結果
幻想水滸伝の最強伝説がいま始まる









「ところでさ。」

「………はい?」




ナタクの素敵なお話タイムがあった次の日。

こんこんと説明したのに理解してもらえたかどうか全然自信のないジョウイと、説明されたが理解したかどうか自分でもさっぱり怪しいナタクが、仲良く揃って寝不足顔でソファーに半分沈没している顔をみながら、探求心旺盛な若者がひょっこり話を蒸し返した。




「あの後、ナタク君はどうしたんだい?」

「後…って?」

「だから夕べの話の下半身の無いお姉さんが追いかけてきた後は、君はどうしたんだい?昨日はジョウイが途中で邪魔したから顛末までは話してくれなかっただろう?」

「………ぁ」

「あれは邪魔じゃない。人としての心の叫びだ。」

「………………(えーと……あうー。)」

ナタクがあれは〜と口を開けかけた途中で、声がでるより先に ”ナタクの邪魔” という単語に反応したジョウイの反論が始まってしまった。

こうなると、もとが無口なナタクには割りこむ暇が無い。

「だったら心で叫んでくれよ、お陰で食器が壊滅したじゃないか。」

「そりゃ壊したのは謝るけど、それはそれ、これはこれだ!タキだって落っことしただろうが!」

「僕の持っていたカップは、昨日割れるのが運命だったんだ。」

「………アラブ人か、君は。(訳:絶対に謝らない習性の人のこと)」




どんどん最初の会話からずれていくあたりに、二人のカタリ魔でしゃべり魔の真骨頂がうかがえる。

ちなみにナタクは二人が話す速度に自分の言語処理能力ついていかないので、ほえんほえんと二人の舌戦をながめつつ聞いているだけ状態だ。

文字通り聞いているだけなので、話の内容は当然理解していない。




「ナタク君、以前から僕は君の意外性に期待していたんだけど、昨夜のは今までに君が見せてくれたものの中では最高の出来だったよ。本当に素晴らしかった。」

「?(^▽^)」

くどいようだが、ナタクは意味が判っていない。

「……よくがんばったね。(微笑)」

「ありがとうございます。」

「どうしてその会話が成立するんだ、ここでっ!(床ばし!)」

判ってないから成立する。




会話がかみ合っていよーがいなかろーが、ナタクの頭の中は「タキさんにほめられたー♪(嬉)」 という事実だけが存在しており、それが全てだ。

会話の脈絡なんざ、彼にとっちゃ遥か彼方イスカンダルな出来事である。

そしてタキはナタクが理解できようができまいがどうでも良いので、理解させようとする努力などカケラほども実行する気はない。

憧れのお兄さんに褒められておまけに頭を撫で撫でをしてもらい、たいそう幸せそうな幼馴染の可愛い表情にジョウイの胃だけが痛くなっていく。

「ナタクに間違った認識を与えるな タキっ!」

何が間違っているのかさっぱり判らないナタクをぎゅう抱きしながら訴えるジョウイの叫びこそ、人としての心の叫び正統版というべきだろう。


「いやだなぁ、僕は嘘は言ってないじゃないか♪」

「……いい加減にしないと、君がセロリとシイタケが死ぬほど好きだとナタクとナナミに思いこませるぞ。」

かなり情けない脅しだが、既に自分の人参問題はバレバレになっているので、この際報復も痛くはないと踏んでのジョウイの言動である。

そしてそれに対するタキの返事は

「!?(゜ロ ゜‖) なんて卑怯な奴だ!ジョウイ!!」

「お前にだけは言われる筋合いはないっ!!」

――――輪をかけて情けなかった。

世間ではこれを目クソ鼻………いや、下品なので似たものどんぐりの背丈が50歩100歩という単語で片付けておこう。

そうして憧れの君(笑)と最愛(多分)の幼馴染が繰り広げるこの低次元極まりない戦いを、側で見ている気の毒なナタクは

「セロリトしい竹…………ってどんな竹????」




……やっぱり、会話についていってなかった。









こうして無駄な時間が過ぎていき、当初の話題に戻ったのはタキの最初の「ところでさ。」から2時間後の事である。



「で、そのお姉さんはどうしたんだい?」

「えーと………ジョウイ、僕夕べどこまで話したっけ?」

「お姉さんが肘で這いながらすごい勢いでガシガシ君に這ってきたところまで。」

「あ、そうだったね。(^▽^)」

「………………………」

ナタクが嬉しそうな笑顔を浮かべているのが、なんでか知らんがちょっとコワイ二人である。



「あのね、近づいてきたからもっぺん ”今晩は” って挨拶したんだよ。」

「挨拶………」

「………したのかい、ナタク?」

「うん。」

こっくりと肯く仕種がラブリーチャーミー。

これで会話がもうちょっとピンクだったらこれはイケル!やったぞ僕!今夜はGOだ!――なタイミングなのにと、ひっそり落胆するジョウイだ。 (ひっそりにしとけ)

