だからまだ良かったよ……4人が入れ替わっていたとしたら、何パターンくりかえす羽目に陥ったか分からないもんな。」
「2人なら楽勝だねー。」
「………運がよければね。」
ボソリとこのトラブルの元凶がもらした楽しい呟きは、実験台たちに嫌なことを思い出させた。
「そういえばお前ってむちゃくちゃ運が悪くなかったか、ルック……。」
「たしかレベル99でも二桁だったような気が………。」
「防御も同じくらい低かったけど、運の方がもっと低かったんじゃなかったかなあ。」
「さーて、じゃあチャッチャとやるよー、チャッチャとー。」
「明るく言うな、明るくっ!」
3人(のうち2人)がおたおたしている中、ルックは杖を振り上げ一般人にはさっぱり分からない呪文だか祝詞だかをしばらくブツブツと呟くと当然部屋と目の前が真っ白になり――――
しばらく後、軽く目眩のような感覚を残して世界は色を取り戻した。
そして事態は
「………………ナタク君。」
「はい。」
「今、僕は誰の姿でしゃべっているかな?」
「………………………………………ジョウイです……(^▽^;)」
「そうだろう。そうだろうとも。なんせいつもより数センチ視界が高くて、僕のツムジが良く見える…っ!!(床ばし!)」
「なんで僕がタキになってるんだーーーっ!!!!!(‖゜■゜)」
「ちゃんと一人は元に戻ったじゃないか。あとはほんの些細な間違いだ。男なら細かいことは気にするな。」
「「するわっっ!!!」」
ますます混乱した。
この後もお約束と言うべきか予想通りというべきか、あっちがこっちに二転三転をくりかえし、4人がちゃんと自分の体に戻ったころにはすっかり日も暮れていたという。
なんとか夕食までには事態が収束したのがせめてもの救いだったが、「おや、皆さん揃ってぐったりなさって……遊びすぎたんですか?」 という事情をしらないグレミオの労りに、事件の詳細を説明する気力が残っているものは居なかったという。
40万リクエスト、坊っさんが誰かと中身が入れ替わっちゃうお話でした。
が、フタをあけたらジョウイ災難話でしたね………ああ、いつものことか。