奉仕精神
適材適所は重要な人事戦略です。








青い空、白い雲。本日も五月晴れという名にふさわしい快晴だ。

「さーて………どーしたもんかねー………」

窓辺によりかかり小難しそうな本を広げ、ぽかぽかと日光浴というかひなたぼっこを楽しみながら 「こんなに平和が退屈なら、大統領になってどっかを侵略しようかなぁ〜…。」 などと物騒なことを呟いているのは、強く優しく寡黙で孤独な英雄………と一般には信じられている(許されざる詐欺だ:某J氏談)タキ=マクドールである。

彼は自己申告しているとおり、非常に退屈していた。



年末年始だの建国祭だの軍事式典だの、レパント大統領いわく「タキ殿なしではお話にならん」と言うような行事があるときはともかく、為政に携わるのを是としないで公的な来客をすべてシャットダウンしている隠居者の日常なんてこんなものである。

ぼーっとしていて一日が終わるのは平和な証拠で宜しいが、それも1週間ばかり続くと自分が世間のクズになったような気がして精神衛生上よろしくない。

そんなわけで今日はなにか変わったことをやってみようと思ってみたのだが、改めて考えるとどうにも決め手が無く、先ほどから思案にくれているというわけだ。

彼が放浪生活から実家に戻ってやってる、生命維持行為の以外の行動を労力順で並べると、悪戯、飲酒、釣り、読書、ナンパ、散歩、昼寝、出奔、鍛練、ジョウイ遊び(謎)―――である。

「……どれもこれもイマイチ新鮮味に欠けるよなぁ。」

新鮮じゃなくなったのなら止めてくれという訴えがどこぞの誰かから出てきそうな内容も一部含まれているが、列挙したほかの項目についてもさして褒められるものはない。


「ということは、やりたくないことをするのが変わったことをするってことか。そうか。」

そりゃそうかもしれないが、”やりたくないことをやる”のが”普段やらないことをする” ということとイコールで結び付けて考えて良いものかどうか…とツッコム人間が居ないのが勿体無い。

「さてと、じゃあ僕がやりたくないこと、やりたくないこと………」

そう呟きながら目を閉じて考え込むこと数分。

タキもまたジョウイやルックとはまた違った方向で顔の造作には恵まれたイキモノである。

今も、端からみていれば「日だまりに包まれ、優しい過去に思いを馳せる英雄の図」といった風情で、彼の中身を知る機会のない・もしくは中身を隠して付き合っている大抵の相手は、この外見から創造するイメージ―――上記に述べたように強く優しく寡黙で孤独―――な性格だと思い込まされる。

本人いわく 「僕は騙そうとしているわけじゃない。向こうが勝手に誤解しているだけだ。」 という理屈だそうだが、それに対して 「それはお前が意図的に本性を隠しているからだろうが。」 とツッコミを入れたところで帰ってくる返事は 「人を見る目が甘いんだよ。」 というものであって、あくまで責任は相手側にあるとばかりの言い草だ。

まあこれならまだ良い方で、ご機嫌が宜しすぎると 「世の中には知らない方が良いこともあるし、知りすぎると良くないこともあるよなあ〜」 などと右手の模様を眺めながら微笑まれたりする。

