語り
部屋で一人寛ぐのあなたに捧げる愛の言葉。









今日の夕食も美味しかった。

のっけからなんのこっちゃと思われるだろうが、ただの状況説明なのでサラリと流すように。(読者に命令すんな)




本日も質素ながら栄養バランスパーフェクトストライクな料理を楽しみ、食後のお茶を飲みながら賑やかな座卓を囲むマクドール家御一同様である。

既に食事が終わってから1時間は経過しているというのに、食事中からテーブルの上では途切れない会話が繰り広げられていた。



「……というのは、やはりメインを頂点にして設定すべきだと思うんだ。」

「なるほど、全体的なバランスよりも、際立ったものこそメインという考えもあるな。」

「ただ今日の組み合わせは成功だったね、あの白、初めて飲んだけどさ。」

「喉ごしが良かったよ、甘くなく辛くなく。」

「こういう料理には、やっぱり口直しになるようなもののほうが合うなあ。」

「もしくは食べる料理をもう少し酒に合わせて………」



食卓を賑やかにしている張本人たちは、意外なことに天災料理人の名をほしいままにしているナタクの姉ではなく、お顔も性格も大変お宜しい2人である。

世間一般的にはタキは無口で通っているし、ジョウイも口数が多いとは言い難い。

ただし彼らがそういう認識を持たれている理由は、トランの英雄の場合はその発言がそのまま公的記録に登りそうなので黙っていることが多いのと、元ハイランド皇王の場合は秘密主義の上になんでも一人で抱え込んで片づける性格に原因がある。 

大体ジョウイなんて生存していること自体が公には出来ないので、 目立ってもらっちゃ困るのだ。

しかしこれはあくまで彼らの顔に見合った世間一般の麗しいイメージであって、実体はどうかというと二人は無類のおしゃべり好き………というか、うんちく好きなのである。

二人が二人とも揃って、そりゃもう煩い。

シラフの掛け合い漫才ですら途切れないというのに、酒が入り語りモードに入るとノンストップなオリエントエクスプレスが発車して、カタるわカタるわ、深夜どころか明け方まで延々くっちゃべっているのなんかザラである。

でもってその間他の連中はどうしているかというと、たまに横から「ねえねえ」と質問するやら相づちを入れるくらいで、あとはなにかのキリが良くなり会話が終わるまでお付き合い……

する義理はないので、適当にBGMとして聞き流しつつそれぞれが楽しむのが常だ。

なので今夜も、ナナミはクレオと女同士の花を咲かせ、食堂とはすべからく飲食のために存在すると考えているパーンは、食事が終ってもまだ何がしかを口に入れ続けていたりした。



そんな中、とっても静かでひっそりと月見草のごとく居るだけの存在がひとりいる。




「ねえ、ナタクくん。」

「はい?」

勝手に流れるBGMたちは既に放任して、お茶が無くなりかけたナタクにグレミオがポットを傾けつつ話しかけきた。

「ナタク君は、ほんとにしゃべりませんねえ。」

「………………………。」

「おうちでもしゃべるのは、ナナミちゃんとジョウイ君なんですか?」

「………………………。」



………文字なんだから肯いて返事しないでくれ。黙っているようにしか思えない。



しかしナタクはナタクなりに、折角グレミオが話し掛けてくれたので一生懸命会話を続けようと努力をしているのだ、これでも。

「………………あの。」

「はい?」

「僕は人の話、聞いてるのが好きなんです。」

「じゃあナタクくんは、自分がしゃべるのはあまり好きじゃないんですか?」

「ええと………………」

「……はい?」

ちょこなんと首をかしげて、しばし考え込むことたっぷり1分。



「好きじゃないじゃないです。」

「………そ…そうですか。(^▽^;)」

一度子育て (しかも育ててみたら世紀の問題児になった) が終わっているグレミオでさえも、一瞬とまどうこのカメテンポ。

お前は幾つだ。

待たされた末に出てきた返事は思わすそう言いたくなる文脈だったが、存在価値 ”可愛い”の彼が言うからこそ、そこには価値が生まれる。

タキやジョウイとは違った方向で見た目が良いのはやっぱり一得と言えるが、その身一つで108人を惑わした魔性の少年の魅力は伊達じゃないと評するべきだろう。

そしてカタリ魔の親友が、ナタクの声に反応しないわけがなかった。

「ナタクは話すのは嫌いじゃないけど、苦手だよね。」

「うん。」

ついで、お姉ちゃんも構ってくれる。

「でも話したくないってわけじゃ無いのよねー。」

「そだね。」

「………………………」




「………じゃ、何か話してみてくれないかな。」



しばし全員が沈黙した後、今後の展開をどうするかはタキのこの一声で決まった。






「そうですね………えーと………………」

先ほどまでのタキとジョウイのやかましいカタリうんちくBGMに支配されていた空間とは、とても同じ場所とは思えないほど静かになった食堂に、ナタクの話し声だけが響く。

「まだケイロニアに居たころの話なんですけど………」

その時の話をしてもいい? という気遣いを、ジョウイの方を見ながらちょこんと首をかしげることで伺うと、彼からは完璧な微笑で ”構わないよ” という返事が返ってきた。

