「冬将軍」
僕は、そのときビエナに向かう飛行機の中にいた。
関空を発ってから、既に1日近く経とうとしていた。
クアラルンプールで経由したMH(マレーシア航空)のジャンボは、
ハンガリー上空を飛んでいるらしかった。
初めてのヨーロッパ。
初めての一人旅にいささか、とまどいを覚えながらのフライトであった。
「くっ、苦しい」
僕は、あまりの寒さと、突然の圧迫感で目が覚めた。
「まさか、『タービュランス(乱気流)』のような緊急事態がおきているのでは。」
違った。
いつの間にか、僕の隣には、安岡力也のような巨漢が
僕の方にもたれかかって爆睡していたのだった。
「てめー、おもたいんだよ!!」
だが、力也。しかも爆睡中。しかも外人。
なにも言うまい。いや、なにも言えまい。
機内の表示板を見た。
「まっ、マイナス65度?」
身もこおるような外気温が、窓際の僕の席にも若干ながら伝わってきている。
そりゃボディも寒いわなぁ。
僕は、よどんだ雲海から、うっすらと見える街の灯りを見ながら、
「ヨーロッパかぁ。」
「やっと、アジア卒業だな。」などと感慨深げにつぶやいた。
その瞬間、機内灯がともり、着陸のアナウンスが聞こえた。
「当機はまもなく、ビエナ(ウィーンのこと)に到着いたします。・・・」
さて、いよいよか。
僕は、帽子を深くかぶると、力也の体を通路側に押しやった。
ビエナ(ウィーン)空港。(朝5時15分)
周りは、ジモティのオーストリア人だらけである。
そしてなぜか、Tシャツ一枚の輩もいる。
「何だ、ウィーンって、そんなに寒くないんか」
でも、Tシャツ一枚はないだろう・・
よく思うことだが、欧米人の肌の感覚は、わからん。
そんなことを考えながら、入国を待った。
外国人用は、がら空き。
無事入国。
「さあ、荷物を受け取って、行くぞ、プラハへ!!!」
荷物カウンター。
毎回決まって、ここで待たされることが多い。
まあ、アジアよりは、スムーズに出てくるだろう。
が、1番乗りで入国したはずなのに、荷物はいっこうに現れない。
待っている人も、だんだん減ってきた。
ベルトコンベヤーがむなしく回っている。
そしてやがて止まった。
に、荷物がない。
よりによって、僕のだけないとは。
思わず、残ったままになっている誰かのトランクを持っていこうか・・・・。と考えた。
いや、これが実は、IRAのメンバーとかの荷物で、
ヨーロッパ中逃げ回るようなことになっては、
かなわないので、(変な映画の見過ぎ!!)
とりあえず、荷物カウンターへ行ってみることにした。
「へっ、へろぅ。」
「Can I help you?」
「あのぅ、わたち、かばんがでてこないある。」
「?・・・・・?」
「かっばっんが、ろすとばげっじねぇ。ゆー、あんだすたぁんど?」(外人風に)
「ぬすまれたの?」
「めーびー、違うある。」
「でてこないある」
「ゆーの会社の、みすていくね。たぶん。」
「うーんそれなら・・・・」
受付カウンターの太いおばちゃんは、カウンターの後ろの倉庫を指さした。
「あそこに行ってみて。あるかもしれないから」
「せんきゅー。」
僕は、ちょっぴり焦る気持ちを抑えながら、倉庫に向かった。
「あのー、わたち、ろすとばげっじです。」
そういうと、倉庫のおっさんは、勝手にさがしなといった風に、
顎で合図をした。
が、あるわけないじゃん。
再び、カウンターに駆けていくと、デブのおばちゃんに、
「ないじゃん。ないじゃーん」とさけんだ。
おばちゃんは、
乗ってきた飛行機に問い合わせてくれたらしく、
「ごめんね。マサカス。あなたの荷物、ザクレフ(クロアチア)に行ってるねん。」
「クロアチアー!!!?」(関空発〜クアラルンプール〜ウィーン〜クロアチア行き)
「そう。明日の昼ぐらいには、届くから、ホテル決まったら電話ちょうだい。」
「でっ、電話。おーけー」
まったく、でんわのかけ方なんかしらんぞ。おい。
僕はいつも、荷物が多い。
ホテルが見つかるまでの間、手ぶらで散策できるというのは、いいかもしれない。
すこし、得したのかもしれない。
そう考えながら、ニタニタしながら、
機内に持ち込んだ小さなリュックを背負うと、両替をし、
半ば汗ばむようなフロアーを後にした。
ゲート。
まず、バスに乗ろう。市内についてから、これからどうするか考えよう。
二重のゲートのドアが開いた。
びゅー!!
さぶい。っていうか、凍死する。
目の前は、猛吹雪だ。
一気に体が冷たくなる。
気分は、台風中継の波止場のリポーターのようだ。
トレーナー着ないと死ぬ!!
あっ、トレーナー、ザックに入れたままだ。
ザックは、クロアチアまで僕を残して旅行に行っている。
凍え死ぬ!!!
即座にバスに乗ると、中心地に向かった。
どうしよう・・・。
街の中心に近づくにつれ、みんなぷくぷくと着込んでいる。
やばいなぁ。
ウイーン西駅。
僕は、Tシャツの上にコートという、軽装のまま初上陸を果たした。
まずは宿。
貧乏旅行の味方「ユースホステル」へと向かった。
宿確保。
が、午後3時まで、部屋には入れないそうな。
さむいっちゅーねん!!!
さて、空港のデブおばちゃんに連絡しなくては。
つるーるるる。カシャ。
で、でた。
「へろー」
「jvsajoiifjfiiwwfejwfewfwfimc?」
なに言っているか、わからん・・・。
「あっ、朝のジャパニーズだけど、宿決まったんやけど。」
「erqjfijfgireqreqigrqgi@gscvsv2gf!!!!!!」
・・・・・・・通じん。
電話なのに、ひたすらボディランゲージの激しい私に、周りの人の反応が冷たい・・・
ええい!!宿のアドレスだけいっとけ。
「OK 届けます。」
「あれ?通じてる」
僕は、激しい疲労と空腹にひとまず、飯を買いに行くことにした。
ごぉーっ。
さむー。
顔に当たる雪が痛い。
耳ちぎれる!!耳ちぎれる!!
どうも、僕は、ヨーロッパの冬をなめていたようだ。
寒さに震えながら、屋台でホットドックを買うと
冷たい石段に、腰を下ろし
本場のぷりっ、ぷりっのソーセージの入った
ホットドッグにかぶりついた。
うまい。
この世の天国だ。神様ありがとう。
よほど腹が減っていたのだろう、ぼくは
あっという間に平らげ、ぼーっと座っていた。
そこへ。
通りかかった、ご婦人が僕にコインを放った。
えっ、
おい!!物乞いじゃねぇ。
が、
もったいないので、そのコインでホットドッグを買うと(買うたんかい!!)、
宿に戻った。
そのユースホステルの4人相部屋にて。
夜中。
なぜか窓を全開にして、ふっかふかの寝袋にくるまって爆睡する3人のカナダ人の中で、
完全に「アジア旅」を卒業できていなかった私は、「閉めて。」とも言えず、
うすっちい毛布一枚をかぶり、
思った以上のくそ寒さ一人ふるえながら、初日の夜は更けていくのだった。