会話
短い上に意味も無い‥‥ただのノロケ。








「だからやはりあの目が良くないと思うんです。」

「そうですね、あの目は良くないですねえ。」

トラン共和国首都グレッグミンスターにあるマクドール家の庶民の家庭の居間より広い台所では、外見ははきだめに鶴な二人が平和に談笑していた。

「特別に大きいってわけじゃあないんですが、印象深いというか‥逆らい難いというか。」

「大きくて純粋にめいっぱい信じてるの〜って視線も、結構クルもんですけど。」

こんなたわけたノロケを交わしながらテーブルに付き、一方の青年は今夜の夕食の下ごしらえをし、もう一方の若者はそのお手伝いをしている。

「坊ちゃんの目は黒く見えますけど、あれ実は深い緑なんですよ。」

「ナタクの目は明るいところで見ると一段階薄い茶に見えて、これが綺麗なんです。」

「そういえば目とお揃いで巻いている頭巾の色、そろそろ褪せてきてましたっけ。」

「頭も目も茶色いからあの金環が厭味じゃなく、映えて見えるだろうなあ。」

脇においてあるちょっとした焼菓子とお茶もしっかり胃袋に納めつつ、にこにこと絶やさぬ笑みを浮かべてひっきりなしにしゃべっているくせに手元のスピードが変らないのは、いっそ見上げたものである。

「色はお父上譲りなんですが、そりゃあお顔立ちは亡き奥様に似ていらして秀麗なんですよね。」

片方が調味料を合わせて何かを漬け込みはじめると、もう片方は

「本人だって覚えていないんだから僕が知るわけありませんけど、あれは両親のどっちか‥‥若しくは両方が絶対にかわいいかったんでしょう。」

といいながら豆の筋を取りはじめている。

飛び交う言語さえ普通だったら、素直にナイスコンビネーションだと褒められるだろうに、口から出てくる単語がすべての長所をぶち壊して行く。

おまけに両名とも外見が鑑賞用としては一級品なだけに、本人たちの手が実行している事と台詞とその顔をひとまとめにして見学すると、「ミスマッチ」という単語が出来上がるのがとても勿体無い。

「あんな顔をして悪さ好きで、そのくせ追求すると視線が泳ぐあたりがまだまだお可愛らしいんですがねー。」

「思っている事がなんでもすぐ顔に出るのが素直というか突っ込みやすいというか、かわいくてー。」

誰の事を言っているのか固有名詞が出てこなくても分かるあたり、話題に上っている本人たちにも多少の問題があるにはあるだろうが、それよりもお互いに言いたい事を言ってるだけで、まったく会話と呼べるシロモノになっていない雑談を延々と続けていられる二人の神経の方が問題かもしれない。

‥‥どのみちお互いに相手の言う事なんざ聞いていないのだから、神経なんて使っていないだろうが。

そうこうして小一時間。

本人たちにとっては尽きない、そして他人にとっては蟻の涙ほどの聞く価値も無い御託が並べられていたが、とある瞬間、二人の話し声がふと止まった。

「ジョウイ君‥‥‥シチューには人参を入れなければ駄目ですよう?(微笑)」

「人参の代わりに今日は別のモノを入れてみませんか?(微笑)」

人参が山もりになっているザルを左と右から引っ張り合って麗しい微笑で睨む合う美形が二人。

良くも悪くもなかなかに印象深い構図ではある。

正直に別の言い方をするとマヌケな構図ともいう。

「メインの具は変えても人参とジャガイモとタマネギだけは外せませんよ〜。(笑顔)」

「セオリーを外すってのも新しい発見があるかもしれないじゃないですか〜?(笑顔)」

そんな会話を交わしつつ、笑顔を貼り付けたままで人参を互いの陣地に引き込もうするぎりぎりの攻防戦がテーブルの上で繰り広げられる。

「‥‥‥人参を入れらたくなくてお手伝いしてくれたんですね?(激笑顔)」

「そんなの気が付かなくったって良いんですよ。(超笑顔)」

「好き嫌いしてると大きくなれませんよ〜?(恐ろしいほどの笑顔)」

「紋章のお陰で成長止まってますからご心配無く〜(見事に作られている笑顔)」

純粋に腕力だけが勝負を決するであろう「マクドール家厨房テーブルにおける人参を巡る攻防戦」は、一進一退を繰り替えす名勝負となっていた。

端から見ていると互いの気迫と顔に騙されそうになるが、めちゃくちゃ次元の低い戦いである。

そしてうっかりそれを観戦してしまった不幸な面々が居た。

「なにをしてるかと思って来てみれば‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥まともな会話になったのって、人参のトコだけですね。」

「グレミオもばかだな‥‥‥ざるを手放して人参だけ取れば良いのに。」

「ジョウイもばかですよね‥‥シチューに入っても食べなきゃ良いだけなのに。」

こんな奴と一緒に居る為に僕は東西奔走して108人を集め命懸けで戦ったのかと思うと、なんだか己の人生における青春の貴重な時を無駄にした気がして遠い目になってしまうタキとナタクである。

「人参だって分からないように調理して差し上げますから!」

「そこに人参があるという事実が既に許容範疇から飛び出るんです!」

ますますどうでも良く馬鹿馬鹿しい方向にエキサイトしていく会話と攻防を眺めながら

「‥‥‥‥すごーく仲がよさそうじゃないか、二人とも。」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥そうですね。」

と、己たちが仲良しさんなのを棚上げして面白くなさそうな顔をする正直な天魁星たちだった。









おそまつというものですら無く、粗末なものとしか言えない。