− LOG_1.0 輝く星々に向けて…  −

Aパート


 あまりに広大で…、そして全ての生命の生まれる場所であり、消滅してゆく場所…
 …宇宙…

 人類がこの広大な開拓地に踏込み、多種族の異星人との協力で『惑星連邦』を樹立させてから、すでに数世紀が経とうとしている…
 それまでに多くの種族や文明との出会い、同時に新たな脅威との遭遇など、数多くの出来事が歴史という名で、人々の記憶と共に記されてきた…
 だが、人類はまだほんの少しだけ、広大な開拓地の一部に歩みを進めたに過ぎない…

 22世紀…
 人類は共に共存しうる新たな友(異星人)と共に惑星連邦を設立し、その組織内に『宇宙艦隊』を組織した。
 そして永きにわたり、未知の宙域への調査を主任務とし、同時にまだ見ぬ異星人達とのファーストコンタクトや、惑星連邦領域内の防衛を行ってきた。

 人類は大陸から船を使って大海原を渡り、飛行機と言う翼を手に入れ空を制覇した…
 そして地球から歩み出した人類は当然のごとく、宇宙艦を駆って静寂なる宇宙へと歩み出し、その先にあるものを目指し…
 未だ24世紀になっても、探求を続けていた…

 そう、人類が歩みを止めることは、きっとないだろう…
 遥か遠くを見つめる者達は、たとえ傷ついても、歩みを止めることはないのだから…



−− STAR TREK JUNIORS −−


 惑星連邦宇宙艦隊で、数多く運用されているエクセルシオ級宇宙艦<USS.イークエスト>のラウンジは、いつものようにクルー達で賑わっていた。
 少し違うところがあるとすれば、ラウンジの窓際に珍しくエイサン・グリッシャー艦長が来ている事と、この艦のクルーではない一人の女性士官と席を同じくしていることぐらいだった。
 手に持っていたティーカップをテーブルに置きながら、言葉をかけた女性士官は表情を変えながらも、楽しそうにグリッシャーの話に聞き入っている。
 腰まで届きそうな長い髪を後ろで一つに束ねたこの地球人女性は、赤と黒で彩られた艦隊ユニフォームを自然と着こなしている。
 ある種の貫禄とも言えそうなその雰囲気は、艦隊暦が長いものにしか身に付かないものだろう。
 外見も地球人の年齢で3〜40歳頃だと思える…が、凛としたその雰囲気が実際の年齢より若く見せている。
「まぁ、気が付けば人生の半分以上を宇宙艦の上で過ごしてるからな…。いろいろとあったが、まぁ良くも悪くもいい思い出だ。君も艦長になれば、多忙な時間に追われることになるだろうが、今から覚悟しておくことだな。シータ中佐」
 同じテーブルで話しているグリッシャーも彼女と同じ地球人であり、そしてかなり年配である。
 髪に白い部分も多少見えてはいるが、その精悍さをより際立たせるポイントにすらなっているようにも見える。
 「多分、私は‥‥艦長席に座る事はないと思います。ご存知だと思いますが半年前、私はネイナス星系で指揮していた艦と十数名の部下を失いました…」
 シータはまるで恥たることを話すような感じで、艦隊では大先輩にあたるグリッシャーへと言葉を返した。
 既に二人で話し始めてから、一時間が過ぎようとしている頃の出来事だった。
 グリッシャーはただ、娘に優しく言い聞かせるような口調で話し出した。
「その件は私も知っている。艦隊内では君の武勇伝として伝わったからな…。ただネイナスでの君の指揮に問題があったとは思わんし、艦隊司令部も任務上の事件としてとらえている。だからこそ、査問委員会も開かれず、君に次の任務を与えられた。事実が消えることはないが、艦隊の士官として君が恥じることは何一つないと私は思うがね」
「ですが…」
 恐らく彼女はこの事を半年間、ずっと引きずっていたのだろう…
 グリッシャー自身も過去、任務のために自分が指揮していたアンバサダー級宇宙艦を自爆させた経験があった…
 部下や艦を失い、そして艦隊を辞めていった仲間達も数多くいた…