「………で?」

挨拶されちゃった幽霊になんとなく同情を感じる近似値死神な御方が、続きをご所望あそばされる。

「はい。そしたらそのお姉さん、急にぴたって止まっちゃって。」

「そりゃ止まるだろ、普通。」

「普通じゃないんだけど、流石に止まったか。」

ついツッコミを入れちゃうタキに、ボケた感想を漏らすジョウイ。

本人達だけが嫌そうな顔をするだろうが、全くナイスコンビネーションだ。

「そしたらね、お姉さんがガバーって襲いかかってきて僕の肩にベタ!って張り付いて。 」

「ガ…ガバーっと襲……」

「か……肩にベタって……ナタク君…」

「あ、でもちっとも重くなかったんですよ?」

それはこの世の住人じゃないのだから重力の法則には従わなくてもいいだろが、問題はそういう物理学とは違う次元に存在するっちゅーか、彼女が重くないのは当然なんでスけど、どうして君は、ああ君は……(以下無言)

口にこそ出さないが、聞き手二人の心中はそんな一般常識が渦巻いている。(君達にそんなものがあったとは片腹痛い)

「だからまあイイヤって思って、部屋に戻ろうと思ったら お姉さんが急に ”こらこらこらっ!!” って怒り出して。」

「まあいいやって………ナタク……(落涙)」

「……そりゃ怒るだろう。幽霊の立つ瀬がない。」

今度は口に出したが双方ともに低い呟きだったため、例により話すことに全神経を使っているナタクには汲み取って貰えない。

「僕、”なんで怒っているんです?” って聞いたら ”驚いてよっ!” て言われちゃいました。」

「…………」

「だから ”ええっ!?驚かせようとしたんですか!?ごめんなさい、気が付かなくって!” って謝ったらお姉さん急にぼとって落っこっちゃって。」

「……………………」

「”大丈夫ですか!?” って聞いても返事してくれないし。」

「……………………………………」

「”すいません、もういっぺんやってくれたら今度はちゃんとがんばります!” って言ったのに、”この子イヤ…っ”―――って泣きだしちゃったもんだから、僕どうしようかと困ってしまって。」

「…………………………………………………」




気の毒に。(幽霊が)



おそらくナタクの話を聞いた人のうち、殆どがそう思うだろう。

「それでふっと思い出したんですけど、その時僕、幽霊さんが喜ぶものを持っていたんですよ。」

「………………なにを?」

御札。(^▽^)/■」

!?\(゜ロ ゜‖\)(/‖゜ロ゜)/」



よろこばねーよ!!


そう叫びそうになるのを必死で堪える二人である。

その顔はとてもじゃないがその外見と容貌に夢をみている方々には見せられないほどスゴイモノだったので、敢えて描写はすまい。

「カーンさんにね、あ、カーンさんってバンパイアハンターのマリィ家の人でシエラさんと知り合いでね、アッチの世界にとっても詳しかったから僕にも魔除けとか御札とか作って持たせてくれていたんだ。」

どうやらナタクにも幽霊という認識はあったらしい。

あるのにどうしてそんな反応が出るのかは、研究が余地があるが。

「そ…そうだね、リーダーの身になにかあったら大変だし………」

「………よかったね。」

「はい。それをくれる時にカーンさんが、 『これは肌身離さず持っていて下さい』 って言ったんで、僕その時も持っていたんですよ。」

このリーダーにそういうたぐいは要らないんじゃなかろうかと思っても、口に出さないのがカーンに対する思いやりというものだろう。(ナタクには言っても意味が通じないので言うだけ無駄。)

きっと彼は真面目に真剣に軍主の身を守ることを考えて、そういうものを持たせたに違いないのだ。

その肝心の軍主がアッチの世界の住人と遭遇するだけならまだしも、逃げるどころか怖がりもせず、相手に礼儀正しく今晩はなどと挨拶をし、敬語を使い、とり憑かれてもまあいいや程度の認識で、御札が飴玉みたいなもんだと心から信じてしまうような、そんなとんでもスーパー天然ボケだとはいくらなんでも思っていなかっただろう。

「そのカーンさんがね、幽霊さんを幸せにする唯一の方法は成仏させてあげることですよって教えてくれたから、成仏させてあげようと思って。」

「そりゃ……間違ってはいないけどさ。」

「彼はナタク君に合わせて、分かりやすく説明したつもりだったんだろうなぁ……。」

「それでね、”お詫びにこれどうぞ” って貼ってあげたら、そのお姉さん
” ひぎゃ!!??(゚▼ ゚‖)” ――――って消えちゃった。」

「………………………………………………………………………」

「あれ、きっと成仏できたんだよねジョウイ。」

「………………そうだね。」

「僕、良い事したんですよね?タキさん。」

「………………………と、思うよ。」



世界を惑わす笑顔を浮かべてよかったよかったと手を合わせるナタクの両隣では、どう反応してよいやら判らず途方に暮れる若者二人が、同じく空に向かってナタクとは別の意味でひっそりと手を合わせるのだった。




「…あ、でも。」

「……なんだい?」

「僕、幽霊ってどうやってなるのか聞いてみたかったなあ。」


「やめてください。」

最後の最後、これだけははっきりきっぱりと意思表示をした二人に、タキさんが僕に敬語ってなんでだろう、とか、ジョウイ疲れているみたいだ顔色悪いなあ、とか、どこまでもとことんズレた感想を持つ孵化する気のないケイロニア国王の卵だった。









良い子も悪い子も真似をしちゃいけません