この見た目と実像のとんでもねえギャップを知るものは多くはないが、知って何か良いことがあるかといえば実は全くないので真実が流布されることはない。

そしてそんな本人がやりたくないことのベスト1に掲げたことはといえば



「……………ボランティアだな。どう考えても。」



思考の果てにたどり結論は、中身と違わずろくでもないことこの上なかった。





こんな非道徳的な根性でよくもまあ数年前に解放軍を率いて帝国を打倒したもんだと思えるが、今思えばあれは元来の負けず嫌いな性格が成しえた奇跡だったのかもしれない。



というわけで、ようやく退屈しのぎの遊び?を思い付いたタキは、まずは階下にいるグレミオのところに出向いていった。

――――が。

「あのな、グレミオ。」

「はいはい?」

「僕はなにか手伝おうと思って来たんだ。」

「はいはい。」

「それなのに、座って茶を飲んでろってのはどういうことだ?」

「そうして下さるのが、一番助かるからです。」

リズム良く野菜を刻む音はそのままににっこり笑顔でこちらを振り向くグレミオの目は、笑っているのになぜか背筋が寒くなるのを覚えるタキである。

「………一応ツッコまれるのを覚悟で聞くが、それは “君が傍にいてくれるだけで僕は幸せだ” とかいう口説き文句……ってわけじゃ無いよな?」

「嫌ですねえ、わたしだったらそんな回りくどい口説き方なんてしませんよ♪」

「(♪ってなんだ♪って……)いや、お前だったら言いそうかなぁ〜…とか思って……」

「おや、傍にいるだけで満足されたいんですか?」

「……………………………………………………………………」



い……今のは深読みしていいんだろうか…いや今は昼間だからきっと深い意味はないんだろう…と思いたい…って今はそういうことが問題なんじゃなくって、おかしい……少なくとも僕の知ってるグレミオはこの手の冗談には過剰反応して真っ赤になっておたおたするような純真で純朴な性格だったはずなんだが、一体いつからこんな図太い神経になってしまったんだろう……やっぱり人食い胞子だのソウルイーターだのに喰われたのが影響しているんだろうか……でも喰われて痩せるならともかく、太ることはないよなあ……なーんて何を一人でボケいれてるんだ、しっかりしろ僕。



このようにタキはしきりといつからグレミオが変わったのかと考え込んでいるのだが、彼が精神的にこれほど逞しくなったのは自分(達)の努力の賜物のせいだとは少しも思い付かないあたりが彼の彼たる由縁である。

「ってことはだ。つまり僕に手伝われるのは迷惑だという意味か?」

「ご理解頂けて幸いです。坊ちゃんが台所にいらっしゃると、不思議とお菓子がなくなったり乾物が行方不明になったり酒瓶が出奔したりするもんですから。(笑顔)」

後ろ暗いところてんこもり、脛に傷も持ちまくりでぐっと反応につまった主人を背中にしょいつつ、岸壁の母は今夜の食事の下拵えに余念がない。

「お前……こんなに口達者だったっけ………?(遠い目)」

「私が貴方を止められなければ、誰がマクドール家の秩序を守るんです?」

その瞬間、タキはグレミオの握っている包丁がかぼちゃを通り越してまな板までサックリを斬り落したのを目撃してしまった。

げ。(゜▼ ゜‖)

「あ……買い直したばかりなのに。」

ぼそっとグレミオの口から漏れた言葉から、殺まな板事件が初犯でないことが伺われる。

その瞬間、タキの本能的な危険信号がフル活動で点滅した。

「え、えーとっ! あ、あの、じゃあちょっと遊びに行ってくる!夕食までには戻るから!!!」

「どちらまでお出か……………って、ああもう居ない………。」

グレミオが振り向いた時、既にその場にはキコキコと音を立てて開閉している台所の扉しかなかった。

一瞬のうちに戦線離脱を為しとげたその運動能力の高さと危険察知本能が、いざという時の危機管理能力(自分限定)の高さを物語っている。

「あの人の場合、人の役にたてと言うことより人に迷惑をかけるなって事を先に叩き込まなきゃいけませんでしたねえ……」

子育ては難しいもので、しかもやり直しが効かないということをひしひしと感じるグレミオだった。





そして所変わってここはグレッグミンスターから馬を飛ばして30分の郊外。

目の前には魔術師の塔と呼ばれる小島―――ご存知、天魁星とユカイな仲間たちの人生を使って歴史というキャンパスに壮大なドラマを描き出す占い師レックナート御大のお住いが浮かんでいる。

そこに向って呼びかけるばか者、いや若者が一人。

「ルーックちゃーーん、あっそびーましょーーう!」

ましょーうまよーうあおーうーうーぅー………………カスミあたりが聞いたら卒倒しそうな口調に加えて、見事なエコーのかかり具合だ。

「おーい、ルックくーん、ルクっちー、ルッきゅーん、ルクルク〜、ルクちょんぱ…っ!」




ごっ!!!



鈍い音がした。



「頭の悪くなるような呼び方をするなっ この暇人っ!」

後頭部をさすりながら振り返ったタキの背後には、たったいま目の前の英雄の脳天を強打した杖を構えて半眼になっているルック先生が佇んでいらっしゃった。

勿論タキはこんなことで退くようなヤワな神経はしていないし、その前にルックの表情が不機嫌ということすら眼中に入っていない。

「そう、暇なんだよ。」

「だから何?」

「君の役にたつことをしようかと思って。」

遊べなんてほざいてくれたらミンチにしてやる―――そうひそかに決意していたルックだったが、タキから帰ってきた返事には流石の彼も口をあけて呆けてしまった。

「……………………………………はい?」

「だからさ、今日は普段やらないことをしようと思って知合いの役に立つことでも手伝うことにしたんだ。 さあ、僕に何をして欲しい?」

「………………………………………………………」



なに寝言をほざいてるんだろう、この妖怪は。なにか悪いモノでも食ったのか、それとも熱に浮かされているのか?ああ、もしかしたら徹夜明けのナチュラルハイテンションちょっと正気を逸してます状態なのかもしれない。真実はともかく、100%本気で言っていることを感じ取ってしまえる自分の鋭い感性が憎いな。そう、本気だからタチが悪いんだ。この際誰でもいい、世の為僕の為にこの大馬鹿野郎をどっかに埋めてくれ。そもそもどうして僕は島の結界から出てきたしまったんだろう、居留守を使えばよかったのに僕のばかばかっおマヌケさんっ★



