「ボクは星々を見る度に<USS.カマクラ>を想い出す…」
インタラクティブ・ノベル
『Kamakur@trek』
第一話「星空での再会…」
艦長日誌。02052.1
多くの士官候補生を乗せた本艦が訓練のため、DSーK(ディープスペース・カマクラ)を出発してから2ヶ月近くになろうとしている。
候補生達もかなりかなりこの艦に慣れてきたらしく、最近ではユリ・ホウジョウ主任操舵主の指導の元、候補生にNCC-0007<USS.カマクラ>の操艦を任せることが出来るようになってきたようだ。
いつもながら、ホウジョウ大尉の教官としての指導力には、感服せざるをえない…
そう、『指導力だけ…』ではあるが…
・・・
現在本艦は予定通り候補生の第一次訓練を終え、DSーKへと帰還する進路を進んでいる。
途中、ホウジョウ大尉が近道と称して針路変更し、少しだけコースを外れてはいるが…、まぁ問題はないだろうと思う。
それより気になるのは、最近この宙域に出現しだした私達の強敵<ボオグ>との遭遇だ。
出会うことはない…と信じたいが、既に一度遭遇しているため、警戒しつつ帰路を進めなければならない。
でも、候補生ばかりのこんな時に限って出会いそうな気がするのは…
私って、心配性なのだろうか…
ナイトシフト(夜間勤務)のメインブリッジは、とても静かな場所であった。
今は数名のクルーしか勤務しておらず、艦長のキョウコ・アサヒナ大佐も私室で休んでいる。
そのため、今はホウジョウ大尉が艦長席に座っており、ナビゲーション席にリエ・カジワラ少尉、そして操舵席には士官候補生のダイスケ・ミナモトが座っていた。
「ミナモト君。ブリッジでの仕事、だいぶん慣れたみたいだね」
少し眠たそうな顔をしながら、ユリが操舵席のダイスケに声をかけた。
ここ数ヶ月間。ユリはダイスケを気に入った?のか、マンツーマンでかなり厳しくコーチしていた。
そしてそれは二人が一緒の時間を多く作ることとなり、いつの間にかかなり打ち解け合う仲となっていた。
「そんな。ユリさんのおかげですよ…。こんなに早く航宙艦を動かせるようになるなんて、自分でも思ってませんでしたから…」
「この<USS.カマクラ>で訓練してたら、あっと言う間に操縦法を覚えるよ。ついでにユリが危険な繰艦テクニックまで教えてくれるだろうしね♪」
ダイスケの隣で、ナビゲーション席に座るリエ・カジワラ少尉が楽しそうに話し掛けた。
つい最近までリエもこの<USS.カマクラ>で候補生をしており、ユリとはその頃からの知合いで仲もよく、階級を意識せず話す間柄だった。
「リエ、余計なこと言わないでくれる!私はただスペッシャルな操舵テクニックを伝授して、ミナモトくんに早く立派な操舵主になって欲しいと思ってるだけよ」
素早く言い返すユリ。
外見上はとても美人な<USS.カマクラ>のカリスマ女性士官として艦内外で知られている…が、実際はかなり無鉄砲と言うか、アクティブな性格と言うか…、親しい仲間にはよく大尉で教官をやっていられるな…と首を傾げる者もいるくらい、ある意味『スペシャル』な士官だったりしている。
「でもまあ、確かにユリさんのおかげですよ。感謝してます」
「もっと感謝してくれていいよぅ♪」
「・・・ハァ」
何と返事をして言いか…。少し顔を引きつらせながら、苦笑するダイスケだった。
担当教官として操艦を教わり始めて数ヶ月…
教官であり、上官でもあるユリ・ホウジョウ大尉のペースにいつも引き込まれてしまう…
人の良いダイスケには、まだまだユリの性格を掴むには時間と労力が必要だった。
「ユリ!方位6−5−3に急速接近する艦影あり。宇宙艦隊の識別コードには反応しないよ」
笑い話で和んでいたブリッジに、緊張したリエの声が伝わった。
いつものパターンならお決まりのマニュアル対応をするところだが、強敵である<ボオグ>がいるかも知れない宙域なので、ユリも警戒しながら命令を下した。
「ミナモト君、コースはこのままでワープ3へ加速。リエは呼びかけを続けながら、未確認艦をスキャンして」
「「了解!!」」
緊張が広がるブリッジ。まだ走査レンジ外のため、メインビューアにその艦影を映すことが出来ない。
ちょっと面倒そうな顔をしながら、ユリは艦長席の情報コンソールを細い指で操作した。
「ブリッジよりアサヒナ艦長。お休みのとこ悪いけど、未確認艦が猛スピードで本艦に接近中。至急ブリッジへお願い!」
そう言い終わるとユリは艦長席から立ち上り、前方の二人へと近づいた。
「さ〜て。御頭が今から起きて、着替えてからブリッジに来るまでに何分かかるか?二人は何分くらいだと思う?」
『突然なに?』っと、振り向くリエとダイスケ。何とな〜く困った顔を二人してしている…
「ちなみに私は2分くらいだと思うなぁ。ああ見えてキョウコって血圧高いのよ。アカデミー時代に部屋一緒だったんだけど、いっつもキョウコったら最後に寝てるくせに一番早く起きてたのよねー。今でも変わらないだろうから本命で2分。途中、身だしなみなんか整えてたら、3分ってとこかな〜」
淀み無く話すユリを遮るように、緊張の度合いを増した顔でダイスケやリエが返答する。
「ユ、ユリさん…。多分その答え、ハズレてるんじゃないかと思いますが…(汗)」
「ユリ…。血圧高いっての…、かなりマズかったんじゃない…(汗)」