見た目には特別仲良しさん同士 (特別な仲同士の間違いじゃないのか?:某英雄談) の微笑ましい無言の会話である。

しかしこの時、ジョウイの内部では「この眼にノックアウトされなかったら生物として許されまい!でも僕以外にはそういう顔を見せちゃ駄目だよって思うけど、視線で会話するなんてさすがは僕たち!運命の二人! 僕らの間には誰も入りこめるもんか!(握りこぶし)人の幸せここにあり!ありがとう出会いの神様!ありがとう10年の歳月!」

というハッピーハリケーンが吹き荒れていた。

………が、放っておくに限る。




「時間ができると僕、たまに屋根にあがって空とか見てたんです。僕の部屋は屋上に近かったから。でね、夜にもたまに行ってたんです。そういう時くらいしか一人になれなかったし。」

うんうんと、同じような環境に居た経験を持つ若者2人が深く肯く。(ジョウイの頭も一瞬でこっちの世界に戻ってきていたらしい)

「それでですね、ある夜に三日月が出ていて城の前の湖に奇麗に映ってたから、屋上に行ってしばらく眺めていたんですけど……」

「………うん?」

たまに相づちをうってやるのが、年長者の勤めであり聞き手の義務である。

「気が付かないうちに、屋上の入口に人が立っていたんです。最初、見張りの人かなあって思ったんですが、髪が長いから女の人だなーって思って。」

「うん、それで?」

「誰だろうって思ったんですけど、見覚えないんですよね。」



この時タキは、108星だって全員覚えるころにはハイさよならだったのに城詰めのその他大勢なんて覚えていなくて当然だと思い、ジョウイはそれってルシアが暗殺に行ったときの話じゃなかろうなと冷や汗をかいていた。



「でもなんかね。 顔見ているうちにあれ?って思ったんですよ。」

「………………というと?」

そんな奇麗な景色を見てたならお姉ちゃんも呼びなさいよ、とぶつぶつ言い出したナナミをやんわりと宥めて、グレミオが続きを促す。

「女の人なのに、なんかおかしいなって思ったんです。」

「ナタク君…まさか実は化粧が落ちた知ってる女性ってオチじゃないわよね?」

「いやいや、女は化けるも………ぎゃあああああああっ!」

ぼそっと命知らずな呟きを漏らしたパーンが、続いて悲鳴を上げたのは、クレオお姉様の教育的制裁(専門用語で投げナイフ)が飛んで行ったせいである。

「違います。でも変だって思ってもあんまり人をじーって見てるの、失礼じゃないですか。女の人は特に。」

「………まあねえ。」

天然ボケのくせに変なところでジェントルマンだ。

「だからまた月の方を見ながら、なにが変なのかなーって考えてたんです。」

「………………………」

もはや全員が聞き耳ダンボ状態だ。




「それで、あ!って思ったんですよ。目線が合わないんだって。その女の人、とても背が低くかったんだって気が付いたんです。」

「……背が低いって……………子供だったのかい?ピリカとか?」

オチはどこだかさっぱり見えないジョウイが、至極理論的に質問する。

「ううん、もうその時はピリカちゃんは君のとこに行ってたし。ユズちゃんでもなかったんだ。」

それって誰じゃとトラン側の人間が突っ込む間もなく話は続く。



「僕、子供だ思ったから屋上は危ないよって言おうと思ったんです。でも、顔みたらその人やっぱり子供じゃなくって大人の女の人なんですよね。随分ちっちゃい人だなーって思ったんですけど、良く考えたら下無い分低いんだって判って。」

「……したない?」

「それで僕、挨拶してなかったなと思ったからこんばんわって言ったら、」

慣れない話をすることに全神経を使っているのか、どうやらきちんとした質問ででないと外野の声はナタクには届かないらしい。

「 その人いきなり肘をこうガシガシって使って、すごい早さで僕の方に這って来」

「ちょっと待ったあああああああああっ!!!!!!!」



―――――絶叫が上がった。







「な、な、なな、ん、なに、ん、なんの話をしているんだ君わっっ!?」

肩をつかみゆさゆさしながら、ジョウイが問いただすと可愛いナタクさんの御口からは

「なにって……月夜に下半身のない血まみれの女の人が這いながら凄い勢いで追いかけて来…



がっしゃ――ん!!!



5人が持っていた5つのカップが落下して、盛大な破壊音を響かせる。

帝国時代から受け継がれてきた由緒正しい年代物のティーセットは、ナタクが持っていた一客をのこして全てが本日命日を迎えた。






ジョウイはナタクの肩を掴んだまま彫像と化し、お化け大嫌いのナナミはグレミオのマントに包まってめえめえ泣き出し、クレオは引きつった笑いをうかべ、パーンは浅黒い顔を真っ白に染め直し、タキは誉めるべきか叱るべきか迷ったまま視線がスイミング。

そうしてこの現場を作り出した張本人はというと、

「あっ あのあのっ なにか僕へんなこと言ったんですかっ!? ああっどうしようっ!」

とツブラなおめめに涙を浮かべて、途方にくれたままどうしよう音頭を躍っている。



そんな中、只一人グレミオだけが動揺もせずに

「これはお掃除が大変です………」

と、現実的な感想と共に肩を落としていた。 

母は強し。(違)






その夜マクドール邸の一室では

「折角がんばってお話したのに、喜んでもらえなかった………」

と、すっかりしょげて萎れてしまったナタクに

「喜ぶとかいう以前に、君がやったのはお話じゃなくて ”怪談” というんだ。」

と、何度も何度も言い聞かせるジョウイの辛抱強い声が明け方まで流れ続けたという。









ものを投げないで下さい。間に合ってます。