「――もしもし、ルック?」

目の前で手をひらひらしても一向に目の焦点が自分に戻ってこないことを不審に思ったタキが、うにっとルックの頬をつまむと漸く彼の意識もこっちの世界に返ってきた。

普段だったらつままれる前に手を振り払うのに、逆襲どころか反応すらできないでいるところにルックの動揺ぶりが現われている。

「大変申し訳ありませんが、あなたが話している内容と実行してる行動の間に関連性が見出せません。」

「なにを壊れた口調でしゃべってるんだ?有り難くも僕が役にたってやると言ってるんだから遠慮せずに何か頼めよ。」

これが仮にも、というよりいっそ嘘だと言った方が信憑性があるが、人の役にたつことをしに来た人間の言い草だろうか。

しかし恐ろしいことにタキは本気だ。

諸君、彼は本気なのだ。

理由や方法はどうあれ今日は人の役にたつことをすると決めた彼の気持ちに嘘はなく、そして世の中ズレた本気ほど扱いにくものはない。

「なら今すぐどっか行け!」

「いいとも、じゃあナタク君たちの家にでも行こうか。」

「どうしたらそういう意味に聞こえるんだっ!!?」

「どこかに行きたいんだろう?連れてくのは構わないけど馬に野郎同士で相乗りなんて寒気がするし、かといって歩く気はもっと無いだろうし、だったらナタク君たちの家までテレポートするのが一番だろう。」

そう説明するタキの目は都合の悪いことに真剣そのものだ。

いっそのこと、からかっているとか喧嘩を売られている方がどんなに気が楽だろう。

「……もーヤだ…おまえキライ…………」

ジョウイならともかくルックが頭を抱えてその場にしゃがみこむ姿など、そうザラに見られる光景ではない。

「ルック? 具合が悪いなら、無理はしないほうがいいぞ。またの機会を作るから。」

「………………………………………………(冗談じゃないよ)」

二人の若者の頭上では、気持ちの良い青空と、ピピチュンパとのどかに囀る小鳥たちの鳴き声が広がっていた。





で、一瞬にてトコロ変わって某国境のとある家。

「というわけで、やあ。」

「「あれ〜? いらっしゃーい\(^◇^)/\(^▼^)/」」

「………………………………………」


この家にはとても仲の良い3人の幼なじみたちが暮らしていましたが、彼らのささやかな暮らしは突然現われたワルモノによって壊されてしまいました………という童話めいた文章が頭に浮かん青年が約1名。

なんの疑問も持たずに沸いて出た知合いのに、行儀良く挨拶をしているのが約2名。


「……今日はなんの用だよ、英雄。」

出てきてしまったもんは仕方ないので、とりあえず用件を聞いてみることにしたジョウイだが

「ああ、今日は君たちの役にたつことをしようと思ってボランティアに来たんだ。」

という言葉には、ルックと同じく反応を返しそびれてしまった。

「……………なんだって?」

それでも一応会話となるだけの返事を返せることが、ルックよりもタキに対する免疫力が高いことを裏付けている。(注:喜ぶべき事ではない)

「だから、ボランティアに来たから用事を頼んでくれ。」

「…………………………………熱はないな。」

思わず相手の額に手をあてて熱を測ってしまったジョウイを責めるのは気の毒だろう。

だが、熱を測られた本人にとってはそんな反応が返されるの心外だった様子だ。

「なんだよ、僕が人の役にたつことをしようと思うのがそんなに信じられないのか?」

「信じられるかっ!!!」

「僕も聞いた時には天変地異の前触れだと思った。」

「だったらなんでこんな気味の悪いタキを連れてきたんだよ、ルック!」

「こんな気味悪いモノを僕一人に押し付けられてたまるか。」

「――それもそうか………すまない、責めたりして悪かった。」

「いいや、解ってくれて僕も嬉しい。」

文脈として展開が早すぎる気もするが、共通の敵に対する瞬間的な団結とはこういうものである。

がっしりと手を握り合い肯きあう二人の青年が盛り上がっている脇では (二人ともだいぶ愉快になってきたなあ) と感慨深げに見守る若者が一人……というより感化した元凶が感心するのはどうかと思う。