 あの頃の自分と同じように彼女もまた、自分がどうするべきなのか、心の中で答えを出せないでいるのだろう…
 だからこそ、親友であり上官でもあるベン・ライルが、彼女を私の艦で自分のところへ来るように取り計らった。
 私をアドバイザーとするために…
 そんな事を思いながら、グリッシャーは過去数人の部下に言ってきた言葉をシータへと語る。
「確かに艦と部下を失ったことは現実だ。受け止めなければならん…。艦隊を辞めるのも一つの選択肢だろう…。だが、そうしたところで実際変わることは何もないんだよ」
 淡々と話すグリッシャーの顔をシータはただ、静かに見つめていた。
「ボーグやドミニオンとの戦闘で艦や部下を失ったとしても、何かの小さな事故で失ったとしても、失った事実は何も変わらない。問題なのは、その事実をどう受け止めるかだ…」
 本当に娘を諭す父親のように、グリッシャーは話し続けた。
「人生は君のものだ。君自身が路を決めて行かなければならない。それに君は指揮官に向いていないと言ったが、艦隊司令部がそう思っているとは限らん…。艦長に相応しいと司令部が判断すれば、いつか艦長の席を君に用意するかもしれん。君はまだ若い。そして有望な士官だと思っている者も多いだろう。君の気持ちや想いに関係なく、いずれはチャンスがやってくるかもしれん…。結局は、君次第だと言うことだよ。シータ中佐」
 知合ってまだ数日しか経っていないが、つい熱くなってシータに語る自分にグリッシャー自身も驚いてしまっていた。
 十数年前、自分と同じ道をたどり、艦隊の士官として宇宙艦に勤務し、そして任務中に命を散らした一人娘と、目の前に座るシータが重なって見えた事も確かにあるだろう…
 多分ライルに頼まれなくても、この艦で彼女を送り届けることになっていれば、今と同じように彼女の力になってやりたいと思ったことだろう。
 父親だった事を思いだしながら、グリッシャーは何故か苦笑せずにはいられなかった。
 そんな言葉をかけてくれたグリッシャーを見ながら、シータは何か感じたかのように、今出来うる限りの笑顔で、話始めた。
「グリッシャー艦長。本当にありがとうございます。この半年間、あの事件の事ばかり考えていました…。療養期間を延ばしたのも、私自身が艦隊に戻ることに自信がなかったからだと、今ならハッキリ言える気がします…。これからの基地勤務でもう一度自分を取り戻せるよう、一から頑張りたいと思います」
 少しだけ涙を浮かべているようにも見えるシータの顔を見つめながら、グリッシャーは首を振りながら言い返す。
「逃げていたことを君自身が認め、話してくれた今、君はもう次の路へと進み出しているよ。それに--」
 そう言いかけた時、グリッシャーのコミュータにブリッジからの連絡が入った。
『ブリッジより艦長。あと5分で第22宇宙基地に到着します。基地側から第7ドライドックへドッキングするよう連絡がありました。ブリッジへお願いします』
 
グリッシャーの副官である、ベンツ中佐からの通信だった。
 別れの時が来た事を残念に思いながら、シータとグリッシャーは席を立ち、どちらからともなく握手する。
「話が途中になってしまったが、これからも頑張ってくれ。シータ中佐」
「ありがとうございます。グリッシャー大佐も御元気で…。またお会い出来る日を楽しみにしています」
 別れの挨拶を終えると、グリッシャーはラウンジの入口へと歩き出し、シータはラウンジの窓に映る巨大な木星と、近づいてくる第22宇宙基地を見つめ始めた。
 グリッシャーはそんなシータの姿を入口で最後に見ながら、これから基地で彼女に起こる事が、グリッシャーの気持ちを少しだけ重くしていた。
「‥‥それに時間はもう無いんだ。あとは本当に君次第だ。シータ中佐‥‥」
 そう呟き、慌しくなってきた艦内へとグリッシャーは歩み出したのだった。
 

Bパートへ続く・・・


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