「えっー!そうかな〜。いい線行くと思うんだけどなぁ?」
『御頭って誰よ。『お・か・し・ら』って…』
「誰って、決まってる…じゃ?ない…」
段々と声のトーンを落としながら、聞きなれた声の方へゆっくりと振り返るユリ。
ついさっきまで自分が座っていた艦長席に、本来そこへ座るべき人物がいつの間にやら堂々と座っていた。
声の主…。航宙艦<USS.カマクラ>の艦長であるキョウコ・アサヒナ大佐その人が…
悠然と自席でデータパッド片手に足を組みながら、はしゃぎ声のユリを細目で見つめていた。
「キョ、キョウコ!あんたいつも間にブリッジに来たのよ!」
「ユリが楽しそうに艦長席を立った時にね…。何だか寝付けなくてちょっと早目にブリッジに来て見れば、未確認艦はいるし、誰かが私のこと『御頭』って言ってるし、アカデミーでの昔話はしてるし…」
「・・・あははぁ。聞こえちゃったみたい…」
いつものように焦りまくるユリ。そして、こめかみを指で押さえ、今にも爆発しそうなキョウコの二人…
ここ2ヶ月で見慣れた場面をまた見てしまったダイスケは、ふと距離が近づいた未確認艦を映像にとらえ、メインビューアに映し出そうとしていた。
「私はともかく、もしジェインウェイ提督に『御頭』なんて聞こえたら…。ユリ、あなたもう艦隊にいられなくなるわねぇ…。寂しくなるわ…」
アカデミー時代の恩師であるキャスリン・ジェインウェイ提督のことを、ユリは仲間内でよく『御頭』と呼んでいた。
過去にデルタ宇宙域から7年間かけて<USS.ヴォイジャー>を地球に帰還させた、その『ズバぬけた行動力』と『ムチャな指揮ぶり』に敬意を表したニックネームだったらしいのだが、アカデミー卒業前にそのことがバレてしまい、同級生であるキョウコは現在大佐であり、ユリは大尉止まりとなっている。
『ジェインウェイ提督は怒らせるな…!』
今では、ユリ達以降のアカデミー生徒の教訓となる格言を、身をもって作ってしまったのである。
・・・
そんなことを思い出しながら、遠く星の海を見つめるキョウコはわざとらしく溜息をついてみせた。
「な…、なに言ってるのよ〜。私はねぇ、親友であるキョウコに…」
「ア、アサヒナ艦長!メインビューアを見てください。未確認艦は<ボオグ>です!」
お馴染みへの言い訳を始めようとしたユリだったが、ダイスケの緊張した声で遮られてしまう。
「なんですって!ユリ、あなたは操舵席に戻って。ミナモト候補生は武器コンソールをお願い、何してるの、急いで!」
突然の命令だったが、ダイスケは素早く動き、艦長席後方の武器コンソールへと持ち場を移す。
そして空いた操舵席には、当然のようにユリが座り込んだ。
「全艦戦闘態勢!リエ、防御スクリーン展開!ユリ、コース3−5−3マーク2。全速力で<ボオグ>艦との遭遇を回避するわよ!」
指揮官として自信に溢れたアサヒナ艦長の声が<USS.カマクラ>に響き渡る。
艦長として非常時を指揮する声を聞く度に、ユリはキョウコが最前線向きだなァと心の中で思わずにはいられなかった。
そして、段々と恩師であるジェインウェイ提督に似ていってる気がしまくりだとも最近よく思うようになってきた…
多分、キョウコなら<エンタープライズーE>でも<ディープスペース9>でも、キッチリしっかりやっていけるだろう…
「アサヒナ艦長。フェイザー砲、及び光子魚雷の装填、準備完了です!」
「了解。ミナモト君、照準を<ボオグ>艦に固定して待機。もしかしたらこの<ボオグ>艦。あの時の…」
キョウコの言葉を聞き、ユリやリエ、ダイスケは思い出したかの様にゲンナリした顔を浮かべたのだった。
今から1ヶ月前…
同じ様な状態で遭遇した一隻のとある<ボオグ>艦。
<ボオグ>のくせに人間だった頃の記憶が残っているらしく、コンタクトしてきた艦を操っていたのは、三姉妹と名乗る<ボオグ・クィーン>達だったのである。
その時はユリの操縦テクニックのおかげでなんとか逃げ切れたのだが、今回は逃げ切れるか分からない…
「アサヒナ艦長!<ボオグ>艦から通信です。こちらの周波に強制介入してきます!」
そしてメインビューアに映し出された映像は、4人の予想通りの映像だった…
『私達は<アシカガ・クィーンズ>。彼方達<USS.カマクラ>を同化しにきたわ。抵抗しても無意味だと思って頂だい』
ボオグのくせにショートカットが似合う美人クィーンが、凛とした美声で宣言した。
『この前は逃げられちゃったけどぉ、今回は逃がさないからぁ〜』
ボオグのくせに、やたらと色気を振りまくロングヘアーのクィーンが言葉を続ける。
『お前達なんて、あっと言う間にやっつけちゃうんだから。ね、お姉ちゃん達』
ボオグのくせに、どう見ても末っ子属性全快なクィーンが二人の姉?の後ろから言い放つ。
「・・・・・」
「どうする、キョウコ?あれ…」
その様子を見ていたキョウコは、またこめかみを指で押さえずにはいられなかった…
<USS.カマクラ>にとって二度目の<ボオグ>との遭遇は、こうして幕を開けたのだった…
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
END
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