「まったく……きっと今夜あたり雪が降るぞ。」

「大丈夫だよ、いざとなったら僕のテレポートで安全な場所まで連れていくからさ。」

「ありがとうルック……君と友達になれて本当に良かった。」

「………お前ら、遺言はそれだけか?」

ここまで言われると流石に 「今日は普段とは違うことをやってみよう=我慢しよう」 と決意した、タキの堪忍袋の尾を締めている鎖も切れるらしい。

もっとも普段のタキの行動や言質を知るものからすれば、至極当然の反応を返されて怒るほうが悪いと思うだろうが。

だが、3すくみの張り詰めた空気を打ち砕く勇者が、ここには居た。

「タキさんたちー、お茶入れましたから中にどうぞ。狭いですけどね。(^▽^)ゞ」

勇者というより、よく出来た嫁というべきか。(誰のだ:笑)

こうして第2次真の紋章戦争は回避され、5人でなかよくティータイムとなったのである。


そしてせめてもの妥協策として、その日はタキが茶を注いだり茶碗を洗って片づけたりとちゃんと働き、言ってみれば子供のお手伝いに該当する程度なのだが一応の目的を果たして本人も満足し、周囲も要らん騒動がおこらなかったこをに胸をなで下ろしたのだった。




―――――――で、終わればどんなに良かっただろう、とは後日のタキの談話である。




突然話題が変わるが、一般家庭によくかかっているレースのカーテンというのは白い。

よって同じような色のものは補色になって見えにくい。

おまけに普段より人口密度が高かったせいで、屋内の温度が上がっているから気温の変化も感じなかった。

だからと言ってもなんだけど、それよりもこんなことがあるとは思わないので気が付かないのも無理はない。


夕暮れが近づき、そろそろカーテンを閉めようと思い立ち上がったジョウイの目に飛び込んできた景色は、白くなった庭だった。

ついでに彼の頭の中も白くなる。



暦で言えば今は6月。 降るならウェディング用のライスシャワーか梅雨前線の雨であるべきなんじゃなかろうか。確かに世にも奇妙なタキの行動に、雪が降るかもなとは言ったかもしれない。言ったかもしれないが、なにも本当に雪降らすことはないんじゃないのか、答えろ神よ!!! 雪が降ったらここは行き来が不便になる陸の孤島で半分閉じ込められてしまうようなもんだから、ナタクと二人きりならパラダイス、ナナミも居ればスウィートホーム、天国には邪魔物がいてはいけないのに、背後に感じるこのプレッシャーが奴の存在を知らしめる……シャアか!!!??(番組混線中)



あまりの現実に窓を持ち上げた姿勢のまま……つまり、腕を振り上げたまま立ちすくむジョウイに後ろから愛らしい相方の不審そうな声がかかる。

「………なにガッツポーズしてんの、ジョウイ?」

「………………雪が降ってる。」

「「「「ええぇっ!!!???(゜▼ ゜‖)」」」」



ダッシュで窓辺にかけよった残り4人が見たものは、嘘偽りない純白の雪景色だった。




「………………ギャグか?」

「………ギャグだね。」

「ギャグなの?」

「ギャグさ。」

「わー、積もってるよー♪」

ちなみにセリフは上から順にタキ・ジョウイ・ナナミ・ルック・ナタクである。

ついでに言えば、ナタクのセリフがこの現実から逃避する幻想にトドメを刺した。

「…………ま……まぁルックがいるから帰り道とかは問題ないだろうけどな。」

「僕のありがたみをかみ締めろ。」

「ああ、なんなら感謝を込めて肩でも揉んでやろうか?」

「………や、いい。感謝しないでくれ。奉仕も遠慮する。ちゃんと家まで送ってやるから、これ以上君らしくないことをやらないでくれ。心からのお願いだ。」

「なーんかやけにひっかかる言い方だなぁ。」

「良いから!頼むからタキは普段通りふんぞり返ってろ!」

「おいジョウイ、その言い方だとまるで僕がいつも偉そうみたいじゃないか。」

「え?タキさん、いっつも無意味に偉そうですよ?(^▼^)」

「………………………………………」



邪気のカケラもない100%マイルドピュアなナタクの笑顔は無敵だった。






その夜、ちゃんとグレミオとの約束通り夕食までに自宅に送り届けてもらったマクドール家の御当主様は、
 「人間、慣れないことはするもんじゃないなぁ……なんか懲りた…。」 と、ぐったりとソファーに埋もれたまま、珍しくも殊勝に反省をなさったのだった。

その反省が更なる傍若無人ぶりに拍車をかけることになるのは、“らしい” というしか表現しようが無いことである。









慣れないことをすると、肩が凝ります。